よみがえる空 -RESCUE WINGS- mission 1バンダイビジュアルこのアイテムの詳細を見る |
周知の通り、昨日、北陸の方で大きな地震が発生した。丁度神戸でも嫌な揺れ方をした故、気になってニュースを見ると案の定である。不幸にも犠牲者が出ているとのこと。とにもかくにも、一刻も早い救援と復旧が望まれる。
さておき、今回の報を聞いて、昔観たあるアニメが脳裏を過ぎった。自分自身かつて被災者だった身である事実も相まって、全くもって不謹慎極まりない話ではあるが、件のアニメの光景が浮かんだ。不埒ながらも筆を進めると、そのアニメにおいて最初の舞台となったのが、いみじくも北陸での地震だった。
そのアニメの名は、『よみがえる空-RESCUE WINGS-』(公式サイト。以後、本作。)である。元々とある雑誌で連載されていた漫画に触発されて製作されたアニメ、である。舞台となるのは、後述する航空自衛隊航空救難団小松救難隊である。そして、本作は、救難隊に配属された一人の新人の一年目を追っている。
例によって大まかな概要を記述しておこう。本作の主人公は、内田一宏。戦闘機乗りになりたくて空自に入ったものの、選考過程で救難ヘリに回され悶々としていた。小牧で救難ヘリパイロットとしての基本を学び、石川県は小松の救難隊に配属されるも、小松を離発着する憧れの戦闘機を眺めながら、憂鬱なスタートを切ろうとしていた。
とりあえず着任はしたものの、初日から散々な目に遭う。たまたま同じ小松に配属となり、自分がなれなかった戦闘機乗りになった同期にばったり出くわし、気が沈む。着任の挨拶をすべく隊を訪れたはいいが、絵に描いたような鬼上官兼教官の本郷からいきなり理不尽な扱いを受け、頭に血が昇る。
そして、同じ初日に北陸で地震が発生し、部隊に災害派遣要請が出る。補助要員として救難活動に参加するも、自分の何気ない行動で要救助者を一人出してしまい、しかも死なれる。配属早々廃人への道をまっしぐらに進み、遠く離れた東京で社会人一年目を始めた彼女に愚痴をこぼすも、擦れ違ってばかりで上手くいかない。ただあるのは、過酷な現実と本郷の罵声のみ。
しかし、現実は、気持ちの整理を待ってくれない。厳しい日常訓練は続くも、悶々とした感情故に思うほど腕は伸びず、本郷や先輩に怒られ続ける。その合い間を縫うかの如く、小松救難隊への出動要請は、次々とやってくる。その度に、救えた人と救えなかった人に出会っていく。こうして、内田の一年目は、過ぎ去っていく。
以上が、本作の概要である。一見、何の変哲もない救難モノのように思える。アニメであれ実写であれ、きょうび人命救助を舞台とした作品は、珍しくない。同様に、漫画を原作とする作品も珍しくない。既に食傷気味の病院モノから、『海猿』のようなレスキューモノまで枚挙に暇がない。本作も、かような作品の一つである。
しかし、本作には、独特の個性がある。まず他作品と異なるのは、主人公の境遇である。レスキューモノにおいて、通常、主人公は自ら志願してチームに入ってくる。そして、作品に登場するレスキューチームは入隊すら難易度が高く、隊員には強固な意志と並以上の努力が求められる。それ故、入隊までの過程がストーリーとして成立するほどである。
本作で登場する空自航空救難団も、高いレベルを誇る。しかも、そのレベルは、尋常でない(*)。ご存知の方もおられるように、同隊は、警察や消防、海上保安庁など、他のレスキューチームが断念した救難ミッションを担当する。その性格故に、同隊は、「最後の砦」と呼ばれる。
他方、本作の主人公内田は、自ら志願して入隊したのではない。上述の通り、戦闘機乗りになりたかったが、恐らくその適性無しと判断されて救難に回された。実際、空自では、このような例は珍しくないそうである。つまるところ、他の作品の主人公にとって「夢の舞台」が、本作の主人公には「夢破れて回された舞台」なわけである。
本来なら夢に向かってひたむきに頑張る姿が描かれるはずが、夢破れたショックを引き摺ったまま日本最高のレスキューチームの一員として仕事をこなしつつ、折り合いをつけるべく苦しむ。きょうび希望の職種に就けずに思い悩む若手が多い中、同世代の人間なら親近感が沸きそうな人物描写である。
