一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ディストラクション・ベイビーズ』…柳楽優弥の異様な存在感に圧倒される…

2016年08月17日 | 映画


柳楽優弥、菅田将暉、村上虹郎、池松壮亮、小松菜奈など、
若手実力派俳優が集結し、
愛媛県松山市を舞台に若者たちの欲望と狂気を描いた青春群像劇。
監督と脚本は、本作が商業映画デビューとなる、
『イエローキッド』『NINIFUNI』などで世界的注目を集める新鋭・真利子哲也。


『桐島、部活やめるってよ』の喜安浩平が共同脚本を担当。
魅力的なキャストとスタッフが揃った映画『ディストラクション・ベイビーズ』。
ポスターもヤバかったし、(笑)
〈見たい〉
と思った。
5月21日公開の映画であったが、
夏まで待てば佐賀(シアターシエマ)でも上映予定とのだったので、
首を長くして待ち、
先日、ようやく見ることができたのであった。


愛媛県松山市西部の小さな港町・三津浜。
海沿いの造船所のプレハブ小屋に、
二人きりで暮らす芦原泰良(柳楽優弥)と、


弟の将太(村上虹郎)。


喧嘩ばかりしている泰良は、
ある日、突然、三津浜から姿を消し、松山の中心街に現れる。


強そうな相手を見つけては喧嘩を仕掛け、


逆に打ちのめされても食い下がり、


勝つまで挑み続ける泰良。


街の中で野獣のように生きるそんな彼に興味を持った高校生・北原裕也(菅田将暉)は、
「あんた、すげえな!オレとおもしろいことしようや」
と、泰良に声をかける。


こうしてふたりの危険な遊びが始まった。
通行人に無差別に暴行を働いた彼らは、
やがて車を強奪し、
そこに乗りあわせていたキャバクラで働く少女・那奈(小松菜奈)を、
むりやり後部座席に押し込み、
松山市外へ向かう。


その頃、将太は、自分をおいて消えた兄を捜すため、松山市内へとやってきていた。


泰良と裕也が起こした事件はインターネットで瞬く間に拡散し、
警察も動き出す。
果たして兄弟は再会できるのか、


そして、車を走らせた若者たちの凶行のゆくえは……



路上でいきなり見知らぬ人間に殴りかかり、
ストリートファイトを繰り返す若者を描いた、
刺激的で挑発的な衝撃作。
良識派の大人は眉をひそめそうな題材の映画ではあるが、
今年は、このような暴力や殺人を扱った映画が多い。
このブログでもレビューを書いている、
『ヒメアノ~ル』や『葛城事件』などがそうだった。
両作とも衝撃的な映画ではあったが、優れた作品でもあった。
本作『ディストラクション・ベイビーズ』も、
『ヒメアノ~ル』や『葛城事件』に勝るとも劣らない傑作であった。


驚くべきことに、柳楽優弥が演じた泰良という男は、
上映時間108分の間、
ほとんど喋らない。
セリフがないのだ。
それでいて、柳楽優弥は抜群の存在感を示す。
顔の表情、
仕草、
服装、
歩き方、
後ろ姿などで、異様な不気味さを表現している。
映画祭の主演男優賞を受賞するレベルの演技を、
ほとんどセリフなしでやり遂げているのだ。


一方、高校生・北原裕也を演じた菅田将暉には、
饒舌すぎるほどのセリフがある。


好対照の演出なのだが、
菅田将暉の方も独特の存在感がある。
だが、柳楽優弥の存在感には敵わない。

この映画に出演が決まった時、
菅田将暉は、主演の柳楽優弥を食うような演技がしたいと思ったらしい。

『ディストラクション・ベイビーズ』の時、すごく残念だったのは、柳楽くんを“食いきれなかった”こと。もちろん柳楽くんは主演だし、うまいし、簡単に“食える”とは思ってなかったけど、でも、今回は完敗。真利子(哲也)監督や柳楽くんと、酒を飲んでそんな話をしていて、ちょっとヒートアップしていたんでしょね(笑)。柳楽くんが、「俺は菅田に食われるくらいなら役者辞めるつもりでいたよ」と。ああ、その覚悟だと。役者辞める覚悟なかったですもん(笑)。柳楽優弥くんが頭ひとつ抜けている理由は、覚悟が違うからだと思いました。(『キネマ旬報・2016年8月上旬号』)

