今、自衛隊の在り方を問う!

急ピッチで進行する南西シフト態勢、巡航ミサイルなどの導入、際限なく拡大する軍事費、そして、隊内で吹き荒れるパワハラ……

安保3文書に見る琉球列島の島々の恐るべき「有事の住民避難」―果たして自衛隊は住民避難を行えるのか?

2022年12月19日 | 政治・沖縄・日米共同作戦

(表紙写真は、1944年8月22日、沖縄から九州へ避難する児童生徒らを載せた輸送船・対馬丸で、米潜水艦の攻撃に遭い、児童ら1484名の悲惨な犠牲をだした)

●安保3文書は「沖縄文書」(南西シフト

安保3文書の大改定と問題点については、その歴史的大軍拡(防衛費の2倍化など)について、メディアがさまざまな論評を行っている。特に沖縄の各紙は「沖縄戦の再来」として、連日厳しい論評を加えている。
確かに、この安保3文書は、自民党国防族がいうように「沖縄文書」であり、自衛隊および米軍の南西シフト態勢の大強化――急速な有事=戦時態勢づくりめざす文書であり、このための国民への宣言(宣伝・煽動)だ。

ただ、ここで再度強調しなければならないのは、この安保3文書が「沖縄文書」すなわち、琉球列島の要塞化、とりわけ、この列島が中国へのミサイル攻撃基地(拠点)になることについて、メディアはもとより、反戦平和運動を担っている人々、知識人のほとんどの認識が欠落していることについてだ。
この歴史的大軍拡――軍事費大増強の内容、真の意図を私たちは正確に認識しなければならない。今政府・自衛隊(米軍)が行っているのは、一般的軍拡でもなければ、軍事費2倍化の大増強一般でもない。
繰り返すが、政府・自衛隊が目論み、政治的・軍事的目標にしているのは、琉球列島のミサイル攻撃基地化(拠点化)であり、対中国への戦争態勢だ。

そのために、12式地対艦ミサイルの長射程化(地上発射・空中発射・艦艇発射・潜水艦発射)、ミサイル量産化であり、(極)超高速滑空弾の開発配備であり、極超音速ミサイルの開発配備、米軍のトマホークの配備(500発)である。
安保3文書の発表を見ての通り、琉球列島の島々に、これらのミサイルがズラリと隙間なく配備されるのだ。
この軍事的実態を観ることなく、今なお「軍拡一般」を語る人々は、現実をまったく見る知識も判断力もないのかと、厳しく批判しなければならない。

事態は、決定的に重大な段階に来ている。
「国家安全保障戦略(NSS)」によれば、「現下の我が国を取り巻く安全保障環境を踏まえれば、我が国の防衛力の抜本的強化は、速やかに実現していく必要がある。具体的には、 本戦略策定から5年後の 2027 年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受 けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する」としているのだ(2021年3月インド太平洋軍司令官デービットソンの「台湾有事」デマに乗っかる)。

●沖縄ー先島の国民保護・住民避難を明記した安保3文書

さて、この琉球列島のミサイル要塞化をはじめ、安保3文書には、沖縄への陸自師団の設置・増強(現在は旅団)――常設の統合司令部を創設、地対艦ミサイル部隊の7個連隊(琉球列島へ2個連隊)への増強、与那国島などへの地対空ミサイル部隊配備、ミサイル弾体など(弾薬庫増強)の継戦能力強化など、有事事態ー戦争へのさまざまな態勢づくりが唱えられている。

私は、この中において、特に多くの人々が認識・把握できていない「国民保護ー住民避難」問題について、重点的に見ておきたいと思う。
この問題は、政府・自衛隊が「有事事態」をどのように見ているのかを如実に現しているだけではない。この問題は、沖縄ー琉球列島住民にとって、ひじょうに緊迫した、厳しい切実的問題となりつつあるからだ。

結論から言えば、安保3文書は、沖縄ー琉球列島住民への「島外避難」を初めて唱え、現実に「島外避難」(棄民政策)を押し進めようとする、とんでもない、非人道的な、政府決定文書だということだ。しかも、その避難とは「武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現」するという、つまり、「平時の避難」であり、文字通り沖縄ー琉球列島の人々の「棄民政策」である。

