今、自衛隊の在り方を問う!

急ピッチで進行する南西シフト態勢、巡航ミサイルなどの導入、際限なく拡大する軍事費、そして、隊内で吹き荒れるパワハラ……

●年末状(沖縄の友人からの質問に対する、メールの転載)

2023年01月01日 | 自衛隊南西シフト


○○さま
11/12の「命どぅ宝の会」のシンポジウムでは、大変お世話になりました。沖縄島での久々の講演で緊張しましたが、先島・沖縄島の各地から集まられた皆さんの熱気で無事やり終えました。ありがとうございました。

さて、メールでの、国場幸之助(自民党国防部会長)の件ですが、まさしく書かれているとおりですね。国場幸之助は軍事問題では素人でしょう。

彼をたてるのですから、72年自衛隊の沖縄進駐の時の桑江一佐と同様の役目でしょう。しかも、その就任が今年の8/31と。

沖縄の第2段階の、凄まじい軍事化―住民避難態勢―シェルターづくり、これらの「県民合意づくりの先兵」ということですね。

ところで、「台湾有事」のシナリオを書いてほしいという要望があるということですが、「台湾有事」―沖縄戦のシナリオを書くには、少し時間が掛かります。制服組のOB連中もこのところ作っていますが、あまり現実性のないシナリオばかりですからー。

ただ、日米共同統合演習(「台湾有事」の日米共同作戦計画)に見るように、当局の間では、だいぶ前からシナリオは出来ているでしょう。そして、そのシナリオ通り、安保関連3文書の策定で、第2段階の琉球列島のミサイル要塞化―攻撃基地化が始まり、住民の避難計画も始動した、ということです。
(第3段階もそのうち始まります。「機動展開予定」の陸自部隊と米海兵隊・陸軍(一部)の先島などへの常駐化など(自衛隊の輸送力の根本的脆弱性を見るべき!)。

このシナリオについて、詳しくは時間をかけて考えたいと思いますが、やはり、僕は前から何度も書いていますが、「島嶼戦争」=海洋限定戦争という日米の作戦計画をしっかり認識すべきだと思います(2016年『オキナワ島嶼戦争: 自衛隊の海峡封鎖作戦』参照)。

例えば、「台湾有事」は、中国側からは、台湾への経済封鎖で始まり、これが、「海峡戦争」へ、そして相当時間をかけて「海上戦闘」へと広がるでしょう(米国の台湾政府への「独立の使嗾」という前提での問題)。

しかし、中国の台湾本土侵攻という事態は、全くあり得ない想定です(ここ20年以上)。見ての通り、台湾海峡は約140キロ以上、この海峡を越えることは、現在の中国軍どころか、10~20年先の同軍の軍事力でも不可能に近いでしょう(ナチスさえも、約40キロのドーバー海峡を越えられなかった。保守反動連中の中国軍の沖縄島・本土侵攻などとんでもない荒唐無稽)。  あるいは、事態は「台湾有事」からではなく、東・南シナ海から、戦火が始まることもあり得ます(同時事態の進行も!)。

米日ー英仏豪軍の南シナ海での「航行の自由作戦」においては、今現在、中国との緊張関係から、いつ火がついてもおかしくない事態です。

いずれのケースでも、私たちがしっかり見据えねばならないのは、「先島戦争」(戦闘の初期、最初の段階では、沖縄島は巻き込まない)という「海洋限定戦争」への認識です。2012年「日米の『動的防衛協力』について」(統合幕僚監部)は、米軍と沖縄島をなんとか巻き込みたい、という自衛隊の意図が露骨に出ています。また、トシ・ヨシハラも最近の著作で、中国側が沖縄米軍を巻き込まない戦争態勢づくりを指向していることを、中国側評論家の文書で紹介しています。

ウクライナ戦争(現在のところは、限定・制限戦争)を見れば明らかですが、沖縄島(米軍本体)を戦場にすると、直ちにアジア太平洋戦争に発展します。もちろん、先島戦争は、数年間だけで、その後はアジア太平洋戦争に発展し、十数年後には世界戦争→核戦争になっていくでしょう。いったん、戦争が始まれば、その広がりも不可避です。

しかし、多くの人は、この「現代の戦争の性格」を認識できていないと思います。いきなり、核戦争になるとか(中距離[核]ミサイル配備論も!)、「台湾有事」が、いきなり、日本本土やアジア太平洋の戦争になるとか。

日米中の経済的相互依存関係(世界経済も)をみても、各国の支配層が、この戦争を「限定」したいという意図が、よくわかると思います。自らが自滅したら元も子もないですから、連中も「限定戦争」に留めておきたいという思惑があるでしょう。

もちろん、かつての日米戦争をみても、この戦争は「限定戦争」には留まりません。新冷戦(熱戦)が何年も続き、日米中とも「経済ブロック化」(サプライチェーンの再構築を進めながら)が進み、そして、次第に「通常戦型のアジア太平洋戦争」へ発展し、ついには核戦争へ行き着く、ということでしょう。

これは、沖縄にとって、文字通りの意味で「沖縄戦再来」です。沖縄だけが犠牲になる戦争です。

とてもきつい言い方ですが、日米政府・自衛隊は、まず、沖縄―琉球列島を戦場にし、盾にして、ヤマト政府が生き延びるー、ということです。これは南西シフトの全ての文書から明らかです。

「戦域」を限定する、これは、現代世界の政治・軍事関係からすれば、不可避的に行われる戦略ですね。ウクライナ戦争は、それを証明していますが、別にウクライナ戦争がなくても、初めから想定される事態です。現代国際政治の軍事外交(砲艦外交)政策をみれば、明らかです。

繰り返しますが、事態は、「先島諸島―沖縄の戦場化」という「島嶼戦争」=海洋限定戦争として始まり、これが何年も続きます(覇権戦争)。したがって、先島住民の避難(安保3文書に初めて明記)、シェルター造りという、とんでもない状況が発表されているのです。

与那国島などは、要塞島として無人化する、宮古島などでの「海峡戦争」(チョークポイント)ということから、宮古島の相当部分(保良地区など)の無人化(拙著で北方シフトの例を挙げています。)も、計画化されていると思います。


実際、日米の第2段階・第3段階の軍事化が始まれば、3個機動師団・4個機動旅団・1個機甲師団のうち(有事動員予定)のうち、数個機動師団は「平時配置」にされるでしょう(輸送力の脆弱性から、同じ理由で住民避難も平時から!)。

防衛研究所が数年前に、フォークランド戦史という本を公開していますが、1個旅団1万人の部隊を3カ月補給するのに、100隻の輸送船団を要したということを書いています。

自衛隊の輸送力からすると、全くの問題外ですから、安保3文書でも機動展開部隊(航空・海上の輸送力)の大増強を謳っています。

繰り返しますが、日米中の経済的相互依存関係からも、先島戦争=海洋限定戦争態勢――新冷戦(熱戦)が何年も続き、日米中とも「経済ブロック化」が進行し、そして、最終的にアジア太平洋戦争に行き着くということです。

また、安保3文書の策定は、「台湾有事」態勢作りだけでなく、それを軸にしていますが、同時に、対中軍拡競争を日米が仕掛けたという側面も見るべきだと思います(昨日の発表だけでも、米国の台湾への軍事援助100億ドル!)。日本の軍費費2倍化もそうですね!

現在の全ての状況は、この対中軍拡競争―「新冷戦」(熱戦)という、日米中の覇権抗争、戦争が本格的に始まったということです。これを構造的に変える日本政治体制の転換が必要なことは言うまでもありません。

やはり、この状況を変えるには、沖縄―本土の、特に本土の反戦運動の根源的なたたかいが必要です。

この前の沖縄講演でも話しましたが、本土の平和運動も、良心的知識人も、この事態の認識が、全く出来ていないという根本的問題があります。未だに軍拡一般に反対とか、改憲反対とか、だけで、その軍拡も、戦争も、沖縄―琉球列島から、只今現在、凄まじい形で始まっていることを見ようとしないのです。


少し長くなりましたが、「シナリオ」はそのうちに、なんとかー。

では、「良いお年」とは言えませんが。今年の沖縄は寒いようですから、お体に気をつけてください。
(註 国場組とは、沖縄島の最大の「ゼネコン」)
 写真は、サイパン島・バンザイクリフ

●政府・自衛隊と一体化した、与那国町長が独裁で進める、与那国島の要塞化――棄民政策を糺す!

2022年12月30日 | 自衛隊南西シフト

引用の糸数町長のインタビュー(読売新聞)に明らかな、島の要塞化計画、そして安保関連3文書が計画する島の要塞化をみてほしい。この計画は、住民には、全く知らされていない町長独断の計画だ。

*「政府は国家安全保障戦略に、防衛に活用できる公共インフラ(社会基盤)整備の促進を盛り込み、同町においては、▽自衛隊のF35戦闘機の離着陸を可能とする与那国空港の延伸▽自衛隊の護衛艦などを接岸できる岸壁などの整備――を目指している。町が求める国民保護の観点も踏まえ、調整が本格化」

*「糸数町長は台湾有事を見据え、大型旅客機・大型船舶による町民の島外避難体制を確立するため、与那国空港滑走路の500メートル延伸と、島南部・比川集落への港湾新設を政府に要望」

*「町議会は12月、シェルターの早期設置を国に求める意見書を可決した。一方、糸数町長は「国が設置するのなら歓迎するが、私は町民を一人たりともシェルターに押し込むことはしたくない。そういう事態になる前に、島外避難の道筋を付けるのが先だ」と強調」

*「町は17年、有事に全町民が島外避難することを念頭に国民保護計画を策定」

*「糸数町長は、島外避難を前提に町独自に設けた「危機事象対策基金」についても言及。有事となる前に島外に自主避難する町民に旅費や生活資金を支給するための基金で、9月議会で設置条例案が可決され、積み立てを進める方針[1人あたり100万円]と」

与那国町議会に提案された避難計画基金条例案
*「政府はF35戦闘機の空港利用や護衛艦などの港湾利用などを想定している。沖縄県の玉城デニー知事は自衛隊による利用拡大に懸念を示しており、与那国島での空港・港湾整備についても協議が難航する可能性」

●そして、安保関連3文書で決定されたのは、既存の陸自沿岸監視隊・同電子戦部隊、空自移動警戒隊に加えて、空自警戒監視部隊(固定レーダー基地)、陸自地対空ミサイル部隊の配備である(予定地の町有地の買収についても町長の独断)。



加えて、与那国空港の軍事化、与那国島港湾の軍港化の決定である。


要するに、与那国島は、島の全てが文字通り軍事化=要塞化され、住民は排除・棄民化されるということだ。

――まさに今、与那国島で行われるつつあることは、22年度内に地対艦・地対空ミサイル部隊開設予定の石垣島で、既開設の宮古島・奄美大島で、間違いなく進行する事態である。



●この恐るべき琉球列島の軍事化を、いつまで「本土」の人々、知識人、反戦運動団体は放置するのか? 

この急ピッチで突き進む、琉球列島の戦争態勢(文字通りの「沖縄戦」の再来)と対峙することなく(無視・軽視)、軍拡反対・軍事費2倍化反対、改憲反対一般だけを主張するのは、琉球列島軍事化の容認だ。

また、この恐るべき琉球列島軍事化の実態を一言も批判することなく、この実態を知ることもなく「(安保関連3文書は)戦争が近いと煽り立てる国内向けのプロパガンダ」(内田樹・AERA23/1)にすぎないとして、軽視・無視することも、琉球列島軍事化の容認であり、その協力者だと言うべきだ!


https://www.yomiuri.co.jp/national/20221229-OYT1T50064/...


