安倍政権の政策には、支持し得ないモノが多い。
2015年上期に社会を騒然とさせた『平和安全法制』なるものの違和感は、複数回にわたって、このブログに書いた。
財政政策と日銀に委ねているという金融政策も、合点が行かないことが多い。
それら二つは、基本的な質問をすることが可能だし、実例を挙げて異議を唱えることも可能だ。
しかし、『一億総活躍社会』なるものは、ずうっと違和感を感じながら、その違和感を具体的な言葉にすることができないでいた。
やっと、その違和感の理由がわかったので、ブログ記事に残しておく。
先ず、私の経験したことで恐縮であるが、ある例として、挙げておきたい。
私は、組織内において、自分で手を挙げて異動したことがある。
もう、20年も前だ。日本のバブル経済が弾けてはいたものの、未だ、バブルの余韻は少しは残っていた。日本としては、マトモな時代であったかもしれない。
私が異動するときに、同じ部署から、もう一人の方が異動することになっていた。それは、後から知ったことではある。通常の人事異動ではないため、人員の補充が担保されない異動、しかも二人もである。
そういう状態に職場の上司は、かなりの危機感を抱いていたらしい。
上司が、緊急の、しかも、かなり、意志を固めたミーティングを開いた。ミーティングのテーマは、『業務効率化とは何か』というものであった。上司が冒頭に切り出した言葉が、20年経った今も忘れられずにいる。
『最も容易な業務効率化とは、人を減らすことである。三人でやっていた仕事を二人でやるようにする。
すると、「無駄な作業をする余裕が無くなる」のだから、自ずと効率的に仕事をするようになる!』。
これは、メーカの設計部門における上司の言葉である。その言葉の背景には、人事異動による部署人員の減少がある(つまり、私が当事者であった。)。
しかし、日本の工業(そして、農業や漁業もであろうか)のように、モノを作って売るという仕事の本質は、上の上司の言葉に集約されていると思う。
業務効率化とは、一つの仕事(プロジェクトやミッションと呼ばれるもの)に関わる人員を、可能な限り減らすことである。
日本の非製造業の業務効率は、良くないとされる。デパートを年に数回ウロチョロしてみると、販売員が、接客するわけでもなく、売り場にいる。そして、販売員の少なくない割合が「非正規雇用労働者」であろう。
それは、製造業であっても同様であり、多くの部署に、『派遣』と呼ばれる非正規雇用労働者がいる。それは、民間企業だけではなく、官公庁であっても、『任期付公務員』という非正規雇用が多くなっている。
みなし公務員である国立大学や国立研究所においてさえ、『任期付教授、任期付准教授、任期付助教』や『任期付研究員』が少なくない。
派遣や任期付という雇用形態は、『効率化』を求めたことによって『発明』された労働形態である。
銀行における現金の取扱は、ほとんど帳簿上だけになり、銀行員が手で数えなければならない金額は少なくなった。だから、銀行における事務作業が減り、高卒女性の地元における有望な就職先であった銀行から女性が減った。
また、銀行は、企業にお金を融資して、その収益を利息として預金者に還元するのが本来の仕事であった。そのためには、地域の経済実態に通じた営業担当男性銀行員が情報を集めて、小口融資をしていたはずである。しかし、銀行は、直接融資をするよりも、『融資したように見せかけて』、融資した権利を『債権』として第三者に売る方が利益率が高いことに、米国の例を参考にして知ることになる。
すると、いわゆる、小口の焦げ付く可能性があるリスキーな融資はせず、大企業向けか、住宅ローンなどの安全な融資を優先させる。
大量に集めた預金は、融資先を失い、国債などで運用して利ざやを稼ぐ。
『業務効率化』求めたことによる、日本の現状の一つの例である。
安倍政権は、『一億総活躍社会』と言って、家庭にいる、もしくは、家庭にいざるを得ない人たちも経済活動に従事させようとしている。
経済活動と文字数を増やしたが、国が『働け!』と言ってるということだ。
そのために、専任大臣までおいて、おそらく平成28年度予算には少なくない金額が関連予算として計上されているのであろう。
『業務効率化とは、人を減らすこと』である。それら、最近、ロボット社会を危惧するような記事が溢れていることに表れている。
企業も官公庁も人を減らしてきた。特に、事務部門においてである。
だから、一億総活躍社会といっても、『居心地の良い仕事』は、既に、椅子が埋まっている。その少ない椅子を求めて、哀れな大学生の就活なるものが、斡旋会社に扇動されて行われる。
では、家庭の外で働いた経験がない、もしくは、ブランクがある方たち(主に女性であろうが)は、『業務効率化』という悪魔が支配した社会において、どのような椅子が与えられるのであろうか?
家庭での家事と呼ばれる作業は、『業務効率化』とは無縁と言って良いものである。無駄なことが沢山あり、その無駄が、家庭の幸福の源泉であったりもする。
スーパーに行けば、糠漬けされた野菜が容易に買える。しかし、自分で糠漬けを作っている人たちは、少なくないであろう。
私は、今、働けない状態にあるが、自宅でパンを焼いている。パンなんか、買えば済む食べ物であるが、それを、わざわざ、家族のため作っている人たちは多い。作りたいと思っている人たちも多い。
しかし、『一億総活躍社会』というのは、その家庭の無駄としていた時間を、外の『業務効率化』社会の中で使え!ということに他ならない。
『働きたい人』は、当然『働くべきだ』。『働かないと食べていけない人』も当然『働かなければならない』。しかし、それは、従来の雇用慣行の少しの見直しで良い。
正規雇用と非正規雇用の差別は、『フルタイム勤務』か『パートタイム勤務』かの区別だけにすれば済むことである。どちらを選ぶかは、個人の考え方次第だ。国に左右されることではない。
パソナを代表する派遣企業の介在はそこには不要である。すべて、ハローワークで済むはずだ。予算の付け方次第でである。
『業務効率化』という悪魔の社会に、税金を使って、短期な経済対策のためだけに、大金を投じるべきではない。
お金を投じるならば、見かけではない、本質的な職業訓練をいつでも、どこでも受けられるような行政サービス(国立大学がその役割担うべきだが)の構築の方が、未来のためになる。
『一億総活躍社会』というのは、『業務効率化』と、真っ向から矛盾する政策なのである。
それが、『業務効率化』の社会でずうっと暮らしてきた私の違和感の元であった。
安倍政権を支持できない訳である。
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