ミッシェル・ルグランが死んだ。昨年末にフランシス・レイの訃報を聞いたばかりだから、フランス映画界は偉大なる映画音楽家を相次いで失ったことになる。
イタリアのニーノ・ロータと三人、ヨーロッパ映画界の映画音楽における至宝と言ってケチを付ける御仁は居りますまい。
哀悼の意味をもって、三人の映画音楽を思い出そう。
ミッシェル・ルグラン
やっぱり「シェルブールの雨傘」かな。
若きカトリーヌ・ドヌーブはこの世のものとも思えぬ可憐な美少女だったし、物語はありきたりな悲恋物ではあるが世の無常観をそこはかとなく漂わせるラストには、アメリカ映画にはない重みがあった。台詞が全部音楽にのって語られる手法も斬新だった。
戦争に向かう彼を駅で見送るシーンで流れる主題曲は本当に美しい。
「おもいでの夏」も忘れ難い曲だ。
1942年の夏、少年が一歩だけ大人の男に近づく日々を、海辺のリゾートを背景に描く物語。年上の魅力的な戦争未亡人と踊るシーンに流れた主題曲に、自分の少年時代との決別をも重ね合わせた。学生の頃、夏の始まりと終わりに必ず名画座で上映されていたのも懐かしい思い出。
そして「愛と哀しみのボレロ」。
音楽や踊りを軸に世界大戦から現在までの何組かの家族を中心に描いた大河ドラマ。
既存のクラッシックやジャズが使われているので、ルグランの曲はあまり目立たないが、音楽が中心になった傑作として忘れられない作品。
フランシス・レイ
クロード・ルルーシュのスタイリッシュなモノクロ画面にボサノバが色をつけた「男と女」。
斬新な映画にこの音楽はやはりぴったりなんだろうな。無駄を取っ払った物語(上映時間1時間40分の短さ)を観終わった後に残るのは、ダヴァダ ダヴァダヴァダ ダヴァダヴァダ あのリフレイン。
「白い恋人たち」の邦題をつけた人に感謝。
原題は「フランスにおける13日間」という、グルノーブル冬季五輪の記録映画だ。よくもまあ、お菓子の名前や桑田佳祐のヒット曲にまで影響を及ぼすような題名をつけたものだ。題名だけ聞いたらラブストーリーとしか思えないよね。これまたロマンチックな美しい曲。
そしてラブストーリーの王道「ある愛の詩」。
最近CS放送で観直してみたら、子供の頃あまり感動できなかった父と息子の絡みで泣いてしまった。
冬のアメリカ東部に降り積もった白い雪が、最愛の人を亡くした哀しみを助長させる。誰でも知ってる旋律は定番中の定番だ。
ニーノ・ロータ
フェリーニ映画のスコアはこの人無しでは語れないが、一般的に有名な「道」を紹介する。
トランペットが高く悲しい音を奏でる主題曲ジェルソミーナは、粗野な大道芸人が道端に捨てるように生き別れた女が口ずさんでいた旋律。失くしたものの大切さに気付き、号泣する男にも神の福音が訪れるラストに祈りを捧げたくなる。
アラン・ドロンの美しさと共に記憶される「太陽がいっぱい」。
メランコリックな曲調が、地中海の青さに映える。ラストのドンデン返しが衝撃的で、映画を観てよかったと思える見本のような作品だ。
これも知らない人はいない名作の名曲「ゴッドファーザー」。
シチリア出身のコルレオーネがアメリカに渡りマフィアのドンになる重厚な物語だが、故郷シチリアの輝く太陽の下で流れる愛のテーマと、ドンに上り詰めた暗い部屋に静に流れるメインテーマが、どちらも哀愁にあふれ忘れられない。
あらためて合掌