海洋プレッシャー戦略によるアジア太平洋戦略の大転換⑫

2022年12月27日 | 自衛隊南西シフト
海洋プレッシャー戦略によるアジア太平洋戦略の大転換⑫(「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」の連載⑫)


●海洋プレッシャー戦略とは

 さて、「海洋プレッシャー戦略」(MPS:Maritime Pressure Strategy)は、CSBAが2019年5月に「西太平洋における海上プレッシャーの戦略の実施」として発表した報告書である。

 この戦略の核心を結論から言うと、米軍のエアーシー・バトルなどによる対中国の「撤退戦略」を大きく転換し、米軍が対中戦争の初期作戦段階から西太平洋の「シー・コントロール」(SC制海権)確保を目指すとしたことだ。

これは具体的には、中国の日米軍事基地への初期ミサイル飽和攻撃に対処する、米軍の沖縄等からの「撤退戦略」を基本的に修正し、戦争の初期から第1列島線内に「インサイド部隊」が防衛バリアを確立、このインサイド部隊を第2列島線内に配置された「アウトサイド部隊」がバックアップして、「縦深防衛ライン」を確立するということである。そして、これらの「インサイド・アウト防衛」部隊によって、戦争の初期から米軍による西太平洋の「シー・コントロール」を確保する、というものだ。

新たに提案された、この「海洋プレッシャー戦略」の根幹にあるのが、「インサイド・アウト防衛」という作戦構想である。

この作戦構想の実戦的運用指針は、「第1列島線に沿って、精密な攻撃ネットワーク、特に陸上の対艦・対空能力を配備し、生命、財産などという多大なコストを払わずに、迅速に侵略によって利益を得る中国の能力に対抗すること」と同報告書は提示する。つまり、琉球列島へのミサイル配備網の構築だ。

「海洋プレッシャー戦略」の全体的概要について、もっと詳細に見ておこう。 
同報告書は、第1章の冒頭で「戦略の概要」として「陸軍と海兵隊が地上戦を開始することを含む海洋プレッシャー戦略」と銘打っている。ここに海洋プレッシャー戦略の核心的な実戦的指針がある。


つまり、従来の自衛隊による第1列島線配備である南西シフトを、米国の陸軍・海兵隊が、共同作戦として担うということであり、この具体的内容は、米海兵隊、米陸軍を第1列島線へ配備するということだ。

この戦略概要では、具体的には第1列島線に沿って、生存性の高い精密攻撃ネットワーク(ミサイル網)を構築すること、海軍、航空、電子戦、その他の能力を背景に、米国と同盟国は海上の目標に対して「地上配備の対艦ミサイル」を発射する態勢を作ること、「地上配備ミサイルの数」を増やすことを求めている。

また、これら精密攻撃ネットワーク(ミサイル網)は、作戦上、西太平洋の島嶼に沿って「地理的に分散配置」され、これは中国軍のA2/AD脅威の範囲内から中国軍を攻撃するための「インサイド」部隊として機能し、さらに遠く離れた場所からも戦闘に参加する「アウトサイド」の空軍と海軍の支援を受けることになるとしている。

そして、「前方配置された航空部隊」は、新しい基地構想の下、「遠征用飛行場に分散」する。海軍は、第1列島線の背後の位置する場所に出撃するか、あるいは海岸線に沿って出撃して、危険度を減らすという。

これを報告書は、フットボールに例えるならば、生存可能な内部の攻撃網が防御ラインとして機能し、機動力のある外部の空軍と海軍がラインバッカーとして機能することになるという(ラインバッカーとは、ディフェンスラインとディフェンスバックの間、守備陣の真ん中に位置する選手)。

●海洋プレッシャー戦略が想定する戦場

 最後になったが、海洋プレッシャー戦略が想定する有事とは、どのようなものか、想定される戦場はどこか。2021年4月の日米首脳会談以後、日本では、「台湾有事」キャンペーンが異様に強調されているのだが、果たして「台湾有事」はあり得るのか。

海洋プレッシャー戦略では、この有事について「地理的設定・西太平洋」として、「アメリカと同盟国のアナリストは、西太平洋における中国との衝突は、台湾、南シナ海、東シナ海のいずれかで起こると想像している」として、それぞれの可能性について詳述している。

まず台湾だが、「中国が台湾を攻撃した場合、米国は戦争に巻き込まれる可能性があり、米国の指導者たちは、中国が軍事力によって現状を変えようとしないようにとの長年にわたる公然とした警告を行っている」とし、中国軍の作戦計画の多くが、「主な戦略的方向」として台湾を指定していることに言及する。しかし、提言書はいう。

「中国が主目的から注意をそらすために戦域内でフェイントをかけた場合、複数の場所で紛争が発生する可能性がある。米国と中国の間の将来の紛争は、特に中国の利益とそれをパワープロジェクションによって保護する中国軍の能力が高まるにつれて、北朝鮮や西太平洋の向こう側でも起こるかもしれない。そのような場合でも、中国海軍は中国沿岸の基地から第1列島線を経由して出撃する必要がある。また、遠方での軍事行動を行う際には、中国本土を攻撃から守らなければならない。したがって、第1列島線における紛争シナリオを理解することは、そこでの戦争であれ、遠くでの戦争であれ、必要不可欠である」と。

また、提言書は具体的に「南シナ海」では、「中国の南シナ海の軍事化が進行しているため、米軍を巻き込んだ紛争が発生する可能性がある」とし、「南シナ海における中国の軍事化は、意図的な攻撃以外にも、不用意な衝突を引き起こす危険性がある。中国軍と航行の自由作戦を実施している米艦船を含む他国の軍隊との間で対立を引き起こす可能性がある」としている。

さらに「東シナ海」では、「中国が日本と東シナ海の領有権問題で好戦的な態度を続ければ、日本との相互防衛条約に揺るぎないコミットメントを持つ米国を巻き込んだ戦争に発展する可能性がある」とし、「軍事力が互いに近接して影を落とす中で、艦長やパイロットの1つのミスが各国を軍国主義的な危機へと突き動かす可能性がある」としている。

●海洋プレッシャー戦略下の「ライトニング空母構想」と海自の空母運用

ここで付記しておきたいのが、「ライトニング空母構想」と言われる海軍・海兵隊の計画と海自の空母運用についてである。

この「ライトニング空母」構想は、米海兵隊による、2017年の海兵隊航空計画(2017 Marine Aviation Plan)で発表されたもので、具体的には、2025年までに185機のF35Bを運用し、7隻全ての最新鋭強襲揚陸艦にそれを搭載・配備するというものだ。つまり、米強襲揚陸艦にF35Bを搭載した多数の「小型空母」を揃え、既存の大型の攻撃型空母に替わる、「安上がりの空母」を大量に配備するという計画だ。


左が強襲揚陸艦「アメリカ」(ホワイトビーチ)

この構想は、すでに実施されつつある。米海軍佐世保基地には、現在、最新鋭の大型強襲揚陸艦「アメリカ」(全長約260メートル、約4万4000トン)が配備されているが、「アメリカ」には、すでに米岩国基地のF35Bを搭載し、運用する訓練が行われている。

岩国基地では、2017年に16機のF35B(第121戦闘攻撃中隊)が、すでに配備され、以後、これにプラスして32機態勢へ増強されると発表されている。この数は、2~3個の「強襲揚陸艦・空母部隊」が作戦態勢に入るのに充分である。

明らかなように、海自のF35導入と「いずも」「かが」型護衛艦の改修による「空母保有」計画は、この米海軍の「ライトニング空母」構想と連動し、一体化して進行しているのである。

まさしく、すでに始まった「いずも」改修後の米海軍との共同運用の始まりは、露骨なまでの「日米ライトニング空母」計画である。つまり、日米共同作戦による「西太平洋の海上・航空優勢の確保」(制海・制空権)ということだ。

これらライトニング空母計画の背後にあるのは、米海軍の新たな作戦構想である。それが「分散型海上作戦(DMO)」として2018年に発表された。公表したリチャード海軍作戦部長の「海上優勢維持のための構想』では、大型艦船、小型艦船、戦闘艦、揚陸艦、無人艦艇などの戦力を分散して、さまざまな水上艦艇に長射程の対艦・対空ミサイル等の攻撃力を持たせて分散配備するとともに、それらを高度なネットワークで連接する。分散しながらも一体化した攻撃力を発揮する。つまり、敵に攻撃対象を絞らさせず、A2/ADを広く強化するというものだ。

●海洋プレッシャー戦略下の「遠征前方基地作戦」(EABO)

 このように、米国は海洋プレッシャー戦略下で、アジア太平洋の制海権・制空権を確保する、新たな戦略に入りつつある。これが「紛争環境における沿岸作戦(LOCE)」、「遠征前方基地作戦」(EABO)であり、「フォース・デザイン2030」という米海兵隊の大転換戦略だ。


米海兵隊の「フォース・デザイン2030」では、「最初のステップとして、単一の海兵沿岸連隊(MLR)形成を作成する」としており、この部隊が、在沖縄第3海兵遠征軍(3MEF、うるま市のキャンプコートニー)に編成される「海兵沿岸連隊」として、すでに発表されている。

海兵沿岸連隊は、このEABOを実現するために特化された部隊である。これらは、現部隊である3個海兵連隊を改編し、ハワイ、沖縄およびグアムに配備するという。また、この海兵沿岸連隊は、歩兵大隊、対艦ミサイル中隊を基幹とする沿岸戦闘団、沿岸防空大隊、兵站大隊から編成される予定である。この部隊は、2022年までに仮編成され、その後沖縄などへ配備されるという。

「台湾有事」の日米共同作戦計画で明らかになった、琉球列島の40の島々への海兵隊ミサイル配備計画が、この「遠征前方基地作戦」(EABO)として計画化されているのは明らかである。

小西誠(軍事ジャーナリスト・当会オブザーバー)

●参考資料 『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907127282

安保3文書に見る琉球列島の島々の恐るべき「有事の住民避難」―果たして自衛隊は住民避難を行えるのか?

2022年12月19日 | 政治・沖縄・日米共同作戦

(表紙写真は、1944年8月22日、沖縄から九州へ避難する児童生徒らを載せた輸送船・対馬丸で、米潜水艦の攻撃に遭い、児童ら1484名の悲惨な犠牲をだした)

●安保3文書は「沖縄文書」(南西シフト

安保3文書の大改定と問題点については、その歴史的大軍拡(防衛費の2倍化など)について、メディアがさまざまな論評を行っている。特に沖縄の各紙は「沖縄戦の再来」として、連日厳しい論評を加えている。
確かに、この安保3文書は、自民党国防族がいうように「沖縄文書」であり、自衛隊および米軍の南西シフト態勢の大強化――急速な有事=戦時態勢づくりめざす文書であり、このための国民への宣言(宣伝・煽動)だ。

ただ、ここで再度強調しなければならないのは、この安保3文書が「沖縄文書」すなわち、琉球列島の要塞化、とりわけ、この列島が中国へのミサイル攻撃基地(拠点)になることについて、メディアはもとより、反戦平和運動を担っている人々、知識人のほとんどの認識が欠落していることについてだ。
この歴史的大軍拡――軍事費大増強の内容、真の意図を私たちは正確に認識しなければならない。今政府・自衛隊(米軍)が行っているのは、一般的軍拡でもなければ、軍事費2倍化の大増強一般でもない。
繰り返すが、政府・自衛隊が目論み、政治的・軍事的目標にしているのは、琉球列島のミサイル攻撃基地化(拠点化)であり、対中国への戦争態勢だ。

そのために、12式地対艦ミサイルの長射程化(地上発射・空中発射・艦艇発射・潜水艦発射)、ミサイル量産化であり、(極)超高速滑空弾の開発配備であり、極超音速ミサイルの開発配備、米軍のトマホークの配備(500発)である。
安保3文書の発表を見ての通り、琉球列島の島々に、これらのミサイルがズラリと隙間なく配備されるのだ。
この軍事的実態を観ることなく、今なお「軍拡一般」を語る人々は、現実をまったく見る知識も判断力もないのかと、厳しく批判しなければならない。

事態は、決定的に重大な段階に来ている。
「国家安全保障戦略(NSS)」によれば、「現下の我が国を取り巻く安全保障環境を踏まえれば、我が国の防衛力の抜本的強化は、速やかに実現していく必要がある。具体的には、 本戦略策定から5年後の 2027 年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受 けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化する」としているのだ(2021年3月インド太平洋軍司令官デービットソンの「台湾有事」デマに乗っかる)。

●沖縄ー先島の国民保護・住民避難を明記した安保3文書

さて、この琉球列島のミサイル要塞化をはじめ、安保3文書には、沖縄への陸自師団の設置・増強(現在は旅団)――常設の統合司令部を創設、地対艦ミサイル部隊の7個連隊(琉球列島へ2個連隊)への増強、与那国島などへの地対空ミサイル部隊配備、ミサイル弾体など(弾薬庫増強)の継戦能力強化など、有事事態ー戦争へのさまざまな態勢づくりが唱えられている。

