ベルガは無事に芙弓を救った後合コンをする事になり、
ランダムマッチによる組み合わせで自宅合コンをしたのである。
京子「実はあたし、黒杉財閥と結婚させられそうなの。」
ベルガ「えっ、マジで?」
京子「うん。そこで、ベルを見込んで頼みたい事があるの。」
ベルガ「黒杉財閥との結婚を阻止してほしいって事だな。今度はナニワの令嬢に手を出してきたか。」
ヘクセンハウス元帥「ベル、何で京子さんが令嬢だって分かるんだ?豪華そうなバッグなら桜子さんも持ってただろ?」
ベルガ「桜子の場合、バッグも服も靴もブランド品だが、服の着方が不慣れで財布は労働者階級の二つ折り。取り出していたクレジットカードは一般カードだ。つまりあの服装は彼女や親の所得ではまず買えない。あれは3人のキープ君に1種類ずつ買ってもらった物だ。京子は座り方にもコーヒーの飲み方にも茶道の癖が出ていた。茶道はナニワ共和国の上流階級で最も定石な習い事だ。」
ヘクセンハウス元帥「確かに両手で丁寧に飲んでたな。」
メルヘンランド女王「見事な推理である。」
京子「ベル、このお子さんと王冠をかぶった人は誰?」
ヘクセンハウス元帥「私は子供じゃないぞ。一応ベルより年上だからな。私はヘクセンハウスだ。」
メルヘンランド女王「妾はメルヘンランド女王である。」
京子「はあ・・・・話は戻るけど、私の父は京野財閥の社長で、黒杉財閥に政略結婚を催促されてるの。それで一人娘の私が黒杉政吾と婚約させられちゃったの。しかも近い内に結婚式を挙げるって親が言いだしたから、それでずっと困ってたの。」
ベルガ「なるほど。京子はどうして黒杉政吾と結婚したくないの?」
京子「だって将棋の駒みたいに使われてるみたいで嫌なんだもん。ジパングに嫁いだら専業主婦を余儀なくされるだろうし、一流の和食料理人を究める時間も無くなるだろうし、今は結婚したくないのよ。」
メルヘンランド女王「将棋とは一体何なのだ?」
ヘクセンハウス元帥「将棋とはジパングの対戦型ボードゲームの1つで、メルヘンランドでいうところのチェスのようなものです。」
メルヘンランド女王「なるほどな。一度やってみたいぞ。」
ベルガ「その縁談が破談になれば、京野財閥も立場が悪くなるだろう。この前株式会社春野が子会社を全て失っただろ。あれは黒杉財閥の逆鱗に触れたからだ。奴らを敵に回す覚悟はあるか?」
京子「あるに決まってるでしょ。だからね。あたしとつきあってよ。」
ベルガ「えっ・・・・つきあうって事は、つまりデートに行くって事?」
京子「それもあるけど、しばらくの間あたしの彼氏になってよ。さすがに彼氏がいるとなれば、うちの親も諦めざるを得ないだろうし。もちろん偽装交際はお父さんには内緒だよ。」
ベルガ「嫌だよそんなの。」
京子「じゃあこの小切手あげるから、それでどう?」
ベルガ「分かった。じゃあ今度京子の家に行くよ。(まあ、これなら良いや。)」
京子「うん。お父さんが明日の朝帰ってくるから明日来てよ。じゃあ、あたしは帰るわね。(ちょろいわね。)」
そう言うと京子はギルドカフェを後にしてナニワへと、
帰っていったが当のベルガは大喜びしていたのである。
ベルガ「よっしゃー、この依頼が終わったら美味いもん食いに行こうぜ。」
メルヘンランド女王「一体どうしたのだ?」
ベルガ「値段の書いてない小切手をくれたんだよ。」
ヘクセンハウス元帥「つまり言い値で依頼をするって事か。やったじゃないか。」
ベルガ「相手は財閥令嬢だからね。彼女にとってはそれほど重要な依頼だという事だよ。」
リコラ「書き忘れだと思ってた。」
ベルガ「彼女たちとはメアド交換を済ませたから、待ち合わせ場所は明日には届くと思うよ。」
翌日ベルガたちはナニワ共和国ミヤコシティへと来たのである。
京子の家は昔ながらのジパング仕様の和製の家だったのである。
ベルガ「ジパングから独立した国なだけあって、昔のジパングと同じ建物が多いね。」
ヘクセンハウス元帥「そうだな。」
