冷戦後に強大化した検察
政権にも「お墨付きの」怖さ
ジャーナリスト魚住昭
冷戦構造が崩壊して以降、検察は徐々に縄張りを拡大してきたように思えます。
それまでは、検察があまりにも政権与党の腐敗を厳しく摘発すると、自由主義体制が崩壊して社会主義体制ができてしまう、という危惧があった。今はそれがありません。その結果、検察は、政治よりも強くなってしまったのです。
西松事件は、戦後の検察の歴史の中で初めてと言っていい露骨な政治介入です
76年のロッキード事件以来、検察に敵対的だった小沢一郎という人は、検察に
とっては、脅威であり嫌な政治家でしょう。その小沢氏が首相の座に手が届きそうになっている。そんな状況のもとで、「議会制民主主義は、あくまでも選挙で民意を問うことが基本だ。選挙に影響を与えるような捜査は極力控えなければならない」という検察の常識がひっくり返ったんです。
政治資金規正法違反は、形式犯的な要素が強い。そのうえ今回の摘発は、どういう形であれ表に出ている献金で、しかもこれまでの事件とは桁違いに少額です。今までは「闇献金で1億円以上」が摘発の相場でした。
従来なら、上層部が捜査に待ったをかけたケースです。でも、ブレーキが全く
利いていない。これは、麻生政権の指示で動いた国策捜査とは考えにくく、検察に組織防衛の意識が働いたのではないでしょうか。「検察という組織は壊れてしまった」と私は感じました。
検察の増長の責任は、マスコミにもあります。02年、検察の裏金づくりを内部告発していた三井環・大阪高検公安部長(当時)が逮捕された。これも、住んでいない場所に住民票を置いて登録免許税を免れた、という驚くべき微罪でした。テレビ局の取材を受ける直前の逮捕で、明らかな口封じです。しかし多くの新聞は、それを知りながら、裏金問題を本格的に追及しなかった。重要な情報源だから機嫌を損ねたくないのです。
西松事件では、東京地検の谷川恒太次席検事が「国民を欺く重大かつ悪質な事
案」と言いましたが、冗談じゃない。それなら自分たちの裏金づくりはどうなのか。政治資金規正法違反よりずっと重い業務上横領の
ようなことをして、年間5億円規模の裏金をつくっていたのです。まず自分たちの襟を正せと思いました。
今回のような暴走を放置しておいたら、今後、検察が気に食わない政権を作ろうとしたら、すぐに何かの微罪に引っかけられてしまう。検察の「お墨付き」を受けた政権しか作れなくなる。これが最も重要な点で、議会制民主主義の根幹にかかわる恐ろしいことです。
政権にも「お墨付きの」怖さ
ジャーナリスト魚住昭
冷戦構造が崩壊して以降、検察は徐々に縄張りを拡大してきたように思えます。
それまでは、検察があまりにも政権与党の腐敗を厳しく摘発すると、自由主義体制が崩壊して社会主義体制ができてしまう、という危惧があった。今はそれがありません。その結果、検察は、政治よりも強くなってしまったのです。
西松事件は、戦後の検察の歴史の中で初めてと言っていい露骨な政治介入です
76年のロッキード事件以来、検察に敵対的だった小沢一郎という人は、検察に
とっては、脅威であり嫌な政治家でしょう。その小沢氏が首相の座に手が届きそうになっている。そんな状況のもとで、「議会制民主主義は、あくまでも選挙で民意を問うことが基本だ。選挙に影響を与えるような捜査は極力控えなければならない」という検察の常識がひっくり返ったんです。
政治資金規正法違反は、形式犯的な要素が強い。そのうえ今回の摘発は、どういう形であれ表に出ている献金で、しかもこれまでの事件とは桁違いに少額です。今までは「闇献金で1億円以上」が摘発の相場でした。
従来なら、上層部が捜査に待ったをかけたケースです。でも、ブレーキが全く
利いていない。これは、麻生政権の指示で動いた国策捜査とは考えにくく、検察に組織防衛の意識が働いたのではないでしょうか。「検察という組織は壊れてしまった」と私は感じました。
検察の増長の責任は、マスコミにもあります。02年、検察の裏金づくりを内部告発していた三井環・大阪高検公安部長(当時)が逮捕された。これも、住んでいない場所に住民票を置いて登録免許税を免れた、という驚くべき微罪でした。テレビ局の取材を受ける直前の逮捕で、明らかな口封じです。しかし多くの新聞は、それを知りながら、裏金問題を本格的に追及しなかった。重要な情報源だから機嫌を損ねたくないのです。
西松事件では、東京地検の谷川恒太次席検事が「国民を欺く重大かつ悪質な事
案」と言いましたが、冗談じゃない。それなら自分たちの裏金づくりはどうなのか。政治資金規正法違反よりずっと重い業務上横領の
ようなことをして、年間5億円規模の裏金をつくっていたのです。まず自分たちの襟を正せと思いました。
今回のような暴走を放置しておいたら、今後、検察が気に食わない政権を作ろうとしたら、すぐに何かの微罪に引っかけられてしまう。検察の「お墨付き」を受けた政権しか作れなくなる。これが最も重要な点で、議会制民主主義の根幹にかかわる恐ろしいことです。