小説キャンディキャンディFinal Story上・下巻 名木田恵子 (著) 祥伝社 (2010/11/1) の考察です
注:物語に関するネタバレがあります
あのひと考察9に引き続き、設定・小道具を検証していきます。
大人のキャンディの生活の中に登場するいくつかの小道具の中から、特に以下の3つを取り上げてみます。
あのひとの家に代々伝わる小ぶりの宝石とマザーオブパールで装飾された大きな象嵌細工の宝石箱
あのひととキャンディの家の書斎を埋める革表紙のシェークスピア全集、イギリス、フランスの文学書、そして医学に関する書籍
書斎の一隅に飾られたアードレー家とラガン家の写真
これらの小道具を検証するにあたり、グランチェスター家とアードレー家、それぞれの家のバックグラウンドを、もう一度確認してみたいと思います。
時代は現代よりも階級意識が強かった20世紀前半。
グランチェスター家
イギリスの名門の貴族。
厳格なシスターグレーでさえも、テリィを特別扱いしなければならないほどの家柄。
有力な家の子供たちが集まるセントポール学院の中でも、ひときわ高貴な存在として羨望される。
アードレー家
スコットランドから移民してきたシカゴを拠点とするアメリカの実業家一族。
20世紀前半のアードレー家の当主、ウィリアム・アルバート・アードレーは、2代目の父が早くに亡くなってしまったために、確か3代目の当主。
移民の実業家一家とはどのような家なのか、アードレー家と似ている実際のアメリカの大富豪を例に見てみます---カーネギー家の初代アンドリュー・カーネギー(1835年11月25日 - 1919年8月11日)はスコットランドのダンファームリンで手織り職人の長男として生まれた。アメリカ移民後は13歳から働き、のちにカーネギー鉄鋼会社を創業し、成功を収め「鋼鉄王」と称された実業家。事業で成功を収めた後は慈善家としてよく知られる。ロックフェラー家は現在の当主デイビッド・ロックフェラーの祖父が記帳係から実業家として成功。
ではもう一度小道具に戻ります。
あのひとの家に代々伝わる小ぶりの宝石とマザーオブパールで装飾された大きな象嵌細工の宝石箱
"代々伝わる"という表現から、この宝石箱はグランチェスター家のものである可能性が非常に高いと言えます。
アードレー家のように3代目くらいであれば、代々とは言わず、祖祖父の代から、祖父の代から…と言う表現を使うでしょう。
作者は、この宝石箱の説明以外に、"代々"という言葉をスコットランドの夏休み、テリィの別荘の描写の中で"グランチェスター家先祖代々の厳めしい肖像画"という形で使っていますので、伏線も敷かれています。
あのひととキャンディの家の書斎を埋める革表紙のシェークスピア全集、イギリス、フランスの文学書、そして医学に関する書籍
イギリス映画「いつか晴れた日に」から19世紀前半の田舎の地主階級の家のライブラリー。
この映画では、登場人物がシェークスピアのソネットを暗唱するシーンも出てきますが、イギリスの上・中流階級ではシェークスピアなどに精通していることは一種のたしなみであったのではないでしょうか。
医学の書籍は看護婦のキャンディのものとし、革表紙のシェークスピア全集、イギリス、フランスの文学書はやはりテリィのものでしょう。
こちらもスコットランドの夏休みの物語の中に、しっかりと伏線が敷かれています。
---テリィは焦茶色の革の装丁も重々しい本をキャンディにわたした。
---わぁテリィ、演劇の本ばかりね!シェークスピア全集もあるわ
---わぁテリィ、演劇の本ばかりね!シェークスピア全集もあるわ
この時テリィが手にしていた本、グランチェスター家の別荘にあった演劇や文学の本が、現在の家の書斎に移動したと考えるのが自然な理解ではないでしょうか。
ここで、テリィはセントポール学院を出るときにグランチェスターの名前を捨てたのだから、この考察は当てはまらないのではないかという反論があるかもしれません。しかし、テリィはアメリカで成功し自立し、大人になった上でロイヤル・シェークスピア・カンパニーへ凱旋したのだとしたら(この凱旋についてはあのひと考察9 エイボン川を参照ください)、家族と何らかの関係をもう一度持っただろうことは容易に想像できます。逆に、互いに無関係で居続けることはできない状況になったでしょう。
一方アードレー家ですが、この家は大富豪ですから、大きな邸宅に立派なライブラリーがある可能性は高いです。しかし、そこに収められている本は、1~2世代の間に体裁を整えるためにお金の力で急いで集められたものであり、アルバートさんが、その本をわざわざ今の家に運ぶのか疑問です。アルバートさんは、世界地図や旅行記、冒険記の本を手元に置くようなキャラクター設定ですし、実業家ですからビジネス関連の本もなければおかしいでしょう。
書斎の一隅に飾られたアードレー家とラガン家の写真
肖像画のかわりに書斎の一隅に飾られたアードレー家とラガン家の写真。この写真はあのひととのつながりを示す小道具ではなく、キャンディの過去(アメリカ時代)とのつながりを残すものだと考察します。
フロリダのマイアミリゾートという、アメリカの中でもヨーロッパ的な文化の香りの全くしない場所で撮影された写真が、グランチェスター家に代々伝わる宝石箱や、革表紙の本との強烈な対比となって、キャンディは今はこちら側(イギリス)にいて、アメリカ(アードレー家やラガン家)とは遠いところにいるのだという印象を強く与えているように思うのです。
久しぶりに「ファイナルストーリー」を読み返してます。
多くのアルバートさん派はテリィがグランチェスター家と縁を切ったから、この宝石箱はテリィのものではない!これで論破だ!と決めつけています。
でも常識的に考えても、テリィが俳優として成功したなら、ブログ主様の言う通り、いつまで絶縁のまま…は有り得ないですよね。
世間体を大切にする名門貴族であれば、当然テリィと和解しようと歩み寄る筈です。(それにグランチェスター公にはテリィへの愛情が確かにあったと信じたい)
そしてテリィとキャンディが結ばれれば、それはますます避けられない道です。
二人の結婚は有名俳優になった名門貴族の令息とアメリカ屈指の資産家の令嬢の結婚という意味も持ちますから、英国、アメリカのみならず、世界中で大騒ぎになるのは間違いありません。
だとするとキャンディとテリィだけではなく、多くの、二人に関わる人の人生にも影響が出ててくきます。もはや二人だけの問題では済まないということです。
それにキャンディの性格からも、テリィとグランチェスター公の和解を間違いなく臨む筈。
テリィもそんなキャンディの気持ちに答えたいと思うのではないでしょうか?
最近、嫌な記事を読んでしまい、思わず熱くなってしまいました。
お許しください。
暇つぶしに読んでくだされば嬉しいです。
原作者さんはあのひととキャンディが結ばれるまでには長いストーリーが必要だったと言っていますよね。
キャンディとあのひとは今はイギリスに住んでいるという点からも、水仙の香りだけでなく、グランチェスター家が匂ってきますよね。
あのひと=アルバートさんと信じているみなさんにも譲れない何かがあるのでしょうが、あのひとはテリィ以外にあり得ませんから、どうか安心してください。