![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/d8/d0b2df15812f4aa3ad60f345a97e6289.jpg)
柚木麻子が2013年に発表し、
直木賞候補作となった同名小説を映画化したものである。
すでにTVドラマ化(2017年8月~10月)されているが、
深夜に放送されていたので、私は観ていない。
『伊藤くん A to E』というタイトルに魅力を感じなかったので、原作も読んでいない。
映画のタイトルも、小説やTVドラマと同じく『伊藤くん A to E』。
『伊藤くん A to E』というタイトルからして傑作の予感はせず、(コラコラ)
なんだか“おちゃらけた”映画のような感じがして食指は動かなかったのだが、
私の好きな木村文乃が主演(岡田将生とのW主演)している作品だったし、
監督も『彼女の人生は間違いじゃない』(2017年)の廣木隆一だったので、
〈見ておくべきか……〉
と思い直した。
で、公開日(1月12日)からかなり遅れたが、
昨日(1月23日)、会社からの帰りに映画館で鑑賞したのだった。
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20代半ばで手掛けた大ヒットTVドラマ「東京ドールハウス」で一躍有名になったものの、
ある出来事がきっかけで新作を書けずにいる落ち目のアラサー脚本家・矢崎莉桜(木村文乃)。
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ドラマプロデューサー田村(田中圭)からも勧められ、
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自身の講演会に参加した【A】~【D】4人の女性たちの切実な恋愛相談を、
再起をかけた新作脚本のネタにしようと企んでいる。
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【A】都合のいい女・島原智美(佐々木希)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/8c/baafd9f15f14f74d22df7e730bff08c4.jpg)
【B】自己防衛女・野瀬修子(志田未来)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/65/4e/67511601f7a435ccf269a4f7ebedfed1.jpg)
【C】愛されたい女・相田聡子(池田エライザ)
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【D】ヘビー級処女・神保実希(夏帆)
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そんな彼女たちを悩ませ、振り回している男の名前が偶然にもすべて“伊藤”。
莉桜は心の中で「こんな男のどこがいいのか?」と毒づきながら、
脚本のネタのために「もっと無様に」なるよう巧みに女たちを誘導する。
そして、莉桜は彼女たちの取材を重ねるうちに、
【A】~【D】の女たちが語る【痛い男】=“伊藤”が同一人物で、
しかも莉桜が講師を務めるシナリオスクールの生徒の一人・伊藤誠二郎(岡田将生)であることに気付く……
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突飛な設定、
類型的な人物、
ドラマでよく耳にする言葉……等、
最初は、“ありがちなドラマ”として、
目新しさもなく、驚きもなく、
凡作かな……と思った。
ところが、中盤から意外な展開となり、
ある時点から、凡庸と思われた設定や言葉が輝き出す。
終盤にかけては、
類型的と思われた人物たちさえも、
なんだか特別な愛しい人々に見えてきて、
序盤とはまったく違った感慨を抱くに至った。
不思議な作品であった。
面白い作品であった。
鑑賞後は、
舞台で演じられた良質な演劇を見終わったときのような爽快感さえあった。
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元・売れっ子脚本家・矢崎莉桜を演じた木村文乃。
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この映画で、木村文乃は、様々な表情を見せてくれる。
そして、やや大げさな演劇的なセリフ回しで、この作品をリードしていく。
私としては、『梅ちゃん先生』や『A LIFE〜愛しき人〜』などで見せてくれたツンデレ気味な彼女が好きなのだが、(コラコラ)
これまであまり見たことのない木村文乃をたくさん見ることができて、楽しかった。
ただひとつ、演出面の欠点があった。
毒女を演じさせているとは言え、木村文乃に終始、喫煙させていること。
煙草を小道具に使うことは、昔はよくあったことだが、
今ではこの感覚は古すぎる。
まあ、廣木隆一監督(1954年1月1日生まれの64歳)だから、
仕方ないといえば仕方ないか……
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【A】都合のいい女・島原智美を演じた佐々木希。
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高級カバン販売員。
誰もが認める才色兼備な女性で、
5年間付き合っていると信じ込んでいた“伊藤”とは、実は一度もセックスしたことがなく、
いつもぞんざいに扱われている。
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そんな役を佐々木希が演じているので、
あまりリアリティーはないのだが、(笑)
案外そうなのかも……と思わせるところがニクイ。
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【B】自己防衛女・野瀬修子を演じた志田未来。
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「本当にやりたい仕事」に就くまでのつなぎとして塾でアルバイトをしている将来の夢も恋も停滞中のフリーター。
同じ塾でバイトする“伊藤”から執拗に言い寄られるが、
その“伊藤”を冷たくあしらう。
〈「本当にやりたい仕事」に就くまでの私は本当の私ではない〉
と、現実を直視せず、今の自分を否定している人をよく見かけるが、
その典型的な人物を志田未来は好演していた。
もともと演技の上手い女優なので、安心して見られたし、
鑑賞者も深く考えさせられる役柄であったと思う。
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【C】愛されたい女・相田聡子を演じた池田エライザ。
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男を切らしたことがないリア充女子に見えるが、
実は一度も人に愛されたことがない…というタルト店の店員。
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親友の実希が一途に思いを寄せる“伊藤”を寝取るのだが、
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そのシーンが実にリアルで、池田エライザも好い演技をしていた。
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廣木隆一監督も、彼女のシーンは特に演出が冴えていた。(笑)
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私は、『トリガール!』(2017年9月1日公開)で池田エライザを初めて知ったが、
その後、『一礼して、キス』((2017年11月11日公開)で主演し、
女優としてのキャリアを着実に積み上げている。
本作での彼女は、その進歩を感じさせる演技であったと思う。
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【D】ヘビー級処女・神保実希を演じた夏帆。
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聡子とは中学時代からの親友で、
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3年間片想い中の“伊藤”に処女は重いとフラれ、
処女を捨てようと自暴自棄になっている大学院生の役。
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私としては、夏帆は、
『天然コケッコー』(2007年7月28公開)で初めて見て好きになり、
『箱入り息子の恋』(2013年6月8日公開)など好きな作品も多い女優なので、
この作品でも彼女に逢えて嬉しかった。
女優としても経験豊富な夏帆に、
“ヘビー級処女”の役をキャスティングしているが、
“ヘビー級処女”に見えてしまう夏帆の演技の上手さに脱帽。
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超モンスター級「痛男」伊藤誠二郎を演じた岡田将生。
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容姿端麗、自意識過剰、無神経、実は資産家の息子。
莉桜が主宰するシナリオスクール(ドラマ研究会)に通うフリーター。
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いつも口先だけの、どうしようもない男なのだが、
終盤、意外な展開を見せ、“伊藤”は思いがけず重要な役であったことが判明する。
この“伊藤”は触媒の役割を果たしており、
女性たちを変化させる“なかだち”をしていたのだ。
【A】~【D】4人の女性たちはもちろん、
タイトル『伊藤くん A to E』にある【E】の女・矢崎莉桜(木村文乃)をも、
“伊藤”という触媒によって変化させられる。
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“伊藤”によってあぶりだされるそれぞれの人物の本性が、
この映画の最大の見所になっている……と言えよう。
岡田将生は、
『告白』(2010年6月5日公開)や、
『悪人』(2010年9月11日公開)でも悪役を好演しているが、
彼なればこその“伊藤”であり、
彼なればこその『伊藤くん A to E』であったと思う。
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『伊藤くん A to E』というタイトルはチャラいが、
案外真面目な、哲学的な命題を孕んだ作品だったと言える。
映画館で、ぜひぜひ。