「ドツテテドツテテ、ドツテテド
でんしんばしらのぐんたいの
その名せかいにとゞろけり。」
と叫びました。
そのとき、線路の遠くに、小さな赤い二つの火が見えました。するとぢいさんはまるであわててしまひました。
「あ、いかん、汽車がきた。誰かに見附かつたら大へんだ。もう進軍をやめなくちやいかん。」
ぢいさんは片手を高くあげて、でんしんばしらの列の方を向いて叫びました。
「全軍、かたまれい、おいつ。」
でんしんばしらはみんな、ぴつたりとまつて、すつかりふだんのとほりになりました。軍歌はただのぐわあんぐわあんといふうなりに変つてしまひました。
汽車がごうとやつてきました。汽缶車の石炭はまつ赤に燃えて、そのまへで火夫は足をふんばつて、まつ黒に立つてゐました。
――宮沢賢治「月夜のでんしんばしら」