ギリギリ探偵白書・７０

　ギリギリ探偵白書
「別荘失踪・第１話」



私は渋谷の街に降り立った。
まだ目覚めていない街を歩き、事務所に向かった。

事務所では、私のデスクで新人調査員の木下がタオルを顔に巻いて寝ていた。
デスクの周りには木下が集めた調査資料が乱雑に置いてあった。

（・・・仕方ねぇーな・・・）

コーヒーを入れながら、その調査資料を一つ一つ読み始めた。

私はどの種類の調査でも行うが、その時は行方調査を多く抱えていた。

そこで、行方調査の資料集めを新人調査員の木下に指示していた。
木下は資料の収集や関係各所への連絡などに追われていた。

当然の事ながらタイムリミットがあるため、事務所に泊まりこみ
調査資料をまとめることになる。

コーヒーが出来上がる頃、狭い事務所の中は
香ばしいブルーマウンテンの香りでいっぱいになる。
その香りにつられ、ムクムクと木下が目を覚ました。


木下　　　「はっ！！代表！！すみません！！」

阿部　　　「よく集めたなぁ・・・なかなか出来がイイぞ」

木下　　　「オッス！！」

阿部　　　「まっ、コーヒーでもどうだい？」

木下　　　「オッス！！恐縮です！！」

（木下は中高と空手部で、バリバリの体育会系である・・・）


木下が資料を集めていた調査は、それほど困難といえる調査ではない。

対象者は２０代前半の女性で、親と同居していた。
ある日、彼女は彼氏の家で同棲したいと親に話をした。

そこで、ご両親とイザコザになり、家を飛び出したっきり
帰ってこなくなってしまった。

しかし、彼女は一番上の姉と母親とはメールで連絡を取っていた。
家族は、所在はわからないが彼女の様子がわかるという事から
問題にはしていなかった。

ところがある日、実家に１通の催促状が届く。
それはCMでもおなじみの消費者金融からのものであった。

電話で確認を取ったところ、確かに彼女は借金をしていた。
そして、返していない。

一番上の姉が電話で彼女に連絡をしたが、その日から連絡が取れなくなり
数日後には「料金の未払」で電話を止められてしまった。

・・・・・・・


調査開始から約２日後、同棲先の住所が判明した。
それに伴い、彼氏の氏名なども判明。
２週間ほど前から誰もいないとの情報も入った。

調査は彼氏の情報、彼女の立ち回り先など２方向で開始された。
その資料集めを私が監督し、木下が行っていたわけだ。
私は調査資料を見ながらある点に気がついた。


阿部　　　「木下、この男、車で動いてないか・・・？」

木下　　　「なぜです？」

阿部　　　「もう一度、この家（同棲先）に行って駐車場の契約を
　　　　　　していたかどうか調べて来い」

木下　　　「・・・・オッス！！」


木下が事務所を出てから２時間後、駐車場の契約の確認が取れた。

男は車を持っていた。そして、その車は駐車場にはなかった。
失踪時刻とあわせても、ちょうど同じ頃に車がなくなっている。


木下　　　「代表・・・。なんで車の事がわかったんですか？」

阿部　　　「ん？ローン会社の名前だよ。
　　　　　　ここは、オートローンの会社なんだよ」

木下　　　「なるほど・・・、で、ナンバーなんですが・・・」


私はコンビニで待機中のサザビーに連絡を取った。


サザビー　「（小声で）・・・どちら？」

阿部　　　「あ？俺だよ」

サザビー　「んう？あべちゃん・・・」

阿部　　　「何やってるの！！」

サザビー　「今、万引き犯を尾行してるんだよ」

阿部　　　「そりゃ、仕事か？」

サザビー　「んにゃ、暇つぶしよ」

阿部　　　「じゃあ、判明したら、即効で事務所に戻ってこいよ」

サザビー　「了解！！尾行を続ける」


私は、ある方法を用いて、彼氏の車の移動を確認した。
そして、彼の車が日本有数の別荘地近くのインターチェンジで
高速道路を下りた事を確認した。

そして、地図を広げた。


田中　　　「びょこう・・っすか？」

阿部　　　「お菓子を食いながら、話をするなっ！！」

田中　　　「・・・すんません、代表、旅行ですか？」

阿部　　　「んな、わけねぇーだろ。行方だよ、し・ご・と」

田中　　　「ぼんじゃ・・でづたいまずね・・・」

阿部　　　「あ？お前、お菓子禁止にするぞ！！」

田中　　　「ぼぼぼ・・・（ゴックン）、そりゃないですよ
　　　　　　手伝いますから。」


同棲していた彼氏の実家は豊かな資産家であった。
しかし、どうやら近年の不景気で多額な債務を抱えたようだ。

そのため、彼にもそのしわ寄せが行き、彼は借金をするようになった。
何の不自由もなく育った彼はサルのように借金を重ねた。

その度に返済や事後処理をしている人物がいた。



　　　　　　　　続く



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