私は、この中において、特に多くの人々が認識・把握できていない「国民保護ー住民避難」問題について、重点的に見ておきたいと思う。
この問題は、政府・自衛隊が「有事事態」をどのように見ているのかを如実に現しているだけではない。この問題は、沖縄ー琉球列島住民にとって、ひじょうに緊迫した、厳しい切実的問題となりつつあるからだ。

結論から言えば、安保3文書は、沖縄ー琉球列島住民への「島外避難」を初めて唱え、現実に「島外避難」(棄民政策)を押し進めようとする、とんでもない、非人道的な、政府決定文書だということだ。しかも、その避難とは「武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現」するという、つまり、「平時の避難」であり、文字通り沖縄ー琉球列島の人々の「棄民政策」である。

では、2022年12月16日発表の安保3文書が、有事の住民避難について、どのように明記しているのか、その文面から見てみよう。

●国家安全保障戦略(NSS)
「国民保護のための体制の強化  国、地方公共団体、指定公共機関等が協力して、住民を守るための 取組を進めるなど、国民保護のための体制を強化する。具体的には、 武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現すべく、円滑な避難に関する計画の速やかな策定、官民の輸送手段の確保、空港・港湾等の公共インフラの整備と利用調整、様々な種類の避難施設の確保、国際機関との連携等を行う。 また、こうした取組の実効性を高めるため、住民避難等の各種訓練の実施と検証を行った上で、国、地方公共団体、指定公共機関等の連携を推進しつつ、制度面を含む必要な施策の検討を行う」

●国家防衛戦略(NDS現大綱)
「機動展開能力・国民保護  島嶼部を含む我が国への侵攻に対しては、海上優勢・航空優勢を確保し、我が 国に侵攻する部隊の接近・上陸を阻止するため、平素配備している部隊が常時活動するとともに、状況に応じて必要な部隊を迅速に機動展開させる必要がある。 このため、自衛隊自身の海上輸送力・航空輸送力を強化するとともに、民間資金等活用事業(PFI)等の民間輸送力を最大限活用する。 また、これらによる部隊への輸送・補給等がより円滑かつ効果的に実施できるように、統合による後方補給態勢を強化し、特に島嶼部が集中する南西地域における空港・港湾施設等の利用可能範囲の拡大や補給能力の向上を実施していくと ともに、全国に所在する補給拠点の近代化を積極的に推進する。 自衛隊は島嶼部における侵害排除のみならず、強化された機動展開能力を住民避難に活用するなど、国民保護の任務を実施していく。 このため、2027 年度までに、PFI船舶の活用の拡大等により、輸送能力を強化することで、南西方面の防衛態勢を迅速に構築可能な能力を獲得し、住民避難の迅速化を図る。」

●防衛力整備計画
「機動展開能力・国民保護 自衛隊の機動展開や国民保護の実効性を高めるために、平素から 各種アセット等の運用を適切に行えるよう、政府全体として、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化する施策に取り組むとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として使用するために必要な措置を講じる。さ らに、自衛隊の機動展開のための民間船舶・航空機の利用の拡大について関係機関等との連携を深めるとともに、当該船舶・航空機に加え自衛隊の各種輸送アセットも利用した国民保護措置を計画的に行えるよう調整・協力する。その際、政府全体として、武力攻撃事態等を念頭に置いた国民保護訓練の強化や様々な種類の避難施設の確保を行う。また、国民保護にも対応できる自衛隊の部隊の強化、予備自衛官の活用等の各種施策を推進す る。」

皆さんは、下記のマークを知っていますか?

東京都国民保護計画の表紙


だが、待てよ!
自衛隊は「軍民分離の原則」、および上のマーク(特殊標識)をご存じか。

ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第48条は、以下のように規定する。
「基本原則 紛争当事者は、文民たる住民及び民用物を尊重し及び保護することを確保するため、文民たる住民と戦闘員とを、また、民用物と軍事目標とを常に区別し、及び軍事目標のみを軍事行動の対象とする。」

引用のように、ジュネーヴ諸条約は、「戦闘員と非戦闘員」「軍事目標と非軍事目標」の区別を「基本原則」とし、「軍民分離の原則」を明確に定めている。
この規定は、現代戦(総力戦)において、非戦闘員の住民・市民の戦争による犠牲が膨大化しつつあることが背景にある。第1次世界大戦では住民の死亡5%、第2次世界大戦では45%、ベトナム戦争では95%に及んだ。
この事態から、戦後の1977年ジュネーヴ諸条約第1追加議定書が制定された。そして、2004年成立の国民保護法も、同法に基づく住民避難計画を規定することになったのだ。

さて、マーク(特殊標章)とは、オレンジ色地に青の正三角形で、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書「識別に関する規則」にいう特殊標章だ。
赤十字標識と同様、国民保護に従事する航空機・船舶・建物・地区等に目立つように掲げる義務がある。この特殊標章により有事に避難する住民が軍事目標になるのを防ぐ。


*標章は、東京都国民保護計画の表紙にも、沖縄県を始め自治体の保護計画や消防庁、海上保安庁の同計画にも明記。ジュネーヴ諸条約は、以下のように明記する。

第66条 識別 
1 紛争当事者は、自国の文民保護組織並びにその要員、建物及び物品が専ら文民保護の任務の遂行に充てられている間、これらのものが識別されることのできることを確保するよう努める。文民たる住民に提供される避難所も、同様に識別されることができるようにすべきである。

2 紛争当事者は、また、文民保護の国際的な特殊標章が表示される文民のための避難所並びに文民保護の要員、建物及び物品の識別を可能にする方法及び手続を採用し及び実施するよう努める。

3 文民保護の文民たる要員については、占領地域及び戦闘が現に行われており又は行われるおそれのある地域においては、文民保護の国際的な特殊標章及び身分証明書によって識別されることができるようにすべきである。

4 文民保護の国際的な特殊標章は、文民保護組織並びにその要員、建物及び物品の保護並びに文民のための避難所のために使用するときは、オレンジ色地に青色の正三角形とする。

なお、この規定を受け、政府の「赤十字標章等及び特殊標章等に係る事務の運用に関するガイドライン」(2005年8月2日)においても、「特殊標章」を規定している。


●防衛省・自衛隊の国民保護規定
ところが、驚くことに、国民保護を謳う「防衛省・防衛装備庁国民保護計画」(2005年)等には、これらの「特殊標章」の規定が全く記されないのだ。
これについて、救急救助専門の国士舘大中林啓修は「自衛隊に特殊標章規定がないのは専従部隊の提供を予定していない」と解説する。

つまり、自衛隊が予定する国民保護なるものは、当初から住民保護を予定していないのだ。
実際、防衛省の国民保護計画は「国民保護措置の基本的考え方」として「我が国に対する武力攻撃の排除措置に全力を尽すことが主たる任務」であり、「排除措置に支障の生じない範囲で可能な限り国民保護措置を実施」とする(統合幕僚監部の『統合運用教範』も同様の記述)。

ここに規定するように、自衛隊が国民保護を実際上行い得ないのは、圧倒的輸送力不足からである。したがって、安保3文書でも自衛隊は、PFI船舶を含む輸送力の強化を謳っているのだ(自衛隊のPFI船舶は「なっちゃんワールド、はくおうの2隻であり、大型輸送艦は3隻のみ)。
ちなみに、1982年のフォークランド戦争では、英国は1個旅団の兵力と兵站3カ月分を輸送するのに、100隻の大型船舶を要した。『フォークランド戦争史』防衛研究所)。

しかし問題は、この輸送力の圧倒的不足だけではない。もっと根本的大問題が背後にあるのだ。
安保3文書の規定をみてほしい。住民避難が「機動展開能力・国民保護」とセットで記述されている。

つまり、自衛隊は、先に見たように、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書がいう、「軍民分離の原則」をまったく認識していない、ということだ。自衛隊がこの原則を認識できていれば、「機動展開能力・国民保護」を一体的に記述するはずがない。

いわば、「強化された機動展開能力」というが、ジュネーヴ諸条約が厳格に規定する「特殊標識を付けた避難専用船舶等」の規定が、どこにも見当たらないのである。
繰り返すが、ジュネーヴ諸条約には、赤十字標章同様、特殊標識を国民保護に従事する航空機・船舶・地区等に目立つように掲げる義務があるだけでなく、この船舶等は、いったん住民保護に使用されたならば、これを再び軍用に使用することは許されないのだ。

ちなみに、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書には、次のように明記されている。
*第67条 文民保護組織に配属される軍隊の構成員及び部隊
1 文民保護組織に配属される軍隊の構成員及び部隊は、次のことを条件として、尊重され、かつ、保護される。
(a)要員及び部隊が第61条に規定する任務のいずれかの遂行に常時充てられ、かつ、専らその遂行に従事すること。
(b)(a)に規定する任務の遂行に充てられる要員が紛争の間他のいかなる軍事上の任務も遂行しないこと。
(c)文民保護の国際的な特殊標章であって適当な大きさのものを明確に表示することにより、要員が他の軍隊の構成員から明瞭に区別されることができること(以下略)

このジュネーヴ諸条約の規定は、ひじょうに重要な規定だ。つまり、自衛隊が一旦、避難民の輸送に当たった場合、この当該軍用輸送船等は、今後いっさい、軍用には使えないということだ。
輸送力の圧倒的不足にある自衛隊が、このような住民避難専用任務につくということは、全く不可能というべきだ。これは、以前から、制服組からも度々指摘されていたことである。
にもかかわらず、安保3文書が初めて国民保護法に基づく住民避難について明記することになったのは、沖縄戦の文字通りの再現を危惧する、沖縄等の人々の「反対運動の沈静化」を謀るためだ。

例えば、有名な「対馬丸事件」。1944年8月22日、沖縄から九州へ避難する児童生徒らを載せた輸送船が、米潜水艦の攻撃に遭い、児童生徒ら1484名の悲惨な犠牲をだした。この船は、もともと民間船であったが、戦争中、軍事輸送任務につつき、撃沈されたときも「往路は軍事輸送、復路は疎開輸送」ということであった。


まさに、この対馬丸の悲惨な事態に見るように、安保3文書にみる政府・自衛隊の「国民保護・住民避難」の規定は、「軍民分離の原則」を全く考慮しない、とんでもない暴策と言わねばならない。
それとも、政府・自衛隊は、「有事事態」では避難しない、「平時の避難」だと強弁するのか?
だが、自衛隊は、繰り返し防衛白書などでも明記しているではないか。「平時と有事はシームレスに発展する」と。

結論から言うと、現実は「有事の住民避難は不可能」であり、政府・自治体が行えるのは「厳然たる平時の避難」、つまり、平時からの沖縄ー琉球列島の人々の疎開である。そして、これは何年も続く、沖縄島などからの棄民である。

「国家安全保障戦略(NSS)」の国民保護・住民避難についても「武力攻撃より十分に先立って」避難を進める、と明記する。この文書は、決定的に重要だ。

「台湾有事」キャンペーンに見るように、住民に戦争を煽り、不安にさせ、平時から避難を強いる。
しかし、このような沖縄ー琉球列島の人々の生活を全面的に破壊する避難計画こそは、問題の転倒だ。必要なのは、琉球列島の軍事要塞化を凍結し有事を招かない、中国との徹底した平和外交だ。

安保3文書には、この平和外交の記述がほとんど見られないばかりか、「中国脅威論」がうんざりするほど、繰り返し繰り返し書かれている。この岸田自公民政権の歴史的横暴を私たちは徹底して糺さねばならない。

参考文献 『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』
参考資料 2022/12/18付沖縄タイムス






⑥「日米の『動的防衛協力』」による南西シフト

2022年09月29日 | 自衛隊南西シフト
⑥「日米の『動的防衛協力』」による南西シフト  


                        
*この論文は「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」メルマガ第60号への投稿記事からです。
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●隠蔽された「日米の『動的防衛協力』について」

 前項のような、日米制服組による内密の南西シフトとして策定された計画が、公然として始まるのは、2010年の「防衛計画の大綱」の改訂であり、2012年の統合幕僚監部による「日米の『動的防衛協力』について」(部外秘文書で非公開)においてである。