こう話す菅田将暉の言葉の通り、
柳楽優弥は、「さすが主演」という演技、
いや、空気感、存在感で、他の出演者を圧倒する。
柳楽優弥は語る。

シンプルなほうがいいなとは思っていて。観た人が自由な状況でいられるのって、ある意味、親切ですよね(笑)。「みんな、この枠で観ろ」じゃなくて。台詞のテクニックって、大事だとは思うんですが、自分はそこまで興味がないですね。それより、キャラクターの空気感みたいなものは、どうやったら自分から出るんだろうと考えているほうが楽しい。どういうふうに存在するか。どういうふうに立っているか。そこを求められたい。(『キネマ旬報・2016年8月上旬号』)

ただ立っているだけで、
見る者に様々な感情を呼び起こさせる演技は、
暴力が題材の映画ということで賛否があるであろう作品の評価とは別に、
見るに値するものだと断言しておこう。


先程、『キネマ旬報・2016年8月上旬号』から引用したが、
この『キネマ旬報・2016年8月上旬号』は、
「キネマ旬報が選ぶ スクリーンで逢いたい若手俳優 男優篇」
という特集をしている。


そこで、表紙と巻頭のカラーグラビアを飾っているのが菅田将暉で、


菅田将暉の次にカラーグラビアに登場するのが柳楽優弥なのである。


映画『ディストラクション・ベイビーズ』は、いわば、
「スクリーンで逢いたい若手男優」のNo.1とNo.2が出演している話題作ということになる。
インディーズ映画でありながら、
一種の華やかさが感じられるのは、
柳楽優弥や、


菅田将暉はもちろん、


村上虹郎、


池松壮亮、


小松菜奈など、


期待される若手俳優が共演しているからと言えるだろう。
そして、
その若手俳優たちの競演を、
でんでんや、


三浦誠己などの硬質の名優たちがしっかりと脇から支えている。


面白くない筈はないのである。


『ディストラクション・ベイビーズ』の「ディストラクション」とは、
Distraction(気晴らし、動揺)と、
Destruction(破壊)という、
同じ発音の単語を合体させたもので、
二つの意味を持たせているそうだ。
「気晴らし」による「破壊」を繰り返す彼らは、
理解しがたい存在であるだろうし、
良識派の大人たちから見れば、嫌悪すべき若者たちであろうが、
見ずにスルーするには惜しい映画である。
「惜しい」というより、
私的には、「見ておかなければならない」作品だと思われるし、
「見ておかなければ、これからの日本映画が語れない」とさえ思っている。
それほど重要な作品と位置付けている。
私の中では、2016年という年は、
『ヒメアノ~ル』と、
『葛城事件』と、
『ディストラクション・ベイビーズ』が公開された年として、
いつまでも記憶されることであろう。


本作の音楽を担当しているのは、佐賀県出身の向井秀徳。


1973年、佐賀県北茂安町(現・みやき町)生まれ。
佐賀県立鳥栖高等学校卒。
1995年、NUMBER GIRL結成。
1999年、「透明少女」でメジャー・デビュー。
2002年解散後、ZAZEN BOYSを結成。
自身の持つスタジオ「MATSURI STUDIO」を拠点に、国内外で精力的にライブを行い、
現在まで5枚のアルバムをリリースしている。
また、向井秀徳アコースティック&エレクトリックとしても活動中。
2009年、映画『少年メリケンサック』の音楽制作を手がけ、
第33回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。
2010年、LEO今井と共にKIMONOSを結成。
2012年、ZAZEN BOYS 5thアルバム『すとーりーず』リリース。
著書に『厚岸のおかず』などがある。


この向井秀徳の音楽が秀逸。
エンドロールでは主題歌『約束』が流れるが、
予告編でも、その片鱗が窺える。
ぜひぜひ。


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