では、2022年12月16日発表の安保3文書が、有事の住民避難について、どのように明記しているのか、その文面から見てみよう。

●国家安全保障戦略(NSS)
「国民保護のための体制の強化  国、地方公共団体、指定公共機関等が協力して、住民を守るための 取組を進めるなど、国民保護のための体制を強化する。具体的には、 武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現すべく、円滑な避難に関する計画の速やかな策定、官民の輸送手段の確保、空港・港湾等の公共インフラの整備と利用調整、様々な種類の避難施設の確保、国際機関との連携等を行う。 また、こうした取組の実効性を高めるため、住民避難等の各種訓練の実施と検証を行った上で、国、地方公共団体、指定公共機関等の連携を推進しつつ、制度面を含む必要な施策の検討を行う」

●国家防衛戦略(NDS現大綱)
「機動展開能力・国民保護  島嶼部を含む我が国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保し、我が 国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止するため、平素配備している部隊が常時活動するとともに、状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開させる必要がある。 このため、自衛隊自身の海上輸送力・航空輸送力を強化するとともに、民間資金等活用事業(PFI)等の民間輸送力を最大限活用する。 また、これらによる部隊への輸送・補給等がより円滑かつ効果的に実施できるように、統合による後方補給態勢を強化し、特に島嶼部が集中する南西地域における空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大や補給能力の向上を実施していくと ともに、全国に所在する補給拠点の近代化を積極的に推進する。 自衛隊は島嶼部における侵害排除のみならず、強化された機動展開能力を住民避難に活用するなど、国民保護の任務を実施していく。 このため、2027 年度までに、PFI船舶の活用の拡大等により、輸送能力を強化することで、南西方面の防衛態勢を迅速に構築可能な能力を獲得し、住民避難の迅速化を図る。」

●防衛力整備計画
「機動展開能力・国民保護 自衛隊の機動展開や国民保護の実効性を高めるために、平素から 各種アセット等の運用を適切に行えるよう、政府全体として、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化する施策に取り組むとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として使用するために必要な措置を講じる。さ らに、自衛隊の機動展開のための民間船舶・航空機の利用の拡大について関係機関等との連携を深めるとともに、当該船舶・航空機に加え自衛隊の各種輸送アセットも利用した国民保護措置を計画的に行えるよう調整・協力する。その際、政府全体として、武力攻撃事態等を念頭に置いた国民保護訓練の強化や様々な種類の避難施設の確保を行う。また、国民保護にも対応できる自衛隊の部隊の強化、予備自衛官の活用等の各種施策を推進す る。」

皆さんは、下記のマークを知っていますか?

東京都国民保護計画の表紙


だが、待てよ!
自衛隊は「軍民分離の原則」、および上のマーク(特殊標識)をご存じか。

ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第48条は、以下のように規定する。
「基本原則 紛争当事者は、文民たる住民及び民用物を尊重し及び保護することを確保するため、文民たる住民と戦闘員とを、また、民用物と軍事目標とを常に区別し、及び軍事目標のみを軍事行動の対象とする。」

引用のように、ジュネーヴ諸条約は、「戦闘員と非戦闘員」「軍事目標と非軍事目標」の区別を「基本原則」とし、「軍民分離の原則」を明確に定めている。
この規定は、現代戦(総力戦)において、非戦闘員の住民・市民の戦争による犠牲が膨大化しつつあることが背景にある。第1次世界大戦では住民の死亡5%、第2次世界大戦では45%、ベトナム戦争では95%に及んだ。
この事態から、戦後の1977年ジュネーヴ諸条約第1追加議定書が制定された。そして、2004年成立の国民保護法も、同法に基づく住民避難計画を規定することになったのだ。

さて、マーク(特殊標章)とは、オレンジ色地に青の正三角形で、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書「識別に関する規則」にいう特殊標章だ。
赤十字標識と同様、国民保護に従事する航空機・船舶・建物・地区等に目立つように掲げる義務がある。この特殊標章により有事に避難する住民が軍事目標になるのを防ぐ。


*標章は、東京都国民保護計画の表紙にも、沖縄県を始め自治体の保護計画や消防庁、海上保安庁の同計画にも明記。ジュネーヴ諸条約は、以下のように明記する。

第66条 識別 
1 紛争当事者は、自国の文民保護組織並びにその要員、建物及び物品が専ら文民保護の任務の遂行に充てられている間、これらのものが識別されることのできることを確保するよう努める。文民たる住民に提供される避難所も、同様に識別されることができるようにすべきである。

2 紛争当事者は、また、文民保護の国際的な特殊標章が表示される文民のための避難所並びに文民保護の要員、建物及び物品の識別を可能にする方法及び手続を採用し及び実施するよう努める。

