一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『友罪』 ……瑛太、夏帆、蒔田彩珠などの演技は素晴らしいのだが……

2018年06月01日 | 映画


昨年(2017年)上映された邦画を対象にした、
第4回「一日の王」映画賞・日本映画(2017年公開作品)ベストテンで、
私は、
作品賞の第1位に、瀬々敬久監督作品『最低。』を選出した。
主演女優賞にも『最低。』に主演した森口彩乃、佐々木心音、山田愛奈を選んだ。
タイトルは『最低。』でも、瀬々敬久監督の“最高”傑作であった。
その瀬々敬久監督の新作が5月25日(金)に公開された。
『友罪』である。
原作は、薬丸岳のミステリー小説。
凶悪事件を起こした元少年犯と思われる男と、
その過去に疑念を抱く同僚の男。
二人の友情と葛藤を、
生田斗真と、瑛太が演ずるという。
共演は、佐藤浩市、夏帆、山本美月、富田靖子、光石研など、魅力あるキャストが並ぶ。


「魂を揺さぶる、慟哭の真実」
というキャッチコピーがあったので、
〈原作を読まずに映画を見た方が楽しめるかな?〉
と思い、
原作未読のまま映画館へ向かったのだった。



ジャーナリストの夢が破れた益田(生田斗真)は、
部屋を借りる金も使い果たし、寮のある町工場で見習いとして働き始める。
益田と同じ日に入った鈴木(瑛太)は、
自分のことを一切語らず、他人との交流を拒んでいた。
そんな鈴木のことを不審に思った寮の先輩・清水(奥野瑛太)と内海(飯田芳)は、
益田を強制的に連れ、鈴木の部屋をガサ入れする。
そこで益田は女性の裸婦像が書かれたスケッチブックを見つける。


ある夜、酔っぱらって寮の玄関で倒れていた清水を一緒に介抱する益田と鈴木。
益田は、鈴木が自殺した中学時代の同級生に似ていると話しかける。
それを聞いた鈴木から、
「自分が自殺したら悲しいと思える?」
と唐突に尋ねられた益田は、戸惑いながらも、
「悲しいに決まってるだろ」
と答えるのが精一杯だった。


工場からの帰り道、鈴木は、
男に追いかけられている女・美代子(夏帆)を庇う形になり、男から一方的に殴られる。
彼女は元恋人の達也(忍成修吾)に唆されAVに出演した過去を持ち、
達也と別れてからも執拗につきまとわれていた。
鈴木は美代子のマンションで、けがの手当てを受ける。


数日後、慣れない肉体労働に疲れ果てた益田は、めまいを起こして機械で指を切断。
だが、鈴木の冷静な対処と、
病院まで運んでくれたタクシードライバー・山内(佐藤浩市)のアドバイスのおかげで、
何とか益田の指は繋がるのだった。


夜勤明け、義父が亡くなり、妻の智子(西田尚美)の実家へ駆けつける山内だったが、
妻と会うのは10年ぶりだった。
息子・正人(石田法嗣)が交通事故を起こして人の命を奪った罪を償うために、
家族を“解散”したのだ。
しかし、正人が結婚しようとしていると聞いた山内は、怒りと当惑で言葉を失う。


入院中の益田のもとに、元恋人で雑誌記者の清美(山本美月)が見舞いに訪れる。
清美は埼玉で起きた児童殺人事件の記事で行き詰っていると打ち明け、
17年前の連続殺傷事件の犯人・青柳健太郎の再犯だという噂について意見を求める。
だが、益田は、ジャーナリスト時代に自身の記事に因って招いた暗い過去を思い起こし拒絶する。


数週間後、カラオケパブで清水や内海、鈴木が益田の退院祝いをしてくれる。
鈴木の傍らには、美代子もいた。
皆の勧めから鈴木もマイクを取り、ぎこちなくアニメソングを歌う。
その楽しげな表情が嬉しく、益田はスマホのカメラを鈴木に向けるのだった。


帰り道、益田があらためて鈴木に指の件でお礼を言うと、
「友達だから」
と嬉しそうに答えるのだった。


寮に戻った益田がスマホを見ると、清美から再度、
「17年前の事件について意見を聞かせて」
というラインが届いていた。
ため息をつきながらもパソコンを開き、事件について検索した益田は、
当時14歳だった犯人・青柳健太郎の顔写真を見て、息をのむ。


