一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

傾山縦走①(尾平越~本谷山~笠松山~九折越小屋) …星に願い、星に祈る…

2010年09月19日 | 山岳会時代の山行
「流れ星に(3回)願い事をすると願いが叶う」
とは、昔からよく耳にしてきた言葉だ。
流れ星が現れて消えるまでの瞬時に、自分の願い事を言うことはきわめて難しい。
しかも、瞬時に3回ともなると、不可能に近い。
だが、もし、そのことができれば、本当に願いは叶うと、ある本で読んだことがある。
流れ星に関係なく、自分の願い事を叶えることの出来る人は、いつもその願いを心底から思ってる人。
流れ星を見た瞬間にその言葉が出てくるほど、いつもそのことを考えていて、願いが叶うための努力もちゃんとしている人……その人こそが、本当に自分の目的を達成することができるのだ……と。

15年前に徒歩日本縦断した時、4ヶ月の間、テント泊や、シュラフだけの野宿をしていた。
晴れた日の夜は、いつまでも星空を眺めて過ごした。
眠れない夜は、一晩中星空を見ていたこともある。
ずっと夜空を見ていると、気づくことがあった。
それは、流れ星の数が意外に多いということだ。
普通の人は、たまにしか夜空を見上げない。
流れ星を見ることは本当に稀だ。
だが、夜空を見続けていると、かなりの数の流れ星を見ることができる。
そして、そのことが分かると、流れ星に願い事をすることは、意外にたやすいのだ。
徒歩日本縦断した時、私はそうやって、流れ星にいろんな願い事をした。
そして、不思議なことに、その中の願い事のいくつかは、本当に叶った。

15年後の今……
山に行って、山小屋に泊まったり、テント泊した時など、私は星空を見るのを楽しみにしている。
50歳を過ぎて、欲は少なくなり、願い事もほとんどないが、星を見るのは格別の楽しみなのだ。
星を見ているだけで、ただ嬉しく、なんだか宇宙と一体になったような気持ちになる。

からつ労山の9月の月例山行は、1泊2日で、傾山縦走。
1日目(9月19日)は、尾平越から本谷山と笠松山を歩き、九折越小屋泊。
2日目(9月20日)は、九折越小屋から傾山に登り、三ツ尾経由で下りてくる。
今回も、九折越小屋で、星空を見ることを楽しみにしていた。
9月18日(土)は、仕事を終え、帰宅してから明日からの山行の準備をして、寝る前にパソコンのメールチェックをした。
その時、新着メールの中に、Mさんの名があった。
Mさんは、私のブログの初期の頃からの愛読者で、まだ「一日の王」が誰にも知られていなかった頃からコメントやメールで何かと私を励まして下さった方だ。
ここしばらく音沙汰がなかったので、懐かしさいっぱいでメールを開いてみた。
だが、そのメールの 文章を読み、胸が塞がれたような気持ちになった。
Mさんの息子さんが、今年の3月に亡くなられたことが記されていたからだ。
ショックで涙も出ず、茫然とし、頭の中が真っ白になり、お通夜の時も、お葬式の時も、断続的にしか記憶がないとのこと。
2ヵ月間新聞も読まず、TVはつけていてもただ画面を見ているだけ。
何事にも気力が湧かず、死を考えたこともあったそうだ。
最近になり、やっと鬱状態から回復しつつあり、そのきっかけのひとつが「一日の王」であったと……
感謝の言葉と、これからも楽しみにしていますとの言葉が添えられていた。
Mさんにかける言葉も見つからず、ただ人生の不条理を前にして立ち尽くすのみであった。

私に出来るのは、ただこのブログ「一日の王」に、至福の時を記すことのみ。
私の個人的な至福の時の記録だが、一瞬でもMさんの悲しみを和らげる助けになれば……と思った。

9月19日(日)、午前5時40分。
多久IC入口付近で、マイクロバスを待つ。
19日(日)、20日(月)の両日とも晴天の予報だが、今日の朝は雲が多い。
やや心配になる。


