「小諸なる古城のほとり」 -落梅集より-
島崎藤村
小諸なる古城のほとり 雲白く遊子(いうし)悲しむ
緑なすはこべは萌えず 若草も藉(し)くによしなし
しろがねの衾(ふすま)の岡辺(おかべ) 日に溶けて淡雪流る
あたゝかき光はあれど 野に満つる香(かをり)も知らず
浅くのみ春は霞みて 麦の色わづかに青し
旅人の群はいくつか 畠中の道を急ぎぬ
暮行けば浅間も見えず 歌哀し佐久の草笛(歌哀し)
千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ
濁(にご)り酒濁れる飲みて 草枕しばし慰む
「千曲川旅情の歌」 -落梅集より-
島崎藤村
昨日またかくてありけり 今日もまたかくてありなむ
この命なにを齷齪(あくせく) 明日をのみ思ひわづらふ
いくたびか栄枯の夢の 消え残る谷に下りて
河波のいざよふ見れば 砂まじり水巻き帰る
嗚呼古城なにをか語り 岸の波なにをか答ふ
過し世を静かに思へ 百年もきのふのごとし
(百年もきのふのごとし)
千曲川柳霞みて 春浅く水流れたり
たゞひとり岩をめぐりて この岸に愁を繋ぐ
(この岸に愁を繋ぐ)
筆者が高校生の時 友人の父親が
「お前たちの年頃は何でもすぐに覚えられるから、良いと思った文章や詩を覚えて友人に自慢しあうといいぞーといったとかで、半年くらい片っ端から文章を暗記して、友人に自慢するという遊びが流行した、「ああ、ロッテさんさようなら、時計が十二時をうちます。・・・・・・・・・。」これは「若きヴぇルテルの悩み」の終りの方の名文句の一節である。オソマツ君も高校時代の友人には恵まれていた。思えば青春時代にいい友人に恵まれるとその人の人生も豊かになる。
今日は12月27日。ここは朝から、牡丹雪が降りしきっている。僕は降りしきる雪を見ていることが好きで、無心に降雪を眺めている。雪は天からの絵手紙と云った人がいたが、正にそうだと思う。(T)