肥溜め

"Exodus" by Henry Mancini







　チラシ配りの途中、こんなのに気づいた。
これはもしや、懐かしの肥溜めではないか








　けふのBGM「栄光への脱出」が世に出た１９６０年代、すなわち私が小学生の頃は、この肥溜めが
そこここにあった。


化学肥料が解禁になって、農業の形がドラスティックに変わる、とばぐちだったであろう昭和３０年代。
人糞は貴重な肥料になったようだ。


だから、キャベツには必ず青虫がいたし、ついでにサナダムシなんぞもいたらしい。
要するに、有機農法というやつで、農薬の被害とは無縁の頃だったのだろう。


考えてみれば、中学時代頃までは、田植えの時期に田んぼに水を張ると、数日後には
びっしりと浮き草が発生したものだが、最近はとんと見ない。

これも何らかの農薬の類いのせいなのではないかと思っている。




　ただ、人糞肥料のデメリットもあったらしい。
というのは、野菜に潜んでいたサナダムシごと食った人の体内には寄生虫として住み着くらしく、
昔の人は結構、自分の体内に寄生虫を飼っていたらしい。


なので小学生の頃は、年一回、「かいじんそう」というクソ不味いものを学校で強制的に飲まされた。




海人草

紅藻類イギス目の海藻。珊瑚(さんご)礁に生育する。
カイニン酸を含み、古くから回虫駆除の民間薬として煎じ薬に使われる。
マクリ。
カイジンソウ。



そういえば、ギョウ虫検査でポキールとかいうのもやらされた。
その前は、検便だ。

マッチ箱に自分の出したものを詰めたっけ。
それがやがてプラケースに代わるんだけど、最初はマッチ箱だったもんなあ。


思えば、世の中全体が笑えるくらい原始的だった。
これも高度成長期の古き良き時代として、微笑ましい記憶と云えなくも無い。






　いつもの悪い癖で、ハナシがまた逸れたが、その肥溜めのこと。


大抵のそれは、蓋が無かった。
そして、中には空っぽのもあれば、つんつんに詰まったのもある。
でもって、長く放置されたものは、その表面がガチガチに乾燥している。




子供は、そういうものに異様に興味を示す。


かくいう私も、それがどのくらいの堅さを持ったものか試してみたくなる。
そして、小石を投げてみる。

なんと、それはコンと弾けてその上に乗っかった。

次はもう少し大きな石つぶてにしてみる。
今度は少し埋まった。


子供の興味は奥深い。


ついには漬け物石くらいの石を胸のところで抱えといて、「せーの」でそこめがけて
押し出す。


柔らかな弧を描いた漬け物石は、枠をはずれてゴンと外に転がる。
ちょっと離れすぎたのがいけないのだ。


そいつをも一回拾い上げて、今度はもう少し近寄り、その分、もっと上に突き上げた。
高さを確保して、より勢いのついた漬け物石は、見事に固い表層を突き破って、
ドッポンという音と共にお釣りを外に跳ね上げる。



　それが自分の足に引っ掛かった友達がいたような記憶が・・・
私自身では無かったとは思うのだが、もう５０年近く前のこと故、定かでは無い。






　そんなハナシを「チュー太郎」のお客さんと交わしたとき、肥溜めは野壺だったという女性がいた。
その女性のハナシによると、そんなコンクリートの箱ではなく、ただ地面を掘っただけの穴に溜めていたというのだ。


彼女は７つも年下なのに、時代に逆行するようなハナシではないか、なんで？
彼女の記憶違いか、もしかしたら地域によっての差か。


その子は白浜に実家があったらしく、その頃、ホタルも飛んでいたらしい。
てことは、同じ新居浜でも、もしかすると、そうした地域差があるのかも知れない。





　こういうハナシは、一体、いくつくらいまでの人に共感を得るのだろうか？
貴方の子供の頃はどうでしたか？・・・