京子「ベル、何でヘクセンハウスまでいるの?」
ベルガ「一応僕、メルヘンランドの元老院議員だし、色々あって護衛してもらう事になったんだ。」
ヘクセンハウス元帥「よろしくな。」
京子「別に良いけど。それよりお父さんが早く彼氏と会わせろって言うから、会って話してほしいの。」
ベルガ「何を話せばいいの?」
京子「あたしの彼氏だって事をアピールするだけよ。」
京子の父「君が京子の彼氏か。」
ベルガ「う、うん。僕はベルガ・オーガスト・ロートリンゲン。メルヘンランドでバリスタをやってる。こっちは僕の護衛のヘクセンハウス。もしかして美夜子の親父か?」
京子の父「はい。私が京野財閥の社長、京野京次郎です。京子がずっとお世話になっているようですが、君には京子と別れてもらいます。」
京子「お父さんっ。会うなりいきなりそれはないでしょ。」
京次郎「京子、私たちに遊んでいる時間はないんだよ。そんな女子みたいな男よりも黒杉政吾君はとても良い男だぞ。ネオトーキョー大学の理系第三学部に首席で合格した上に、高身長で黒杉財閥の役員もやっている三高男子なんだぞ。」
京子「政吾君ってそんなに頭良い人なんだ。」
ベルガ「イカサマだよ。僕はあいつと同じ中学だったから分かるけど、あいつのテストの成績はいつも振るわなかった。事前に大学側の人間を買収して、入試の回答を手に入れてそれを覚えていたんだ。これなら馬鹿でも受かる。買収は黒杉財閥の18番だ。あの父親にしてあの息子だな。」
京次郎「そういう君はどうなんですか?身長は京子よりも低い上に、学歴も中学校追放処分と聞きました。失礼ですが、年収の方は大丈夫なんでしょうか?」
ベルガ「200万くらいだよ。」
京次郎「話になりませんね。我々と縁を結ぶなら、せめてグループ企業の御曹司クラスの者でないと。」
ベルガ「こちとらあんたとは違ってずっと不況の渦中にいたからね。それでも変わらない稼ぎを維持してこれたんだ。不況に負けない頑丈さにおいては黒杉財閥を凌駕する自信があるよ。あんたみたいに家族を顧みないでライス合衆国まで仕事へ行く事もそうそうないし。」
京次郎「京子、私の事を喋ったのか?」
京子「いや、全く。」
京次郎「何故私がライスから帰ってきた事が分かったのですか?」
ベルガ「この部屋に移動する途中で見たブリティア語の教科書だ。波打ってはいたが色あせていない。使ったのは最近だからブリティア語圏へ行く予定があった。ビジネスバッグにほこりがないから旅行ではなく仕事だ。昨日京子が明日の朝あんたが帰ってくると言っていた。日帰りでなくブリティア語圏との距離を考えれば遠出。ブリティア語圏で今日の朝ここに着く便は、ライスからナニワへの便だけだ。」
京次郎「だから何だというのですか?」
ベルガ「少しは京子の気持ちも考えろよ。あんたは京子の事を何も分かってない。自分にとっての最善が京子にとっても最善だと思い込んでる。でもそうじゃない。親の敷いたレールが子供に合わない事もあるんだ。かつての僕がそうだったように。」
京次郎「・・・・詳しく聞かせてもらえますか?」
ベルガ「僕の実家は民族衣装専門店だった。僕が裁縫が得意だった事もあって、親から民族衣装製造技能士になるように言われたけど、僕はバリスタになりたかった。でも親に反対され、喧嘩になった矢先に店をジパングに潰され、親は仲直りする前に死んでしまった。皮肉な事に、僕はそれで押さえつける人がいなくなってバリスタになれた。まだあの世で反対してるのかなって後悔した事もあった。でもこれだけは言える。親の意見に流されてたら、もっと後悔してたと思う。京子にはそんな辛い思いをしてほしくないんだよ。」
京子「・・・・ベル。」
ベルガ「人に決められる人生なんて送ってたら、肝心な時に自分で判断できない人間になっちゃうよ。」
京次郎「・・・・少し考えさせてください。京子はどう思ってるんだ。」
京子「あたしは・・・・一流の和食料理人を目指したい。それまで結婚は考えたくないし、結婚するなら好きだと思える人が良いの。」