 しかし、2000年代初頭に計画された南西シフトが、なぜこのように遅れてしまったのか。この理由はシンプルだ。頼みの米軍が、アフガン、イラク戦争の泥沼から抜け出せなかったからだ。

 すでに明記してきたように、アメリカのイラク戦争などへの一定のメドがたった2010年の米国防総省のQDR、そして、それと連動した同年の「防衛計画の大綱」での策定を経て、自衛隊の南西シフトは公開され、始動する。 

 ただし、ここで公開されたのは、「離島の防衛」の必要性ということだけであり、南西シフトの具体的態勢――その部隊編成・規模・配備場所・時期などについては、一向に公開されることはなかったのだ(筆者は、2016年、防衛省に「南西シフトに関する全文書」の情報開示を求めたが、なんと提出されたのは、「1点13頁」の文書だけである!それ以後、琉球列島の基地建設が進むにつれて、なんと数百点の文書が公開!)。

 さて、この この統合幕僚監部の文書は、「動的防衛協力」と「別紙第2」の、「沖縄本島における恒常的な共同使用に係る新たな陸上部隊の配置」という2つの文書からなる(全文19頁)。

 なお、これら統幕文書は、筆書への情報開示では、全文がほとんど黒塗りであったが、2018年3月、日本共産党の国会質問で、「一市民への開示において同文書の改竄がある」と質問され、問題になった。その後、全文が同党によって公開された(「一市民」とは筆者のこと)。
まず、「動的防衛力」文書の重大さは、公開された文書の図を見れば一見して明らかである。文書は、正面から「対中防衛の考え方」を明記している。

 「平時の抑止」においては、「米軍との緊密な連携により、中国の影響力拡大を抑制」し、「中国の東シナ海の海洋権益を抑止」する。また、「中国のA2・AD能力に対抗し西太平洋での日米の活動を活発化する」。さらに、「有事の対処」としては、「日本の主体的行動及び米軍との共同作戦をもってこれを阻止」し、「米軍の来援基盤の確立を推進し米軍との共同対処」をする、と。

 この文書は、明らかなように「対中防衛」をはっきり宣言するとともに、公然と対中の日米共同作戦(戦略的にはA2/AD戦略)を策定した文書である。
以下略(続きは、以下のリンクからお読みください)
https://note.com/makoto03/n/n1076e6c92a42


「命どぅ宝の会」からー
 いつも活動をご支援いただき誠にありがとうございます。           
 今回のメルマガは当会オブザーバー小西誠さんからの第6回目の寄稿です。自衛隊の南西シフトを考える上で、小西さんがもっとも重要な文書だと指摘する、2012年7月に策定された「日米の『動的防衛協力』について」(統合幕僚監部防衛計画部作成)の解説です。                 
 この文書を通じて現在の日米共同作戦や在沖米軍基地の自衛隊との共同使用など沖縄が直面する課題について具体的分析を加えていただきました。ぜひお読みください。

★新しく賛同人、呼びかけ人になられた方々へ 
過去のメルマガ、沖縄「戦前新聞」のアーカイブをホームページで公開していますので、こちらをクリックして、ぜひご覧ください。
沖縄「戦前新聞」http://nomore-okinawasen.org/category/prewar/
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琉球列島の島々への、対中戦争態勢のための、シェルター造りキャンペーンを許すな!

2022年09月16日 | 自衛隊南西シフト


本日の沖縄関係新聞、東京新聞の報道にありますが、いよいよ自衛隊は「台湾有事」下の対中戦争態勢づくりの一環として、琉球列島住民の「国民保護法に基づく住民避難」の喧伝を開始、その一環として先島の各島々に「シェルター」を造るという方針を打ち出してきました。

この沖縄戦再来という、凄まじい戦争態勢づくりに、今こそ私たちは、全力でNOを突きつける運動を広げねばなりません。

以下は、拙著『オキナワ島嶼戦争: 自衛隊の海峡封鎖作戦』(社会批評社)で2016年に書いてきたものですが、すでにこの段階から自衛隊制服組は、「島外避難が不可能」という事態のなか、島々への「シェルター」造りを提案しています。

――この文字通り、対中戦争を前提とした、島々の徹底的な破壊戦を前提とした、政府・自衛隊の「島嶼戦争」態勢を許してはなりません!

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第7章 国民保護法と住民避難――沖縄を再び「捨て石」とするのか 

「島嶼防衛研究」の住民避難 

自衛隊では、島嶼防衛戦の戦略・戦術研究とともに、島嶼防衛戦での「住民避難」の研究が、さまざまな形で行われ始めている。なぜなら、島嶼防衛戦とは、本書の冒頭でも述べてきたが文字通り島々の破壊戦である。

かつて、サイパン・テニアン・グアムそして沖縄など、これらの小さな島々で起こった島嶼防衛戦は、一木一草も残らないほどの徹底した破壊戦であり、兵士たちだけでなく住民多数が死傷した凄まじい戦場であった。そして、あの時代と同様、いやそれ以上の島嶼防衛戦という名の島々の破壊戦が、今推し進められようとしているのだ。 

これら小さな島々に、彼我双方のミサイルが雨霰のように撃ち込まれ、空から、海からと、凄まじい砲爆撃が行われ(サイパン戦などは1平方メートルに数発)、そして破壊され尽くした島の海岸線に水陸両用車が上陸し、戦車などの砲弾(機動戦闘車など)が飛び交う、激しい地上戦闘が行われるのだ。

 この小さな島々の戦争において、住民たちをどうするのか。全住民を島外に避難させるのか、それとも、島内で避難するのか。 

島嶼防衛戦の住民避難問題の前提について、陸自の横尾和久(3佐)は「マリアナ戦史に見る離島住民の安全確保についての考察」(「陸戦研究」2015年 12月)という論文で、「国民保護法に基づく避難等の措置を実行するためには、武力攻撃予測事態等の認定が必要であり、その事態認定に必要な明白な兆候を要件とする。
しかし島嶼部に対する攻撃は一般に敵侵攻部隊の規模が小さく、侵攻企図の秘匿も容易であるため、侵攻企図を早期に察知することは困難である」と、その予測困難性を指摘する。 

この困難の中で横尾は、「このため有人離島住民の安全確保について考察する場合には『敵が侵攻してくる前の島外避難』と『敵の地上侵攻時に残留住民がいる場合の島内避難』の両方を考察」すべきとしている。 

しかし、横尾が言う、このような「島外避難」は、果たして可能だろうか。 

政府・自衛隊も、島嶼防衛戦は、「グレーゾーン事態」から始まり、シームレスに進行することを想定しているから、事前に住民避難のための武力攻撃事態・予測事態を認定するのは不可能である。なおかつ、もしも政府が、この武力攻撃予測事態の認定なしに、事前に住民避難を指示したとするなら、これは中国に対する「開戦宣言」になってしまい、戦争の挑発にさえなるだろう。 

このような「島外避難」の困難については、同じ『陸戦研究』で大場智覚(2佐)は、「陸上自衛隊は将来戦を戦えるか」と題した論文で、以下のように論じている(「陸戦研究」2013年6月号)。 

「地方自治体が行う国民保護措置に対しては、自衛隊が住民避難などを可能な範囲で支援することとなるが、平時と有事が曖昧な事態に対しては、両方の役割への軸足の設定に大きな困難が伴うことが予想される」 

「事態は認定以前の平素からグレーゾーンにおいては、当初の間は状況が不明であり、作戦準備期間が短縮化され、一挙に有事の状態になる恐れもある。 このような場合、防衛の対象が『国土か』それとも『国民か』という二者択一を迫られ、将来に大きな禍根を残す状況に追い込まれる可能性がある」

 大場もいうように、グレーゾーン事態から有事は一挙に進む可能性があり、全く島外避難を行う余裕はない。この事態を迎えたとき自衛隊は、「国土か、国民か」ではなく、明確に「国土」を優先するだろう。なぜなら、 もともと自衛隊の主任務(自衛隊法第3条)は「国家・国土の防衛」であり「国民」ではない。軍隊が国民を守らないというのは、そのように任務を定めているからだ。
 
このように見てくると、結局、島嶼防衛戦の場合、住民は「島内避難」を強いられるのだが、これに対しても横尾和久は『陸戦研究』で述べている。 

「島内避難については、陸上部隊の責任が重大であるため、陸上自衛隊としても『部隊と住民の分離の徹底』について平素からの充分な研究や準備が必要である」が、マリアナ戦史や沖縄戦を見る限りそれは容易ではなく、島内避難の戦例はいかに困難であるかを示すが、そのためには「国民保護法における強制避難条項の新設(強制避難の措置)」が必要であるという。

また、マリアナ戦史の教訓を反映するなら、「自衛隊の部隊と残留住民を分離するため離島に展開する陸上部隊は『作戦計画に部隊と住民の混在防止施策を織り込み』、地方公共団体は『避難計画に武力攻撃事態における島内避難のケースを想定し、平素から住民用のシェルター等を整備』する」(同上)ことが必要という。 

ここで横尾がたびたび強調しているのは、島嶼防衛戦とは「軍と住民の混合」が前提的であるから、「軍と住民の分離」を徹底しなければならないとし、そのためには「強制避難の措置」をとるのみならず、島内避難の場合は、シェルターまで造るべきだということだ。別の隊内の研究では、イスラエル並みに各戸に地下にシェルターを造れば、島内の経済が潤うという、とんでもない提言さえ主張されている。  

ところで、この島嶼防衛戦について、自衛隊は公式にはどのように言っているのか。先の陸自教範『野外令』には、次のように記載されている。 

「敵の離島侵攻に先んじて、適時に必要な情報を関係部外機関に通報して、先行的な住民避難等ができるように支援する。やむを得ず敵に占領された場合は、住民の島内等避難に努め、作戦行動に伴う被害及び部隊行動への影響を局限する。また、地方公共団体等と連携した適切な広報により、住民に必要な事項を周知させ、住民の安全及び作戦への信頼を確保する。」(第5編第3章第4節「部外連絡協力及び広報」) 

『野外令』の記述は、ただこれだけであるが、主眼は「作戦行動に伴う被害及び部隊行動への影響を局限」するということである。つまり、自衛隊の島嶼防衛戦においては、戦闘行動が最大優先なのであり、住民避難など真剣に考慮していないのだ。 」


写真は、1945年沖縄戦後、避難先から帰還する住民ら

本日の琉球新報

https://ryukyushimpo.jp/kyodo/entry-1584622.html

東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/202446?rct=politics


④ミサイル攻撃基地・戦場と化す琉球列島(連載第4回)

2022年09月12日 | 自衛隊南西シフト
ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メルマガ第55号                   
「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」 賛同者・呼びかけ人の皆さま    
いつも活動をご支援いただき誠にありがとうございます。

今回のメルマガは当会オブザーバーである小西誠さんの第4回目の寄稿です。琉球列島のミサイル要塞化は急速にすすんでいることは小西さんの前回の寄稿で具体的にふれていただきました。その是非が問われている「敵基地攻撃能力」ですが、実戦化されている実態があり、今後、琉球列島全体が対中国に向けた「攻撃的ミサイル発射基地」と化した時、キューバ危機以上の危機がアジア太平洋地域に起きると小西さんは警鐘を鳴らします。
本稿をぜひお読みいただき、想像をはるかに超えた形で戦争の危機が深まっていることを知っていただきたいと思います。ぜひ拡散してください。
また小西さんのブログ「今、自衛隊の在り方を問う」と合わせてご覧いただくと今回の内容についてより理解が深まると思います。https://blog.goo.ne.jp/shakai0427


ミサイル攻撃基地・戦場と化す琉球列島

●2022~2023年石垣島・沖縄島へのミサイル配備を阻もう!