ほどなくマイクロバスが到着し、乗り込む。
今回の参加者は12名。
やや少ないが、2人用のシートを一人で利用できる余裕は、今回のように長距離の移動の際は嬉しい。

10:05
宮崎県側の尾平越トンネル前の駐車場に到着。
すぐに準備をし、ストレッチ。
A班は、トンネルの左側にある古祖母登山口から稜線に上がり、そこから傾山への縦走開始。
B班は、トンネルの右側にある本谷山登山口から尾平越へ登り、そこから縦走を開始する。


10:21
A班の私は古祖母登山口から出発。
美しい木々を見ながら登って行く。


10:53
縦走路に出る。


美しい縦走路を軽快に歩く。


途中、開けた場所で、天狗岩と祖母山を望む。


11:13
尾平越を通過。

縦走路の両側に、枯れたような木が多いのは何故だろう。


この時期、祖母・傾山系に花は少ない。
ただシコクママコナだけはたくさん咲いていた。


縦走路の真ん中に立ちはだかっていた朽ち木。


11:27
B班に追いつく。

11:38
暑いので、風通しが良い場所で昼食。


木々の間から祖母山を眺めながらのランチは、ちょっと贅沢。


12:10
A班が先に出発する。
今夜は九折越小屋に泊まるので、A班が先に到着し、場所を確保する予定。

途中、休憩の時に、苔をマクロ撮影。
足許にも美がある。


ユニークな形のヒメシャラの木。


13:06
本谷山に到着。


存在感のあるブナの木。


大崩山方面を眺める。


美しい縦走路。


楽しい縦走路。


13:59
笠松山に到着。


ここから見た傾山は美しかった。
素晴らしい山岳美。


14:13
笠松山を出発。

途中の展望岩で、再び傾山を仰ぎ見る。
明日、あの山に登ると思うと、ワクワクする。


ツチアケビを発見。


美しい緑の林を見ながら先を急ぐ。


15:08
九折越小屋に到着。
小屋には誰もいず、ホッ。
だが、しばらく後、久留米からの6人組が到着。
宿泊者がこれ以上増えないことを願いながら、小屋の掃除をしたり、水汲みに行ったりしながらB班の到着を待つ。
16時過ぎにB班全員が到着。
結局、今夜は、我々12名と、久留米からの6名、計18名での宿泊となった。


小屋のなかは暗いので、外で夕食。
夕食後も語らいは続いていたが、私は皆さんより一足先にシュラフへ。
小屋の外から聞こえる話し声や笑い声を子守唄にして眠りに落ちた。

深夜1時過ぎに目が覚める。
小屋のなかは寝静まっている。
そっと抜けだし、外に出る。
と、動くものが見える。
ヘッドランプの光を当てると、そこには鹿が……
ちょっとビックリ。


ヘッドランプを消し、空を見上げる。
昼間は雲が多かったので、ちょっと心配していたが、天には星々の燦めき。
山で見る星々は、なぜにこんなにも美しいんだろう。

私は、Mさんへの返信に、
「息子さんは、空の上から、Mさんのことをずっと見守っておられることと思います」
と書いた。
古来、亡くなった人を、星に例えることは多い。
それは、あながち、間違いではない。
前にもこのブログに書いたことがあるが、人間は星の欠片(かけら)で出来ているのだ。
我々の躰をつくっている酸素、窒素、炭素、鉄などの元素は、宇宙の歴史のかなり後になって、星の内部や超新星と呼ばれる星の最後の大爆発の過程でつくられて、宇宙空間にまき散らされたものなのだとか。
私たちの躰には、何億年も前に爆発した超新星の欠片が残っているのだ。
人としての役目を終えた後、元素に分解され、宇宙空間を彷徨い、また星になっても何の不思議もない。

〈Mさんの心が悲しみに塞がれませんように……〉
と、星に願い、祈った。

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