文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

法律で縛ることが戦略戦術上の調整幅を狭めれば、わが国は自らを追い込むだけだ。

2021年04月23日 09時25分00秒 | 全般

以下は4月15日の産経新聞1面に掲載された櫻井よしこさんの論文からである。
本論文も彼女が最澄が定義した「国宝」であること、それも至高の国宝である事を証明している。
脱炭素の鍵は原発の活用だ
菅義偉首相の訪米が迫る4月12日、米国の気候変動問題担当大統領特使、ジョン・ケリー氏が訪中するとの見通しが報じられた。
実は同2日、菅首相とバイデン大統領との首脳会談が突如1週間延期されたとき、日米首脳会談前にケリー氏が訪中して気候変動問題への米中の取り組みを摺り合わせておくためではないかとの憶測が流れた。
最終確定ではないが「今週中にもケリー氏訪中」とのニュースは、その見立てが恐らく外れていなかったことを示唆する。
ケリー氏の中国側の交渉相手、解振華気候変動担当特使は2007年から18年まで中国の気候変動問題担当チームの代表だった。
すでに第一線から退いていたのを、氏にまさる適任者はいないという理由で呼び戻された。
ケリー氏も解氏も気候変動問題に関しては深い識見を持つ。
経験豊富で百戦錬磨の達人だ。
気候変動は産業競争力を巡る壮大な駆け引きで、経済安全保障の戦いである。
国家の命運をかけたこの戦いを日本では小泉進次郎環境大臣が担う。
ケリー氏は解氏と頻繁に連絡し合っている。
温暖化ガス排出差し引きゼロ、いわゆるカーボンニュートラル政策で米中両国の戦略が調整されつつあると見てよいだろう。
米中間にあって日本は大丈夫か。
小泉氏は温暖化ガス排出の大幅削減と再生エネルギー重視に傾いている。
米国に追随して50年のカーボンニュートラルの実現に向け、さらに一歩踏み込んで法制化したのは周知のとおりだ。
日本の固い決意表明を国際社会が評価するとしても、あまり意味はない。
各国は互いの動きを見ながらあらゆる戦略戦術を駆使してくる。
法律で縛ることが戦略戦術上の調整幅を狭めれば、わが国は自らを追い込むだけだ。
30年までの10年間、その先50年までの20年間は、決して真っ直ぐ一直線で進めるような道筋ではないだろう。
国内産業と国益を守りながらの駆け引きが必要なのは言うまでもない。
その点を小泉氏は理解しているか。
日本の姿を醜く変える 
小泉氏の父、純一郎元首相は、日本は全電源を再生エネルギーで供給できると語っている(18年5月13日、東京新聞)。
進次郎氏は、30年までに国の電源構成で再生エネルギーの比率を現在の目標値から倍増させたいと語る。
現在の目標値は22%から24%であるから、倍増すれば44%から48%になる。
進次郎氏は、原子力への依存度は可能な限り低減させるとも語っている。
この政策を現実の中に置いて評価してみよう。
シンクタンク「国家基本問題研究所」のエネルギー問題研究会(座長、奈良林直東京工業大学特任教授)は4月12日、政策提言を発表した。
その中で指摘したことのひとつはわが国は太陽光発電においてすでに世界のトップに立っているという点だ。
現在、世界最大の太陽光発電システム導入量を誇るのは中国で205ギガワット(GW)だ。
以下米国の62.3GW、日本の61.8GW、ドイツの49GWと続く。
日本と米国はほぼ拮抗している。
これを国土面積で割って1平方㌔当たりの太陽光発電システム導入量に計算し直すと、日本は0.164キロワット、中国は0.021、米国は0.007となる。
1平方㌔当たりでは、日本は中国の8倍、米国の23倍なのだ。
狭い国土、その上、平地が少ない中、日本は国土面積当たりの太陽光発電で最先端を走っている。
日本は再生エネルギーで遅れていると語る人がいるが、それは間違いだ。
すでに十分やっている。
純一郎氏の「全電源を再生エネルギーで供給」という目標を達成するにはどんな施策が必要か、国基研で調査した。
わが国の熱消費エネルギ―量を太陽光と風力で賄うと仮定する。
太陽光については、本州の全面積の3分の1に太陽光パネルを敷き詰めなければならない。
風力の場合、わが国の排他的経済水域の殆ど全域で風車設置が必要だ。
まさに日本国土から緑の山々、森、平野がなくなり太陽光パネルで覆われる。
世界第6位の広さを誇るわが国の海の隅々にまで風車が立つ。
自然は破壊され、景観は損なわれ環境は大きく変えられる。
私たちの故郷は全国津々浦々、様変わりするだろう。
日本の姿をこんなに醜く変える構想が国民に支持されるだろうか。
再生エネルギーで電源の100%を賄うという考え自体が幻想だ。
もう一点、興味深い事実がある。
前述した太陽光発電の4大国、中米日独はいずれもCO₂排出係数が非常に大きいのだ。
CO₂排出係数は1キロワット/hの電気を得るのにどれだけのC0₂を排出したかを示す数値のことだ。
世界最大の太陽光発電国、中国は1キロワット/hの電気を生み出すのに720グラムのC0₂を排出している。
以下、米国は440グラム、日本は540グラム、ドイツは472グラムだ。
ロシア並みの数値である。
発電時のC0₂排出量が少ないのは、ノルウェーがトップで13グラム、スイス42グラム、スウェーデン46グラム、フランス70グラムなどだ。
100%国産 
太陽光発電大国が発電時に大量のC0₂を出すのは以下の理由による。
周知のように再生エネルギーは天候に左右されるため、24時間一定して電源を生み出すことはできない。
太陽光が陰って太陽光由来の発電が突然大幅に落ち込んだり、ゼロになったりするとき、間髪を容れず、急いでその分を補わなければ大変なことになる。
そのときの補完電源に火力発電が活用される場合が多い。
太陽光発電大国が軒並みC0₂排出係数において最悪の数字を出し続けるのは当然なのだ。
対してノルウェー以下フランスなどでC0₂排出が少ないのは、水力と原子力の活用の結果である。
日本にとって大きなヒントになるはずだ。
合理的に考えれば、脱炭素政策を成功させるには原子力発電の活用が必要であることが見えてくる。
だからこそ世界の潮流は原子力の活用に向かっている。
日本もそうすべきだ。
エネルギー政策は、まさに国家の基盤の中の基盤である。
ここで間違えれば国力は大きく減殺される。
日本では3・11をきっかけに原発への信頼が決定的に損なわれたが、この10年間で安全対策は大幅に強化された。
国際エネルギー機関(IEA)は最新の報告書で、日本における最も安価で安定した電源は原子力であると明記した。
原発の活用は日本の技術力、産業力をも支えてくれる。
再エネ関連技術の多くが海外からの輸入であるのに対し、原子力の技術自給率は100%国産だからだ。
その分、国内産業への貢献度も大きい。
国基研は政策提言で、脱炭素政策の実現には何よりも原発の活用を進めなければならないと結論づけた。
皆さんはどうお考えだろうか。

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