sweet キャンディキャンディ

伝説のマンガ・アニメ「キャンディキャンディ」についてブログ主が満足するまで語りつくすためのブログ。海外二次小説の翻訳も。

水仙の咲く頃 第2章-2 |キャンディキャンディFinalStory二次小説

2011年07月10日 | 水仙の咲く頃
キャンディキャンディFinalStoryファンフィクション:水仙の咲く頃
By Josephine Hymes/ブログ主 訳


テリュース・グレアムは決して忍耐強くも温厚でもなく、同僚たちはこのことでとても苦労させられていた。完璧主義で人並み外れた才能を持ちながら、他者の力量不足や間違いに対する耐性はいつも低かった。しかもそのような過失が注意不足や責任感の不足に起因する時は特に厳しかった。それ故に、俳優仲間のウォルター・シモンズが最終稽古の段階で出番前のきっかけを間違えてステージに出てしまった時には、辛辣な言葉に続いて口論が始まることをその場にいた誰もが予想していた。

きまりの悪い沈黙がしばらくその場を支配した。初演を翌日に控えてのこんな初歩的なミスにテリュースは明らかに不快感を示してはいたが、驚くべきことにこの劇団の看板俳優は何も言わなかった。

「シーンの初めからもう一度やろう」 演出のロバート・ハサウェイが沈黙を破って指示を出すと、いやな展開にならずに稽古は続いた。

ハサウェイは、今起きたことと最近気づいた他の細かい事柄について深く考えた。これらのことは、テリュースをよく知らない人間には気づかないほどの微細なことだったが、ハサウェイはこの若い俳優と長年に渡り仕事をしてきたのだ。イギリスから戻って以来、テリュースに何かが起きている。何が起きているにせよ、それはこの青年にも劇団の全員にとっても確実によいことだとハサウェイは確信していた。

長年の間にハサウェイのテリュースに対する尊重は、まるで父親が息子に対して抱くような愛情へと変化していた。ハサウェイは、1913年の冬のある朝に、16歳の少年が事務所に現れた時のことを今でも覚えていた。その少年の目に浮かぶ並々ならぬ決意に感銘を受けたそのベテラン俳優は、オーディションに参加するようにと少年を招き入れた。期待は裏切られなかった。テリュースが最初のセッションで手はじめに台詞を声に出した時から、この少年が実際の年齢以上に成熟していて、生来の演劇上の才能を持っていることをハサウェイは見抜いた。適切な指導さえあれば、この少年が類い稀に熟練した役者になることは時間の問題だった。その努力は大いに報われたので、ハサウェイはテリュースの指導者としての自らの役割を誇らしく感じていた。

だからといってハサウェイはテリュースの欠点に目をつぶっているわけではなかった。テリュースの口数少ない非社交的な傾向はハサウェイにとって耐え難く、演出家としての仕事を不可能なほど困難にしていた。それに加えて他の俳優たちにとっても、テリュースの執拗な仕事の進め方について行くのは生易しいことではなかった。まだ新人で脇役を演じていた時にはこの傾向は隠れていたが、名声を得て重要な役を演じるようになるにつれ、テリュースは倦むことのない完璧さの追求へと劇団全体を引きずり込んでいく手腕を見せ始めて団員たちを消耗させた。ハサウェイはテリュースの行き過ぎた情熱を抑えなければならなかったが、それは至難の業だった。なぜならテリュースの欠点には強情さも加わっていたのだ。

テリュースの個人的な生活はいつも矛盾と秘密で謎めいていた。ハサウェイは、テリュースとスザナの関係を断じて理解することができなかった。スザナが最初からテリュースに猛烈に恋していたことは明らかだったが、あの事故が起きるまで、テリュースはそんな彼女に全く関心を示さなかったことも知っていた。

ハサウェイは数えきれないほどの機会に二人が共にいる様子を観察した結果、テリュースはスザナを決して愛していないと確信するようになった。この問題全体がテリュースを孤独な魂から完全な人間嫌いへと変容させ、それまでの業績や人生のコントロールを失いかけた時期もあった。心の闇を乗り越えて舞台への完全復帰を果たした時にも、テリュースの感情がまったく回復していないことは明白だった。俳優としてはより高いレベルに達していたが、精神は失われ、より気難しい人間になっていた。それ故ハサウェイは、自分の非情な観察眼に良心のとがめを感じることなく、スザナの死はその青年にとって長年の間で最良の出来事であったと感じていた。

