一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『ちはやふる』 ……「上の句」と「下の句」を同じ日に鑑賞しての感想……

2016年05月07日 | 映画
最近のTV放送には、
「3時間スペシャル」、「4時間スペシャル」といった番組が多い。
1時間の番組を4本制作するより、
1番組を4時間にする方が、
制作費をはるかに削減できるからだ。
同じ現象が、日本映画界にも起きている。
ひとつの作品を2部作として公開する映画が多くなったのだ。

『デスノート』(前編2006年6月17日、後編2006年11月3日公開)
『のだめカンタービレ 最終楽章』(前編2009年12月19日、後編2010年4月17日公開)
『SP』(野望編2010年10月30日、革命編2011年3月12日公開)
『僕等がいた』(前編2012年3月17日、後編4月21日公開)
『劇場版 SPEC〜結〜』(前編『漸ノ篇』2013年11月1日、後編『爻ノ篇』11月29日公開)
『るろうに剣心』(前編『京都大火編』2014年8月1日、後編『伝説の最期編』2014年9月13日公開)
『寄生獣』(前編2014年11月29日、後編2015年4月25日公開)
『ソロモンの偽証』(前編2015年3月7日、後編2015年4月11日公開)
『進撃の巨人』(前編2015年8月1日、後編2015年9月19日公開)

思いつくままに挙げただけでも、これだけある。
このように、2部作にするのは、制作側の商業的な都合による部分が大きい。
まったく別な2本の映画を制作するよりも、
同じ映画で2本の作品を制作する方が、
制作費がはるかに少なくて済むからだ。
「一粒で二度美味しい」的うま味を享受したいと考える業界人が多いのだ。
中には、やはり二つに分けなければならないほど内容の濃いものもあるが、
大抵は、内容の薄いものを無理矢理長く引っ張った締まりのない作品が多い。
それでも興行的に成功しているのか、
この傾向がずっと続いている。
今回紹介する映画『ちはやふる』(前編2016年3月19日、後編2016年4月29日公開)もそうだし、
今日(5月7日)から公開される映画『64‐ロクヨン』(前編2016年5月7日、後編2016年6月11日公開)もそうだ。

映画を見る側の人間からすれば、
ひとつの映画を2本分の料金で見なければならず、
しかも内容が薄ければ、“踏んだり蹴ったり”である。
それに、前編の公開日と、後編の公開日が、1ヶ月以上離れているので、
前編を見てから後編を見るまでに忘れている部分も多く、
見る側にはメリットがほとんどない。
私など、2部作と聞くだけで、ウンザリする。
〈見なくてもいいかな……〉
と思ったりもする。
だから、映画『ちはやふる』も、
広瀬すず主演ではなかったなら、見なったかもしれない。
〈映画『海街diary』で素晴らしい演技をした広瀬すずをまた見てみたい〉
という気持ちが勝って、
私は映画館に足を運んだのだった。
ただし、今回は、前編と後編を同じ日に見ることにした。
2部作の場合、後編が公開されても、しばらくは前編も公開している。
その同時公開している期間を狙って鑑賞することにしたのだ。
私がよく利用している映画館では、
『ちはやふる』前編の上映は、19:50~21:55の1回のみ。
後編に22:05~24:00の回があったので、連続して見ることができたのだった。

【上の句】

綾瀬千早(広瀬すず)、


真島太一(野村周平)、


綿谷新(真剣佑)の3人は幼なじみ。


新に教わった“競技かるた”でいつも一緒に遊んでいた。
そして千早は新の“競技かるた”に懸ける情熱に、夢を持つということを教えてもらった。
そんな矢先、家の事情で新が故郷の福井へ戻り、はなればなれになってしまう。


高校生になった千早は、
新に会いたい一心で“競技かるた部”創部を決意。
高校で再会した太一とともに、部員集めに奔走する。


呉服屋の娘で古典大好き少女・大江奏(上白石萌音)、


小学生時代に千早たちと対戦したことのある、競技かるた経験者で“肉まんくん”こと、西田優征(矢本悠馬)、


太一に次いで学年2位の秀才“机くん”こと、駒野勉(森永悠希)を必死に勧誘、


なんとか5名の部員を集め、創部に成功。
初心者もいる弱小チームながら、全国大会を目指して練習に励み、
いよいよ東京都予選に臨む……


【下の句】

東京都予選では、創部一年ながら、エース千早の活躍と抜群のチームワークを発揮し、
なんとか強豪北央学園に勝利。
東京都大会優勝をなしとげた。


舞台はいよいよ全国大会へ……
新に東京都大会優勝を報告する千早に、
新から思わぬ新の告白
「かるたはもうやらん……」
ショックを受ける千早だが、


全国大会へ向けて仲間たちと懸命に練習に励む。
そんな中、千早は、
同級生ながら最強のクイーンと呼ばれる若宮詩暢(松岡茉優)の存在を知る。


全国大会の個人戦で詩暢と対決する可能性がある。
新に「強くなったな」って言われたい、
詩暢に勝てばもう一度新とかるたを取れるかもしれない……
〈クイーンに勝ちたい!新に会いたい!〉
千早の気持ちは次第に詩暢にとらわれ、
“競技かるた部”の仲間たちから離れていってしまう。