京次郎「そうか。分かった。政吾君にはそう伝えておく。」
ベルガ「黒杉にはもう伝わってるよ。そっちの部屋にいるんだろ?」
政吾「いつから気づいてたんだい?」
ベルガ「玄関に入った時からだ。京子の親父とは明らかに一致しないサイズのエナメル靴。脱いでから隅に寄せているあたり、素養のある上流階級の人間だ。その手の人間で京子の結婚式が迫っているこの時期にここへ来そうなのはお前くらいだ。」
ヘクセンハウス元帥「お前こいつが近くにいるのを知っててイカサマとか言ってたのかよ。」
ベルガ「僕が京子や京子の親父に言っていた台詞は、黒杉への台詞でもある。」
政吾「全く、君の推理には中学時代からうんざりさせられるよ。僕を贔屓にしていた担任がキャバクラに行った事を見破って退職させたり、僕を立てるための八百長運動会を教育委員会に報告したり、昔から君は僕にとって邪魔でしかないよ。」
ベルガ「僕は正しいと思った事をしてきただけだ。そんなせこい真似してもいずれボロが出るだけだぞ。」
ヘクセンハウス元帥「(ベルはその時には、もう変な事に拘る習性があったのか。)」
京子「あんたってほんと呆れるほど善人タイプの変人よね。普通の人なら仕返しを恐れて見逃すところなのに。」
ベルガ「茶番につき合わされる方の身にもなってほしいものだよ。」
京次郎「政吾君、あなたには悪いですが、京子を嫁に出す相手としてあなたは不適切なようです。むしろベルガさんのように、京子の事を第一に考えてくれる人の方が安心できます。」
政吾「はい。今度は誰にも頼らず、自分の力だけで京子さんに振り向いてもらいますよ。父には僕の方から断ったと伝えておきます。こう言えば父も手出しはしないでしょう。では僕はこれで。」
ベルガ「お前にしては気持ち悪いくらい律儀だな。なんか変なもんでも食ったか?」
政吾「気が変わっただけだ。嫁候補たちが君を好きになった理由が少し分かった気がするよ。正直、僕は君のような社会性のない人間は嫌いだ。」
ベルガ「奇遇だな。僕もお前が嫌いだ。」
政吾「その減らず口がいつまで持つかな。君は最低な人間にして最悪の変人だ。」
ベルガ「僕からも言わせてもらうと、僕はずっとお前の一族を恨んでいた。でも最近気づいたんだ。お前も、お前の親父も、時代に翻弄された被害者だとな。だから今は恨んじゃいないよ。むしろ哀れみすら持ってる。」
政吾「言ってくれるな。まあ、僕も最近は親父の強引なやり方に疑問を持つようになった。」
ベルガ「気づくのがおせえんだよ。」
政吾「うるせえ。皮肉な話だが、僕はお前のおかげでようやく親元から独立できたんだ。お前が言ってた通り、僕も親父の言いなりにはならない。じゃあな。」
ベルガ「やれやれ、何を考えてるんだか。」
京次郎「ベルガさん、話し合って決めた結果です。京子の事、よろしくお願いします。」
ベルガ「京次郎さん、悪いんだけど、僕は京子と黒杉政吾の結婚を阻止するための偽装交際につきあってただけで、目的を達成した時点で交際は終わってるんだよね。」
京次郎「えっ・・・・京子、それは本当なのか?」
京子「黙っててごめん。こうでもしないと結婚させられそうだったから。」
京次郎「そうか。京子に親身になってくれていただけに残念だ。」
ベルガ「京子、僕は君の親父に偽装交際を内緒にするという約束を守れなかったから、依頼料はいらないよ。やっぱ自分に嘘は吐けないや。」
京子「ベル・・・・ありがとう。つき合えないのは残念だけど、じゃあね。」
こうしてベルガたちはギルドカフェへと戻り、
リコラたちにこの事情を報告したのである。
ヘクセンハウス元帥「お前がへまをしたせいで骨折り損のくたびれ儲けだ。約束を破ったのはわざとだな?」
ベルガ「うん。悪いね。依頼料貰えなかったから、食べに行く話はなしだ。」
リコラ「まあ、それなら仕方ないね。」