真の追悼の時期があったのは言うまでもないことだ。世間が信じるのとは裏腹にテリュースは繊細な精神の持ち主で、闘病中のスザナの苦しみと、その結果的な死には深く心を動かされていた。それでも、ヴィレッジの新しい住居に引っ越したその日からの青年の精神の回復は歴然としていた。あれから2年が経過した今、テリュースは落ち着いていて、気質も穏やかなものになっていた。テリュース・グレアムが明るい性格の俳優だと今後も呼ばれることがないことはハサウェイも認めざるを得なかったが、青い月のような瞳の中に時たま浮かぶほほ笑みは、青年の心の中で何かが起きていることを明確に暗示していた。

「あなたの所見をどう解釈したらいいのかわからないわ、ロバート」 テリュースの最近の様子についての話し合いを持った時、エレノア・ベーカーは言った。「あの子はわたくしに対してもいつでも他人行儀なのよ。でも確かにあの子の変化に気づいていたことは認めますわ」

「あなたに電話をしたのは他でもない、わたし自身だけでなくテリュースにも関わることなんだが……近いうちに何らかの決断を下さなければならない事柄に関しての助言をもらえたらと思ってね」 紅茶を飲みながらその演出家は打ち明けた。

「信頼していただけて嬉しいですわ、ロバート。どのような内容なのかしら?」 エレノアは聞いた。母親の直観が、息子にも影響する事柄と聞いて警告を発した。

「実は早期の引退を考えているんだよ。妻のメラニーが心臓疾患との診断を受けたのでね。医者が言うには、まだ長くは生きられるが特別な注意が必要になるんだそうだ」 妻の話題に顔を曇らせながらハサウェイは答えた。

「それは残念ね、ロバート。メラニーはそのことをご存じなの?」 エレノアは、古い友人夫妻を本気で心配して尋ねた。

「知っているとも。メラニーは病気を楽観的に捉えてはいるよ。ただ理解してもらえるとは思うが、これからはできるだけ夫婦一緒にいたいと思っているんだ。これまでのようにメラニーがわたしの公演旅行に同行することは出来ないし、わたしも妻をニューヨークに一人残しては行けない」

「よくわかるわ、ロバート。メラニーの体の方が大切よ。でも引退して生活に支障はないの?」 エレノアは現実的になって聞いた。人生を通して自分で自分の面倒をみてきたので、金銭的な問題に関しては慎重さが身に着いていたのだ。

「大丈夫だよ、エレノア。今では長年の堅実な経営の元がとれているから。メラニーの医療費を支払わなければならないとしても、将来への心配なく引退できる。わたしが気になっているのは劇団のことが中心なんだ」 テーブルの上に両肘を乗せ、神経質な動作で手を組み合わせながらハサウェイは言った。そして、正しい言葉を探していることがわかる沈黙の後で話を続けた。「当初は劇団をテリュースの手に委ねようかとも考えたのだが、やはり思い直した。彼は素晴らしい役者ではあるが、まだ演出家になる準備はできていない。人の欠点や個性に対処する力量が欠けている。それだけなく、彼の他の俳優たちとの関係はこれまでもあまりいいものではなかった。こんなことを言うのは申し訳ないけれど、テリュースが先頭に立ったらチームはまとまらないだろう」

「心配なさらないで、ロバート。わたくしは息子のことはわかっていますし、あなたの評価に同意しますわ。あの子にはまだその準備ができていません」 エレノアは即座にそう返した。その落ち着いた表情が、ハサウェイに話を続ける勇気を与えた。

「そういう理由から、わたしは劇団を売却することを考えているんだよ。これまでの仕事を継続してくれるバイヤーを探すために最善を尽くすつもりではいるが、テリュースが新しい経営者をどう感じるかはわからない。もう一方で、もしかしたらこれは彼の業績に新たな幅を持たせるための好機になるとも考えているんだ。ロイヤル・カンパニーとの仕事はテリュースの技能に奇跡を起こした。どう思うかな? 彼はフリーランスになるか、別の劇団に移る準備ができているだろうか?」

