以下は米国の実相を伝える数少ないジャーナリストである古森義久が産経新聞に掲載している「あめりかノート」、昨日3頁に掲載された論文からである。
見出し以外の文中強調は私。
トランプは2人いる
米国のドナルド・トランプ大統領は2人いるのだろうか。
ついそんな皮肉な思いさえ感じさせるこのところのトランプ評である。
欧州訪問やロシアのプーチン大統領との会談での言動に酷評が浴びせられた。
「西欧との同盟を破壊する」「敵のロシアと手を結ぶ」「無知で衝動的だ」etc.である。
あたかもトランプ氏の命運が尽きたという断のようだ。
この切り捨てふう判定はほとんどが大統領のメディアとのやりとり、そして自身のツイッターでの発信が根拠となっている。
確かにトランプ氏の言語表現は最初から既成の政治リーダーとは異なる。
単純明快だが、粗雑である。
その型破りな特徴は政治やメディアでエリートとされる層を激怒させてきた。
米側のそんな傾向に依拠するような日本側の評価はいまだに「不動産業、ディール、中間選挙目当て」が大勢のようだ。
不動産業に従事した人は政治はできない、金銭上の損得のディールだけ、政策はなく、中間選挙へのアピールだけ、という断定だといえよう。
だが一昨年の大統領選からトランプ氏の動きを追い、政権登場後の公式の政策を知り、さらにトランプ支持層の動向を眺めてくると、どうしても異なるトランプ像がみえてくる。
たとえばいま北大西洋条約機構(NATO)の破壊の企てのように伝えられる西欧側への防衛負担増大の求めも、実はトランプ氏は2016年4月の大統領候補として初の外交演説で第一の公約としてあげていた。
GDP(国内総生産)2%の防衛支出の要求である。
「公正な負担を」という一貫した政策なのだ。
オバマ前政権もこの政策を推していた。
米国民多数も賛同する。
トランプ氏の衝動でも破壊でもないのだ。
トランプ氏はNATO体制の維持と強化も政策として掲げてきた。「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」でも大統領として明言している。
今回のNATO首脳会議での共同声明でも確認された。
トランプ氏はNATO堅持の上での公正な負担を求めるのだ。
ロシア政策にしてもトランプ氏は前記の安全保障や防衛の「戦略」文書でロシアをはっきりと米国主導の国際秩序の破壊企図国と位置づけてきた。
ロシアのクリミア奪取への制裁も緩めていない。
それになによりもそんな潜在敵のロシアや中国の膨張を抑えるために米国の軍事力を大幅に強化し始めた。
今年度の国防予算は前年度から13%増、GDPの4%ほどなのだ。 外交ではトランプ氏は昨年9月の国連演説で「原則に基づく現実主義」という理念を掲げ、国家主権に基づく「力による平和」という政策を語った。
同年7月のポーランドでの外交演説でも民主主義や人権など普遍的価値を強調した。
政策を明確に打ち出したのだ。
だが反トランプのメディアは政策を無視し、奔放な発言をあおり、放言、失言に集中砲火を浴びせる。
それでも米国一般のトランプ支持は揺らがない。
逆に最近の世論調査での支持率は50%近くになった。
そんなところに、「もう一人のトランプ大統領」を実感させられるのである。
(ワシントン駐在客員特派員)