前回で見てきたように、現在、奄美から宮古島―与那国島に至る琉球列島のミサイル要塞化の問題は、重大な時を迎えている。

琉球列島では、2019~21年、奄美大島・宮古島に地対艦・地対空ミサイル部隊の配備が完了、2022年度以内には、石垣島に地対艦・地対空ミサイル部隊が、2023年度には、沖縄島の陸自・勝連分屯地(地対艦ミサイルと同連隊本部も編成)へ、地対艦ミサイルを配備する計画が進行している。

つまり、自衛隊は南西シフトの完結のために、奄美・沖縄・宮古島・石垣島で、1個ミサイル連隊の編成を完結しようとしており、石垣島に見るように、急ピッチで基地工事の完成を強行しているのである(有事には数個ミサイル連隊の機動展開での増強)。

いわば、琉球列島のミサイル基地は、2023年度以降、いつでも対中戦争態勢に参戦する態勢が整いつつあるということだ。

問題は、自衛隊(および米軍)が目論んでいる琉球列島のミサイル基地化は、これに留まらない、ということだ。

すでに、防衛省から公表されているが、同省は地対艦ミサイルの射程千キロ以上延伸を計画しており、ミサイル射程1500キロ以上という案さえ提示している。もはや、この長射程ミサイルは、地対艦ミサイルではあるが、トマホーク型巡航ミサイル、あるいは中距離ミサイルというべきものだ(トマホーク型巡航ミサイルについて、防衛省は2017年に開発決定を公表し、開発の予算化が行われている)。

これに加えて、自衛隊はF15搭載の射程900キロ前後のスタンドオフ・ミサイル配備(米国からの購入。対艦ミサイルLRASM 、対地ミサイルJASSM)を決定し導入しようとしている。

――ところで、政府・防衛省は、2022年内に新しい「防衛計画の大綱」を策定し、「敵基地攻撃能力」を付与する新防衛政策を発表すると報じられている。だが、すでに見てきたように、自衛隊はスタンドオフ・ミサイル、地対艦ミサイルの長射程化、トマホーク型巡航ミサイルの開発配備を決定している。つまり、「敵基地攻撃能力」は、すでに決定され、一部では実戦化されているのだ。にもかかわらず、メディアでは、「敵基地攻撃能力」の是非が論議され(あたかもその開発配備が現在なされていないかのように)、平和運動側も「敵基地攻撃能力決定反対」というスローガンがまかり通っている。

これは、誰を欺いているのか? 平和勢力か、国民か? 

 琉球列島へのミサイル配備は、これらに留まらない。すでに、2018年「防衛計画の大綱」で公表されているように、「島嶼防衛用高速滑空弾部隊・2個高速滑空弾大隊」の編成が決定されている。この(極)超高速滑空弾(ミサイル)部隊は、第1段階の「ブロック1・早期配備型」を2026年頃に装備化、第2段階の「ブロック2・性能向上型」を2028年以降に装備化するとされている(このミサイルは、チョーク・ポイントである宮古島への配備が有力)。



 そして、米軍の中距離ミサイル配備であり、米海兵隊・米陸軍の地対艦ミサイルなどの琉球列島配備である。

つまり、沖縄―琉球列島は、対中戦争態勢づくりのために、文字通りのミサイル列島化=要塞列島化されるということであり、この軍事態勢は、従来の日米のA2/AD戦略からの大転換さえ意味するのである。いわば、琉球列島全体・全島々が、対中国への「ミサイル攻撃基地」と化すということだ。

●中距離ミサイルの琉球列島――九州配備

 米海兵隊・米陸軍の琉球列島への地対艦ミサイルなどの配備については、別の機会に述べよう。ここでは、米軍の琉球列島―九州に至る中距離ミサイル配備問題を特筆したいと思う。というのは、この問題は国内だけでなく、中国にとっても軍事環境を一変するような大問題であり、仮にその配備が決定されたとするなら、おそらく「キューバ危機」以上の、アジア太平洋の政治危機が生じると予測できるからだ。

 さて、2019年のINF条約廃棄後の米国は、急ピッチで地上発射の中距離ミサイルの開発を進めていることが報じられており、すでに琉球列島――九州・日本へのミサイル配備についても報道がなされている。だが、日本政府・防衛省は、米軍の中距離ミサイル配備について、米国側からは、今日まで「打診」はないと否定している。

しかし、この政府・防衛省の発言は、眉唾ものだ。これまで叙述したとおり、米軍は、海兵隊・陸軍とも、急いで琉球列島・第1列島線へのミサイル配備態勢を進めているからである。

これら中距離ミサイル配備について、大前提となる「中距離ミサイルギャップ」論から始めよう。

周知のように、この中距離ミサイルについて、自衛隊はもとより、非政府系の評論家らまでもが、中国軍との「中距離ミサイルギャップ」を主張している。曰く、「中国軍の保有する中距離ミサイル1250発に対して、米軍のその保有はゼロ」であると。

「現代戦に欠かせない中距離ミサイルの所持数は、中国が1250発なのに対し、米国はゼロだ。冷戦期の1987年、米国がソ連との間で結んだ中距離核戦力全廃条約により、射程500~5500キロメートルの核弾頭および通常弾頭を搭載する地上発射式の弾道ミサイルと巡航ミサイルの保有を禁じたためだ。一方、INF条約とは無縁だった中国は各種ミサイルを開発し、1250発の中距離ミサイルを持つに至った。米軍が『空母キラー』『グアムキラー』と呼ぶ特殊な中距離ミサイルも保有し、台湾有事には米艦艇が第1列島線に近づくのさえ難しい」(21年6月9日付「現代ビジネス」https://gendai.media/articles/-/83991)

これは無知なのか、意図的なのか。非政府系の防衛ジャーナリストが、堂々とこんなフェイクに近いものを流し、「台湾有事」を煽動する。今起きている状況は、こんなに酷いものだ。

この中国軍と米軍のミサイルギャップ――中国軍が1250発の中距離ミサイルを保有しているのに米軍はゼロという主張が、いかに事実の隠蔽なのか、現実を見れば明らかだ。確かに、米軍はINF条約に縛られ、「地上発射」の中距離ミサイルは、現在保有していない。

だが、米軍は、「潜水艦発射」「水上艦発射」の中距離ミサイル――巡航ミサイルの多数を保有している。例えば、米海軍の潜水艦発射巡行ミサイル(SLCM)を搭載する、改良型オハイオ級原子力潜水艦には、22基のトマホークが搭載されている(1基に7発のトマホークを装填、1艦あたり最大154発)。このオハイオ級原潜は、4隻あるから、合計で最大616発のトマホークが搭載可能である。

なお、米海軍は、2021年2月、東アジア地域でこのオハイオ級原潜の姿を公開し、排水量1万8千トンの巡航ミサイル搭載潜水艦が、沖縄周辺で米海兵隊と共同訓練を行う様子を見せつけた。

原潜だけではない。米海軍の水上艦艇も、多数のトマホークなどを装備している。例えば、米議会の資料によると90年代初め、横須賀に在留する米海軍巡洋艦「バンカーヒル」と「モービルベイ」は、それぞれ26発のトマホークを、駆逐艦「ファイフ」は、45発のトマホークを搭載。巡洋艦「サンジャシント」は、122基の発射管全てにトマホークを装備していた(『情報公開法でとらえた在日米軍』梅林弘道著・高文研)。

見てのとおり、中距離ミサイル保有について、米軍ゼロというのは完全なフェイクである。正確に言えば、今まで米軍の「地上発射」中距離ミサイルについては、ゼロだったということだ。

●「敵基地攻撃能力」としての中距離ミサイルの保有と配備

言い換えると、現在、米軍が目論んでいる「中距離ミサイル問題」は、地上発射を含む潜水艦・水上発射の中距離ミサイル保有量において、中国軍を圧倒する中距離ミサイルを保有しようとしていることだ。

 問題は、日本政府が今に至るまで中距離ミサイル配備問題を隠蔽しているのは、この配備が中国にもたらす影響の大きさである。そして、この中距離ミサイルの日本配備の困難さを米国が承知しているということだ。

これについて、元米国国防総省東アジア政策上級顧問・ジェームズ・ショフは、朝日新聞のインタビューに答えて言う。「(日本は)我々はあなたたちのミサイルをここに配備して欲しくない。その代わり、我々自身でその能力をもとう」と(2021年7月26日付)。

今、日本で進んでいる状況は、まさしくショフが言うように、「我々自身でその能力をもとう」と、自衛隊が「敵基地攻撃能力」を持つトマホークを始めとする「中距離ミサイル」を開発・配備し始めているということだ。もちろん、米軍が日本への中距離ミサイル配備を諦めたわけではない。日本の政治状況を見ながら、虎視眈々と配備発表のチャンスを狙っているのだ。

付け加えると、米国政府、日本政府が発表を躊躇しているのは、この中距離ミサイルの琉球列島配備においては、このミサイルが中国までおよそ10分前後で着弾するということから(弾道ミサイルの場合)、中国が全く防御することも、対処することもできないという事態に追い込むからである。

この問題は、1980年代、ヨーロッパの中距離核ミサイルの配備において大論議された問題だ。この防御不可能の中距離ミサイル配備は、いわゆる「抑止力」が全く効かない、相互に戦争自体を誘発しかねないとして、INF条約を締結する契機になったのである。

ということは、琉球列島―日本に中距離ミサイルを配備することは、中国に防御不可能の刃を突きつけることであり、中国軍が唯一、優位性を保っているミサイル態勢を奪うということであり、これは、中国との深刻な外交的・政治的危機を生じさせることになりかねないということだ。

 ●琉球列島へのトマホーク配備と有事展開

 2019年、米国政府のシンクタンクであるCSBAは「INF後の世界における米国の戦域ミサイルの再導入」というトシ・ヨシハラらの署名する提言を発表している。この提言では、予定する中距離ミサイル導入は、トマホークが有力であるとしている。

「戦域ミサイルを実戦配備するための最も簡単な短期的手段は、おそらく地上発射型・陸上攻撃ミサイルのトマホーク(TLAM)である。米国はすでに多くの中距離TLAMブロックⅣを保有しており、直近の2018年度のトマホーク大量購入費用は、1発あたり140万ドルであった。ランチャー1台に4発のミサイルを搭載した場合、TLAM400発とランチャー50台の取得にかかる総コストは14億ドルとなる」と。


そして、このCSBA提言は、また「米国の同盟国が地上発射型ミサイルの配備のために自国の領土へのアクセスや使用を拒否する可能性がある」が、「同盟国が平時にはミサイルを保有したくないと考えていても、危機の際にはミサイルが同盟国に配備される可能性があり、一部の長距離の戦域ミサイルは米国の領土に配備される可能性もある」という。つまり、中距離ミサイルの、日本への「有事配備」をも検討するということだ。

さらに、CSBA提言は、「戦略家や政策立案者の中には、米国が地上発射型の戦域ミサイルを配備することに対して、考慮すべき重大な懸念を表明している人もいる。まず、米国の地上発射ミサイルの配備は、新たな軍拡競争の引き金になると主張する人がいる」という。

言うまでもなく、中距離ミサイルの琉球列島――日本配備が、アジア太平洋での米中ロ日、あるいは朝鮮までも巻き込む、激しいミサイル軍拡競争を引き起こすことは明らかである。

この事態は、キューバ危機のような一過性の危機ではなく、あるいはまた、80年代ヨーロッパのような局地的危機ではなく、アジア太平洋全域を巻き込むミサイル戦争の危機になりかねない。そして、その最前線に立たされようとしているのが、先島―沖縄なのである。

しかも、このミサイル戦争の戦場である先島・沖縄は、対中国戦の「ミサイル発射基地」として変貌させられようとしているのだ。従来、自衛隊のA2/AD戦略のもとでの、これら琉球列島の戦略的位置は、「島嶼戦争」=通峡阻止作戦下の「拒否的抑止」という、どちらかというと防御的(中国軍に対する海峡封鎖作戦という意味では攻撃的)な戦略であった。

しかし、政府・自衛隊の「敵基地攻撃能力」の保有という状況下では、すなわち、日本型巡航ミサイル、トマホークを始めとした、「日本版・中距離ミサイル」を保有しようとする状況下では、まさしく、琉球列島自体が、対中国に向けた「攻撃的ミサイル発射基地」となるということだ。

 私たちの喫緊の課題は、今や中国へのミサイル攻撃の拠点――「中国本土攻撃基地」として位置づけられようとしている沖縄――琉球列島への各種のミサイル配備に対して、厳としてこれと対峙しなければならないということだ。

小西 誠(軍事ジャーナリスト・ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会オブザーバー)

参考文献『ミサイル攻撃基地化する琉球列島―日米共同作戦下の南西シフト』ほか

第Ⅱ期「島々シンポジウム」 *緊迫する馬毛島ー種子島軍事基地化の状況をリポート!

