一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『アバウト・レイ 16歳の決断』 ……難役に挑戦し続けるエル・ファニング……

2018年05月25日 | 映画


またもや、
私の大好きなエル・ファニングの主演作である。
2018年2月3日に公開された作品であるが、
先に紹介した『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』と同様、
佐賀(シアターシエマ)では、5月中旬になってやっと上映され始めた。
16歳のトランスジェンダーのレイと、
レイを見守る家族の姿を描いた作品で、
メガホンを取るのは、女優としても活躍してきたゲイビー・デラル。


ナオミ・ワッツ、スーザン・サランドンら実力派が共演しているのも楽しみ。


実は、この作品『アバウト・レイ 16歳の決断』は、
日本では当初2016年1月22日の公開が予定されていたにもかかわらず、
様々な事情で、2015年12月に中止(延期)が発表された。
理由は、(これは、最近になって判ったことであるが)
トロント国際映画祭(2015年9月12日)で披露された際に凡庸な評価を受けたことで、
本作のプロデューサーであるワインスタインが、
作品のクオリティを引き上げるべく、何度も編集に手を加えたから。
ワインスタインといえば、
昨年(2017年)、ニューヨーク・タイムズ紙が、彼の過去30年以上にわたるセクハラ行為をスクープしたことから、
セクハラ撲滅を訴える「#MeToo運動」により集中砲火を浴びせられている人物であるが、
仕事に関しては優れており、敏腕プロデューサーとして、
『ロード・オブ・ザ・リング』『ギャング・オブ・ニューヨーク』『イングロリアス・バスターズ』など、
ヒット作、オスカー受賞作を次々と世に送り出している。
ワインスタインが何度も編集に手を加えたことにより、
2015年にトロント映画祭でプレミア上映されたものに比べ、
それぞれのキャラクターをより深く掘り下げた「3世代の家族の物語」として完成度が高まっているとか。
タイトルも『About Ray』から、『3 Generations』に変更されている。
(日本でのタイトルは当初のまま)


公開中止が発表されたときには、
〈このままずっと見られないのではないか……〉
〈お蔵入りしてしまうのではないか……〉
と、心配していただけに、
2年遅れたとはいえ、
こうして佐賀でも上映が決まり、ホッとしたし、嬉しかった。
『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』を鑑賞してから数日後、
私は、またしてもシアターシエマへ駆けつけたのだった。



トランスジェンダーで16歳のレイ(エル・ファニング)は、


身も心も男性として生きていくことを、母親のマギー(ナオミ・ワッツ)に告げる。


思わぬカミングアウトと、医師から渡されるホルモン治療の資料などに、
〈娘だったのに、突然、息子を育てることになるなんて……〉
と、動揺を隠しきれない母マギーは、
不安を打ち消すかのように近所に住む青年と一夜を共にする。
一方、すでにレズビアンであることをカミングアウトし、
パートナー・フラニー(リンダ・エモンド)と暮らしている祖母ドリー(スーザン・サランドン)は、


レイを応援はしているものの、その気持ちを充分に理解できず、
「女性が好きなら、レズビアンと公言すればよくない?」
と少々的外れな発言も……


髪を短く切り、身体を鍛え、少しずつ“本当の自分”に近づいていくことで生き生きしてくるレイの姿を見て、


マギーは意を決して、治療の同意書のサインをもらうために、何年も会っていない別れた夫に会いに行くのだが、
そこでまさかの“家族の秘密”が明らかになるのだった……




エル・ファニングほど、変化し続けている女優もいないだろう。
主な作品を並べてみただけでも、それが判る。
(公開年はアメリカ本国でのもので、日本公開は順序が入れ替わっている場合もある)

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008年)
『SOMEWHERE』(2010年)
『SUPER8/スーパーエイト』(2011年)
『Virginia/ヴァージニア』(2011年)
『幸せへのキセキ』(2011年)
『マレフィセント』(2014年)
『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)
『アバウト・レイ 16歳の決断』(2015年)
『ネオン・デーモン』(2016年)
『20センチュリー・ウーマン』(2016年)
『夜に生きる』(2016年)
『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(2017年)
『パーティで女の子に話しかけるには』(2017年)


特に、ここ数年は、難役に挑戦し続けているとしか思えないような充実ぶりで、
ニコラス・ウィンディング・レフン監督作品『ネオン・デーモン』
ソフィア・コッポラ監督作品『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督『パーティで女の子に話しかけるには』
など、異色の監督とタッグを組んでいるし、
年齢と共に出演作を選ぶ目も確かなものになっている。
どちらかというと、(日本では)ミニシアター系の作品が多く、
佐賀での上映作が少ないのが難点だが、
こんなにいろんなエル・ファニングを見ることができて、
彼女のファンとしては嬉しい限りである。
紹介している本作『アバウト・レイ 16歳の決断』は、
その中でも特に難しい役で、
女性として生まれたものの、
身も心も男性として生きていくことを決意したトランスジェンダーを演じている。


エル・ファニングを子役の頃から見ているし、
背がそれほど高くない美しい少女というイメージを抱いていたので、


〈男性として生きていくことを決意したトランスジェンダーを演じることができるのか?〉
〈不自然さを感じないだろうか?〉
と、映画を見る前は心配していた。
だが、本作を見始めると、そんな思いは杞憂であった。


ナオミ・ワッツやスーザン・サランドンと並んでも身長差がかなりあり、
〈えっ、エル・ファニングの身長っていくつ?〉
と思って調べたら、175cmということでビックリ。


〈いつのまにそんなに成長したのか……〉
ということで、エル・ファニングの美少年ぶりを堪能できたし、
素晴らしい演技も楽しむことができた。
中でも、
「まさかの“家族の秘密”が明らかになる」シーンでのレイ(エル・ファニング)の絶叫は、
本作でのエル・ファニングの存在を強く印象付けるものであったし、
名シーンであったと思う。

出勤前なので、この辺で終えようと思うが、
エル・ファニングのファンなので、彼女のことしか書かなかったが、
ワインスタインが何度も編集に手を加えたことにより、
タイトルが『About Ray』から、『3 Generations』に変更されたように、
レイ(エル・ファニング)、
母親のマギー(ナオミ・ワッツ)、
祖母ドリー(スーザン・サランドン)の、
3世代を描いた物語になっている。
だから、あらゆる世代の人に楽しめる作品になっている。
それぞれに問題を抱えた3人が、
荒波を乗り越えてたどり着くのはどんな場所なのか……
それをぜひ見届けて欲しい。


エル・ファニング自身が、
「どの役よりも誇りに思っている」
と公言する作品『アバウト・レイ 16歳の決断』。


機会ありましたら、ぜひぜひ。

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