一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

大林宣彦監督作品『ふたり』の主題歌「草の想い」(作詞:大林宣彦、作曲:久石譲)

2020年05月04日 | 映画
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私の好きな映画音楽として、
先日(2020年4月10日)、勅使河原宏監督の『他人の顔』の挿入歌でありテーマ曲である
武満徹作曲の「ワルツ」を紹介したが、(コチラを参照)
今回紹介するのは、
大林宣彦監督の『ふたり』の主題歌「草の想い」。

映画『ふたり』は、
尾道三部作である
『転校生』(1982年4月17日公開)
『時をかける少女』(1983年7月16日公開)
『さびしんぼう』(1985年4月13日公開)

に続く尾道を舞台にした新尾道三部作
『ふたり』(1991年5月11日公開)
『あした』(1995年9月23日公開)
『あの、夏の日 〜とんでろ じいちゃん〜』(1999年7月3日公開)
の第一作として制作された作品。
原作は、赤川次郎の同名小説で、
尾道を舞台に、
亡き姉の幽霊に見守られながら成長していく多感な少女の姿を描いている。



ドジでのろまな夢見る14歳の実加(石田ひかり)は、
優しい両親と自分とは正反対のしっかり者の姉・千津子(中嶋朋子)に囲まれて幸せな日々を送っていた。


ところがある朝、学校へ行く途中、忘れ物を取りに戻ろうとした千津子は、


突然動き出したトラックの下敷きになって死んでしまい、
その事故のショックで母・治子(富司純子)はノイローゼ気味になってしまう。
実加はけなげにも姉の代わりを演じようと、ひとり明るく振る舞うが、
ある日、変質者に襲われかけた実加は、死んだ千津子の幽霊に助けられる。
その日以来、実加が難関にぶつかると千津子が現れ、“ふたり”で次々と難関を突破してゆく。


そして千津子に見守られながら、日に日に美しく素敵な少女に成長していく実加は、


第九のコンサート会場で、姉の知り合いだったという青年・智也(尾美としのり)に出会い、
ほのかな想いを抱くようになる。


やがて16歳になった実加は、千津子と同じ高校へ進学。
演劇部へ入部し、千津子が生前演じたミュージカルの主役に抜てきされるが、
そんな実加をやっかむいたずら電話により、治子は倒れて再び入院する。
それと同時に北海道へ単身赴任していた父・雄一(岸部一徳)の浮気が発覚する。
崩れかける家族の絆を必死に守ろうとする実加と、それを見守る千津子。
そして、実加がそんな事態を乗り越えた時、それは千津子との別れの時でもあった。


こうして自立していく実加は、この出来事を本に書き残そうと心に決めるのだった……



主題歌「草の想い」(作詞:大林宣彦、作曲:久石譲)は、映画の中で、
カセットテープから流れる千津子(中嶋朋子)の声で、
あるいは実加(石田ひかり)が時折口ずさむ歌として流れる。
そしてエンドロールでは、
作詞を担当した大林宣彦と作曲を担当した久石譲のデュエットで流れる。
元々は主演の石田ひかりに歌わせる予定であったが、
石田の演技を見た大林が石田を女優として最後まで通させようと考え、
自身がピンチヒッターとなったとのこと。
久石とのデュエットになったのはプロデューサーの大林恭子の提案によるものだとか。
おっさん二人による歌声に驚かされもしたが、(笑)
これが実に良かった。
特に大林宣彦監督の声には温かみがあり、(そういえば『廃市』でのナレーションも良かった)
なんともいえない哀愁も感じられた。
映画公開時に見たときは、
久石譲の曲の美しさにばかり気を取られていたが、
何度も聴いているうちに、歌詞の素晴らしさにも気づくようになった。
「草の想い」というタイトルが良いし、
言葉のひとつひとつが、選び抜かれたものであることが解る。
大林宣彦監督は、優れた詩人でもあったのだ。(ラストシーンとエンドロール↓)



映画『ふたり』の出演者では、
やはり、主人公の“ふたり”である石田ひかりと中嶋朋子が目立っているのだが、


私は、実加(石田ひかり)の同級生・前野万里子を演じた中江有里に惹かれた。


智也(尾美としのり)の従妹で、
お互い一人っ子で兄妹のように仲良く育てられてきたため、
智也を実の兄のように慕っている。
生前の千津子に嫉妬して邪魔に思うようになり、
その妹である実加も敵視するようになる……という役で、
ちょっと影があり、実に美しい。
現在は、作家、女優、コメンテーターなどで活躍中の彼女であるが、
この『ふたり』がスクリーンデビュー作であった。
当時16歳。
16歳とは思えない大人びた表情に、私は魅了された。


中江有里は、デビュー当時はアイドル歌手としても活動していたが、


今年(2020)から歌手活動も復活させている。


中江有里
1989年、大阪より上京、芸能活動開始。
1991年、「花をください」で歌手デビュー。
以降、シングル計5枚、アルバム計2枚発表し、
1993年、一旦音楽活動を休止。
2019年9月、作詞家・松井五郎氏のトークイベントで26年ぶりに歌う。
2020年2月13日、JZ Brat SOUND OF TOKYOにて初ライブ「Réaliser」開催。
同年、音楽活動を再始動する。

このJZ Brat SOUND OF TOKYOにて初ライブの際、
中江有里はセットリストの中に『ふたり』の主題歌「草の想い」を入れている。
そして、後日、「中江有里 公式 YouTube Channel」を開設し、
「草の想い」をアップしている。
以下は、そのときのコメント。

4月10日にお亡くなりになった大林宣彦監督の映画「ふたり」の劇中歌、主題歌で、監督が作詞、久石譲さんが作曲され、タイトルロールでは監督と久石さんが歌われました。CD化の際は「ふたり」出演者の中嶋朋子さんが歌っています。
「ふたり」は、わたしのスクリーンデビュー作で、この曲を聴く度に尾道で過ごした16歳の夏を思い出します。 そして完成作品を見た時の感動がよみがえります。
そんな思い出深い「草の想い」を2月の初ライブで歌わせていただきました。
30年前に聞いた曲を今歌ってみて、あらためて詩の意味に感じ入ってます。
大林監督の映画はもちろんですが、音楽にも独自のフィロソフィーというべきものがあるように思います。
「草の想い」を通して、監督のフィロソフィーを伝えられたら幸いです。


中江有里が歌う「草の想い」は、
大林宣彦や久石譲、石田ひかりや中嶋朋子とも違い、
歌声に透明感があり、青春の危うさみたいなものが繊細に表現されている。
容姿も、
映画が撮影されて30年近くが経っているのに(他の出演者はすっかり変貌してしまったのに)、
清潔感や凛とした美しさが今も保たれている。
新型コロナウイルスの影響で、音楽活動も中断を余儀なくされているが、
新型コロナウイルスが収束し、九州でもライブが開催されれば、
ぜひ彼女の歌声を聴きに行きたいと思っている。


※当ブログでの中江有里関連記事
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