"ecstacy"

　"ecstacy"(以後、エクスタシー。)。何とも艶っぽい名を付された煙草が、ある。言わずもがなマイナー銘柄であり、今まで取り上げてきた少なくない他のマイナー銘柄に比して、さらに珍しい煙草である。以前から煙草サイトを通じて存在を知り、気になってはいたのだが、中々見かけない。拙者お気に入りの『かもめのキャビン』ですら、置いていない。
　ある日、以前紹介した『藤本たばこ店』を発見した際、店頭自販機で見つけた(こんなマイナー銘柄を取り扱っているにも関らず、ブラストを置いていないのが理不尽である。)。たまたま発見した店でたまたまこの煙草を発見したが、既にかもめで煙草をカートン買いした後であった故、その時は買わなかった。
　しかし、やはり気になり続けた故、最近買いに行った。五百二十円という何やら高い値段に一瞬腰が引けるも、試してみたい欲求が買った。しかも、他の銘柄と同様にエクスタシーには幾らかバージョンがあり、その内二種類が売られていた。言わずもがな、両方を買った。それが、貼付写真にあるものである。右側がスタンダードで、左がメンソールである。
　何故これほどまでにエクスタシーに執着したか。それは、エクスタシーが非常に変わった煙草だからである。無論存在自体も珍しいが、エクスタシーには、他の煙草にはない強烈な個性がある。世界には無数の煙草が存在しているが、かような個性を持った煙草は、恐らくエクスタシーただ一つである。
　まず、エクスタシーは、ニコチン値「０」、である。タールはあるのだが、ニコチンは入っていない。いささか乱暴だが、煙草と言えばニコチンであり、煙草には須らくニコチンが含まれているものである。しかし、エクスタシーには、ニコチンが全く入っていない。
　その理由は、使っている葉にある。エクスタシーには、煙草葉が使われていない。では、何が使われているのか。なんと、エクスタシーには、ハーブが使われている。『たばこナビ』によると、他の葉も併用されているようだが、ハーブを主体にしている。

＊パッケージ側面の説明書き。

　世界広しと言えど、煙草葉を使っていない煙草など、ましてやハーブを使っている煙草なぞ、エクスタシーだけである。そのあまりの珍しさ故、存在を認知してからというもの、気になって仕方がなかった。今回、ついに試す機会が巡ってきた。
　いつものように、まずは火を点けない状態で、香りを嗅いでみる。すると、非常にスパイシーな香りがする。ハーブというより、香辛料のバジルの香りに近い。いずれにせよ、予想していた以上の驚きを覚えたのは、間違いない。
　早速、スタンダードの方から火を点けてみる。当然ながら、香りは、嗅ぎなれたいずれの煙草の香りとも異なる。最もイメージしやすい例を挙げれば、枯れ草で焚き火をした際に出る煙の香りがする。しかし、決して煙たいわけでもなく、むせるわけでもない。引き際に、仄かな香草の香りが優しく漂う。
　次に、メンソールを試すと、これまた驚きを隠せない。スタンダードよりさらにスパイシーさが増し、味は全体的に辛くなる。何か大量の胡椒を口に入れたような味、である。しかし、これも、引き際に香草の香りが漂う。その強さは、スタンダードより強い。
　さらに、吸った後にその場に残る香りもまた、凄まじいものがある。部屋中に、お香を炊いたかのような匂いが漂い。しかも、相当長時間残る。さらに、エクスタシーの香りは、吸った部屋すら離れて、家中に広がる。ここまで強い香りはブラストこと"Brack Stone"ぐらいだが、エクスタシーは、明らかにブラストすら凌駕している。
　ただただ驚くばかり、である。こんなクセのある煙草は、当然ながら、今まで吸ったためしがない。その新鮮な感覚に、当惑すら覚える。間違いなく、賛否両論分かれる味であろう。拙者としては、どちらかと言えば肯定的に評価しているものの、まだ評価が定まりきれていない。
　ただ、エクスタシーは、非常に面白い煙草である事実は変わらない。値段の高さもあって、愛用はしないが、たまに吸うには良いだろう。もし街で見かけたら、是非一度お試し頂きたい銘柄である。

＊パッケージに付された"HERBAL CIGARETTES"の表記が、目を引く。