哲学者か道化師 -A philosopher / A clown-

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奈須きのこ『DDD2』

2007-09-07 | ライトノベル
DDD 2 (講談社BOX) (講談社BOX)
奈須 きのこ
講談社

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 ちょっと遅まきながら奈須きのこの『DDD』の2巻を読んだ。小説としてはどうかと思うところもあるが、文句なく面白い。今回は、野球に青春を賭けすぎた話といったところで、まさか奈須先生がこんなスポ根(違うかもしれない)ものを書くとは思わなかった。設定など、奈須ワールドを理解するのにはやたら敷居が高いが、一度ワールドを受け入れてしまったらかなりハマる。久しぶりに、読んでて止まらない小説だった。秋星さんとか霧栖とか魅力的なキャラクターも多し。それ以上に、トマトちゃんこと戸馬的警部補がラブリーなのだが。

 でまあ、小説としてどうかと思うところ、ということで一つ例を挙げておきたい。たとえば、あるものすごく特殊な事情に置かれた人物の心境のことを、「余人には汲み取れる(想像できる)はずもない」みたいなことを書いている箇所が少なくとも3カ所あるのだ。これは、まずいのではないかと思う。確かに、本当にそういう境遇の人に会って、その人の気持ちが分かるかといったらわかるわけはないのだが、小説というのはそういう「分かるはずのないものをわかるように書く(わかったようにする)」リアリティを作るというのが、ある種の醍醐味であり機能だったはずだからである。これをほっぽり出してしまったら、わからないんだからほっとくしかないしょ、ということになり、他者への共感もへったくれもなく、何かを理解したり改善したりすることが無意味になってしまう。それに、「わかるはずもない」なんて書いてしまったら、そもそも小説に書いていることの全てが「わかるはずもない」ということにもなりかねない。小説にかぎらず、芸術や娯楽は嘘を書いて本当らしさ(リアリティ)を作るというメディアであり、その中ですべきことはわかりえないものをぎりぎりまでわかるように肉薄することだろう。そういう意味では、『DDD』はまだ殴られたりない小説かも知れない。

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