「もしあなたが3年前に同じ質問をしていたら、何と答えていいのか分からなかったですわ、ロバート」 エレノアは大きな縁のある帽子をのせた頭を優雅に動かして言った。「あの頃テリュースの心は常に混乱していましたもの。スザナの病気で頭がいっぱいの時に、知らない人たちの中で仕事を再出発させるだけの気力があったかは疑わしいですわ。でも今は、ロバートもお気づきになったように状況がたいそう変わりました。本来のあの子にふさわしく生活を楽しんでいますわ。コンサートや絵画展にも出かけるし、もう一度ピアノを弾くようにもなりました。同じ年頃のお友達がいてくれたらとは思いますけれど……これは余談ですわね。あの子のことは心配なさらないで。ストラスフォード劇団の新しい経営者や演出家を気に入らなければ、あの子は簡単に新たな活路を見いだしますわ。あなたの指導が素晴らしかったからよ」

「そう思ってくれて感謝するよ。テリュースには仲間に対してもっと社交的になってくれればと、わたしはそれだけが願いだ。そうすれば彼はもっとやり易くなるのに」 ハサウェイはにやりとして正直に言った。

「言いたいことはわかっていますわ、ロバート。でも残念ながらそれは父方の特性なんですの」 二人のベテラン俳優はその発言に笑った。「それはともかく、劇団のみなさんにはいつそのお話をされるおつもり?」 しばらくしてからエレノアが聞いた。

「来年の1月、春のシーズンに向けた稽古の前の本読みを始める時だ。その時に、これがわたしの最後のシーズンになると伝えるつもりだよ」

「テリィに事前に準備をさせても構わないかしら?」 エレノアは思いきって聞いてみたが、ハサウェイが説明を求めている様子を見てさらに詳しく述べた。「あなたの決断について話すというのではないのよ。それはあなたが適切だと思う時にして下さい。ただあの子の今後の活動について有益な助言をしてあげたいのです。せっかく近頃では、わたくしの助言も受け入れてくれるようになっているのですもの」

「わかったよ、エレノア。もちろん構わない」

それから二人はお茶を飲みながらしばしの時を過ごし、エレノアがハサウェイ婦人を翌週に訪問することを約束して別れた。



テリュース・グレアムは、2週間に一度は休みをとって東海岸の景色を楽しむためと母親を訪問するためにロングビーチまでドライブをした。テリュースは、その地域一帯を管理していたウィリアム・レイノルズ不動産が倒産してからの、新しい自由奔放な雰囲気が気に入っていた。厳しい規制は過去のものとなり、エンターテーナーや芸術家が近所から村八分にされる心配もなくなった。いずれにしろ、昔からの資産家は何年も前にいなくなってしまったのだ。

そのような変化の中にあっても、エレノア・ベーカーの家は、以前からのその地域のトレードマークでもある非の打ちどころのない白い漆喰の壁と、赤いタイル屋根の地中海風スタイルを保っていた。エレノアのシンプルな好みは母親にしっくり馴染んでいるとテリュースは思っていた。彼の母親は常に優雅さと成功の象徴として君臨していたのだ。

エレノアの食卓も彼女の趣向を反映していた。ディナーはいつでも複数のコース料理、高級な陶器、よく磨かれた銀食器、バカラのグラス、禁酒法の網をくぐって手に入れたフランス産ワインなどで洗練されたグルメだった。テリュースは、エレノアによって日々精選された品々は、父の貴族的審美眼をもってしても欠点を見つけられないだろうと思った。その上息子の訪問はエレノアにとって特別な日であったので、テリュースは訪問の度にたいそうなもてなしを受けた。

「このリンゴのタルトではだいぶ腕前を上げたと料理人に伝えるべきですよ、お母さん」 テリュースは食後の紅茶をすすりながら称賛した。

「あなたがそんな風に気に留めてお料理を称賛したことを知ったら、彼はとても喜ぶわ」 エレノアはほほ笑みながら答えた。「ほんとうよ、テリィ。もっとそうするべきなのよ。あなたがちゃんと気にかけてあげれば、人はそれに応じてくれるものよ」

「お母さん、家政婦のミセス・オマリーはぼくに対して何の不満も持っていませんよ。ぼくは彼女には丁寧に接していると天命に誓います」テリュースは自然に左眉を上にあげながら主張した。