3 文民保護の文民たる要員については、占領地域及び戦闘が現に行われており又は行われるおそれのある地域においては、文民保護の国際的な特殊標章及び身分証明書によって識別されることができるようにすべきである。

4 文民保護の国際的な特殊標章は、文民保護組織並びにその要員、建物及び物品の保護並びに文民のための避難所のために使用するときは、オレンジ色地に青色の正三角形とする。

なお、この規定を受け、政府の「赤十字標章等及び特殊標章等に係る事務の運用に関するガイドライン」(2005年8月2日)においても、「特殊標章」を規定している。


●防衛省・自衛隊の国民保護規定
ところが、驚くことに、国民保護を謳う「防衛省・防衛装備庁国民保護計画」(2005年)等には、これらの「特殊標章」の規定が全く記されないのだ。
これについて、救急救助専門の国士舘大中林啓修は「自衛隊に特殊標章規定がないのは専従部隊の提供を予定していない」と解説する。

つまり、自衛隊が予定する国民保護なるものは、当初から住民保護を予定していないのだ。
実際、防衛省の国民保護計画は「国民保護措置の基本的考え方」として「我が国に対する武力攻撃の排除措置に全力を尽すことが主たる任務」であり、「排除措置に支障の生じない範囲で可能な限り国民保護措置を実施」とする(統合幕僚監部の『統合運用教範』も同様の記述)。

ここに規定するように、自衛隊が国民保護を実際上行い得ないのは、圧倒的輸送力不足からである。したがって、安保3文書でも自衛隊は、PFI船舶を含む輸送力の強化を謳っているのだ(自衛隊のPFI船舶は「なっちゃんワールド、はくおうの2隻であり、大型輸送艦は3隻のみ)。
ちなみに、1982年のフォークランド戦争では、英国は1個旅団の兵力と兵站3カ月分を輸送するのに、100隻の大型船舶を要した。『フォークランド戦争史』防衛研究所)。

しかし問題は、この輸送力の圧倒的不足だけではない。もっと根本的大問題が背後にあるのだ。
安保3文書の規定をみてほしい。住民避難が「機動展開能力・国民保護」とセットで記述されている。

つまり、自衛隊は、先に見たように、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書がいう、「軍民分離の原則」をまったく認識していない、ということだ。自衛隊がこの原則を認識できていれば、「機動展開能力・国民保護」を一体的に記述するはずがない。

いわば、「強化された機動展開能力」というが、ジュネーヴ諸条約が厳格に規定する「特殊標識を付けた避難専用船舶等」の規定が、どこにも見当たらないのである。
繰り返すが、ジュネーヴ諸条約には、赤十字標章同様、特殊標識を国民保護に従事する航空機・船舶・地区等に目立つように掲げる義務があるだけでなく、この船舶等は、いったん住民保護に使用されたならば、これを再び軍用に使用することは許されないのだ。

ちなみに、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書には、次のように明記されている。
*第67条 文民保護組織に配属される軍隊の構成員及び部隊
1 文民保護組織に配属される軍隊の構成員及び部隊は、次のことを条件として、尊重され、かつ、保護される。
(a)要員及び部隊が第61条に規定する任務のいずれかの遂行に常時充てられ、かつ、専らその遂行に従事すること。
(b)(a)に規定する任務の遂行に充てられる要員が紛争の間他のいかなる軍事上の任務も遂行しないこと。
(c)文民保護の国際的な特殊標章であって適当な大きさのものを明確に表示することにより、要員が他の軍隊の構成員から明瞭に区別されることができること(以下略)

このジュネーヴ諸条約の規定は、ひじょうに重要な規定だ。つまり、自衛隊が一旦、避難民の輸送に当たった場合、この当該軍用輸送船等は、今後いっさい、軍用には使えないということだ。
輸送力の圧倒的不足にある自衛隊が、このような住民避難専用任務につくということは、全く不可能というべきだ。これは、以前から、制服組からも度々指摘されていたことである。
にもかかわらず、安保3文書が初めて国民保護法に基づく住民避難について明記することになったのは、沖縄戦の文字通りの再現を危惧する、沖縄等の人々の「反対運動の沈静化」を謀るためだ。