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ランダムマッチによる組み合わせで自宅合コンをしたのである。
京子「実はあたし、黒杉財閥と結婚させられそうなの。」
ベルガ「えっ、マジで?」
京子「うん。そこで、ベルを見込んで頼みたい事があるの。」
ベルガ「黒杉財閥との結婚を阻止してほしいって事だな。今度はナニワの令嬢に手を出してきたか。」
ヘクセンハウス元帥「ベル、何で京子さんが令嬢だって分かるんだ?豪華そうなバッグなら桜子さんも持ってただろ?」
ベルガ「桜子の場合、バッグも服も靴もブランド品だが、服の着方が不慣れで財布は労働者階級の二つ折り。取り出していたクレジットカードは一般カードだ。つまりあの服装は彼女や親の所得ではまず買えない。あれは3人のキープ君に1種類ずつ買ってもらった物だ。京子は座り方にもコーヒーの飲み方にも茶道の癖が出ていた。茶道はナニワ共和国の上流階級で最も定石な習い事だ。」
ヘクセンハウス元帥「確かに両手で丁寧に飲んでたな。」
メルヘンランド女王「見事な推理である。」
京子「ベル、このお子さんと王冠をかぶった人は誰?」
ヘクセンハウス元帥「私は子供じゃないぞ。一応ベルより年上だからな。私はヘクセンハウスだ。」
メルヘンランド女王「妾はメルヘンランド女王である。」
京子「はあ・・・・話は戻るけど、私の父は京野財閥の社長で、黒杉財閥に政略結婚を催促されてるの。それで一人娘の私が黒杉政吾と婚約させられちゃったの。しかも近い内に結婚式を挙げるって親が言いだしたから、それでずっと困ってたの。」
ベルガ「なるほど。京子はどうして黒杉政吾と結婚したくないの?」
京子「だって将棋の駒みたいに使われてるみたいで嫌なんだもん。ジパングに嫁いだら専業主婦を余儀なくされるだろうし、一流の和食料理人を究める時間も無くなるだろうし、今は結婚したくないのよ。」
メルヘンランド女王「将棋とは一体何なのだ?」
ヘクセンハウス元帥「将棋とはジパングの対戦型ボードゲームの1つで、メルヘンランドでいうところのチェスのようなものです。」
メルヘンランド女王「なるほどな。一度やってみたいぞ。」
ベルガ「その縁談が破談になれば、京野財閥も立場が悪くなるだろう。この前株式会社春野が子会社を全て失っただろ。あれは黒杉財閥の逆鱗に触れたからだ。奴らを敵に回す覚悟はあるか?」
京子「あるに決まってるでしょ。だからね。あたしとつきあってよ。」
ベルガ「えっ・・・・つきあうって事は、つまりデートに行くって事?」
京子「それもあるけど、しばらくの間あたしの彼氏になってよ。さすがに彼氏がいるとなれば、うちの親も諦めざるを得ないだろうし。もちろん偽装交際はお父さんには内緒だよ。」
ベルガ「嫌だよそんなの。」
京子「じゃあこの小切手あげるから、それでどう?」
ベルガ「分かった。じゃあ今度京子の家に行くよ。(まあ、これなら良いや。)」
京子「うん。お父さんが明日の朝帰ってくるから明日来てよ。じゃあ、あたしは帰るわね。(ちょろいわね。)」
そう言うと京子はギルドカフェを後にしてナニワへと、
帰っていったが当のベルガは大喜びしていたのである。
ベルガ「よっしゃー、この依頼が終わったら美味いもん食いに行こうぜ。」
メルヘンランド女王「一体どうしたのだ?」
ベルガ「値段の書いてない小切手をくれたんだよ。」
ヘクセンハウス元帥「つまり言い値で依頼をするって事か。やったじゃないか。」
ベルガ「相手は財閥令嬢だからね。彼女にとってはそれほど重要な依頼だという事だよ。」
リコラ「書き忘れだと思ってた。」
ベルガ「彼女たちとはメアド交換を済ませたから、待ち合わせ場所は明日には届くと思うよ。」
翌日ベルガたちはナニワ共和国ミヤコシティへと来たのである。
京子の家は昔ながらのジパング仕様の和製の家だったのである。
ベルガ「ジパングから独立した国なだけあって、昔のジパングと同じ建物が多いね。」
ヘクセンハウス元帥「そうだな。」
京子「ベル、何でヘクセンハウスまでいるの?」
