読書と著作

読書の記録と著作の概要

門倉貴史著『中国経済の正体』

2010-06-03 14:21:51 | Weblog
門倉貴史著『中国経済の正体』

本書の著者である門倉貴史(かどくら・たかし)氏は、1971年神奈川県の生まれ。1995年慶応義塾大学経済学部を卒業した。銀行系シンクタンク等を経て、2005年にBRICs経済研究所を設立、現在は同研究所の代表を務めている。著書に『統計数字を疑う』(光文社新書)、『貧困ビジネス』(幻冬社新書)等がある。
 本書のタイトルに含まれる”正体”というコトバが、本書の性格を如実に表している。中国経済の急速な発展。そのことは、様々なマイナスをもたらしてきた。砂漠化もそのひとつ。その原因のひとつとして、中国での家畜の“乱放牧”が指摘される。乱放牧された家畜は、草木の芽が食べつくし、砂漠化を招く。そのほか、農地の乱開発や森林の乱伐なども砂漠化を引き起こす。中国が経済発展を優先して、環境保護をなおざりにしてきたことが、砂漠化の進展を招いたのだ。中国で進む砂漠化現象は中国だけの問題にとどまらない。近年では、中国の砂漠化が韓国や日本といった周辺国にも“黄砂”というかたちで悪影響を及ぼしている。
急激な工業化・モータリゼーションの進展に伴って、工場の煙突から出る煙や、車からの排気ガスが急増、大気汚染の問題が中国で深刻化するようになった。日本でも高度成長期に公害や大気汚染の問題が浮上したが、13億の人口を抱える中国が現在引き起こしている大気汚染の問題は、当時の日本とは比べ物にならないほどに深刻である。
ところで、実際に中国の各地を訪れて、人々の生活や経済活動の様子をつぶさに観察すると、「経済統計が示す数字は本当に中国経済の実像をとらえているか?」と、思わせる出来事に遭遇することがある。これが著者の指摘だ。公式の経済統計に含まれていない隠れた経済活動の状況から中国を見る必要があるというのだ。隠れた経済活動は一般に「地下経済」と呼ばれ、脱税や賄賂、武器の密輸、違法薬物の取引などによって構成される。中国経済の真の姿をとらえるには、厳然と存在する「地下経済」を頭の片隅に入れておく必要がある。実際、中国では、公式の経済統計を見ているだけでは理解できない現象が、「地下経済」を含めてとらえ直すと、すっきりと分かるケースが少なくない。
「一人っ子政策」は、人口爆発を抑制するのには一定の成果を上げたと評価できよう。一方、「一人っ子政策」の導入に伴って、急速な少子高齢化の進展など様々な社会問題が噴出している。大きな社会問題のひとつは、男女比の不均衡。伝統的に男尊女卑の考え方が強く、後継ぎとして男性を重んじる風潮がある農村部では、「一人っ子政策」による産児制限を受けると、女児よりも男児を出産するインセンティブが働く。中国政府は人工中絶を禁止しているが、実際には出産前に胎児の性別を超音波で調べて、女児であることが判明した時点で中絶手術をしてしまうケースが後を絶たない。生まれたばかりの女児を孤児院に捨てる。また、人身売買のブローカーに自分の子どもを売り飛ばす。その結果、戸籍に登録される新生児の男女比のバランスが大きく崩れてしまう。
(2010年、講談社現代新書、720円+税)