偕成社の偉人伝(2)
私が子供時代に読んだ偕成社の偉人伝のなかで、『源頼朝』一冊を除くと、残りすべては、父が選んで買ってくれた本である。『源頼朝』は、講談社世界名作全集で読んだ『源平盛衰記』との関連で、私が頼んで買ってもらった。そのように記憶している。父が、私のためにと選んだ本については、ひとつの傾向がある。40歳ごろになって、私は気が付いた。それは、偉人たちの多くが「発明者」または「発見者」であるということだ。イギリスの政治家チャーチル(父は、この人物を尊敬していた)とポルトガル*の海洋探検家マゼランを除くと、父の選択は“「発明」または「発見」をした科学者の伝記”ということになる。父は東京商科大学(現一橋大学)の卒業生で、東海電極(現東海カーボン)に勤務していた。事務系のサラリーマンとして会社での人間関係に苦労していたのだろう。そんな苦労を子供(私)にはさせたくない。わが子(私)には理科系方面に進学させ、クリエイティブな仕事をさせたい。そんな思いから偕成社の偉人伝シリーズを利用して(息子の将来の進路の)誘導を試みたのだろう。そういえば、高校入学時に、“理科系進学コース”を強く勧めたのは父であった。お陰で、高校時代の友人には医者、メーカー勤務のエンジニア、数学者等がいる。大学時代の友人とは毛色が違っていて面白い。後年、私が成人してから、父に偉人伝の人物と、(父が考えていた)私の進路このことを尋ねてみた。明言はしなかったが、私は“父の顔色”から私の推理が正しいことを確認した。この時期、私は小学生だった娘(今は、社会人になっている)に、偕成社の偉人伝『ヘレン・ケラー』を買ってやり、私自身の子供時代を思い出したのだ。もう一度、私が読んだ偉人伝のリスト(前回に掲示)を眺めていると、「発明」、「発見」以外に、別のキーワードが浮かび上がってくる。それは「富豪」という単語である。該当するのは、エジソン、ノーベル、フォード。もしかしたら、ディーゼルや高峰譲吉も「富豪」に属するかもしれない。息子(私)が金持ちになり、父が楽をする。このような将来展望を父は持っていたのだろうか。何れにせよ「父の期待」は、裏切られる。
私は、高校3年の1学期に、理科系志望から文科系に変更した。結局、父の母校と縁の深い旧制商大系の神戸大学経済学部に進学する。「大学では経済地理学を勉強しよう。同時にスペイン語を学び“南米の経済地理”に関する卒業論文を書く」というのが大学入学時に決めた方針だ。学者になる気はない。商社に就職しようと思った。第2外国語を選ぶにあたっては、ドイツ語はやめて、フランス語を選択した。スペイン語をやるためには、同じラテン系のフランス語を選ぶ方が便利だと考えたからだ。
本稿を執筆中に、偕成社偉人伝シリーズ著者として活躍した沢田謙についての情報を得た。最近、神戸の一栄堂書店から送ってきた古書目録(2006年5月号、29ページ)の中に、戦前期の沢田謙の著作2冊を発見した。何れも伝記で、書名は『ヒットラー伝』(1934年、講談社)、『ムッソリーニ伝』(1935年、同)。古書価は3,000円と2,000円。ヒットラーの方が1,000円高い。沢田謙は、戦前にこのような本を書いていたのだ。チョット驚いた。まるで、戦犯岸信介が戦後総理大臣のポストに就いたようなものだ。そう表現したら、少々誇張となるかもしれない。
私が子供時代に読んだ偕成社の偉人伝のなかで、『源頼朝』一冊を除くと、残りすべては、父が選んで買ってくれた本である。『源頼朝』は、講談社世界名作全集で読んだ『源平盛衰記』との関連で、私が頼んで買ってもらった。そのように記憶している。父が、私のためにと選んだ本については、ひとつの傾向がある。40歳ごろになって、私は気が付いた。それは、偉人たちの多くが「発明者」または「発見者」であるということだ。イギリスの政治家チャーチル(父は、この人物を尊敬していた)とポルトガル*の海洋探検家マゼランを除くと、父の選択は“「発明」または「発見」をした科学者の伝記”ということになる。父は東京商科大学(現一橋大学)の卒業生で、東海電極(現東海カーボン)に勤務していた。事務系のサラリーマンとして会社での人間関係に苦労していたのだろう。そんな苦労を子供(私)にはさせたくない。わが子(私)には理科系方面に進学させ、クリエイティブな仕事をさせたい。そんな思いから偕成社の偉人伝シリーズを利用して(息子の将来の進路の)誘導を試みたのだろう。そういえば、高校入学時に、“理科系進学コース”を強く勧めたのは父であった。お陰で、高校時代の友人には医者、メーカー勤務のエンジニア、数学者等がいる。大学時代の友人とは毛色が違っていて面白い。後年、私が成人してから、父に偉人伝の人物と、(父が考えていた)私の進路このことを尋ねてみた。明言はしなかったが、私は“父の顔色”から私の推理が正しいことを確認した。この時期、私は小学生だった娘(今は、社会人になっている)に、偕成社の偉人伝『ヘレン・ケラー』を買ってやり、私自身の子供時代を思い出したのだ。もう一度、私が読んだ偉人伝のリスト(前回に掲示)を眺めていると、「発明」、「発見」以外に、別のキーワードが浮かび上がってくる。それは「富豪」という単語である。該当するのは、エジソン、ノーベル、フォード。もしかしたら、ディーゼルや高峰譲吉も「富豪」に属するかもしれない。息子(私)が金持ちになり、父が楽をする。このような将来展望を父は持っていたのだろうか。何れにせよ「父の期待」は、裏切られる。
私は、高校3年の1学期に、理科系志望から文科系に変更した。結局、父の母校と縁の深い旧制商大系の神戸大学経済学部に進学する。「大学では経済地理学を勉強しよう。同時にスペイン語を学び“南米の経済地理”に関する卒業論文を書く」というのが大学入学時に決めた方針だ。学者になる気はない。商社に就職しようと思った。第2外国語を選ぶにあたっては、ドイツ語はやめて、フランス語を選択した。スペイン語をやるためには、同じラテン系のフランス語を選ぶ方が便利だと考えたからだ。
本稿を執筆中に、偕成社偉人伝シリーズ著者として活躍した沢田謙についての情報を得た。最近、神戸の一栄堂書店から送ってきた古書目録(2006年5月号、29ページ)の中に、戦前期の沢田謙の著作2冊を発見した。何れも伝記で、書名は『ヒットラー伝』(1934年、講談社)、『ムッソリーニ伝』(1935年、同)。古書価は3,000円と2,000円。ヒットラーの方が1,000円高い。沢田謙は、戦前にこのような本を書いていたのだ。チョット驚いた。まるで、戦犯岸信介が戦後総理大臣のポストに就いたようなものだ。そう表現したら、少々誇張となるかもしれない。