例えば、有名な「対馬丸事件」。1944年8月22日、沖縄から九州へ避難する児童生徒らを載せた輸送船が、米潜水艦の攻撃に遭い、児童生徒ら1484名の悲惨な犠牲をだした。この船は、もともと民間船であったが、戦争中、軍事輸送任務につつき、撃沈されたときも「往路は軍事輸送、復路は疎開輸送」ということであった。


まさに、この対馬丸の悲惨な事態に見るように、安保3文書にみる政府・自衛隊の「国民保護・住民避難」の規定は、「軍民分離の原則」を全く考慮しない、とんでもない暴策と言わねばならない。
それとも、政府・自衛隊は、「有事事態」では避難しない、「平時の避難」だと強弁するのか?
だが、自衛隊は、繰り返し防衛白書などでも明記しているではないか。「平時と有事はシームレスに発展する」と。

結論から言うと、現実は「有事の住民避難は不可能」であり、政府・自治体が行えるのは「厳然たる平時の避難」、つまり、平時からの沖縄ー琉球列島の人々の疎開である。そして、これは何年も続く、沖縄島などからの棄民である。

「国家安全保障戦略(NSS)」の国民保護・住民避難についても「武力攻撃より十分に先立って」避難を進める、と明記する。この文書は、決定的に重要だ。

「台湾有事」キャンペーンに見るように、住民に戦争を煽り、不安にさせ、平時から避難を強いる。
しかし、このような沖縄ー琉球列島の人々の生活を全面的に破壊する避難計画こそは、問題の転倒だ。必要なのは、琉球列島の軍事要塞化を凍結し有事を招かない、中国との徹底した平和外交だ。

安保3文書には、この平和外交の記述がほとんど見られないばかりか、「中国脅威論」がうんざりするほど、繰り返し繰り返し書かれている。この岸田自公民政権の歴史的横暴を私たちは徹底して糺さねばならない。

参考文献 『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』
参考資料 2022/12/18付沖縄タイムス






軍事ジャーナリスト・小西 誠が暴く南西シフト態勢(アメリカのアジア戦略と日米軍の「島嶼戦争」(part6)10分)

2020年05月31日 | 政治・沖縄・日米共同作戦
メディアが報じない、恐るべきミサイル基地建設が先島―南西諸島で始まっている! この全貌を軍事ジャーナリスト・小西 誠が徹底して暴く!

 
宮古島・奄美大島・石垣島ー与那国島・沖縄本島・水陸機動団編に続いての、part6はアメリカのアジア戦略と日米軍の「島嶼戦争」。
自衛隊と米軍との共同態勢下に、南西諸島への米海兵隊・米陸軍の地対艦ミサイル、中距離弾道ミサイル部隊配備などの一大軍事計画が進行。
この凄まじい実態を追及!

●軍事ジャーナリスト・小西 誠が暴く南西シフト態勢part1~part5
*part1、与那国島・石垣島編
https://youtu.be/2RqdmGT-lr4

*part2、宮古島編
https://youtu.be/KzVQZZq06Lo

*part3、奄美大島・馬毛島(種子島)編
https://youtu.be/IjONW-VsnrI

*part4、沖縄本島編
https://youtu.be/0tFM_UHIhHI

*part5 水陸機動団・陸自の南西諸島動員態勢編
https://youtu.be/9y7anqhoIXE



石垣島・平得大俣地区の基地選定に係わる用地取得の重大な疑惑について――ゼネコンによる基地配置の図面まで造られていたカラ岳周辺

2019年07月25日 | 政治・沖縄・日米共同作戦
 石垣島の基地予定地・平得大俣選定の重大な疑惑の内部からの告発!

(ゼネコンが作成した、カラ岳周辺の基地配置図面「Ⅰproject」と新石垣空港から見たカラ岳)

筆者は、6月下旬から、造成工事が始められたばかりの、石垣島・陸自ミサイル基地の現地調査・視察に訪れた。この造成工事の進捗状況の実態を把握するためであり、造成工事に係わる問題点を筆者なりに探るためである。

 この調査で、石垣島のミサイル基地建設予定地に係わる重大な疑惑が明らかとなった。
 結論から言えば、現在決定・着工されているジュマール・ゴルフ場を中心とする平得大俣地域への基地用地選定には、大きな疑義、土地売買利権さえも絡む疑惑があるということだ。

