アニキンはとても愉快な人物で爪楊枝おじさんという愛称で親しまれている。
また、渋谷界隈では弱きをくじき強きを助けることで名を馳せた男でもある。敵が強い場合は逃げる。「でもそんなのカンケーねー、でもそんなのカンケーねー」と、既に死語と化したギャグを飛ばし満悦している姿を僕はほほえましく見ている。今一番ナウいギャグは♪じょじょじょ、じょらんじゃないよね♪のはずだ。
彼がマイケルジャクソン化しているのは、決して整形手術が失敗したからではない。そもそも彼は整形手術などしていない。マイケルジャクソンの場合は、整形でああなってしまったが、彼は素そのものなのだ。なんと羨ましいことか。金をかけないでマイケルジャクソンになれるのだから^^
さらに、彼を一流にしたのは水虫だ。水虫さえいなければ、と悔やんだ時期も彼にはあったそうだ。だがそれも今は昔。水虫筋が下方に引っ張ったせいで、頬と目尻を垂れ下げることに成功。彼がポール二世と呼ばれるようになった所以は、ここにあるのである。
まさに世界的スターといっていいアニキン。マイケルジャクソンかポール牧かアニキン肉マンか。どれに似ていてもみんな素晴らしい人物ばかり。
おっと、話が大きく逸れてしまった。
意外と思う御仁が多いかもしれないが、これは明かしておかなければなるまい。彼は地方公務員だったのである。お上に仕える僕であったということ、かつて彼の職場だったバキュームカー清掃局。彼の真骨頂を発揮してきた場所。遡ること七十年。入社した当時の彼は、長い棒を肩にかつぎ、前後に桶をぶら下げ、各家庭を回っていた。これは誰もがやりたがらない仕事。彼はそれを買って出たのである。ホントに健気で殊勝な男である。僕はそんな彼をリスペクトしている。
ある日、彼と食事を共にした直後のことだった。
爪楊枝で歯の掃除をするアニキンは、まさにリラックスタイムを楽しんでいる様子だった。その時、彼の携帯電話が鳴った。それはけたたましい音だった。驚いた彼は、弾みで尖った先を歯茎に刺してしまった。何とも言いようのない味がしたのか、顔をしかめた。
僕に言った。
「妻の用事が出来たのでこれで帰る。これこそ、爪楊枝。な~んちゃって!!!!」
その後、焦点の合わない彼の視線は僕を見ることはなかった。
僕の目に当惑の色が浮かんだ。
しゃーないな。これが、彼の真実なのだ。お~~。でんぐりがえって王選手!^^