一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

「超写実展 −リアルを越えた絵画−」(佐賀県立美術館)…三重野慶「信じてる」…

2019年09月24日 | 読書・音楽・美術・その他芸術


三重野慶が描く写実絵画に対する驚きを、
このブログに掲載したのは、
昨年(2018年)10月19日であった。
そのとき、私は、
……三重野慶の超絶リアリズムに観る“一瞬と永遠”……
というサブタイトルを挙げ、
次のように記している。




この冒頭の画像は、実は、油絵なのである。
写実絵画を見慣れている筈の私でさえ、この絵には驚いた。


にわかに信じられないだろうから、順に画像を載せる。








作者は三重野慶。


三重野慶(Kei Mieno)    
1985年3月10日、広島県呉市生まれ。広島県呉市在住。
2007年、広島市立大学芸術学部美術学科油絵専攻卒業
第86~89回白日会展 入選
2012年6月4日~2012年6月9日、第23回明日の白日会展 選抜 
2016年11月18日~2017年5月15日、第2回ホキ美術館大賞展 特別賞
2017年8月18日~9月2日、個展 gallerysuchi
2018年4月18日~5月6日、ホキ美術館スモールコレクション 
2018年7月13日~7月28日 四人展 
2018年9月7日~2018年9月9日 アートフェアアジア福岡 gallerysuchiブース



私は、写実絵画が好きである。
このブログでも、「ホキ美術館名品展」に行ったときのことを書いた。(コチラを参照)

写実絵画とは、
「写真のように実物と寸分違わぬように描くこと」
と思っている人は多いと思うが、
そんな単純なものではないのである。
ホキ美術館の代表作家たちは“写実絵画の定義”を次のように語っている。

「抽象以外の具象はすべて写実的なものともいえる。そのなかでも再現性の程度の高いものや細密に描かれているもの」

「写実とは、目の前にある対象を再現することでも模倣することでもなく、その対象のずっと奥にあるものと出合うこと」

「物事の本質を見つめ続け、存在を描くこと」

「現実にある要素を抽出し、人為的な操作を加えて存在するかのように描くもの、また、情緒的な部分を排除し本当に現実に迫るリアリズムもある」

「写生とは違い、前向きにそいでいくように物を見て自分の世界をつくり、自然をもうひとつ再現していくこと」


写真は一瞬を切り取るが、
写実絵画は、通常、長い時間をかけて描かれる。
1年くらいは当たり前で、
3年、4年かけて描かれる絵画もある。
写実絵画は、時を止める絵画ではあるが、
その絵の中には、長い時間と、様々な想いが込められているのである。
写実絵画が、写真以上に、観る者に迫ってくるのは、
切りとられた一瞬に中に、永遠が潜んでいるからなのだ。

三重野慶の他の絵も観てみる。












いつの日か、実物の絵も観てみたいものである。




……このとき、私は、
「いつの日か、実物の絵も観てみたいものである」
と記していたのだが、
ついに、三重野慶の描いた実物を観る機会が訪れた。
それは、
佐賀県立美術館で、(2019年)9月14日から11月10日まで開催される、
「超写実展 −リアルを越えた絵画−」。


千葉に2010年11月に開館した、
世界初の写実絵画専門美術館「ホキ美術館」から54点、
スペイン・バルセロナに2011年6月に誕生した、
具象と彫刻に特化した「ヨーロッパ近代美術館(MEAM)」から59点、
計113点の写実絵画を展示するもので、
その中に、三重野慶の「信じてる」という絵がリストアップされていたのだ。

三重野慶「信じてる」は、
2017年の第2回ホキ美術館大賞特別賞に選ばれた作品。
40歳以下の若手写実作家を対象にした第2回ホキ美術館大賞には、
全国から93点の応募があり、
ホキ美術館大賞には鶴友那「ながれとどまりうずまききえる」が、
準賞には後藤勇治「ガスタンクのある風景」が、
創設者保木将夫と館長保木博子により選ばれた。
そして、大賞・準賞を除く入選作品35点のなかから、特別賞が、
来館者による一般投票で選ばれたのだ。
2016年11月15日から2017年2月27日まで投票が行われ、
総得票数4546点の中で1034点を獲得し第1位に輝いたのが、
三重野慶の「信じてる」であったのだ。

来館者による一般投票で選ばれた特別賞は、
一般の人が選出したということで、
最も多くの人に共感された作品だと思う。
で、開催から数日後、
ワクワクしながら佐賀県立美術館に向かったのだった。


いよいよだ。


チケット代1300円を払って入場。
三重野慶「信じてる」に「超写実展 −リアルを越えた絵画−」と書かれた看板が出迎えてくれる。
嬉しい。
早く本物の絵に逢いたい。




入口から入ってすぐは、
「ヨーロッパ近代美術館(MEAM)」からの59点が展示されている。

ハイメ・ヴァレロ「ポートレートNo.5」や、


マリア・ホセ・コルテス「ジェネレーション@」や、


ジョルディ・ディアス・アラマ「惑星王。 ベラスケスへのオマージュ。フェリペ4世騎馬像」などが印象に残ったが、


写実画に関しては、日本の方がきめ細やかで、繊細で、優れているように感じた。
なので、早く、後半の「ホキ美術館」の54点の方へ移動したかった。(コラコラ)

ようやく「ホキ美術館」の作品の方へたどり着き、
ゆっくり見始める。

野田弘志「聖なるものTHE-Ⅳ」、


中山忠彦「壁掛けのある部屋」、


島村信之「藤寝椅子」、




島村信之「響き」、


生島浩「月隠り」、


生島浩「月虹」、


塩谷亮「聴」などを観ながら、


ついに、三重野慶「信じてる」の前へ。
実際に観た三重野慶作品は、
写真で観たときよりも何倍も素晴らしかった。


近くで観ると、
皮膚の描き方が半端なく、


ホクロだけでなく、毛穴や静脈まで見えそうな気がした。




髪の毛の一本一本まで神経が行き届き、


艶や輝きまで表現されていた。


そして、少女の想いまでこちらに伝わってくるようであった。

「信じてる」が第2回ホキ美術館大賞特別賞に選ばれたとき、
三重野慶は、受賞作について、次のように語っている。

感情によって見えている色、光が少しだけ変わって見えます。楽しいときは楽しい色に。悲しいときは悲しい色に。同じ時、同じ光を見ている人はいない。ですが、絵になって、私が見た光が絵の中に在るなら、共有することができるのではないでしょうか。私にはこのように見えています。言葉で伝えられないことばかりです。この絵、この色、この光で、伝わってほしい。

この絵の前では、言葉はいらない。
絵の解釈もいらない。
ただ感じるだけでイイ。

三重野慶「信じてる」の傍には、
第2回ホキ美術館大賞に選ばれた鶴友那「ながれとどまりうずまききえる」も展示されていた。


【鶴友那】
1987年、広島県に生まれる
2006年、佐賀大学 文化・教育学部 美術・工芸課程 入学
2010年、同大学卒業。同大学大学院入学
2012年、同大学院卒業


佐賀大学、大学院を卒業し、佐賀市在住の、
現在進行形で素晴らしい絵を発表し続けている若き画家である。


三重野慶「信じてる」を観るだけでも、
佐賀県立美術館に足を運ぶ価値は十分にあると思うが、
他にも、魅力ある写実絵画がたくさん展示してあるので、
時間を忘れるほどに楽しめると思う。
ぜひぜひ。

この記事についてブログを書く
« 映画『人間失格 太宰治と3人... | トップ | 八幡岳 ……タヌキマメ、シロ... »