 つまり、石垣島における基地建設予定地は、もともとは新石垣空港周辺地域――カラ岳北部・南部地域であった可能性が大である。

 この度、筆者に寄せられたのは、大手ゼネコンの関係者を介しての地元の有力者からだ。
 基地建設に係わる「Ⅰproject」という図面を見てほしい。ここに示された基地予定地は、石垣空港北――カラ岳の南北にわたる地域であり、詳細な基地予定地図面ができあがっている。



沖縄防衛局作成の「平得大俣の施設配置案」と見比べてとよく分かる。「平得大俣配置案」に配備予定の、庁舎等の施設や弾薬庫・射撃場の配置なども、全く同様の配置である。違いは、基地の規模だ。平得大俣地区の46ヘクタールに対し、この基地は68ヘクタールという大規模なものである。
 そして、需要なのは、この一帯は、住宅地もほとんどなく、環境面からしても、本来、「最適地」たりうるものだ。

 第2次選定エリアの疑惑

 ところで、筆者の情報公開請求で昨年提出された自衛隊の南西シフト態勢に係わる320点・約5千頁の文書がある。
 その中の1つに「南西地域資料収集整理業務報告書」(2014年3月、防衛省装備施設本部・アジア航測)という文書があり、これは民間委託によって、南西シフト態勢下で琉球列島弧の島々への部隊配置調査――西表島・石垣島・宮古島・奄美大島などの琉球列島弧の島々への自衛隊配置計画の最初の調査資料である(第1次選定エリアは、先島156箇所、奄美群島217箇所)。

 この中の石垣島については、「1次選定エリア」として、57箇所が、2次選定エリアとして7箇所が明記されている(16頁~および158頁~)。
 そして、2次選定エリアの最終的予定地として決定されたのが、平得大俣地区(59・60地区)、カラ岳地域(57地区)、「サッカーパーク・あかんま」などであった。

 問題は、この7箇所のうち、周辺に農地・住宅地がほとんどなく、環境負荷も少なく、用地買収の必要性も少ない地域は、添付のようにカラ岳周辺であることは明らかということだ。同文書では、以下のように記述する。

 「適地エリアは●●の●●北側に位置する。南部は●●からの傾斜によって少し高台となっている。北側は、東側の海に向かって斜面になっている。このような形状から造成工事は容易である」(177頁●●は「黒塗り箇所)
 「産業および周辺状況 放牧地およびサトウキビ畑、牧草地が適地エリアの主な利用」(同頁)


 新石垣空港まで南830メートルの距離にあり、カラ岳(標高135・9メートル)の北側に位置するこの場所こそ、詳細な図面が作成されていることから明らかだが、石垣島基地建設の本当の予定地であったということだ。

 石垣市と「幸福の科学」との癒着

 ところで、この石垣島における自衛隊用地の問題に関しては、かつて沖縄大学の髙良沙哉氏が現地調査を行っている(『「地域研究』2016年9月)。
 同氏によれば、石垣島・平得大俣への用地の選定は、政治的選定であり、また現在の予定地されている平得大俣地域自体も、2次選定エリアとされている場所から大きくズレていると指摘されている(髙良論文http://okinawa-repo.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/20.500.12001/21390/1/No18p1.pdf)。

 重要なのは、繰り返し述べてきたが、予定地されたジュマール・ゴルフ場の所有者は、「幸福実現党の党員」(自民党市議を隠れ蓑にした)である。だから、この用地選定には、選定自体に「何らかの大きな工作」が働いたと思われるのだ。

 その問題は、このジュマール・ゴルフ場の売買契約の非公表だ。
 石垣市民の情報公開請求に対して、沖縄防衛局はジュマール・ゴルフ場の売買金額を非公表とする決定を行った。しかし、沖縄・熊本の各防衛局は、造成工事着工前に、筆者の情報公開請求に対して、宮古島・奄美大島とも、地権者との売買契約書の全てを公開しているのだ。

 この状況では、ジュマールと石垣市との癒着、利権絡みの売買が行われているのではないか、という疑惑は深まるばかりである。
 
 防衛省施設案にあるように、平得大俣の基地予定地は、深い谷を埋め立てグラウンドなどを造るとされている。しかし、予定地の南東部は、深さ9~15メートル、長さ600メートル以上にわたる大きな谷があり、工事の難度も、周辺の環境破壊も計り知れない場所だ。しかも、写真にあるように、予定地は地下に直径数メートル以上の琉球花崗閃緑岩が、ゴロゴロあるような場所である(沖縄防衛局『陸自石垣島測量調査』)


