ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「手づくりのアジール」 山田洋次はなぜ寅さんをつくったのだろう

2022-04-27 | 読書日記
「手づくりのアジール 土着の知が生まれるところ」(青木真兵著 2021年11月 晶文社刊)を読みました。
「彼岸の図書館」を書いた著者の新刊です。



(山田洋次は、なぜ寅さん(あの映画の)という人物を造形したのだろうか
と、たまに考える。
そんなに魅力的かなぁ寅さん
などと)

著者は古代地中海史の研究者で
障害者の就労支援の仕事をしながら
東吉野村で私設の人文学系図書館「ルチャ・リブロ」を運営している。
表紙の植物画を描いたのは、妻の海青子(みあこ)さん。
「ルチャ・リブロ」の司書をしている。

お金を稼いで、自分で自分の口を養って一人前
という考えが世の中には満ちている。
海青子さんは、司書の仕事をしていた所を退職して
別の仕事に就くも職場でうまくいかず
心身を病んでしまう。
大学への就職を目指して論文を書いていた著者も追い詰められる。
そもそも、それで賃金を得なければ研究者とは言えないのか?
リセット!
そこで著者は
海青子さんが「生きる」ための場である私設図書館「ルチャ・リブロ」
(手づくりのアジール(避難所)をつくり出す。

お金を稼いで、自分で自分の口を養って一人前
という社会を此岸とするならば
寅さんのとらやは此岸(こちら側)である。
此岸からはみ出した人々が生きる場を彼岸(むこう側)とするならば
寅さんは彼岸に生きる人で
ときどきふらりと現れては、また去って行く。
此岸と彼岸を自由に行き来できる境界人(あわいの人)である
と著者は言う。
(そういえばマドンナたちの「寅ちゃん」という呼びかけには
寅さんを尊重しているニュアンスがある)

障害者支援の仕事をしながら
たまに大学で教え
またルチャ・リブロに戻って来る
研究もする
そういう著者もまた、稀少な存在であるあわいの人なのだ。

本書は
著者が「会ってみたい」と思った人との対談集です。

中でも
磯野真穂さんの話が面白い。
「私が目指している学問のスタンスは街のおいしい洋食屋さんなんです。
アカデミアの人って
知らず知らずのうちにみんながミシュランの三つ星レストランになろうとしている。
もちろん、三つ星レストランは大事です。
でもみんながならなくてもいいし
三つ星以外をバカにする必要もないと思う」

いいなぁ
街のおいしい洋食屋さん…



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