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エラリイ・クイーン『ドルリイ・レーン最後の事件』

2008-11-26 | 小説
ドルリイ・レーン最後の事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
エラリイ クイーン
早川書房

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 エラリイ(エラリー)・クイーンがバーナビー・ロス名義で発表した『ドルリイ(ドルリー)・レーン』四部作の最後、『ドルリイ・レーン最後の事件』を読んだ。確か、同じ早川文庫版の『Xの悲劇』か『Yの悲劇』の解説に、『ドルリイ・レーン』シリーズは全体で一つの長編でもあるということを書いてあったはずだが、この最後作を読んで、それが本当のことだということが分かった。世間では最高傑作である『Yの悲劇』だけ読めば良し、という風潮があるそうだが、今までの三作は『最後の事件』の犯人とその謎解きを際立たせるための伏線であるとのこと。四作すべてを読まねば、全く『ドルリイ・レーン』シリーズを語ることはできないのである。具体的には、『Xの悲劇』でドルリイ・レーンという魅力的な探偵を初登場させ、『Yの悲劇』でミステリー界に残る意外な犯人を描き、『Zの悲劇』でもう一人の探偵役であるペイシェンスを登場させ、『最後の事件』でなぜドルリイ・レーンが自らの探偵稼業に幕を引かなければならなくなったのかを描いているという意味で、四部作がそれぞれ「起・承・転・結」を成しているのだ。これらは、一連のシリーズというよりも、ドルリイ・レーンという探偵の一つのサーガだと言っても大げさではないと思うのだ。

 サム元警視の元に、異様な風体の男がある封筒を預かってほしいという依頼を持ち込む。奇妙に思いながらも、報酬につられて引き受けてしまう。それに引き続いて起こったのは、博物館で元刑事の警備員が行方不明となり、貴重なシェイクスピア本のすり替えという事件。事件のあまりの奇怪さにサム元警視たちはお手上げになり、ドルリイ・レーンが招かれるものの、二転三転する展開にさらに彼らは惑わされていく。そして、その事件の行き着く先は…。

 この小説の解説にも触れられているが、実はちゃんと解決していない謎が結構残っている。また、殺人が起こるのも物語の終盤であり、『Xの悲劇』や『Yの悲劇』のような本格ミステリとは趣が違っている。しかし、最後のペイシェンスの推理とその結末は衝撃であり、四部作を読み切った人は大きな衝撃を受けることだろう。もし興味と時間のある人なら四部作を全部読みとおしてほしい。他のミステリーでは味わうことのできない衝撃を受けること請け合いである。絶対に『最後の事件』だけで読まないように!

「彼は潔く立ち去れり。負い目はすべて支払いずみと聞く/されば、われらの神よ、彼へのご慈悲の与えられんことを/では、われわれの再会の日まで――ドルリイ・レーン」(P481-482)

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