そして、そんな千早の目を覚まさせようとする太一。
千早、太一、新の気持ちが少しずつすれ違っていく……



【上の句】【下の句】を通して見た感想はというと、
【上の句】はとてもメリハリのきいたとても面白い作品で、
5点満点でいえば4点くらいの出来栄え。
ところが、【下の句】の方は、全体的に締まりがなく、
5点満点で3点ほどの評価しかできなかった。
【上の句】の方は、
ひとつの作品として完成していて、
起承転結もきちんとなされており、
見ていてカタルシスも味わうことができた。
しかし、【下の句】の方は、
【上の句】の続編ということで、
最初のシーンからテンションが低く、
構成的にも甘さがあり、
ひとつの作品としての完成度も低かった。
しかも、【下の句】以降の続編も示唆したようなラストで、
〈おいおい、まだ続くのかよ〉
と、少し呆れてしまった。
本作の原作は漫画で、
現在31巻まで出版されている。(2016年5月7日現在)
当然のことながら、すべてを2時間で映像化することは不可能だ。
だからといって、何回にも分けて、
TVドラマのように続編を作り続けるというのも、
(漫画『ちはやふる』ファンというわけではない)普通の映画ファンとしては、
辛いものがある。


日本映画は、かなり以前から、
原作を漫画に頼っている……という傾向がある。
作品に対する知名度があり、
漫画ファンを取り込むことができるし、
話題性もある。
まったくのオリジナル脚本による作品に比べれば、リスクがはるかに少ない。
だが、数十巻もあるストーリーなので、
2時間ほどの映像にするのは困難で、
最初の数巻を脚色してお茶を濁すような映画が後を絶たない。
原作が漫画だけに、漫画チックな演出も多く、
それが作品としての完成度を低めることにもなっている。
漫画の登場人物と、映画キャストのイメージが違い過ぎると、
漫画ファンから苦情が出るし、
必ずしも良い事ばかりではないのだが、
漫画が原作……という、この傾向は、
漫画大国の日本では、益々盛んになることはあっても、終わることはないだろう。
だから、2部作、3部作……というように、
映画の(TVドラマのような)連続ドラマ化が今後も増えていくことだろう。
作品としてまとまりのある、オリジナル脚本の映画を見たい映画ファンとしては、
あまり歓迎したくない現象ではある。

映画『ちはやふる』に戻って、(笑)
私がこの映画を見に行った一番の要因は、
「主演が広瀬すずだから」であった。
その広瀬すずはどうだったかといえば、
これがすこぶる良かった。
目の輝き、
体全体を使った動き、
予定調和でないセリフ回し、
すべてに躍動感があり、
広瀬すずを見ているだけで、
なんだかワクワクしてくるのだ。
こんなに期待感を抱かせる女優は、本当に稀だ。


今後、
『四月は君の嘘』(2016年9月10日公開予定)
『怒り』(2016年9月17日公開予定)
『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年公開予定)
などの出演作が控えているが、
〈また『海街diary』のような完成度の高い作品での広瀬すずを見てみたい……〉
と思った。


この映画には、
広瀬すずと共に、もう二人、注目している女優がいた。
上白石萌音と松岡茉優だ。
まずは、大江奏を演じた上白石萌音。
周防正行監督作品『舞妓はレディ』(2014年9月13日公開)での演技がとても良かったので、本作も楽しみにしていたのだ。
そして、それは裏切られることはなかった。
主演ではなかったので、
主人公の広瀬すずを引き立てつつ、
あの優しい表情と穏やかな演技で、本作をしっかり支えていた。
今年(2016年)秋公開予定の映画『溺れるナイフ』も控えているので、
こちらも楽しみ。


【下の句】の方で、クイーン・若宮詩暢を演じた松岡茉優。
TVドラマ『銀二貫』(2014年 NHK)で真帆・おてつ(幼少期は芦田愛菜)を演じた時、
そのキリッとした目と、


美しい顔に惹かれて以降、


彼女も注目している女優であるが、
【下の句】では、クイーン・若宮詩暢を凛として演じていた。
漫画が原作なので、
ちょっとコミカルなところもあるのだが、
その部分も含め、実に巧く演じていた。
【下の句】以降の続編でも出てくると思うし、
今年(2016年)6月17日放送予定のTVドラマ『水族館ガール』(NHK)では、
主演・嶋由香を演じているようなので、
こちらも楽しみ。


連続TVドラマのように、
映画が連続ドラマ化するのは困りものだが、
この『ちはやふる』は、
広瀬すず、上白石萌音、松岡茉優などの演技力と、
千早、太一、新が小学生の時に通っていた競技かるた会・府中白波会の会長で、
師匠的存在の原田秀雄を演じる國村隼、


瑞沢高校競技かるた部顧問、宮内妙子役の松田美由紀が、


若い俳優たちをしっかり支え、
見るに堪える作品になっている。


“競技かるた”はまさにスポーツだなと実感させられた映画『ちはやふる』。
いまなら、まだ同じ日に【上の句】【下の句】を続けて見ることができます。
ぜひぜひ。

この記事についてブログを書く
« 森高千里の地元(熊本)愛に... | トップ | 登吾留山 ……シライトソウの... »