もうすぐキャンディのお誕生日月の5月がやってきますが、皆さまお元気ですか?
さて、約4年ぶりに記事を更新しているのですが、その理由は先日ヒロ様からいただいたこのコメントにあります。
キャンデイがセントポール学院でルイーズラべの詩を暗唱するシーンがありますが漫画の中では、ソネット8番 我は生き我は死に...という、まるでキャンデイとテリィのその後を予言するような内容ですが、finalstoryではソネットの3番から5番に変わってるんです。これって原作者からの何かのメッセージのような気がして...
このコメントを読んで、ブログ主は心の中で大きく(まじかーーー!!)と叫びましたよ、えぇ。そして確認したところ、本当に変更されていたのです。
覚えていますか? キャンディがイライザたちのいじわるでフランス語の古詩の暗唱のプリントのことを知らず、シスタークライスから黒板に「わたしはうそつきです」と書かれても堂々と反論し、根負けしたシスターから「明日の授業までに覚えてらっしゃい」と渡された宿題。

漫画(講談社コミックスなかよし)キャンディキャンディ3
© 水木杏子/いがらしゆみこ
漫画でキャンディが暗唱させられたのはルイーズ・ラベによるソネット8でした。ところがファイナルストーリーでは下記のように変更されています。
シスターはキャンディから顔をそらさずにうなずいた。冷ややかな表情は変わらない。
「あなたが、そこまで言い張るのなら、次のこの時間までにルイーズ・ラベのソネットの三番から五番まで暗唱して来なさい!」
(上巻P278)
このように明確に変更されているからには、そこに意味が込められていないはずがありません。しかも1つのソネットを、わざわざ3つにまで増やしている!
そこで、ソネットのそれぞれの詩を確認してみました。原文がフランス語なため、英語に翻訳された詩を読んでみたのですが、大まかな内容は下記の通り……
ソネット8番(漫画)
(超簡約)
われは生き われは死す われは熱火にたえつつ しかも氷のごとく冷ゆ
わたしが感じることにはほぼ意味がない。変転きわまりない愛に疲れ果て、このような呪われた宿命から切り離されたいと願う。幸運の女神の車輪が猛烈に回転しながら、この理不尽で、激しく、強烈で、凄まじい痛みを生み出す。
(超簡約ここまで)
解釈が間違ってなければ、愛に振りまわされて疲れ切ってしまったので愛から降りたい…という内容の詩です。漫画では、この疲れ切ってしまったキャンディを癒すために、最後にアルバートさんが両手を開いて迎えるわけですね。
では続いて、ファイナルストーリーでキャンディが暗唱することになったソネット3〜5番を見ていきましょう。
ソネット3番(ファイナルストーリー)
ファイナルストーリーでは、キャンディがこの詩の冒頭を口ずさむ場面があります。
「"ああ 久しい願望よ、徒な希望よ"……」
バルコニーで、ソネットの第三番を口ずさみはじめたキャンディは次の瞬間、ハッとして思わずガラス扉の陰に身を引いていた。
(テリュース……)
(上巻P293)
(超簡約)
ああ 久しい
願望よ、
徒な
希望よ
あなたがここにいるときに、再び湧き上がっておくれ。あなたの顔に広がる突然の笑みは、太陽の輝きのように明るく曝け出し、愛の尖った矢のように私に突き刺さる。そしてあなたは次には嵐のように切り裂き、あっという間に落ちて暗闇をつくり、私に新たな痛みを生じさせる。キューピットが狙いを定めて悪戯な弓を引くように、矢が素早く落ちてきて印をつける。
(超簡約ここまで)
セントポール学院でシスターにこの古詩を暗記するよう命じられた頃、キャンディはまだテリィと出会ったばかりで、ニールたちに虐められているところをかっこよく助けてもらったり、お酒に酔ったケガした状態で部屋に乱入されたり、笑顔を向けられたかと思うとエレノアの件で「(人に言ったら)お前をめちゃくちゃにしてやる」と脅されたりと、心を乱されまくっているのですが、まさにそんな状況を詩にしたようなのが、このソネット3です。
ソネット4番(ファイナルストーリー)
(超簡約)
愛がやってくるとき、私は身を隠してしまう。焼けつくように苦しい欲望で思考はいっぱいになり、私のハートは昼も夜も炎に焦されている。愛がやってくるほどに、私は包囲され、力を集めてもこの守りのどこかに致命的な割れ目があることを恐れる。愛の射手が引く矢は、どれだけ強固な要塞を築いても私たちのハートに刺さってしまう。
(超簡約ここまで)
ブルーリバー動物園!メイフェスティバル!スコットランドの夏休み!…説明不要ですね、皆さま。
ソネット5番(ファイナルストーリー)
(超簡約)
空をさまよう輝く愛の女神よ、私の悲しい歌声を聞いてください。失って独りぼっちで何もできず、涙とため息で枕を濡らすだけ。夢に彼は現れて、私は彼が故郷を離れてどんなふうに居なくなってしまったかを考え、一晩中苦しみの中で泣き明かす。
(超簡約ここまで)
テリィが学院を出てアメリカに渡ってしまった後のキャンディの心境とも言えるし、スザナの事故があってテリィと別れなければならなくなった後の心境とも言えますね。
まとめ
こうして内容を見てみると、キャンディが暗唱するソネットがファイナルストーリーで変更されたのには、明らかに理由があるように見えます。
ソネット3〜5でテリィとの出会いから熱愛、そして別れまでの流れが暗示されていますが、キャンディが独りになってしまった悲しみの状態から、漫画で使用されたソネット8の逆らえない宿命の愛に疲れ果ててしまうところまでは、今回は行かないのです。
なぜかというと、ファイナルストーリーでのキャンディの愛は、いったんは失われても報われるからです。「生きていればきっと会える! いつかきっと…」であり、「今までつらいわかれはいくつもあった。けれど、生きてさえいればまた巡り会うことができるのだ。だから、わたしはもう、別れを怖れない。」であり、「曲がり角を曲がったところには何が待っているかはわからない。」なのです。だからソネット8は不要・削除・deleteなんですね。
しかし、キャンディが暗唱するソネットの内容まで変えてテーマを貫いている原作者さまの緻密なストーリーテリングに改めて驚かされました(ここに気づいたヒロ様もすごい!)。漫画連載の時から、このルイーズ・ラベの古詩に意味を持たせていたということでもありますから、これだけの内容を子供として読めていたという事実がとても贅沢なことだったんだなぁとも思いました。
外はもうバラの季節、アンソニーのバラの香りを妄想の中でかぎながら、素敵な5月をお迎えください。
またいつか。