2022年09月08日 | 軍事・自衛隊


日米の南西シフトの演習・機動展開・兵站として位置づけられた馬毛島ー種子島の要塞化!

――その馬毛島・葉山港の浚渫が8/16早朝から開始された。八板俊輔西之表市長は、9月の西之表議会で基地計画への最終的賛否を表明するとしている。
今、急ピッチで馬毛島の要塞化が進む中、全国からの支援と連帯の大きな声が求められている。
「台湾有事」を始めとする日米の対中戦略が進むこの事態下、琉球列島の要塞化は、私たちの一人一人に成否が問われている。

●この島々で抗する市民が一同に集まるシンポジウムへ、全国から参加と連帯をお願い致します。

●日時 9/23(金・祝日)15:00~17:30

●場所 zoomウェブセミナー


●無料(カンパ歓迎)

●パネラー
・迫川浩英さん(馬毛島への米軍施設に反対する市民・団体連絡会事務局)
・長野広美さん(西之表市議)
・和田香穂里さん(前西之表市議・戦争をさせない種子島の会会員)
・和田 伸さん(種子島在住)

●司会 
・FUJIKOさん(うたうたい、島じまスタンディング) 
・石井信久さん(島じまスタンディング)

●解説 小西 誠(軍事ジャーナリスト)

●登録リンク(アドレス)
https://us06web.zoom.us/webinar/register/WN_QzYB3LT_QR28nuBpILHMpw

*主催 第Ⅱ期「島々シンポジウム」実行委員会

*寄付・カンパのお振込み
(現地の人々にお渡しします!)
・郵便振替 00160-0-161276(名義・社会批評社)(「島々基金」とお書き下さい)

*クレジットでのカンパができます(ただし、9/23(日)の20:50までの受付です。)
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02u09anevzi21.html?fbclid=IwAR3Irw6idyYWuDFGVhgsTseV0qnCvG400Q0aI6n6CSzrgPCeSiuIMrUGS7k#detail


*連絡先 shimajima2021@gmail.com

自衛隊のセクハラ・パワハラ・暴力の実態――旧日本軍と連続する軍事組織・自衛隊の矛盾と現在的危機

2022年09月08日 | 自衛隊南西シフト


はじめに

 本日は、韓国外語大学にお招きいただき、ありがとうございます。私の今日のテーマは、日本の自衛隊内でのセクハラ、パワハラの実態についてお話しするのですが、おそらく、このテーマは、日本だけでなく、韓国軍、さらには米軍など世界各国の軍隊に内在する問題であろうかと思います。とくに、先進国の軍隊の在り方が、根源から問われている問題であると思われます(2019/9/21)。

●「自衛官人権ホットライン」とは

最初に、自己紹介すると、私は2004年の自衛隊のイラク派兵を機に「自衛官人権ホットライン」を開設、その事務局長を務めている。このホットラインは、日本では自衛官とその家族の、唯一の民間の相談機関であり、元自衛官と有志がボランティアで運営する機関である。

  もっとも、防衛省においても「防衛監察本部ホットライン」が10年前から開設されているが、隊員からの評判はよくない。その理由は、隊員たちがそこに相談すると、相談者の個人情報が部隊当局へ通報される、と。隊員たちには煙たがられている存在である。 

自衛官人権ホットラインへの相談件数は、ここ2~3年で急増している。その内実は、「辞めたい、死にたい」と悲鳴に近いものが聞こえてくる。具体的には、隊内でのパワハラ、セクハラ、イジメ、退職制限、退職強要、私的制裁(暴力事件)、自殺願望・未遂など、様々な相談が寄せられている。

 相談件数は、年間ではおよそ300件、創設以来では、約2500件、大半はこの5年間である。その特徴を付け加えれば、従来と異なり現役自衛官の中の一般隊員の相談から、特に幹部(将校)・曹(下士官)の相談が大幅に増加していることだ。また、隊員家族からの相談も急増している。

これらの背景にあるのは第1に、現在日本では、「自殺を強いられた隊員家族」からの裁判が急増しており(一般裁判所にて。軍事法廷は自衛隊にはない)、これがテレビなどの報道でも取り上げられ始めており、社会問題化し始めていることがある。        

 この相談が増加しつつあるもう1つの理由は、電子メールでの相談の急増(スマホ、パソコンから気軽に相談)である。当ホットラインでは、以前は電話・メールを併用していたが、現在はメールのみで相談に応じている。自衛隊当局の「メール解禁」(以前は隊内での秘密保全上禁止)という中で、メールだから気軽に相談できるということがあるかも知れない。このメールで、隊員たちがいつでも、どこからでもアクセスできる、ということは、「軍隊は真空地帯」であるという実体が崩壊しつつあるといえよう。

ホットラインへの相談が増えつつある第2の背景としては、自衛隊を取り巻く内外の情勢が変動期にあり、その中で自衛隊の内外ともに動揺が広がりつつあることがある。

1990年代の初めに東西冷戦は終了したのだが、自衛隊はこの東西冷戦の終了という事態からはるかに遅れて、2000年代前半から2010年代にかけて、大きな再編に見舞われている。つまり、北方シフト(対ソ連)から南西シフト(対中国)態勢の再編であり、このために部隊の全国的移動、部隊編成の再編(戦車・火砲の大幅削減とコンパクトな機動連隊・旅団・師団化)であり、このために隊員らの大移動=転勤が行われ始めている。

この中で、自衛隊は、2015年安保法改定にともない、集団的自衛権の行使による日米共同作戦、自衛隊の海外出動を常時可能にしている。

 すでに、自衛隊は、2004年のイラク派兵を皮切りに海外派兵を常態化させており、2009年の海賊対処法制定後は、アフリカ・ジブチ駐留に「海外常駐基地」を設営し駐留している。このような日本と自衛隊をめぐる環境の変化が、自衛隊内に大きな動揺をもたらしていると言えよう。

 少子化社会の中の軍隊

このホットラインへの相談急増の、第3の背景についても挙げよう。それは、韓国など先進国社会でも共通する、社会の「少子高齢化」による入隊者の減少ということだ。これは、実に自衛隊に大きな影響を与えている。自衛隊の少子化問題は、深刻なものである。

具体的に見てみよう。今年、防衛省当局は、自衛隊の任期制一般隊員(陸海空士)の入隊年齢の大幅な引き上げを決定した。現在の入隊年齢26歳以下を、何と32歳以下に引き上げるというものだ。

これらの背景にあるのが、全自衛隊の隊員充足率の厳しい状況だ。自衛隊全体での充足率は91%だが、陸海空士では73.7%(2018/3/31現在)である。将校・下士官では、定員オーバーになっているが、一般兵士が全く集まらなくなっている。

 特に、人気のない海上自衛隊では、今やギリギリの人員で艦船を充分に動かすことすら出来なくなりつつあるという。この結果が「艦艇クルー制」という「苦肉の策」の導入だ(2018年新防衛大綱……2つの乗組員チーム[2つのクルー]で、1つの艦艇を交代勤務するというもの)。

こうして、行き詰まった人手不足の中で打ち出されたのが、女性隊員の大幅増加とその職種の拡大である。2018年現在、全自衛隊の女性隊員は、1万4686人。約23万人の制服自衛官全体の6.9%である。これを2030年度までに9%以上に拡大するという(現員の内訳は、幹部2196人[5.2%]、准尉54人・曹8143人[6.6%]、士4293人[10%])。

正確さに欠けるかも知れないが、日本での報道によると、韓国軍の女性将兵は、1万263人で、将校・副士官のみとされている(2016/9/26付中央日報)。

おそらく、少子化、男子隊員のなり手不足の中で、女性隊員は9%どころかもっと大幅に増加していくであろう。

また、現在の女性隊員の「後方勤務」などの職種の限定を排して、海上自衛隊では、艦艇・潜水艦乗員として、航空自衛隊では、戦闘機パイロットへ、陸上自衛隊では、戦車乗員などへ、つまり、「前線勤務」、男子隊員と同様の職種へと大幅に拡大するという。

これに加えて、自衛隊には現在、歴史的な構造的矛盾というべき問題が生じつつある。それは、先進国の人権意識の拡大と「閉鎖的軍隊生活」の矛盾であり、この結果として、軍隊内の集団的・強制的な「内務班生活」の閉塞性と破綻が顕在化しつつあるということだ。

その結果、約26万の「自衛隊員」(職員を含む)の中、約70~100人の自殺者が出ている。隊内には、セクハラ、パワハラ、イジメが爆発的に増加しつつある。

現職自衛官と家族の告発と裁判

 前述したが、この状況のなか問題になっているのが自衛隊員とその家族からの訴え、裁判への提訴である。国・自衛隊当局を相手とする裁判である。ここ10年のケースを箇条書きで挙げてみよう。

① 現職女性自衛官の性的暴行事件の訴え(2007年)と勝利(2010年)

② 護衛艦「たちかぜ」事件の現職法務官の告発(2004年6月頃に海上自衛隊の「たちかぜ」)内で発生した、隊員への暴行恐喝事件、2014年高裁判決で原告勝訴)

③ 防衛大学校学生のパワハラ訴訟(2013年提訴)、2019年2月一部勝利判決

④ 現職自衛官の安保法違憲訴訟(2019年、訴えを却下とした東京高裁判決を破棄し、最高裁が審理を高裁に差し戻し係争中)

⑤ 統合幕僚長の「会見文書」の流出犯人とされた自衛官の訴訟(2017年、防衛省情報本部の大貫修平3等陸佐、埼玉地裁)

➅埼玉地本の「募集表彰者」疑惑への告発事件(2017年、陸自1尉、東京地裁)

あえて、セクハラ、パワハラ以外の現職自衛官らの裁判を含めて挙げたが、この状況は、セクハラ、パワハラなどによる自殺事件の多発とその責任を問う隊員と家族の訴えの広がりが、現職隊員らの「現職のままの裁判提訴」という、自衛隊創設以来の重大な事態を創り出しているということだ。

ここには、10数年間でおよそ20数件の、セクハラ、パワハラ、イジメによる自殺などの、自衛隊当局を訴えた裁判で、ほとんどの被害者隊員らの勝訴が実現していることが背景としてある。 

 だが、このような隊員と家族からの裁判とその勝利にも関わらず、自衛隊内のセクハラ、パワハラ、イジメは、全く後を絶たない。というか、当局のその対処不能の中、それらはさらに増加しつつあり、自殺者などは高止まりの状況だ。

重大なのは、これらのパワハラ、自殺事件を始めとする「犯罪」の状況下でも、当該部隊の指揮官―艦長・連隊長等などは責任を回避し、刑事事件の告発はほとんどないということである(一昨年、横須賀の艦艇内の自殺事件で初めて刑事事件に)。

本来、パワハラなどによる自殺では、上級指揮官の監督責任を問うべきである(ところが実際は、部下の暴力行為を見て見ぬ振り)。現実は、その監督責任がある上級指揮官が自ら、パワハラを引きおこす事態が続出している。

「3等海尉に艦長が「死ね」「消えろ」などと発言、艦長が他の乗員を殴ったり、ノートを投げつけたりしたとの記述もあった」(2018/12/25付『朝日新聞』)


現職女性自衛官の勇気ある告発――性的暴行事件の訴え(2007年)

 最初に挙げた「現職女性自衛官の性的暴行事件の訴え(2007年)と勝利(2010年)」は、本当に勇気ある行動である(表紙写真)。

この事件の重大な特徴は、自衛隊内のセクハラ、性的暴行事件において、「現職自衛官」が「現職」のまま、当局を訴えるだけでなく、以後も隊内に踏みとどまり裁判を継続し、あらゆる当局の妨害、嫌がらせ、退職強要とたたかい続けたということだ。

事件が起きたのは、北海道・札幌市近郊の航空自衛隊・当別レーダーサイトの基地内である。営内居住義務がある、女性空士長への上官からのセクハラ・性的暴行である。

事件は、このレーダーサイト整備班の女性自衛官(20歳)に対し、同隊のA3曹が営内で「強制わいせつ事件」(性的暴行未遂)を引きおこしたことに始まる。ところが問題は、当局が最初から「隊ぐるみ」で加害者を擁護し、処分もなしにすませようとしたことだ(原告・弁護団は「強姦未遂」事件として、札幌地検に告訴・不起訴)。     

