ポートフォリオを用いた評価法には基本的原則があります。
1.研修の成果や研修内容を示す研修医自身の収集した証拠や研修医自身の自己評価、指導医からのフィードバックの記録が蓄積されたものであること
2.収集した研修の成果や学習や研修の内容を並び替えて取捨選択して系統的に整理されたものであること
3.研修の途中や終了時に、ポートフォリオを用いて指導医と研修に関わる人々とともに話し合うこと
これらが単なる研修記録(ログブック)とは異なる点です。
研修到達目標の修得を主眼にしたEPOC(研修評価システム:Evaluation system of POstgraduate Clinical training)とは異なる評価法といえます。
ポートフォリオを作成していく経過において、研修医の学習状況を、研修医自身と指導医がともに具体的に把握できることであり、同時に研修医が自己評価・自己分析できるように成長していくよう指導医がサポートしていくことを、組織的に計画的に行えるように考えられたものが、ポートフォリオ評価法です。
ポートフォリオを用いたこの評価法を上手に活用するには、とにかく機会があるたびに中身を整理しておくことです。さらに研修中間(1年次終了時)や研修終了前の指導医との面談においてポートフォリオを用いることです。
一部の先生方がお気づきようにポートフォリオには、どのようなものを証拠として収集するかという基準(評価の基準となるもの)を指導医側がある程度決めておくものと、研修医が決めるもの、もしくはともに相談して決める3つのタイプがあります。
本学では研修到達目標の修得だけではなくパフォーマンス課題などを取り入れた基準準拠型ポートフォリオを採用しています。
多くの臨床研修病院で活用しているポートフォリオは、最良作品型と呼ばれるタイプであり、研修医の学ぶ姿勢に注目したものです。たしかに、これを収集しなさいと言われるとその通りに行動してしまい、本当に自分で考えて、悩んだことや躓いたことは隠し、見た目の完成度にのみ関心が向いてしまう傾向にあるので、このようなポートフォリオであれば、研修医の視点での学びの姿勢は把握しやすいとされます。ただ、主体が研修医にあるため、評価はあくまで形成的といえます。
基準準拠型では指導医が研修修了時のあるべき研修医の姿を想像し、それをいくつかの観点で分析して、評価基準(ルーブリック)を決めておくため、研修医は目標を見据えた研修を行うことができ、また指導医も常に共有しながらフィードバックできると考えられています。
今回の臨床研修のように到達目標があり、ある一定の診療能力の修得が義務づけられているような場合には、社会への説明責任も踏まえ、後者を採用することにしました。
もちろん、どのタイプのポートフォリオが優れているかではなく、どのような目的で使われるかと考えるべきだと思います。
ポートフォリオは、ある意味諸刃の刃だともいえます。「体裁を整えること」が目的のポートフォリオ作りになった場合です。とくに基準準拠型にはその傾向があるといえます。
収集すべきものが決められ、自分に裁量権がないことで、研修医がどのように表現するか悩むことがなく、膨大な資料をただ並び替えるだけの作業に陥ってしまうからです。これでは、せっかくのポートフォリオも活かされず、ただ負担感にしかならないでしょう。
これを防ぐためにも、常に評価基準について意識し、研修医と指導医が話し合う機会を多く持つことが重要です。