 予定されているヘリコプター空港ー基地建設も決定されていた
 
 石垣島基地建設の、第2次選定エリアに関して明らかになったもう一つの大きな問題がある。
 このゼネコンが作成したカラ岳予定地の基地建設図面には、約14ヘクタールにものぼる、「ヘリ空港基地」が予定されていたということだ。図面を見てほしい。
 カラ岳の南、新石垣空港の北西側に沿って、「ヘリ部隊」として明記された図が描かれている。


これは、例えば奄美駐屯地の「ヘリパット」という小さな規模ではなく、巨大なヘリ空港基地として予定されていることだ。
 もともと石垣島では、当初からヘリ基地の建設がウワサをされていたが、やはり図面まで描かれてヘリ基地建設が進んでいたということだ。

 間違いなく、仮に石垣島住民らが、基地建設を承認したとし、現在の基地建設が終了した後には、この「ヘリ基地」建設が大きく動くことは間違いない。「島嶼戦争」、特に離島にとっては、軍事的・作戦的に「ヘリ運用は必要不可欠」ということになるからだ。 

 新石垣空港の近くにヘリ空港基地建設計画があるということは、石垣空港の軍事利用とも関係する。石垣空港、宮古島空港などは、例のF35Bの配備決定――「いずも」型護衛艦の改修空母の決定とともに、「島嶼戦争」の重要な航空基地として計画されている。

 つまり、進行する陸自・石垣島のミサイル基地建設は、さらなる石垣島の一大軍事化の始まりに過ぎないのだ。
 この凄まじい南西シフト態勢下のミサイル基地建設、石垣島基地の造成工事着工に、今こそ全国から反対の声を挙げよう。
 石垣市当局とジュ・マール楽園らの、癒着ー利権構造を徹底的に暴こう!


日米首脳の「改修予定空母・かが」艦上の閲兵は、何を意味するのか――日米空母艦隊による対中国・共同作戦の宣言

2019年05月29日 | 政治・沖縄・日米共同作戦
 トランプと安倍の「改修空母・かが」(予定)艦上での閲兵の意味

 
(トランプと安倍が閲兵した「かが」)

 昨日のトランプー安倍の、海自「改修空母・かが」艦上での閲兵式について、マスコミでは「日米同盟の連携強化だ」とする報道がなされている。しかし、この改修空母予定の「かが」艦上での海自隊員と米兵への閲兵は、単なる「連携の儀式」ではない。本日の読売新聞が報じるように、中国軍への威嚇であり、いずも型改修空母が完成する2022年には、日米空母艦隊が東シナ海・南シナ海で、制海権ーシー・コントロールを絶対的に確保するという宣言とみなければならない。
 
 実際に、トランプは「かが」で閲兵を行ったあと、わざわざ佐世保所属の、米海軍強襲揚陸艦「ワスプ」を横須賀まで寄港させ、その艦上で「日米連携の重要性」を演説したのだ。これについて防衛省幹部は、「F35Bの導入といずも型の改修で、運用の幅が広がり、日米の共同対処能力が高まる」(5/29付読売)と言明している。

(トランプが「かが」に続き閲兵した強襲揚陸艦ワスプ)

 予定される海自「改修空母・かが」などと米強襲揚陸艦の西太平洋での共同作戦

 トランプー安倍が、わざわざ横須賀まで出向き、かがとワスプに乗艦・閲兵したことには、重大な意味がある。これは、直接には、海自隊員(全自衛隊員)及び米軍兵士に対する、対中国の「空母艦隊による共同作戦」の任務宣誓であり、同時に、中国への公然たる威嚇ー海軍軍拡競争の宣言であり、東シナ海・南シナ海の「覇権絶対護持」の宣言なのだ。

 「小型空母」として、F35B搭載・強襲揚陸艦ワスプの配備

 周知のように、佐世保に配備された米強襲揚陸艦ワスプは、海兵隊の上陸作戦を支援する任務と同時に、いやそれ以上に、STOVL機の運用能力が強化され、「空母」としての作戦態勢に投入されつつある(シー・コントロール(制海権)への投入。2017年の海兵隊航空計画(2017 Marine Aviation Plan))。いずも型と同様、全通甲板をもつワスプは、既にF35Bを搭載し、西太平洋での任務に就いている。アフガン・イラク戦争敗勢下の軍事費削減要求の強まりの中で、「300隻艦艇」体制に縮小された米海軍は、アジアへのリバランスの中で(その6割を西太平洋に配備)、空母機動部隊と一体化した「強襲揚陸艦の空母化」ー空母機動部隊の増強に乗り出しつつある、ということだ。

