ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

ルカの方舟

2021-02-04 | 読書日記
粉雪が舞っています。
今日は真冬日。

直木賞は残念だったけれど
本屋大賞にノミネートされた伊予原新の旧作
「ルカの方舟」(伊予原新著 2013年6月 講談社刊)を読みました。




ノミネートされた「八月の銀の雪」はミステリではないけれど
これはお得意の科学ミステリ。
前半は
現在の伊予原作品にある情感は薄いのかな
と思ったけれど
そんなことはありませんでした。

科学誌の編集者の小日向は
笠原教授に会いに行った時に
グレーの作業着を着て、右手にモップ左手にバケツ
泥まみれの長靴を履いた童顔の男と出会う。
これが
この小説のホームズ役の百地教授。
死んでいたのは小日向が会いに行った笠原教授。
密室状態の部屋には液体窒素の容器が倒れていて
笠原は窒息死していた。
第一発見者になってしまった小日向は
行きがかりでワトソン役になってしまう。

大学に起こったのは殺人ばかりではなかった。
F F P(研究や論文の不正)を摘発する謎のメール
「邪悪な者たちが、聖ルカの方舟の由緒を穢している」が
大学と編集部に届いていたのだ。

笠原教授は
チリのパタゴニア北氷床で発見された隕石・HYADES1201のことを
発表しようとしていた。
HYADES1201には生命の痕跡があったというのだ。
ところが
その隕石が高熱炉で溶かされ
船の形に変えられて発見された。
これではもう研究することはできない……

笠原研究室の室賀准教授の研究室に
真夜中に出入りしていた少女と老人は誰なのか。

室賀准教授は
なぜオーストラリアに行ったきりなのか。

徐々に
犯人は大学内部の人間に絞られていく。

え、そうだったの
と思わせられる犯人の意外さ
百地教授の
淡々とした謎解き
科学ものとしての面白さ
(「40億年前の地球は
まだ熱すぎて生命が生き延びるのは難しい。
むしろ火星の方が生命誕生に適していた可能性がある。
その頃の火星には海と陸があり
生命の発生と代謝に不可欠な二酸化炭素と酸素を含む大気があり
浅い湖が多くあった。
地球生命は
火星から運ばれてきた原始生命に起源を持つということは
ありえないだろうか」)

堪能しました。





コメント    この記事についてブログを書く
« 田中一村 南の琳派への軌跡 | トップ | エンド・オブ・ライフ »

コメントを投稿