松本清張が世に出る前の臥薪嘗胆時代の記録。
昭和38年から40年まで文藝に連載されたものと、昭和51年に読売新聞夕刊に連載された三篇から成り立っている。
なので、重複する部分もあるし、行ったり来たり感も拭えない。
それと、恐縮ながら、文章が稚拙な気がする。
そして、【白い絵本】の冒頭部分では、
私に面白い青春があるわけではなかった。濁った暗い反省であった。
と言い切っている。
事実、貧乏な家で育ち、後には親や家族を養うことに拘泥し、自由な青春時代は無かったようだ。
上の学校にも行けなかった身の上が恨めしく、劣等感を抱えて過ごしたらしい。
そう言われれば、菊池寛を描いた【文豪、社長になる】に見られる、作家同士の談論風発といった環境からは対極にあるように思われる。
私は、一度だけ、生の松本清張さんを凝視したことがある。
そこにはこう書いてある。
彼をこの目で見たのは、大学2年の頃だったと記憶している。
明治大学和泉校舎の講演に彼がやってきたのだ。
明治大学の文系は、1~2年の教育課程は和泉校舎で、3~4年は専門課程に進み、お茶の水校舎に移る。
その和泉校舎での講演を何故彼が受けたのか?
詳細は知らないが、学園祭とかそうした流れではなく、単独講演だったのである。
高校時代に「点と線」を読んで感銘を受けていた私は勿論、最前列に陣取った。
やはり、あのたらこ唇は凄かった。
先述したように、この本の最後の三篇は、丁度その頃のコラムだったと知って、なんだか感慨深い・・・