以下は前章の続きである。
世紀の大誤報
朝日新聞の紙面の劣悪化について、さらにわかりやすい例がある。
私は朝日新聞にはその基本的な政治スタンスへの反対を別とすれば、伝統あるニュースメディアとしての一定レベルの敬意も抱いてきた。ところが、この記事はそんな認識をすべて覆してしまう大誤報、無責任報道だったのだ。
朝日新聞のその一面トップ記事の内容は以下のようだった。
まずは大見出しである。
《ハンセン病家族訴訟控訴へ 政府、経済支援は検討》
本文の冒頭は以下だった。
《元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、政府は控訴して高裁で争う方針を固めた》
主題はハンセン病患者に対する国による隔離政策で差別を受けて、家族離散の被害などにあった元患者家族五百六十一人が国に損害賠償と謝‘罪を求めて起こした訴訟だった。
訴えを審理した熊本地裁は六月二十八日、国の責任を認め、家族たちに三億七千万円以上の賠償金を支払うことを求める判決を下した。 これを受け、国、つまり日本政府がどう対応するのか、控訴をして高等裁判所で争うのかどうかが注目されていた。
朝日新聞はこの状況下で、国側はこの判決を不当だとして控訴することを決めたのだ、と報道したのだった。
しかもきわめて強い語調で、なんの疑問の余地もないような明快な断定だった。
だが、一夜明けた七月十日付の朝日の朝刊一面には、前日とは正反対の内容の記事がこれまた大々的に掲載されたのだった。
見出しは以下だった。
《ハンセン病家族訴訟控訴せず 首相、人権侵害を考慮》
本文の冒頭は以下だった。
《ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた熊本地裁判決について、政府は9日、控訴しない方針を決めた》
以上、「控訴して高裁で争う方針を固めた」が一夜にして「控訴しない方針を決めた」に一転したのである。完全な誤報だった。
この稿続く。
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