以下は前章の続きである。
拉致被害者家族との面会で
櫻井
先般、トランプ大統領が来日した際も、拉致被害者のご家族と二度目の面会の場が設けられましたね。
安倍
はい。その際、トランプ大統領がーこれは予定にはなかったのですがーご家族一人ひとりに拉致の経緯などを丁寧に詳しく訊かれていました。
横田早紀江さんが「何とか娘に一目会いたい」と述べると、大統領は「必ず会えるよ」と仰った。有本恵子さんのお父さん、有本明弘さんが自らの考えを述べておられて、「もう一つ、どうしても言いたい」となった時、全体の時間の関係で、事務方が「それはお時間が厳しいので、また今度」と制止すると、大統領が「せっかくの大切な機会だから、どうぞ述べてください」と有本さんを促される場面もありました。
考えを言い終えた有本さんが最後に、「手紙をしたためてきましたので、あとで読んでください。先ほどお渡ししましたので」と大統領に申し伝えると、大統領は「誰に渡したんですか?」と尋ね、「ただ渡しただけでは私の手元には来ないんだ」と言い、受け取った事務方に手紙を持ってこさせたのです。そして、「これですね」と有本さんに確認して事務方にもう一度渡し、「これを必ずホワイトハウスの私のデスクの上に置いておきなさい」と指示し、有本さんに「大丈夫、必ず読みますから」と言葉をかけられました。
櫻井
初めて伺うお話です。大変感銘を受けました。
安倍
トランプ大統領が、拉致問題にいかに真剣に向き合っているかが分かっていただけると思います。
櫻井
総理が無条件で会談に臨む決意を述べたことに対して、「変節した」などと批判する声がありましたが、総理のお気持ちをトランプさんは確実に金正恩委員長に伝えており、金委員長も総理の考えを理解している、といった背景があったと考えていいですね。
だからこそ、無条件で会談に臨む決意を述べられた。それに対して、北朝鮮側か「あれこれ言っている安倍一味はずうずうしい」などと声明を出していますが、こうしたことには一喜一憂する必要はない、とのお考えですか。
安倍
北朝鮮の反応に、私からいちいちコメントすることは差し控えたいと思いますが、いずれにしても我々はあらゆるチャンスを逃さないという強い気持ちで果断に行動していきたいと思っています。
当然、最終的に話し合いをしなければ拉致問題も解決はしませんから、かつて福田赳夫先生が中国との交渉を「アヒルの水かき」と表現されたように、我々も水面上では見えない努力を懸命に重ねております。
悪夢のような民主党政権
櫻井
七月には参議院選挙が予定されています。野党は全国に三十二ある「一人区」のうち計三十選挙区で候補者を一本化した、と報じられました。自民党は参院選をどう戦いますか。
安倍
野党は候補者を一本化していくのだろうと思います。一対一になればそう簡単な選挙ではありませんから、相当身を引き締めて戦い抜いていかねばなりません。
ただ、素朴な疑問があります。野党は共産党も含めて一本化すると言っていますね。
となると、たとえば鳥取・島根、徳島・高知、福井などは共産党の候補者しか出馬しません。
立憲民主党も国民民主党も「安倍政権を倒す」「自公政権を倒す」と言って、共産党の候補者に投票を促していく。
立憲民主党や国民民主党に投票しようと思っている人たちにその機会を与えないわけです。そうした判断をする以上は責任を持たなければなりません。
責任とはなにか。もし彼らが過半数をとった場合は、当然、政局は不安定化します。十二年前の参院選のあとに国会にねじれが生じ、そしてついには、あの悪夢のような民主党政権が生まれてしまったことを思い出していただきたいのです。では、共産党とともに責任ある政治体制を組む覚悟があるのか、こうしたことには一切触れずに統一候補をたてるというのは、あまりにも無責任ではないかと思います。
楼井
無責任極まりないことは事実です。
しかしそれでも野党は、「安倍憎し」で統一候補を立て、それを国民が支持してしまうやもしれない。そのようなことをさせないことが肝心で、そのためにも衆参のダブル選挙を行うのではないか、という憶測が高まりを見せていましたが。安倍
いえいえ(笑)。
桜井
ダブル選挙はちらりともお考えではない?
安倍
ちらりとも考えていません。
桜井
頭の端にもない?
安倍
頭の端にもありません(笑)。
決まっていることは七月の参議院選挙ですから、これに集中していきたいと思っています。
参院選で国民に問う
櫻井
選挙では様々なことが争点として問われます。消費増税を延期して選挙に臨むのではないか、との見方も出ていますが。安倍
消費税の引き上げは、全世代型社会保障の構築に向け、少子化対策や社会保障に対する安定財源を確保するためにどうしても必要なものです。リーマンショック級の出来事がない限り引き上げる予定であり、国民の皆様のご理解とご協力をお願い申し上げる次第です。
櫻井
憲法改正についてはいかがですか。
安倍
すでに自民党は「改憲四項目」で、憲法改正のイメージをお示ししています。憲法改正は、国会のなかで衆参三分の二の多数を得て発議することができます。
そして、最終的に国民が国民投票で判断する。国会のなかで三分の二を超えていく努力をして、国民に判断していただけるように努めて参ります。
国民投票の具体的時期はスケジュールありきではなくて、しっかりと憲法審査会で、まず議論をしていただきたいと思います。
櫻井
しかし、憲法審査会は膠着状態に陥っています。
立憲民主党の辻元清美さんですら、「この次に、この次に」と言い逃れして、とうとう追い込まれて立憲民主党として憲法審査会の議論に応じざるを得ない状況となった。にもかかわらず、最後は枝野幸男代表が卓袱台返しをして審議拒否をしています。
国民が主権を発揮する国民投票を阻止しておいて何か立憲か、何か民主かと思います。議論をしない、させないというのは、中国共産党一党支配と何ら変わりません。
安倍
参院選では何か問われるかと言いますと、「国民の前できちんと議論をする政党、候補者を選ぶのか、議論を全くしない政党、候補者を選ぶのか」ということです。改正すべき中身について意見が異なるのはやむを得ないとして、だからこそ議論をすべきではないか。議論すらしないという姿勢はいかがなものか。私はこの点を是非、国民に問うていきたいと思っています。
この稿続く。
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