そこには鈴木によく似た少年の姿が写っていた。
まさかと更に検索し、医療少年院で青柳の担当だった白石(富田靖子)の写真を見て固まる益田。
それは、鈴木のスケッチブックに描かれていたあの女性であった。




時を同じくして、それぞれが抱える問題が露わになる。
山内は、恋人が妊娠したという息子を訪ね、
「お前のために家族を解散したのに、お前が家族をつくってどうずるんだ」
と怒りをぶつける。


白石は、鈴木の再犯の噂に心を痛めていたが、
鈴木にばかり心を砕いてきた代償で疎遠になっていた高校生の娘が妊娠したという知らせを聞き、戸惑う。


美代子は、かつて出演していたAVを達也によって寮のポストにDVDを投函されてしまい、
寮の皆がそれを知ってしまう。
スマホの動画を再生し、カラオケで歌う鈴木の無邪気な笑顔を見つめる益田。
翌日、益田は、17年前の青柳健太郎の犯行現場へと旅立つ。


本当に鈴木が青柳健太郎なのか?
なぜ殺したのか?
そんな益田を待ち受けていたのは、
17年前に犯した自分の罪だった……




映画を見る前は、なんとなく次のようなことを考えていた。

町工場で働くことになった益田(生田斗真)と鈴木(瑛太)。
同い年の二人は次第に打ち解け友情を育む。
しかしあるきっかけから、益田が、
〈鈴木は17年前に世間を騒然とさせた連続児童殺傷事件の犯人ではないか……〉
と、考えたことにより、慟哭の結末へなだれ込んでいく。

生田斗真と瑛太がW主演と書いてあったので、
単純にこのようなストーリーを思い描いていたのだが、
映画を見たらまったく違っていた。
先程書いたストーリーを読んでもらえば判るように、
なんと、群像劇だったのだ。
結論から言うと、これがあまり成功していない。
原作は読んでいないので何とも言えないが、
原作に手を入れ過ぎて、複雑になり過ぎている。
瀬々敬久監督が脚本も担当しているが、
『64 ロクヨン』のときと同じ過ちを犯しているような気がした。
『64 ロクヨン』の前篇は傑作であったが、
後篇は原作にないストーリーを付け加えて、前篇とは比べものにならない出来だったのだ。
あのときの悪い癖がまた出たのかもしれない。
『64 ロクヨン』のレビューを一部引用してみる。

この『64‐ロクヨン』という作品は、ミステリーであるが、
県警広報 対 新聞記者、
刑事部 対 警務部、
地方記者 対 中央記者、
父 対 娘などの、
対立や確執を描いた人間ドラマでもある。
むしろ、人間ドラマが主で、
ミステリー要素の少ない作品と言ってもいいのではなかと思う。
そういう意味で、前編の方は、対立の構図を描き、成功していると言える。
だが、後編になると、ミステリーの要素が強くなり、
前編と雰囲気がガラリと変わる。
そして、ラストに、原作にはないストーリーを創作し、
ビックリ仰天の展開となる。
ちょっとネタバレになるが、
主人公の佐藤浩市が、広報室広報官として、あるまじき行動をするのだ。
TVドラマへの対抗心からそうしたのか、
2部作にはしたものの時間が余ってしまったのか、
主役が佐藤浩市だったのでもっと活躍させたかったのか、
原作における「犯人を突き止める方法(手段)」が弱いと感じたためにそうしたのか、
理由はいろいろあるだろうが、
まったく理解不能のラストに唖然としてしまった。
原作者の横山秀夫は、こんな脚本で、よくOKを出したなと思う。
あんなラストをくっつけるくらいなら、やはり後編など作らない方がよかった。
前編をもっとコンパクトにし、
後編の冒頭の「前編の紹介」と、ラストの「原作にないオチ」を除外して、
2時間半くらいのひとつの作品として完成させていれば、
傑作になりえていたかもしれないのだ。
前編が健闘していただけに、
後編の「ありえない展開」が本当に惜しまれる。