ベルガ「一応僕、メルヘンランドの元老院議員だし、色々あって護衛してもらう事になったんだ。」
ヘクセンハウス元帥「よろしくな。」
京子「別に良いけど。それよりお父さんが早く彼氏と会わせろって言うから、会って話してほしいの。」
ベルガ「何を話せばいいの?」
京子「あたしの彼氏だって事をアピールするだけよ。」
京子の父「君が京子の彼氏か。」
ベルガ「う、うん。僕はベルガ・オーガスト・ロートリンゲン。メルヘンランドでバリスタをやってる。こっちは僕の護衛のヘクセンハウス。もしかして美夜子の親父か?」
京子の父「はい。私が京野財閥の社長、京野京次郎です。京子がずっとお世話になっているようですが、君には京子と別れてもらいます。」
京子「お父さんっ。会うなりいきなりそれはないでしょ。」
京次郎「京子、私たちに遊んでいる時間はないんだよ。そんな女子みたいな男よりも黒杉政吾君はとても良い男だぞ。ネオトーキョー大学の理系第三学部に首席で合格した上に、高身長で黒杉財閥の役員もやっている三高男子なんだぞ。」
京子「政吾君ってそんなに頭良い人なんだ。」
ベルガ「イカサマだよ。僕はあいつと同じ中学だったから分かるけど、あいつのテストの成績はいつも振るわなかった。事前に大学側の人間を買収して、入試の回答を手に入れてそれを覚えていたんだ。これなら馬鹿でも受かる。買収は黒杉財閥の18番だ。あの父親にしてあの息子だな。」
京次郎「そういう君はどうなんですか?身長は京子よりも低い上に、学歴も中学校追放処分と聞きました。失礼ですが、年収の方は大丈夫なんでしょうか?」
ベルガ「200万くらいだよ。」
京次郎「話になりませんね。我々と縁を結ぶなら、せめてグループ企業の御曹司クラスの者でないと。」
ベルガ「こちとらあんたとは違ってずっと不況の渦中にいたからね。それでも変わらない稼ぎを維持してこれたんだ。不況に負けない頑丈さにおいては黒杉財閥を凌駕する自信があるよ。あんたみたいに家族を顧みないでライス合衆国まで仕事へ行く事もそうそうないし。」
京次郎「京子、私の事を喋ったのか?」
京子「いや、全く。」
京次郎「何故私がライスから帰ってきた事が分かったのですか?」
ベルガ「この部屋に移動する途中で見たブリティア語の教科書だ。波打ってはいたが色あせていない。使ったのは最近だからブリティア語圏へ行く予定があった。ビジネスバッグにほこりがないから旅行ではなく仕事だ。昨日京子が明日の朝あんたが帰ってくると言っていた。日帰りでなくブリティア語圏との距離を考えれば遠出。ブリティア語圏で今日の朝ここに着く便は、ライスからナニワへの便だけだ。」
京次郎「だから何だというのですか?」
ベルガ「少しは京子の気持ちも考えろよ。あんたは京子の事を何も分かってない。自分にとっての最善が京子にとっても最善だと思い込んでる。でもそうじゃない。親の敷いたレールが子供に合わない事もあるんだ。かつての僕がそうだったように。」
京次郎「・・・・詳しく聞かせてもらえますか?」
ベルガ「僕の実家は民族衣装専門店だった。僕が裁縫が得意だった事もあって、親から民族衣装製造技能士になるように言われたけど、僕はバリスタになりたかった。でも親に反対され、喧嘩になった矢先に店をジパングに潰され、親は仲直りする前に死んでしまった。皮肉な事に、僕はそれで押さえつける人がいなくなってバリスタになれた。まだあの世で反対してるのかなって後悔した事もあった。でもこれだけは言える。親の意見に流されてたら、もっと後悔してたと思う。京子にはそんな辛い思いをしてほしくないんだよ。」
京子「・・・・ベル。」
ベルガ「人に決められる人生なんて送ってたら、肝心な時に自分で判断できない人間になっちゃうよ。」
京次郎「・・・・少し考えさせてください。京子はどう思ってるんだ。」
京子「あたしは・・・・一流の和食料理人を目指したい。それまで結婚は考えたくないし、結婚するなら好きだと思える人が良いの。」