しかも、当局は、訴えている被害者・女性自衛官に「原因を作ったおまえが悪い」として退職を執拗に強要したのだ。

これに対し、女性自衛官は、2007年、国・自衛隊を相手に札幌地裁へ訴えて、現職自衛官として、初めての慰謝料請求訴訟を提起した(「女性自衛官人権訴訟」という)。これに対して2010年、札幌地裁は被害者の訴えを認め勝訴、慰謝料580万円の支払いを命じた(被告側は控訴せず判決は確定)。

 しかし、問題はこれに留まらない。裁判が続く間、当局は「女性の職務怠慢」などの口実で、被害者である女性自衛官の「懲戒処分審理」を始めるという暴挙に出たのだ。これに弁護団は何度も抗議している(筆者は原告の支援側から自衛隊内の懲戒手続きについて相談をうけた)。                      


報道された自衛官の性暴力事件の一部

 さて、ここでは報道された自衛隊内でのセクハラ、性暴力事件の一部を見てみよう。もちろん、この報道は隊内の現実のほんの一部にすぎない。

*「陸自 わいせつ行為で1等陸曹を処分 18人の女性隊員に(「毎日新聞」 2017年8月26日付)」

――陸上自衛隊下志津駐屯地(千葉市若葉区)は26日、18人の女性隊員に対し、わいせつ行為などをしたとして、高射教導隊1等陸曹の男性隊員(51)を停職60日の懲戒処分にしたと発表した。駐屯地広報室によると、男性隊員は2006年7月~13年3月、駐屯地内で事務処理の指導中などに、女性隊員17人の胸や尻、顔などを触ったほか、休憩時間や帰宅の際に『胸が大きいね』などと発言。さらに昨年3月、20代の女性隊員に敬礼の仕方を指導する際、尻を蹴るなどした。駐屯地には約50人の女性隊員が所属。数人が昨年秋、被害を上司に申告し発覚(下志津駐屯地は、地対空ミサイル部隊の学校)。

*防衛大学校レイプ事件(2010年3月4日付「時事通信」)。「防衛大学校で集団レイプ事件 学生3人を警務隊が逮捕」

――幹部自衛官を養成する防衛大学校(五百旗頭真校長)で、前代未聞の大不祥事が起こった。同校の男子学生が集団レイプ事件を起こし、自衛隊警務隊に準強姦の疑いで逮捕されていたのだ。事件が起きたのはこの2月。20代前半の3人の2年生が、自衛官とみられる女性を輪姦したという」。

この被害女性の所属は、プライバシーから明らかにされていないが、防衛大学校の女子学生の可能性が高い。こういう破廉恥な犯罪も防衛大学校で起き始めている。


ほとんどが「泣き寝入り」させられている女性自衛官たち!

 女性隊員の告発などでもなければ、自衛隊内のセクハラ事件は、表に出ることはまったくない。しかし、自衛隊には先述したように女性隊員たちが、男子隊員不足から必然的に増大する。こうなると、自衛隊当局といえども、この問題を無視できなくなる。こうして行われたのが、全自衛隊を網羅する自衛隊内の性暴力事件のアンケート調査である(「防衛省職員セクシュアル・ハラスメント調査結果」)。

調査は、1998年・2007年の2回にわたり、同省人事教育局によって行われた。対象は、男女1万人の隊員である。


アンケートにおいては、1998年では女性自衛官975人のうち182人(18.7%)が「性的強要」を受けたと回答、72人(7.4%)が「強姦・暴行(未遂を含む)を受けた」と回答した。驚くべき数字だ。自衛隊内にセクハラ、性的暴行事件が蔓延していたことが明らかとなった。

しかも、例えば1998年のうち、この「性的強要・強姦」など両者254人のうち73人(28.8%)の加害者が直属の上官であり、この被害を当局に届け出たのはわずか23人(0.98)であったということだ(2008年の「性的強要」は3.4%、「強姦[未遂を含む]」は1.5%)。

16年前の統計であるとはいえ、すさまじい実態だ。女性自衛官の定員は、約1万5千人、この18%は、全体の約3千人だが、これほどの女性隊員らが「性的強要」を受けていたことになる。およそ5人に1人である。 


 この調査では、その他のセクハラ事件も凄まじい。「わざとさわる」が、1998年では59.8%、2008年では20.3%であり、悪質なセクハラは少なくなっているが、セクハラ自体は依然として頻発している。
言うまでもなく、防衛省・自衛隊では「セクシュアル・ハラスメントの防止等に関する訓令」「セクシュアル・ハラスメントの防止等の細部について(通達)」をそれぞれ、2000年前後に制定し、各部隊でもセクハラ防止教育を繰り返してきたはずである。

 それでも隊内での、特に「上級幹部」のセクハラ事件が後を絶たないのである(「防衛省職員セクシュアル・ハラスメント調査結果」全文参照)。

防衛大学校パワハラ、イジメ事件

防衛大は、陸海空3自衛隊の幹部(将校)を養成する4年制の士官学校であり、神奈川県の三浦半島に所在している。

この防衛大学校において、2013年、防衛大学校の一学生(2学年)が、パワハラ、イジメに遭い、退学を強要されたことから、大学校の凄まじい実態が初めて日本社会に晒された。

 掲載資料は、事件から5年後の2018年、防衛大学校当局の調査結果を報告したものである(事件当初はこの事件を隠蔽した)。



 この当局の報告書でも明らかだが、「学生は風俗店に行くことを断ったことから、下半身を露出させ、下腹部にアルコールをかけ、火を点けて火傷を負わせ」られ、その状況を他学生に撮影させ「LINEへ動画を投稿させた」など、執拗ないじめ、パワハラに遭っていたのだ。その結果、被害者学生は、精神的に変調を来し、退学に追いやられるという事態になった。


問題は、被害者学生が、当局を告訴し、さらに民事裁判で訴え出たことで、この防衛大学校のイジメ、パワハラの全容が初めて明らかになったことだ。
これは、防衛大学校当局の2014年・2018年の、2回のアンケート調査で明白となった。

まず、2014年の当局の「聴き取り結果」を参照してほしい。そのイジメ行為の1つである被害学生がやられた「体毛を燃やす」という例を挙げると(③)、「やった」という学生が、1年生1人、2年生5人、3年生5人、4年生22人で、「やられた」という学生が、1年生8人、2年生49人、3年生55人、4年生32人という驚くべき数字がある。

ここであえて「体毛を燃やす」という行為を取り上げたのは、この行為が被害者学生が火傷を負ったように、アルコールをかけて燃やし、火傷を負わせる傷害行為・傷害罪であるという重大な事件であるからだ。

この傷害罪を伴う行為が、訴え出た被害者学生だけでなく、当局調査でも、防衛大学校内に蔓延していたのである。

さて問題は、このいじめ、パワハラは、被害者の提訴後において改善されたのか、ということだ。2018年の同様の調査でも、全く変わらなかったことが明らかになった。2014年の調査では「やられた」が合計144人であるが、2018年の調査でも「やられた」が144人と同数である。つまり、防衛大学校当局が事件を隠蔽した結果が、この内容だ。これは、他のイジメ、パワハラも4年間で同じように変わっていないのである。


防衛大学校の腐敗と崩壊的危機

 当局の調査によれば、大学校では、「殴る、蹴る」の暴力も横行しており、2014年の調査でも、「殴るのを見た」が200~250人、「蹴るのを見た」が240人前後となっている。しかし、問題はこのような暴力事件が多発しているだけではない。もっと悪質な「刑法犯」が続出しているのである。

 資料のここ10年における防衛大学校学生の「規律違反件数」、「懲戒処分件数」を見てほしい(防衛大人権裁判弁護団の裁判提出準備書面から)。この特徴は――

① 年間110数件の規律違反

②年間40~90件の懲戒処分

③年間10から30件の「刑法犯」(詐欺・悪質な暴力・レイプ)

④4年生が一番多い

が挙げられる。

 全防衛大学校学生約1800人の中で、年間最多で167件の規律違反があり、年間最多で30件の「刑法犯相当」の学生がいるという事態、これは防衛大学校の根本からの腐敗であり、その崩壊的危機というべきである。


ここで1つの刑法犯相当の事件を見てみよう。これは、「防衛大学校詐欺事件」として、2014年4月、新聞各紙が「防衛大学校18人、79件の保険金詐欺、不正請求」事件として報じたものである。
――「防衛省は2日、防衛大学校学生18人が2010~13年に計79件・約490万円を不正請求していたとの調査結果を公表した。一部の学生が、傷害保険の請求のために必要な医務室の受診記録を偽造して不正請求を始め、他の学生もまねをした。警務隊は同日、この内同校OBの海自、空自の3尉計4人を書類送検し、懲戒免職にした」

つまり、今回は防衛大学校卒業後、すでに幹部になっていた自衛官4人を含め、全体で18人を摘発したとしている。摘発をこの人数に絞ったのは、すでに任官したものが多数にのぼることからである。

実際は、同大学校のアメリカン・フットボール部、ラグビー部を中心に全学年(100人以上)にわたって保険金詐欺は広がっていたのである。


2011年「防衛大学校改革に関する検討委員会」の設置

防衛省は、防衛大学校学生の裁判が始まる以前から、当局なりに防衛大学校の現状には危機感を抱いていたようだ。これが、2011年、「防衛大学校改革に関する検討委員会」の設置となった。ここには――

――「近年の不祥事の傾向として、集団による不適切な学生間指導などの事案、特に上級生が主導し下級生を巻き込んで引き起こす例が見られる。また、上級生(特に4年生)になるほど事案が増える傾向にある」

として、問題点が指摘され、改革が急務であることも示されている。だが、2014年、2018年においても、何らの改革はなされず、防衛大学校内の暴力事件、刑事事件は後を絶たない。

 この根本的原因は、起こっている事態を小手先の改善で事を済ませようとしているからである。問われているのは、防衛大学校・自衛隊内の人権教育、民主主義教育だ。つまり、命の尊さを顧みない、人としての権利を尊重しない防衛大学校の教育、旧日本軍の「営内班」「内務班」を引き継ぐ軍紀の在り方が、根底から問われているのだ。

 防衛大学校は、創設期から現在まで「真の紳士淑女にして、真の武人たれ」を教育のモットーにしてきた。しかし、いまや「紳士・淑女」はもとより「武人」などと言うのも、おこがましいのだ(この「武人たれ」という教育も旧日本軍の伝統!)。


 *資料は防衛大学校の中途退校者の実態


自衛隊内で広がるパワハラ、イジメ、自殺

 筆者が主催する「自衛官人権ホットライン」のもとへ「死にたい 辞めたい」という相談が急増していることを先述した。この状況の中に、現在の自衛隊が置かれている根本的矛盾が示されている。 

ホットラインに寄せられる相談は、「辞めたいのに、辞めさせてくれない」「ささいなことで退職を強要されている」「パワハラ、イジメ、暴力をうけている」「懲戒処分を理由に、半年~1年外出禁止」「私生活上での干渉(恋愛・結婚など)」「毎日、夜中まで勤務させられていて休みがとれない」「死にたい。『うつ』と診断されているのに怠けていると言われる」という内容のものが多い。

この特徴も、最近は一般隊員だけでなく、幹部(将校)からの相談が非常に多くなっている。その内容も上級幹部から下級幹部へのパワハラ、上級下士官から下級下士官へのパワハラが目立つ。その幾つかの「事件」となった最近のケースを挙げてみよう。

例1、 海上自衛隊・横須賀護衛艦自殺事件(2014/9)
……乗組員の30歳代の男性隊員(3曹)が、上司の1曹から殴る、蹴るなどの暴行を受けるなど、日常的なパワハラをうけ艦内で首つり自殺。総監部は遺族に謝罪。この下士官が、艦内で何回も両手にバケツを持たされ、立たされているのを、同僚35人が目撃しており、艦長も目撃していることが報じられている。バケツを持たされて立たされているというのは、まるで「(昔の)小学生」だ。

