あちらこちら命がけ

血友病、HIV、B/C型肝炎等を抱えて生きる人のブログ。薬の体験記、海外の最新医療情報、サルベージ療法から日常雑感まで。

悩みは笑い飛ばせ!

2006年09月28日 19時14分47秒 | 私の原点

 以前の記事 個室に移りました で、

「まあ笑い事ではないんですが、今までもこうやって笑い話にして乗り切ってきましたので、みなさん引かないでくださいね。なにせ『あちらこちら命がけ』ですから(笑)」

と書きましたが、私がこんなふうになったのには、一つ大きなきっかけがありました。今日はそのお話を。





 それは私が二十歳を過ぎた頃のこと。何か得体のしれない不安にかられ、立ち上がれなかったことがあります。病気のこと、将来のこと、日々の生活のことなど、考え出したら次々にあふれてしまって、心の置き場所がありませんでした。
 自分の足場が揺らいでいるような不安感。何か自分が、大きくて柔らかいゴムボールの上に立っているようで、必死でバランスを取る日々。どこに体重をかけたらいいのかわからない、もうそろそろ落ちそうだ、そんな状態だったと思います。


 その頃には、すでに何人かの友人や、サークルの先輩たちなどに自分がHIV感染していることを話していました。そして、その中に一人、よく話をする人がいました。
 この人は大学から家が遠かったため、大学の近くに一人暮らしをしている私の家に、年の半分以上は寝泊まりしているような人でした。あ、ちなみに、これは私にとっては悲しいことなのですが、その人は男性です。残念ながらここで色っぽい話はありません。

 その人は家に帰ると大体いるわけで、
今日はいないなと思っていたのに、押し入れを開けたらその中で寝ていた!時は「のわあ!」と叫びました。
 一人暮らしなのに「ただいま」を言う相手がいる。低く野太い声で「おかえり」と言ってくれる人がいる。おかしな話です。ここでは仮に、その人のことを「ホニャえもん」と呼ぶことにします。

 
 そんなある日。その日は、家に帰ると珍しく一人でした。普段はホニャえもんを含め、何人かが寝泊まりしているような家で、ひどいときは6畳間に10人が寝ていたことがあるような部屋でしたが(それは凄惨な光景です)、押し入れの中を見ても誰もいませんでした。


 一人になり、あれこれ考えていたら、涙が止まらなくなりました。


 いつも誰かがいたので、そこまでがんばれていたんだと思います。
 誰もいない部屋では、私は泣くことしかできませんでした。

 それで、私は「ホニャえもん」に電話をしました。泣きながら「自分の存在の足場すら揺らぐようで、つらいです」と話しました。
 全部を聞いてくれた「ホニャえもん」は一言、大きな声でこう言いました。


 
「うん、笑い飛ばせ。がっはっは!」


 あまりのことに、ついつられて笑いました。
 悩んで悩んでどうしようもなく、存在すら揺らぐようでつらいと泣きながら話す重病人の私に、笑い飛ばせと言って大声で笑うとは、正気の沙汰ではありません。あり得ないにもほどがあります。
 こう言えてしまうホニャえもんは大物だと思います。逆の立場だったら、きっと私にはこんなことは言えないでしょう。たぶん何も言葉が出てこないか、有り体な励ましを口にするかだと思います。

 でも、ホニャえもんは大声で笑いました。
 そして、私もつられて笑いました。

 ホニャえもんは、ちょっと不謹慎な人ですが、無責任な人ではありません。私の話を聞きながら、はたして病気でもなく、人生経験も大して変わらない自分が何を言ってあげられるのだろうかと、ずっと考えていたんだと思います。そして、笑わすしかないという(一見、無謀な)結論にたどり着いたんじゃないかと感じました。その時の声は、そういう声でした。

 笑わせてくれる人がいれば、人間はどんな時にも笑えるんだと感じました。この状態で笑えたというのは、私にとってとても大きなことでした。そう思ったら、あ、悩んだときは笑っちゃえばいいんだと、ふと閃きました。

 今でも悩みはたくさんあります。それは私を苦しめ、力を奪おうとします。

 でも、悩みと同じ土俵で戦ってはいけないんだと思います。私を苦しめようとする悩みのいる場所に、下りていってはいけない。人は悩むとき、実は自分で穴を掘って、自分からその中に下りていって、出られないと嘆くのではないでしょうか。実は自分から悩もうとしているから、立ち上がれなくなってしまうのではないでしょうか。

 悩みは笑い飛ばせ!

 もちろん、悩むたび、毎回それができるわけではありません。私も、今でも落ち込みの激しいときもあります。一ヶ月くらい落ち込んだりして、でも最後に、人間はどんなときでも笑えるんだということを思い出し、そこからまた立ち上がってきました。 これが私の原点の一つです。ここから、何でも笑い話にしてしまう今の人格が形成されていったのです。



注:ここに書かれていることは非常に個人的なことがらです。またsunburst2006とホニャえもんがともにちょっと不謹慎で、おかしな人であったから成立しえた一種の僥倖です。あなたがここに書かれていることを参考にして、人間関係を修復不能な状態にしてしまったり、誰かを深く傷付けたとしても、私sunburst2006は責任をもてませんのでご注意ください(笑)。