このときも佐藤浩市であったが、
この『友罪』でも佐藤浩市のパートが不自然だった。
佐藤浩市の顔が立派すぎてタクシードライバーには見えなし、
『64 ロクヨン』のときと同じように、
佐藤浩市をもっと活躍させ、目立つようにしたかったからなのか、
佐藤浩市の登場シーンを増やしているために、
内容そのものが薄っぺらいものになっており、
他のパートとのバランスもとれなくなっている。
こう考えた時点で、
「批判ばかりになりそうな映画のレビューは書かない」ことを信条とする私は、
〈映画『友罪』のレビューは書かないでおこうか……〉
と思った。
だが、出演者個々の演技は素晴らしいのだ。
特に、瑛太、夏帆、蒔田彩珠の演技は、強く印象に残った。
レビューを書かずにスルーするには惜しいほどの演技だったので、
少しだけ(にはなっていないが)感想を書いておこうかという気になった。


特筆すべきは、鈴木を演じた瑛太。


生田斗真も下手な俳優ではないのだが、
生田斗真の演技がかすんでしまうほどの瑛太の熱演だった。






益田(生田斗真)と鈴木(瑛太)は一緒のシーンが多く、
その段階であきらかに演技に差があったが、
決定的だったのは、ラスト近くの慟哭のシーン。
それぞれ違う場所で演技なのだが、
最初に、益田(生田斗真)が、
その後に、鈴木(瑛太)のシーンがあり、
生田斗真の演技がステレオタイプで単調なのに対し、




瑛太の演技は複雑な感情を繊細に表現しており、
瑛太の顔が、笑っているようにも泣いているようにも見え、
ワンシーンの中に、怒り、悲しみ、喜び、絶望など、
様々な感情を表現していて秀逸であった。



AVに出演した過去を持ち、
元カレからも執拗につきまとわれている女・美代子を夏帆も素晴らしかった。


原作では益田や鈴木と同じ職場の女性という設定だったらしいが、
別な職場の女性に変更し、
瀬々敬久監督が得意とするAVのシーンも付け加えられて、
美代子についても“やりすぎ”感満載だったのだが、
そんな不利な条件の中、
夏帆の演技は、それら悪条件を補って余りあるものであった。
〈夏帆になにやらせるんだ!〉
というシーンもあったが、
「体当たりの演技」という言葉が陳腐に思えるほどの熱演で、見るものをうならせる。



その他、富田靖子、光石研、西田尚美、坂井真紀などの演技も良かったが、
このブログに書いておきたいと思ったのは、
白石(富田靖子)の娘・唯を演じた蒔田彩珠。


蒔田彩珠の名は、『友罪』のHPにもないし、
「Yahoo!映画」などの映画紹介サイトのキャスト欄にもなかった。
だから彼女のことは誰も書かないのではないかと心配し、
せめて私だけでも書いておこうかと思った次第。
出演シーンは多くないし、それゆえにHPのキャスト欄にも名がないのだと思うが、
短い出演時間にかかわらず、見る者に鮮烈な印象を残す。
〈この女優見たことあるけど、誰だったっけ?〉
と誰もが思う筈である。
私も、過去に、そう思った経験をしており、
『三度目の殺人』(2017年9月9日公開)のレビューを書いたときに、

〈どこかで見たことのある女優だな~〉
と思いながら見ていたのだが、
黒木華主演のNHK土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』(2017年5月13日~7月8日)に出演していたことを思い出した。



と書いているが、
何度か同じような経験をすることによって、
蒔田彩珠という女優の名が、私の心にしっかりと刻まれた。
目と唇に特徴があり、
(女優にこう言っては何だか)面構えがイイ。
是枝裕和監督作品の常連になりつつあり、
『海よりもまだ深く』(2016年5月21日公開)や、
『三度目の殺人』に続いて、
第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した『万引き家族』(2018年6月8日公開予定)にも出演しているようなので、こちらも楽しみ。



映画『友罪』が特徴的なのは、
共感が得やすい犯罪の“被害者”を描いているのではなく、
《殺人を犯した人間》
《交通事故で3人の子供の命を奪った人間》
《クラスメイトを自殺に追いやった人間》
など、
“加害者”側の人間を描いていること。
「罪を犯した人間には幸せになる権利はないのか……」
という大胆な問い掛けもしている。
共感は得にくいだろうが、
そのチャレンジ精神と、
瑛太、夏帆などの熱演が、
この映画を見る価値のあるものにしている。
ぜひぜひ。

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