読後感

歴史小説、ホラー、エッセイ、競馬本…。いろんなジャンルで、「書評」までいかない読後感を綴ってみます。

重耳

2006年09月28日 | 歴史小説
                      宮城谷昌光     講談社文庫

 宮城谷作品では「天空の舟」と、これが好きである。氏の作品は、時として主人公が道徳的に立派過ぎてついていけないことがあるが、女好きで安きに流れやすく、復讐を忘れない重耳は実に人間くさい。
 重耳といえば亡命生活が有名なので、そのはるか前から始まったときはもどかしかったが、たちまち引き込まれた。上中下読み通した後も、上巻が一番面白いと重う。曲沃軍が雪の下に沈むかと思える翼攻め、がらあきの曲沃を襲うかく軍、未熟ながら果断な重耳の行動、弧突の水際立った戦略、全く飽きさせない。
 登場人物としては、重耳の祖父、武王・称が魅力的である。冷徹さと情感を併せ持つスケールは圧巻。どこかとぼけた郭偃もいい。畢万なんて文字の語感だけで印象に残る。中巻は、申生の行動がもどかしすぎでやり切れない。下巻は放浪と帰還、そしてしっかり復讐。郭偃との再会がぐっとくる。
 宮城谷作品の復讐物語としては『青雲はるかに』もあるが、あれは放っといても強い秦を助けてのものだけにイマイチ。