その点が、本作をただのレスキューモノに終わらせない深みをもたらしている。それは、いみじくも予告編で登場する通り、「望んで来たわけではない。ただ、目の前に救助けを求める人がいる。」という主人公の台詞に全てが凝縮されている。志望した仕事ではないが、仕事であるからこなさなければならない。しかし、本当にやりたいことではないし、辛いことばかりだ。
かような宙ぶらりんな状態で揺れ動く主人公の葛藤が、他作品にない見所である。真面目さと負けず嫌いな性格故に望んでいない職場で頑張るも、引き摺った夢の重みに邪魔され、前に進めずただ疲弊していく。そして、主人公の葛藤を見透かした上官とのやり取り。その人間ドラマは他人事に思えず、その先が気になって仕方がない。
また、かような設定は、当然ながら本作の雰囲気を決している。その人物描写故に臭みが強い仕上がりになりがちな他の作品に比して、本作は、その人物描写故に比較的淡々とした仕上がりになっている。「熱血」やら「人間愛」のような要素は薄く、むしろプロフェッショナリズムが前面に出ている。救えなかったケースすら粛々と描かれ、従来作品に慣れた目には味気なく見えるかもしれない。
かような淡白さは、むしろリアリティをもたらし、本作のクオリティーを上げている。航空救難団といえども救えないケースが存在する事実があり、他方でいちいち泣き言を言っていられない現実がある。そして、あくまで重視するのは、結果と現実のみ。本作の淡白さは、そのままかような現実を反映しているように思える。
さらに、最近のこの手の作品の例に漏れず、本作も技術的なリアリティが担保されている。きょうび自衛隊が製作に協力する場合が珍しくなく、本作製作にあっても、空自が協力している。それ故、技術的なリアリティに問題はない。そして、そのリアリティもまた、本作のリアリティを高めている。
ちなみに、上述した本作独特の人物描写は、元ネタとなったと思われる漫画にはない。さらに付言すれば、件の漫画から根本的な変更が為されている。漫画の方は運命に導かれて救難パイロットになった新人女性隊員を主人公としており、仕上がりも、他の作品同様に臭みがある。また、熱血少女漫画的な趣も若干ある。なんにせよ、漫画の方には特段新味がない。
漫画との対比において、本作は、事実上別物と言ってよいかもしれない。個々のストーリーにおいて、漫画を参考にした節は幾らか見受けられる。実のところ、上述した地震被災地への派遣も、漫画に登場する。他にも、漫画の方で舞台となったシチュエーションが、一部登場している。
さらに薀蓄を重ねておくと、主人公のモデルとなった人物も、漫画に登場する。かつて戦闘機乗りであったがとある理由で機種転換を、業界用語で言うところの「F転」を余儀なくされたパイロットが、画中で登場する。多くを語らないが、F転を余儀なくされた事情故に影のある人物である。
本作製作陣は、こちらの人物の方に魅力を感じたのであろう。この人物を基に人物描写と設定を作り直したのであろう。なんにせよ、むしろ、その狙いは当たっていたと言える。上述の通り、漫画の方には特段の魅力はなかったが、本作には同じく上述したような個性と面白味がある。とどのつまり、良い意味で換骨奪胎した作品である。
さておき、話を戻そう。総じて、本作は、なかなか良い作品である。レスキューを舞台としつつも、夢と現実のギャップという何とも若者らしいテーマを扱った作品である。従来作品を見慣れた人は物足りなさを覚えるかもしれないが、見方を変えれば十分楽しめる作品である。機会があれば、是非一度ご覧頂きたい。
(*)
航空救難団の厳しさは、上に貼付した公式サイトでも幾らか言及されているので、そちらを参照されたい。
また、件のサイトには、有料試聴サイトへのリンクも貼っている。さらに、フレッツスクエア利用可能な方は、そちらの方でも試聴できる。恐らくDVDをレンタルするより安い(店によっては同等程度)ので、そちらを利用するのも手であろう。
後記
本項を書きながら、二月に封切られた映画『守護神』を思い出した。久々のケヴィン・コスナー主演作品なので観に行こうかと思ったが、結局止めにした。
多くのレビューにある通り、本作は、日本人には『海猿』と重なる部分が強い。他方、既に『よみがえる空』を観ていた自分には、その影もちらついた。さすがに二作品もカブると、観る気も失せた。もし今後ヒマな時が出来れば、DVDをレンタルする程度になろうか。
久しぶりに作品紹介を書くと、何やら感が鈍っているようで、いつもより手間取った今日この頃である。