「それは信じましょう、テリィ。でもここで話題を変えてはいけないわ」 エレノアは、それまで話していた話題に会話を向けなおした。「あなたはロイヤル・カンパニーについてはどう思っているの? 来年も招待してくれるのかしら? 信頼のおける情報によれば、彼らはあなたの仕事にとても感銘を受けたそうよ」

「演出家のブリッジス・アダムスからは去年の夏以来音沙汰がないですから、まだわかりませんよ。それにぼくも急いでいませんから。ロバートとの仕事に十分満足していることはお母さんも知っているでしょう」 カップをテーブルに置きながら、テリュースは自分の考えを述べた。

「新しい企画を試してみるいい時期ではないかしら、テリィ。最近あなたの気分がとてもいい状態なのを見て、お母さんもうれしいの。せっかく心の平穏を取り戻したのだから、今度はお仕事に集中して、ちょっとした冒険をするべきではないかしら。ロバートも反対はしないと思うのよ」

「それはわかっています、お母さん。でも、今のぼくはまだ思い切った変化をする段階ではないのです。他のことで頭がいっぱいなので……」 テリュースはそう返答するとしばらく躊躇した。母につまらない期待を抱かせずにどこまで打ち明けられるのか決めかねていたのだ。

「お願いよ、説明してみて。何に悩んでいるの?」 エレノアはテリュースの突然の沈黙に少しうろたえて問いかけた。

「もしぼくが信頼して話をするなら、お母さんは変な想像力を働かせないと約束してください」 テリュースは口元に半笑いを浮かべて念を押した。

「もちろんですとも」

テリュースは立ち上がって窓の方へと歩いた。黄色い葉に吹く一陣の風が秋の決定的な到来を告げていた。その青年は振り向くと母親の目をまっすぐに見た。

「5月にキャンディに手紙を書きました」 テリュースは簡潔に告げた。

エレノアは、今息子が言ったことを理解するために何度かまばたきをした。息子の幸福を何よりも願ってはいたが、かつて失ったものを取り戻すことはできないだろうと、すべての望みをあきらめていたのだ。スザナが亡くなった後でさえも、そのような可能性がまだあるとは夢にも思っていなかった。正気を取り戻し質問できるようになるまでしばらく時間がかかった。

「彼女は返事をくれたのですか?」 それが、エレノアが最初に口にできたことだった。

「くれました」 テリュースがほとんどつぶやくように答えると、しばしの沈黙が漂った。エレノアはその沈黙の時間を考えをまとめるために利用した。息子の信頼を強いてはいけないのはわかっていた。もし話をする準備ができていなければテリュースは口を閉ざし、その話題を取り下げるだろう。それでも、エレノアは文字どおり質問を浴びせた。

「キャンディは今どこに住んでいるの? シカゴかしら?」

「いや、キャンディは彼女が育った孤児院に住んでいます。彼女はどうやらそこのパトロンのような存在になっていて、国中の後援者から援助金を集めているんです。残りの時間は近隣の村の小さなクリニックと孤児院の子どもたちの看護婦をしていて、それに加えて孤児院では先生たちがこなせない肉体労働も手伝っています」 テリュースがそこまで正確な情報をつかんでいることと、その言葉の中に称賛が込められていることがエレノアを驚かせた。

「一人の女性が、そのすべての仕事をこなしていると言っているのね?」 エレノアは確認した。

「彼女はいつでも働き蜂みたいなんだ」 キャンディの話題で気分がやわらぎ、テリュースは静かに笑った。

「そんなに働いて自分の時間があるのかしら?」 エレノアは問いかけた。キャンディの活動的な様子は、エレノアに自身の若い頃のことを思い出させた。自分もかつては消耗しきるまで何シーズンも働いた。経済的な基盤を固めるためというのが表向きの理由だったが、本当はリチャード・グランチェスターを忘れるためであり、息子を手放した痛みを和らげるためだった。

「ぼくも同じような疑問を持ちましたけど、キャンディはこのことに関しては他人の意見を聞きませんから。彼女はそれで幸せなんですよ」 テリュースは切なげに言った。自分にはキャンディがどのようにすべきか忠告する権利なんてないのだ。

