一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ウエスト・サイド・ストーリー』……アリアナ・デボーズの迫力のダンス……

2022年02月21日 | 映画


青春時代に見た映画は、強烈な印象を残す。
中でも、中学、高校時代に見た
『ロミオとジュリエット』(1968年)
『いちご白書』(1970年)
『おもいでの夏』(1971年)
の3作は、今でも私の心の中で特別な作品として輝いている。
それは、3作が特に映画として秀でた作品であった……というワケではない。
作品的に優れた映画は他にもたくさんあった。
なぜにこの3作が強く印象に残っているかといえば、それは極私的な理由だ。
そのひとつは、好みのタイプの女優が出演していたこと。
『ロミオとジュリエット』は、オリビア・ハッセー、


『いちご白書』は、キム・ダービー、


『おもいでの夏』は、ジェニファー・オニール。


3人とも一目惚れだった。(コラコラ)
もうひとつの理由は、音楽にシビれてしまったこと。
『ロミオとジュリエット』は、「What Is A Youth」、
『いちご白書』は、「Circle Game」、
『おもいでの夏』は、「The Summer Knows」。
音楽が流れてきただけで、今でも瞬時にあの頃に気持ちが還ってしまうほどなのだ。


映画が好き過ぎて、原作本も読んだ。
『ロミオとジュリエット』は、ウィリアム・シェイクスピア、
『いちご白書』は、ジェームズ・クネン、
『おもいでの夏』は、ハーマン・ローチャー。

なので、シェイクスピアを初めて読んだのは、
映画『ロミオとジュリエット』の原作本としてだった。
映画の各シーンを思い出しながら読んだので、
解り易かったし、感動した。
以降、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」も、
私にとって特別な本となった。


なぜ、こうして、映画『ロミオとジュリエット』の思い出話から始めているかというと、
映画『ウエスト・サイド・ストーリー』も、
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を下敷きにした物語であるからだ。
今年(2022年)の2月11日に公開された、
スティーブン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』は、


1957年に初演されたブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド物語』の2度目の長編映画である。


1度目の映画は、言わずと知れた、
ロバート・ワイズ&ジェローム・ロビンズ監督作品『ウエスト・サイド物語』(1961年)で、


ナタリー・ウッドとリチャード・ベイマー主演。
これにジョージ・チャキリス、リタ・モレノらが加わり、
「トゥナイト」「アメリカ」「マンボ」「クール」「マリア」など、
映画の中で歌われる曲も多くの人を魅了して、
サウンドトラック・アルバムも空前の売り上げとなった。
アカデミー賞では作品賞をはじめ、ノミネートされた11部門中10部門を受賞し、
この中には作品賞、監督賞とともにジョージ・チャキリスとリタ・モレノがそれぞれ助演男優賞と助演女優賞を受賞している。


この『ウエスト・サイド物語』(1961年)が公開されたとき、
私はまだ7歳くらいだったので、リアルタイムでは見ていない。
後年、名画座やTV放映で何度も見ることになるのだが、
好みの女優は出演しておらず、(コラコラ)
シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」のモンタギュー家とキャピュレット家の対立は、
不良集団「ジェッツ」と「シャークス」の抗争に置き換えられていたし、
物語そのものにもあまり共感できなかったこともあって、
私にとっては特別な作品とはならなかった。
しかし、レナード・バーンスタインの名曲には魅せられたし、
ミュージカル映画としては“名作”として認知させられている。

スピルバーグ監督が『ウエスト・サイド物語』をリメイクした作品が公開される……と聞いたとき、正直、それほど興味は湧かなかった。
スピルバーグ監督作品にあまり好きな作品はなかったし、
『ウエスト・サイド物語』の物語そのものにも惹かれるものがなかったからだ。
ただ、話題作なので、「一応、見ておかなければ……」という思いもあった。
で、先日、他に見たい作品がなかったということもあって、
イオンシネマ佐賀大和で鑑賞したのだった。



1950年代のニューヨーク。
マンハッタンのウエスト・サイドには、
夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていた。
社会の分断の中で差別や貧困に直面した若者たちは同胞の仲間と集団をつくり、
各グループは対立しあう。
特にポーランド系移民の「ジェッツ」と、
プエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していた。