(「いずも型護衛艦STOVL機の運用について」2018年12月、防衛省)

 問題は、海自のいずも型の改修空母化の決定が、もともとこの米強襲揚陸艦との、共同運用ー共同作戦が想定されているということだ。つまり、米軍の1個空母機動部隊が約1兆5千億円という巨大軍費が必要とされる中、強襲揚陸艦の空母化は、数千億円に満たない、安上がりの空母部隊増強策として、運用が決定されているということだ。その米空母機動部隊の一翼に自衛隊が組み込まれたのだ。

 中国軍の弾道ミサイル、潜水艦搭載巡航ミサイルからの標的の分散化

 この強襲揚陸艦の空母化ーいずも型改修空母との共同運用態勢は、日米軍事筋の間では、対中「島嶼戦争」ー東・南シナ海をめぐる第1列島線=琉球列島弧での、シー・コントロール(制海権)の戦いの一環として戦略的に位置付けられている。つまり、東シナ海をめぐる「島嶼戦争」において、中国の弾道ミサイル・巡航ミサイルの飽和攻撃への対処において、一旦、グアム以東に撤退する予定の米空母機動艦隊は、「戦闘初期」において中国軍ミサイルの激しい波状攻撃に晒されるわけだが、そのミサイル標的の「分散化」が、いずも型改修空母や米強襲揚陸艦の任務というわけだ。

(2012年統合幕僚監部「日米の『動的防衛協力』について」)
 
 東・南シナ海をめぐるシームレスな戦争の危機

 現在、この海自のいずも型護衛艦が、陸自・水陸機動団を乗船させて、南シナ海に遊弋(第31海兵遠征部隊MEUの真似事)しているという事実があるが、先日、読売新聞が報じたように、この水陸機動団と海自のいずも型改修空母の、常時の東・南シナ海の遊弋、つまり、中国軍への威嚇・砲艦外交が具体的に計画されている。
 2017年米政権「国家安全保障戦略」(NSS)」、2018年米国防省「国家防衛戦略(NDS)」において、「対中抑止戦略」を決定したアメリカは、ついに、日本政府・自衛隊を米軍の対中抑止戦略=新冷戦(「Warm War」)に巻き込みつつ、凄まじい軍拡競争に乗り出し始めている。
 この軍拡競争は、絶えず、日米中の一触触発の危機を孕んだ情勢にあり、深刻な事態が東・南シナ海で生じようとしている(昨年9月、米巡洋艦と中国海軍の42㍍の衝突寸前の事態発生)。

 いずも型の改修空母建造に反対の声を! 先島―南西諸島への自衛隊配備ー軍拡競争停止を要求しよう!

 マスメディアは、安倍ートランプの「接待外交」なる茶番劇を垂れ流すだけで、この急ピッチで進行する日米の軍事態勢の危機的状況をほとんど報じない。いわんや、自衛隊の先島―南西諸島、とりわけその最大の南西シフト態勢の機動展開拠点として建設されつつある、奄美大島の巨大基地、馬毛島(種子島)の軍事化(南西シフト態勢の兵站拠点等)を全くと言っていいほど報じない。ここでは、朝日新聞・東京新聞はおろか、読売・産経さえ、報道規制・統制がなされているのだ。
 この重大なジャーナリズムの現在的崩壊に、警鐘乱打しなければならない。

 
 いや、それ以上に恐るべきは、この先島―南西諸島への自衛隊配備ー「島嶼戦争」の危機に対して、未だに沈黙し続ける日本の「識者」ら、「文化人」ら、政党だ。おそらく、この基地建設の事実を知らずして、沈黙している「識者」らもいるかも知れない。しかし、マスメディアが報じないから「知らない」というのは、許されることではない。「新聞はベタ記事に真実がある」というのは、ジョウシキだ。奄美大島の基地建設については、「ベタ記事」さえない状況だが、それにしても、このSNSが普及している中、努力して情報が入らないわけがない。

 *いずも型改修空母の建造・配備に反対の声を! 先島―南西諸島への自衛隊配備、とりわけ、石垣島への基地着工反対、宮古島の保良弾薬庫建設反対、馬毛島(種子島)の軍事化反対、そして、沖縄本島への地対艦ミサイル部隊配備反対の声を! これらの声を全国へ広げよう!