「何をする」
クラネクは驚いて揮りかえった。二人は顔を見合した。
「貴様は警察の署長だな、署長ともあろう者が、その容は何事だ」
「貴様は何人だ」
「名を云う必要はない、その女を知っておる者だ」
「では、貴様と、媾曳に来たところだな、この女は」
「黙れ」
「不埒者奴、貴様が黙れ」
「何」
署長の右の手が動くと共に激しい音がして、壮い男はそのままに仰向けに倒れてしまった。
クラネクは嘲笑いの顔をして立っていた。その手にはピストルがあった。
死んだようになっている女の体が動いて頭があがりかけた。
――田中貢太郎「警察署長」