熟成させつつ味わう為に開発された10Lの樫樽。
その昔、私がまだ真面目にバーテンダー修行をしていた頃、協会の仲間と、広島で開催されたNBAの全国大会に見学に行った。
そこには全国から選りすぐりのバーテンダーと、それにまつわる人達が集まるので、いきおい関連商品の格好の宣伝場所ともなる。
そんな、メーカーの宣伝ブースで、私が強烈に惚れ込んだのが、スコッチモルト販売(株)のモルト原酒樽である。
その頃は、3種あって、ハイランド、ローランド、アイレイ(当時はそう呼んでいたが、今はアイラ)の原酒12年物が10L入っている。
中でも、私はローランドのオーヘントッシャンに魅了された。
もしかして今ならハイランドのそれの方に価値を見出したかもしれないが、当時はとにかくそれを飲んだときに頭の中で雷が落ちたような気がしたものだ。
その花のような香りとレアな味わいは、瓶詰めのそれとはもう別物である。
知らなかった世界が目前に広がる感じといえばいいか。
ブースで顰蹙を買うほど何度も試飲をした私は一人唸った。
3種を交互に飲んで、頷いてはまた飲む。
多分異様な兄ちゃんだったに違いない(笑)。
くどいが、中でもやはりそのオーヘントッシャンの高アルコールなのにも拘わらずお菓子のような円やかさと、口中に広がる甘やかでエレガントな香り、舌に広がるコクは絶品だった。
ただし、私の記憶に間違いがなければ当時のそれは、26万円の値段がついていたかと思う。
ロミオとジュリエットを観てから3日ほどはオリビア・ハッセーの魅力の虜になって、ため息ばかりをついていた頃と似た(それほど大袈裟なものでもないか)ような気分で過ごしていたら、数ヶ月後にまた同じような状況でそいつに再開したのである。
ようやく忘れ掛かっていたところにまた誘惑の魔の手が。
ついに私は陥落した・・・
そんなこんなで、この樽がチュー太郎のカウンターに鎮座ましましたのが、1992年の2月(何にでも日付を残す癖が役立った)。
もう14年にもなる。
間に何度かリフィルで取り寄せて継ぎ足し、それは長い間チュー太郎の看板として頑張ってくれた。
にもかかわらず、店をさぼる時間経過と共に、私はその樽のメンテナンスを怠った。
その性質上、中には最低半分の量は酒が入っていなければ、樽の木が乾燥して隙間が出来るということは、重々承知していたのにも拘わらず、油断した。
あれほどの量の天使の分け前が必要だとは、判っていなかった。
チュー太郎再開に向けてボチボチやっている作業の一環として、その樽にウイスキーを詰めて、ハウスウイスキーとすべく、中にウイスキーを詰めることにする。
内心やばいかも、という気があったから、カウンターからははずして、少しくらい漏れてもいいようにテーブルにそれを移してから流し込んでいく。
すると、漏れる? なんてもんじゃなくダダ流れ。
見事に樽の円になった両方の蓋に当たる部分に大きな隙間が出来ている。
入れたウイスキーはもうそのままテーブルから床に流れ落ちた。
「どっしぇ~」
ここまでとは思わなかった。
ここで私は一計を案じる。
乾燥して隙間が出来たのなら、また湿らせてやればいいんだ。
てなわけで全体が水に浸かるように囲って数日。
その合間にも、他に有効な手だてはないものかと思案。
そこで、ネット検索、流石にそういうことまでは出てない、というか、もしそういうサイトがあったとしても行き当たらない。
もひとつ思いついたのが、購入元に教えを請うことである。
その資料は、捨ててはないとは思うが、探し出すのは一苦労。
ならば、ネット上でなんとかしようと、「スコッチモルト販売(株)」で検索を掛けると、いくつかのサイトが上がってくるが、そのもののサイトは無く、連絡先も判らない。
ブログ検索でも出てこない。
物は試しと、ブログはブログでも
で検索を掛けてみた。
すると、なんとあったのである。
流石じゃ!
そこで見つけたのが
スコッチショップというサイト。
ここが、スコッチモルト販売(株)の運営するサイトである。
早速そこのアドレスを頼りに事情を説明し、対応策を教えてもらおうとメールを送る。
すると、翌日返事をくれる。
それによると、その樽でそちらのモルトを今後も買うならば、修復可能かどうか見てみるから送れとのこと。
さて、困ったぞ、正直今はその気はない、すると、これ以上は先方には迷惑だ。
だから、検討してみるということで、お礼のメールを出した。
昨日また、その樽を移動するのに確認してみたところ、かなり隙間は塞がってきている。
ちょっと希望が出てきたには出てきたが、
このまましばらく様子を見て、どうしようもないなら、残念だけど飾りにするしかないのかなあ・・・
今ではこんなに安い!