京次郎「そうか。分かった。政吾君にはそう伝えておく。」
ベルガ「黒杉にはもう伝わってるよ。そっちの部屋にいるんだろ?」
政吾「いつから気づいてたんだい?」
ベルガ「玄関に入った時からだ。京子の親父とは明らかに一致しないサイズのエナメル靴。脱いでから隅に寄せているあたり、素養のある上流階級の人間だ。その手の人間で京子の結婚式が迫っているこの時期にここへ来そうなのはお前くらいだ。」
ヘクセンハウス元帥「お前こいつが近くにいるのを知っててイカサマとか言ってたのかよ。」
ベルガ「僕が京子や京子の親父に言っていた台詞は、黒杉への台詞でもある。」
政吾「全く、君の推理には中学時代からうんざりさせられるよ。僕を贔屓にしていた担任がキャバクラに行った事を見破って退職させたり、僕を立てるための八百長運動会を教育委員会に報告したり、昔から君は僕にとって邪魔でしかないよ。」
ベルガ「僕は正しいと思った事をしてきただけだ。そんなせこい真似してもいずれボロが出るだけだぞ。」
ヘクセンハウス元帥「(ベルはその時には、もう変な事に拘る習性があったのか。)」
京子「あんたってほんと呆れるほど善人タイプの変人よね。普通の人なら仕返しを恐れて見逃すところなのに。」
ベルガ「茶番につき合わされる方の身にもなってほしいものだよ。」
京次郎「政吾君、あなたには悪いですが、京子を嫁に出す相手としてあなたは不適切なようです。むしろベルガさんのように、京子の事を第一に考えてくれる人の方が安心できます。」
政吾「はい。今度は誰にも頼らず、自分の力だけで京子さんに振り向いてもらいますよ。父には僕の方から断ったと伝えておきます。こう言えば父も手出しはしないでしょう。では僕はこれで。」
ベルガ「お前にしては気持ち悪いくらい律儀だな。なんか変なもんでも食ったか?」
政吾「気が変わっただけだ。嫁候補たちが君を好きになった理由が少し分かった気がするよ。正直、僕は君のような社会性のない人間は嫌いだ。」
ベルガ「奇遇だな。僕もお前が嫌いだ。」
政吾「その減らず口がいつまで持つかな。君は最低な人間にして最悪の変人だ。」
ベルガ「僕からも言わせてもらうと、僕はずっとお前の一族を恨んでいた。でも最近気づいたんだ。お前も、お前の親父も、時代に翻弄された被害者だとな。だから今は恨んじゃいないよ。むしろ哀れみすら持ってる。」
政吾「言ってくれるな。まあ、僕も最近は親父の強引なやり方に疑問を持つようになった。」
ベルガ「気づくのがおせえんだよ。」
政吾「うるせえ。皮肉な話だが、僕はお前のおかげでようやく親元から独立できたんだ。お前が言ってた通り、僕も親父の言いなりにはならない。じゃあな。」
ベルガ「やれやれ、何を考えてるんだか。」
京次郎「ベルガさん、話し合って決めた結果です。京子の事、よろしくお願いします。」
ベルガ「京次郎さん、悪いんだけど、僕は京子と黒杉政吾の結婚を阻止するための偽装交際につきあってただけで、目的を達成した時点で交際は終わってるんだよね。」
京次郎「えっ・・・・京子、それは本当なのか?」
京子「黙っててごめん。こうでもしないと結婚させられそうだったから。」
京次郎「そうか。京子に親身になってくれていただけに残念だ。」
ベルガ「京子、僕は君の親父に偽装交際を内緒にするという約束を守れなかったから、依頼料はいらないよ。やっぱ自分に嘘は吐けないや。」
京子「ベル・・・・ありがとう。つき合えないのは残念だけど、じゃあね。」
こうしてベルガたちはギルドカフェへと戻り、
リコラたちにこの事情を報告したのである。
ヘクセンハウス元帥「お前がへまをしたせいで骨折り損のくたびれ儲けだ。約束を破ったのはわざとだな?」
ベルガ「うん。悪いね。依頼料貰えなかったから、食べに行く話はなしだ。」
リコラ「まあ、それなら仕方ないね。」
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