別の沈黙が続き、エレノアは話の初めから聞きたくて仕方がなかった質問を発するのにもがいた。

「それだけ仕事をこなしているということは……まだ彼女は独身だと思っていいのかしら?」

「ええ」 テリィが簡潔に答えた。エレノアは、息子が必死に笑顔を抑えているのに気が付いた。

「それで、彼女はボーイフレンドの……どなたか興味を持っているお方の話はしていないの?」

「それに関して言えば、彼女は僕に手紙を通してそのような個人的な問題を切り出すような人ではないですよ。でも確実に言えるのは、彼女は今のところ誰の婚約指輪もはめていませんよ……それがお知りになりたいことだったら」 テリュースは、母親が躍起になる様を面白がりながら答えた。

「あなたが今後その指輪を贈ることはあるの、テリィ?」

「そのつもりではいます。でもお母さん、あまり興奮しないで。今はまだ、もう一度あらためてお互いのことを知ろうとしている段階ですから」 めったに見せない笑顔でテリュースは言った。

そしてエレノアは、そのような良い知らせにうれしくなり、息子の面影をそっくり映した笑顔を返した。



その見晴らしの良い場所からキャンディは谷を見渡すことができた。お父さんの木のこんな高いところまで登っていると知ったらレイン先生に叱られることは分かっていたが、全く気にしなかった。一番小さな子どもたちはお昼寝をしていて、大きな子どもたちは孤児院の午後の仕事についている時間だった。その時間を利用して、キャンディは一人になって考える時を過ごした。ここに登って山の新鮮な空気を吸い込むと、いつも頭がすっきりするのだ。

キャンディは、遠くに見える自分の小さなガーデンの色とりどりの点々を観察した。3年前にポニー先生の許しをもらい、古い教会の横にフラワーガーデンを作ったのだ。秋の初めではあったが、いくつかの植物たちが満開に咲いていた。青や紫や黄色のパンジー、明るい色のマリーゴールド、そして景色に美しさを添える使命に忠実ないくつかのバラ。もう少ししたら多年性の植物たちは眠りにつき、一年性の植物たちは必然的にその命を終える。キャンディは、この生と死の繰り返しが、自然のありようとして避けがたいものであることをよく知っていた。アンソニーがそれを教えてくれた。

しかしどれだけ冬が長く寒いものであってもまた春が来れば、去年初めて植えた豪華なシャクヤクと共にスウィートキャンディが再び花を咲かせるだろう。キャンディは、これから数年かけて新しい花をいくつか育てる計画をたてていた。そのうちの一つのワスレナグサは春の花壇に青色を添えてくれる。キャンディは、とりわけ小さなステアに、少ない種から数千もの小さな芽が育ち、たくさんのかわいらしい花を咲かせる様子を見せたかった。その子が鋭い好奇心と生来の繊細さをおじから受け継いでいると感じていたキャンディは、その資質を最大限に伸ばしてあげたかった。そのような目的で、前の週にキャンディはラ・ポルテの町にある苗床を訪れた。ワスレナグサの種と、以前から試したかった別の花の球根を衝動的に買い求めた。その日の朝にキャンディは、3月にその花が咲くのを期待しながら買ってきた球根を植えた――イースターのお祭りが、水仙の咲く頃だ。

テリィから一番最近届いた手紙を手にしながら、キャンディは、花が毎年忠実に芽吹くように、もしかしたら自分ももう一度希望を持つ時なのかもしれないと決心していた。



1924年10月20日 マンハッタンにて


親愛なるT.S.

この手紙が届くときに元気でいてくれることを願っている。きみは今頃ハロウィーンの準備に忙しくしているに違いない。ハロウィーンと言えばだが、きみはそんなに衣装に凝らなくても大丈夫だとおれは思う。あとはホウキさえあれば事足りるはずだ。子供たちとトリック・オア・トリートでご近所を回る時には、お菓子やパンプキンパイは子供たちのものだと覚えておくように。

こちらはいつにも増して激務だ。俺は週末には2回公演をやらされている。カントリークラブでの日曜日の乗馬はしばらくお預けということだ。残念ながらあまり文句も言えないのは、団長が年末に2週間の休みをくれると約束してくれた。実は、これは普通ではあり得ないことなんだ。いつもならクリスマスシーズンも大晦日にも舞台がある。近頃の団長には何が起きているのかさっぱりわからないが、それでも休暇がとれるのはいいことだ。

2週間もしたら公演旅行に出発する。きみも11月に旅行をすると言っていたな。きみもいつか西海岸を訪れることができたらいいとは思うけれど、残念ながら今回はお互い逆方向への旅だ。