そんな中、ジェッツの元リーダーであるトニー(アンセル・エルゴート)は、
シャークスのリーダーの妹マリア(レイチェル・ゼグラー)と運命的な恋に落ちる。


この禁断の愛が、多くの人々の運命を変えていくことも知らずに……




上映時間157分。
上映前の予告編の時間まで入れると約3時間。
(前期高齢者にとっては)けっこう辛い拘束時間でありました。(笑)
ただ、1961年の『ウエスト・サイド物語』も上映時間は152分なので、ほぼ同じ。
上映時間だけでなく、
(私の)鑑賞後の感想も、1961年の『ウエスト・サイド物語』とほぼ同じ。
上空からマンハッタンをとらえた映像から始まり、
時代背景、登場人物の関係性、そして楽曲、
廃墟の壁に出演者の文字が記されるエンドロールに至るまで、そっくり。
曲順の違いや、
「クール」という曲は、1961年版では、男女によってガレージのなかで歌われたが、
リメイクでは男性のみだとか、
「アメリカ」という曲は、1961年版ではビルの屋上で展開されたが、
今回はストリートに繰り出して、大スケールのダンスシーンとなっているなど、
所々にスピルバーグ監督らしさはあったものの、
全体的には、1961年の『ウエスト・サイド物語』をもう一度見ている感じであった。

「鑑賞する映画は出演している女優で決める」主義の私としては、
主演女優の(マリアを演じた)レイチェル・ゼグラーに注目していたのだが、


オーディションで約3万人の中から選ばれただけあって、
1961年版のナタリー・ウッドよりはかなり良かったと思った。




2015年から歌唱動画を投稿するYouTuberとしても活動しているだけあって、歌も上手く、
化粧映えする濃い顔立ちで、
すでに、ディズニーの実写版『白雪姫』のヒロインにも抜擢されているというのも頷ける。




ただ、私好みの顔ではなく、(コラコラ)
一目惚れすることもなく、ドキドキすることもなかった。



出演女優で、一際、私の目を引いたのは、
ベルナルドの恋人・アニータを演じたアリアナ・デボーズ。






1961年版ではリタ・モレノが演じた役だが、
リタ・モレノとはガラリと印象が違い、
アリアナ・デボーズの迫力ある「アメリカ」は、


より華やかで力強いものとなっている。


“静”のヒロインは、レイチェル・ゼグラーであったが、
“動”のヒロインは、間違いなくアリアナ・デボーズであったと思う。



そして、1961年版でアニータを演じたリタ・モレノは、
リメイクでは、トニーが働くドラッグストアの女主人・バレンティーナを演じている。


1931年12月11日生まれなので90歳なのだが、(2022年2月現在)
とてもそんな年齢の女性には見えない。
1961年版でアカデミー賞助演女優賞に輝いたリタ・モレノだが、
トニーやマリアを見守るキーキャラクターとして、
今作でも抜群の存在感で演じきっている。



女優陣の印象は強めであったのだが、
(私が男優に無関心ということもあろうが)反対に男優陣の印象は弱めで、
トニーを演じたアンセル・エルゴートも、(1961年版は、リチャード・ベイマー)


ベルナルドを演じたデビッド・アルバレスも、(1961年版は、ジョージ・チャキリス)


リフを演じたマイク・ファイストも、(1961年版は、ラス・タンブリン)


1961年版の男優たちに比べ、オーラが無かったように感じた。
ちなみに、
リチャード・ベイマーは、現在83歳、
ジョージ・チャキリスは、現在87歳、
ラス・タンブリンは、現在87歳で、存命中である。(いずれも2022年2月現在)


スピルバーグはこの名作をリメイクした理由を、
「“分断”の時代だからこそ必要だ」
と語っていたが、
オリジナルが誕生してから60年以上たった今も、
世界における「分断」はなくならず、
いやむしろ深くなっているという印象すらあり、
この現実を、スピルバーグは何よりも訴えたかったから……と考えられる。
そういう意味では、
スピルバーグ監督作品に関心がない人も、
名作ミュージカルのリメイクに興味がない人も、
見ておくべき作品なのかもしれないと思った。

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