★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

原子力の如き催眠劑が平和な眠りを與へる

2015-09-02 19:43:21 | 文学
さっきまで、『世界文学』という、野間宏とか本野亨一とかが書いている敗戦直後の雑誌をみていて、伊吹武彦のまじめな編集後記を読んで本をひっくり返したところ、アドルムとゼドリンの広告が目に飛び込んできた。眠りにも覚醒にも薬が必要だったという、これが我々の生のあり方を象徴的に現している。

アドルムのコピーがすごい。かつて、我々は原子(爆弾の)力を借りてまで眠りたかったのだ。いまだって我々は同じような覚醒状態にある。



 ベルリンのオリンピックでオリムポスの神殿の火を競技場までリレーするのは一つの発明で結構であるが、それ以来、やたらと日本の競技会で、なんでもいゝから、どこからか火を運ぶ。なにかを運んでリレーをしてからでないと、今もって日本の競技会はひらくことができないのである。海の彼方からは、赤旗の乱舞とスクラムとインターの合唱をやってみせないと気がすまないという宗教団体が船に乗って渡ってくる。
 この競技会の主催者や日本海を渡ってくる宗教団体は、悪質な宗教中毒の親玉であり、ノリトやカシワデが国を亡したように、こんな宗教行事が国家的に行われるようになると国は又亡びる。国家的な集団発狂が近づいているのである。
 美とは何ぞや、ということが分ると、精神病は相当抑えることができる。ノリトやカシワデや聖火リレーや天皇服やインターナショナルの合唱は、美ではないことが分るからである。しかし一方、狂人は自らの狂気を自覚しないところに致命的な欠点があるから、ここが非常にむつかしい。狂人には刃物を持たせないこと。最後にはこれだけしかない。権力とか毒薬とか刃物とかバクダンとか、すべて危険な物を持たせないことが、狂人を平和な隣人たらしめる唯一の方法なのである。

――坂口安吾「麻薬・自殺・宗教」


……やはり、問題は、このあとの東京オリンピックが大成功と誤認され続けていることにあるような気がする。我々の戦後はひたすら失敗ばかりだったのではないだろうか。

尻ぬぐい文化とドン

2015-09-02 16:48:17 | ニュース


http://www.asahi.com/articles/ASH914WFHH91TIPE02H.html?iref=comtop_6_05

おしり洗う文化、世界に広がる ウォシュレット4千万台

……「おしり洗う文化」が存在していたとは初めて知った。まったく何でも文化にすりゃいいと思っているのは問題だ。日本に存在しているのは、上司の尻ぬぐいをする文化である。

しかのみならず、わたくしは、まだウォシュレットというものを怖くて使えないのである。

その噴き出す水が、おしりの穴から体を逆流して口まで来るのではないかという恐怖があるからである。

あり得ない話ではない。なにしろ物体をはき出した後である。はき出した後は吸い込むというのが我々の、ちくわやホースと同じ形をしている生物としての特徴ではなかろうか。

という与太話はどうでもいいとして、おしりというと私は、次の話を思い出す。


 たいそうあたたかくなりました。
 猫が久し振りにあたたかくなったので縁側に出て見ると、縁側の鉢の中にいる金魚が五、六匹チラチラしています。これは占めた、どうかして取って食べてやろうと思ってジッと鉢の中を狙いました。
 犬がこれを見つけて、これはうまいと思いました。ふだんから憎らしいと思う猫が今日は全く気がつかずにいる。今度こそは引っ捕えてひどい目に合わせて遣ろうと、猫に気のつかぬようにそっとうしろから忍び寄りました。
 二階の窓から坊ちゃんがこれを見つけて、あの憎らしい犬が又猫をいじめてやろうとしている。今日こそは勘弁しないぞと、空気銃にバラ玉を込めて犬のお尻の処をジット狙いました。
 その時お父さまがこれを見つけて、又坊やがいたずらをしている。よその犬に怪我をさせては大変だ。よしよし捕まえて懲して遣ろうと、ぬき足さし足うしろから近寄ってお出でになりました。
 室の隅で縫い物をしていらっしたお母様はお父様の様子に気がついて、どうしたのかと思って窓の外を見ると、猫は金魚をねらい、犬は猫のすぐ後に近寄り、坊ちゃんは犬のお尻を狙って引き金を引こうとし、お父様は坊ちゃんの襟を捕まえようとしておられます。うっかりすると金魚も猫も犬も坊ちゃんもみんなひどい目に合いそうです。お母様はどうしてよいやらわからなくなりました。
 その時にすぐ近所の砲台で耳も裂ける位大きなドンが鳴りました。
 金魚は驚いて石の下へ逃げ込みました。
 猫はガッカリしてうしろをふり返ると、犬がすぐ足もとにいたので驚いて家の中へ逃げ込みました。
 犬はしまったと思って縁側に飛び上ると、空気銃の弾丸が尻尾のさきをカスッたので驚いて逃げて行きました。
 坊ちゃんはガッカリしてうしろを見ますと、お父様が怖い顔をして立っておられたので、
「あれ。堪忍して頂戴」
 と言うなりに空気銃を投げ出して逃げて行きました。
「アハハハハハ」
 とお父様はお笑いになりました。
 お母様はホッとしました。
 それから間もなく金魚は餌を投げて貰いました。
 猫も犬も御飯をいただきました。
 その時お父様もお母様も坊ちゃんも楽しいお昼の御飯を食べていました。


――夢野久作「ドン」


……最近、世界中あちこちで「ドン」という音が鳴っている。みんな仲良くしようという合図に違いない。我々はその前に恥を知れ。