きみの気にさわらなければいいと願うが、悪いが母にきみとのこの新たな友情について話させてもらった。母はきみの話に大層喜んで、とてもよろしくと言っていた。母はいつもきみのことを尊重していたからな。

ポニー先生への贈り物のことを忘れたとは思わないでくれ。きみの椅子への指示を添えて、家具職人にはすでに手紙を出してある。サンフランシスコに着いたらすぐにでも配送の手配をするよ。

じゃあ行くよ。どんなヤツにも時は止まってはくれないものだ。くれぐれも体に気を付けて、そして覚えておいてくれ、おれはいつでも

Yours Truly (*1)

テリュース

追伸
T.S.はターザンそばかすの略だと念のために伝えておく。きみはきっとこの手紙をどこかの木の枝の上で読んでいるに違いない。


(*1): Yours Trulyは日本語への訳では敬具となりますが、ここでのYours Trulyは、作者が手紙の結びの言葉を前の文章にかけて二つの意味で使用しているので、英語のままに残しました。



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4 コメント

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感謝します (まゆごん)
2011-07-10 20:13:35
昨日見つけて、読み始めました。
キャンディとテリィの二次小説、案外少ないですよね。
海外ファンによるファンフィクションが沢山書かれているのは知っていましたが、私には、それを読みこなす知識がないので、このブログを見つけてどんなに嬉しくおもったか! 本当に感謝します。
ファイナルストーリーの「あのひと」の解釈はまったく同感です。 この物語で、二人がどんな風に再開して愛を確かめあっていくのか、今からワクワクしています。 今日も更新を心待ちにしながら、居てもたってもいられなくなり、感謝の気持ちを伝えたくて書き込みました。 きっと同世代です♪ ありがとう。毎日楽しみにしています(*^^*)
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ありがとうございます (ブログ主)
2011-07-11 00:58:25
海外ファンのファンフィクションは、設定などが書く人のお国柄や国民性を反映しているのが興味深く、ついはまってしまっています。
ブログ主は日本語以外は英語しかわからないのでスペイン語やフランス語のファンフィクションが読めないのが残念です(中にはファンが英語に翻訳しているのもあったりしますが…)。
FinalStoryの完結しているファンフィクションは、海外でもこの"水仙の咲く頃"しかまだないと思います。
この作者さんはテリィのフェロモンの捉えどころに精通しているので、これから興奮どころが満載です。ぜひ楽しみにしていてください。

…更新は毎日できないかもしれませんが、気長にお付き合いください。
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はじめまして (マリモ)
2012-11-24 16:42:57
この間見つけて、楽しく読ませていただいています。
「あのひと」考察が面白すぎて、時を忘れて読みふけりました。
続編ではなく、新しい愛の物語だということ。そしてあとがきからも窺える、作画者に対する「私が原作者です」という意思表示。
スザナの死亡、テリィからの手紙、そしてテリィからきた手紙の時期が、アルバートさんとの文通との時期のずっと後だということ。
前の小説版から、付け加えられ大きく変えられていた点に、意味がないはずがありません。
私もテリィだとは思っていましたが、考察を読んで改めてテリィだとしか思えなくなりました。

海外でファンフィクションが創られているということも初めて知りました。そんなに多くの海外ファンがいるということも。
私が友人から借りて読んだのはちょうど十数年前で、アニメも終わり、裁判に入る直前だったため、買おうと思った頃にはもう書店にコミックはなく。
周りにあまり話題を共有できるファンのいない状況だったので、このサイトを発見できて本当にうれしかったです。

水仙2章まで読みましたがおもしろい!文章も自然できれいですね。
このお話書いた方は、スザナが大嫌いだったんだろうなぁなんて想像しながら読んでいます。私も同感ですが(笑)
翻訳という作業は大変だと思いますが、これからも楽しみにしていますね。
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マリモ様 (ブログ主)
2013-01-31 19:21:33
コメントありがとうございました。お返事が遅くなってごめんなさい。

「あのひと」考察、気に入っていただけて、ブログ主も本望です。何度も言っていますが、このブログでは「あのひと=テリィ」なのはもう永遠のファナルアンサーです この「水仙...」を書いたジョセフィンも同じ考えだと思います。

また、何か感じたことなどあったら気軽にコメントくださいね。
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