ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「離島建築」 箭内博行

2024-08-01 | 読書日記

「離島建築 島の文化を伝える建物と暮らし」(箭内博行著 2024年4月 トゥーヴァージンズ 191p)

「看板建築」
「沖縄島建築」
「復興建築」
「近代別荘建築」
「横濱建築」と続いたシリーズの6冊目です。

「英雄たちの選択」で青ヶ島を見て
離島に惹かれて読みました。

「海によって本土と隔てられ
自然の猛威と隣り合わせの離島で生きること、暮らすこと
この課題に
いったいどれほどの先人たちが頭を悩ませ
知恵を絞ってきたことだろう」
と考える著者が巡った島々の建築。

明治政府がキリシタン禁制を解除したので
堰を切ったようように教会の建築が相次いだ。
その時に
50棟もの教会を建築した鉄川与助。
鉄川与助の建てた
旧野首教会(野崎島)
崎津天主堂(天草下島)
江上天主堂(奈留島)
頭ケ島天主堂(頭ケ島)……

75才の女性が
コレラが治ったことに感謝して
家族とともに石を運んで階段を作り
高台に灯台を築き
毎日2000段の石段を上って石油ランプを灯し続けた
という高森灯台……

北海道の鰊御殿(焼尻島)

島にあった海員学校(粟島)

紹介されている島の遺構の一つ一つが
粒だっています。

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「母の待つ里」 ドラマ化

2024-08-01 | 読書日記

「母の待つ里」(浅田次郎著 2022年1月 新潮社)
がこのたび文庫化
ドラマ(NHK)にもなるそうです。

「母」「里」う〜ん
そしてクラッシクな表紙絵、う〜ん
まあ、でも、それで終わるわけがないし…この作家なら
と思って読み始めました。

60才になったばかりの3人の登場人物
大手食品会社の社長の松永徹
(ここまで独身を通した)
薬品会社を退職したばかりの室田精一
(退職を機に妻に離婚を切り出されてひとり暮らし)
循環器の医者の古賀夏生(ナツオ)
(母を亡くしてひとり暮らし)
共通点は
年会費35万円のカードの会員だということだ。
そして、それぞれに
アメリカのユナイテッド・ホームタウン・サービス(帰郷)の
日本版のゲストになっている。

ゲストとは…

東北新幹線と在来線を乗り継いで
さらにバスで40分あまり。
バスを降りると
軽トラに乗った「同級生」が声をかけて来る。
この辺りも様子が変わったから道が分からないだろう、と。
言われた通りに進んでいくと寺がある。
寺の前には住職が立っており、帰郷を労われる。
その奥に一軒の茅葺の南部曲がり屋がたっている。
(どうやらここは岩手県)
家の前では「母」が立って迎えてくれる。

表札にはゲストの姓が書かれている。
囲炉裏端に座ると昼食にはひっつみ(すいとん)が出る。
薪で沸かす風呂に入ると
焚き口にいる「母」がとりとめのない話をしてくれる。
素手で背中を流してもくれる。
糊の効いた浴衣に丹前が用意され
囲炉裏で焼いた岩魚を肴に酒が供される。
台所では羽釜のご飯が湯気を上げている。
綿のたっぷり入った重い布団にくるまれば
襖を隔てて寝ている「母」が昔話を語ってくれる。

ここまでなら他にもあるだろうが
ゲストたちがリピーターになるのは
(1泊2日で50万円という額なのに)
「母」の言葉を聞きたいからだ。
「もうはァ、嫌なこどはなぬもかも忘れでなァ、のへらほんとしてくなんせ」
「えがか、何があっても、母はおめの味方だがらの」
……

キャストは「母」だけではない。
山のキノコを届けてくれる裏の家の老人
老人の息子夫婦
酒屋の店主
同級生
寺の住職
……


最後のページで
「母」が一気に立体感を持ってくる

さすがです。

 

 

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