例2、海自・横須賀補給艦自殺事件(2018/9)
……海上自衛隊横須賀基地(神奈川県)所属の補給艦「ときわ」で30代の男性3尉が自殺。乗員へのアンケートでは、艦長ら複数の上官からパワハラを受けていたとの複数の証言。海上幕僚監部服務室が、全乗員約140人にアンケート。その結果、3尉に艦長が「休むな」と指示、上官が「死ね」「消えろ」などと発言、別の上官が家に帰らせないと指導――などの回答があったという。艦長が他の乗員を殴ったり、ノートを投げつけたりした。まさしく、艦長が先頭になって陰湿なパワハラを繰り返していたのだ。

例3、遠洋航海中自殺事件
……2016年9月、10月、海上自衛隊員2人が艦内で首をつって死亡。護衛艦「あさぎり」では20代の海曹が、練習艦「せとゆき」では40代の海曹が自殺していたが、原因未公表である。

例4、潜水艦内の拳銃自殺事件
……2013年9月、広島県呉市の海上自衛隊呉基地に停泊していた潜水艦「そうりゅう」艦内の寝室で、2等海尉が拳銃で自殺を図り、一時意識不明となった。パワハラが原因であるとして家族は自衛隊当局を訴えている。この事件とは別に、2017年4月、海上自衛隊横須賀の護衛艦「たかなみ」での幹部拳銃自殺事件が起きている。

海上自衛隊だけを取り上げているようだが、実は自衛隊の中で海上自衛隊がもっともパワハラ、イジメ、自殺事件が多発しているのである。この海上自衛隊横須賀という自衛艦隊司令部の置かれている拠点でも、かつて護衛艦「うみぎり」内での航海中の4回の放火事件も起きているのだ(2002~2008年)。

 この背景にある根本的要因は、もはや歴然としていると言える。先に自衛隊幹部・将校の養成学校である、防衛大学校の凄まじい実態を見てきたが、彼らは学校時代から、理不尽な、非道なパワハラ、イジメを当然のこととして自ら行ってきたのである。こういう幹部隊員が中級・上級指揮官となったとき、当たり前のようにパワハラが日常化していくのだ。

 しかも、海上自衛隊の軍艦旗(旭日旗)に象徴されるように、海上自衛隊は、旧日本海軍の伝統をもっとも引き継いでいると自慢している組織である。かの「精神棒」さえも内容的には引き継いでいると言えよう(旧日本海軍でリンチに使われた棒)。

知られているように、日露戦争下での日本海軍の旗艦であった戦艦「三笠」は、水兵らの叛乱で爆発・沈没したといわれるが、同様の事態が海上自衛隊にもヒシヒシと迫りつつあるのだ(日本海軍は、叛乱で100隻が沈没したという)。

自衛隊と自殺者の増加

ここ20年以上、自衛隊の自殺者の高止まりは、自衛隊のみならず、日本社会でも大きな問題になっている。それもそのはずで自衛隊創設以来、数千人以上、1994~2014年の21年間で合計1651人、特に2000年代からは年間70~100人で自殺者が高止まりしている状況だ。もちろん、この間、当局は自殺予防に必死になっているが、自殺者はあまり減らないのである。これを日本社会一般と比較すると、自殺率(10万人あたりの自殺者数)では、国民平均約27人であるが、自衛官では約39.4人である。しかも、国民一般と対比して自衛隊の場合、若年者が圧倒的に多いのだ。


これらの隊内の自殺者の内訳を分析すると、その特徴として多数が准尉以下の曹クラスであり、下級幹部も多くみられる。つまり、自殺者は、曹士が大多数であり、若年隊員が多いということだ。

ところで、当局発表の自殺原因では、ほぼ半数が、借財や家庭不和、病気などとされているが、その他の過半数が「その他不明」とされている。この「その他不明」とは、なにか? 実は当局が「その他不明」とする、自殺者のほとんどが「パワハラ、イジメ」による自殺と判断されるのだ。

つまり、隊内でパワハラ、イジメ、暴力による自殺が原因とされると、当然、監督者・管理者である部隊指揮官の管理責任・監督責任が問われる。だから、指揮官等は、隊内の警務隊(自衛隊警察)と共謀して、これらの自殺原因の隠蔽を図るのだ。こういうケースは、筆者のホットラインにも相談が寄せられている。 

自衛隊では、最近、隊員らの「不祥事」事件も多発している。ここ数カ月でも、自衛官らによる、隊外での少女らに対する猥褻事件や暴行事件などが大きく報道されている。実際は、これらは氷山の一角で、多数の隊内の事件は、警務隊によって隠蔽されているのである。


19年間の自衛官の自殺者統計(衆議院議員・阿部知子君提出「自衛隊員の自殺、殉職等に関する質問に対する答弁書」(内閣総理大臣安倍晋三、2015年6月5日)
自衛隊のセクハラ、パワハラ、イジメの根本的原因

 先述のように、この隊内でのパワハラ、いじめ事件において、被害者自身や被害者家族による防衛省を訴えた裁判が多発しているのだが、裁判で敗訴するたびに防衛省、制服組トップは「再発防止」を繰り返している。しかし、パワハラも自殺者も後を絶たない。

 いわば、自衛隊自体に「自浄能力」がないということだ。これについて、裁判で証言台に立った航空自衛隊の部隊長は以下のようにいう。

「私たちには、指導とパワハラの区別がつかない」(空自・浜松基地幹部の裁判証言)

 まさしく、正直に証言している。制服組の思想では、何がパワハラで、どこが指導なのか、まったく分からないのである。こういう状況の中で、制服組の部内研究論文でさえも、自衛隊に「軍事オンブズパーソン制度を導入」すべし、という意見も出されるほどだ。「隊内では解決できない!」と。


憲法(人権等)が適用されない隊内(営内班・内務班)

  このパワハラ、イジメ、自殺そして暴力事件の多発が、自衛隊という組織の構造的在り方に深く関わっていることは自明である。つまり、軍事組織、とりわけ旧日本軍・旧日本海軍を引き継いできた自衛隊の存在そのものの矛盾である。

自衛隊は、人的にも旧日本軍の将校によって創設され、形成されたばかりでなく、その軍隊・軍事思想をも継承してきた。戦後においても旧日本軍の将校らは、一貫して自衛隊の幹部団全体を占めてきた(1980年まで旧軍将校が在籍。海上自衛隊は、日本海軍を解体せず継承。日本海軍掃海隊→海上保安庁→保安隊(1952年)→海上自衛隊(1954年)。警察予備隊(1950年陸上自衛隊だけで発足)→保安隊→陸上自衛隊(1954年)。保安隊→航空自衛隊[1954年])

こうした、自衛隊と旧日本軍との連続性のもっとも根幹にあるのが、旧日本軍の軍紀(命令と服従)の継承であり、その軍紀を日常的に貫徹する場としての、特に内務班(営内班)生活である。これは、世界の軍隊の中でも、希有な「軍隊(内務班)生活」として引き継がれたのである。

 しかし、旧日本軍を引き継ぐ内務班(営内班)は、暴力事件の温床となる。有名な「私的制裁」の多発だ。言い換えると、旧日本軍の軍事的特質は、厳格な軍紀「命令への絶対的服従」にあり、その軍紀を貫徹するのが「内務班=兵営生活」であるということだ。

ここでは、兵士への絶対的命令・服従精神の軍紀のもと、24時間勤務態勢下の「営内で起居」し、絶えず上官(先輩)の絶対的命令のもとでの集団的営内生活が強制される。

こういう隊内の環境が、上官の暴力、セクハラ、パワハラ、イジメの温床であり、蔓延化の原因となっている。

そして、自衛官の自殺や「不祥事という犯罪」の多発も、根本の原因は隊員らが極端な抑圧のもと、人権や命が尊重されない、非民主的環境におかれていることにあると言えよう。

また同時に、このような隊内の非民主的=抑圧的状況が、隊内への暴力(女性へを含む)として噴出するとともに、他方で外部への暴力として噴出するのだ。その外部への転化は、旧日本軍と同様、不可避となる。

自衛隊・軍隊と性暴力

旧日本軍は、中国を始めとするアジア太平洋地域で、15年戦争という長期の侵略戦争を遂行し、その過程でアジア太平洋地域の人々に、悪行の数々を行ってきた。この非道な悪行が、「三光作戦」という「焼き尽くし、殺し尽くし、奪い尽くす」いう極悪犯罪である。

これらの三光作戦は、朝鮮半島の人々を始め、中国、フィリピン、シンガポール、インドネシアなどアジア太平洋の全域に被害が及び、未だに解明されていない実態がある(日本国家として謝罪・賠償もしていない国々がある)。

このような、旧日本軍のアジア太平洋地域での非道な暴力支配の根幹が「軍隊慰安婦」という、女性の性奴隷制度であった。つまり、旧日本軍は、一方では軍隊外、対外的に女性への性暴力を行うとともに、他方では「軍隊慰安婦」制度として、合法的に女性のレイプを常態化したのである。

問題は、この旧日本軍において、世界の軍隊では類例のない性暴力を伴わせたのは、その根源に兵営の中の劣悪な環境があったということだ。言い換えると、旧日本軍の、その組織構造上の兵士の奴隷状態が、必然的に対外的に女性への性暴力を、対内的に軍隊慰安婦を常態化したということだ。

この厳格な軍紀による内部統制によって、兵士への直接の暴力支配(「私的制裁」という暴力)によって、内務班生活において兵士らは、非人間化され、人命・人権の尊重という人間性を完全に失うのだ(この軍紀=上官の命令は、即天皇の命令への絶対的服従でもあった)。

こうして、非人間に落とし込められた兵士らの欲望のはけ口は、女性らへの直接的な性暴力となるが、軍当局は、この非道な事態を許容したばかりか、軍当局・上官への反抗を減じる「士気高揚」の一環として位置付け、「軍隊慰安所」を、各駐屯地とその周辺全てに常時設置したのである。

自衛隊の内務班教育(参考)

参考に少しだけ自衛隊の隊員教育について述べよう。
自衛隊の隊員教育は、まさしく旧日本軍の「伝統」を引き継いでいる。営内班での教育とともに、「精神教育」という、日本軍独特の教育内容も日常的に行われている。

その精神教育の根幹が、「中隊は隊内生活における家庭」(陸自第1教育団「訓育指導の参考」)という天皇制的家族主義観の継承である。

同教科書では、具体的に「中隊長はお父さん、先任(下士官)はお母さん、班長はお兄さん」として、旧日本軍の「軍隊内務書」を完全に継承して教育が行われている。

こうして、隊員ら(兵士)は、営内班において「幼児」として扱われ、「躾・訓育」が行われる。「躾」とは、「手洗い、ハンカチ、ちり紙の携行、爪切り、うがい」などなどの日常生活の指導である(同書)。

 また、同書には、「訓育」とは、「精神教育により広い知識を得、訓育により自らが実践陶冶し、これを第二の天性になるようにするしつけ」と書かれている。

 実際の現場の「訓育」とは、例えば「軍歌演習」などで鍛錬するとされる。ここでは、参考として、旧日本軍の幼年学校での「軍人勅諭」による「服従精神」「剛健精神」などの涵養が挙げられている。

米軍内の女性兵士への性暴力

ところで、今まで見てきた軍隊の性暴力問題は、旧日本軍から自衛隊、そして米軍内でも大きな問題として現れている。

報道によれば、イラク、アフガン駐留部隊では、米軍の女性兵士の3割が、軍内部でのレイプ被害に遭っているという(『毎日新聞』2013年03月19日付)。この報道によると、

――米英軍主導の侵攻から20日で10年を迎えるイラクや国際部隊の駐留が続く、アフガニスタンに派遣された米女性兵士延べ28万人の3割以上が、上官らから性的な暴行を受けていたことが分かり、米国内で「見えない戦争」と問題視されている。連邦上院の軍事委員会で13日、「軍内性的トラウマ(MST)」と呼ばれる心的ストレスに関する公聴会が初めて開かれた。新たな被害を恐れ沈黙を余儀なくされてきた被害者は「風穴が開いた」と歓迎している。
 また、カリフォルニア州図書館調査局が発表した実態調査によると、イラクとアフガニスタンに派遣された女性兵士の33.5%が米軍内でレイプされ、63.8%が性的いやがらせを受けたと回答したとも報道されている。

この実態は、アメリカ国防総省も認めているが、軍内での性的暴力は、2010年だけで、男性の被害も含め推計1万9000件にのぼるという。

 凄まじい性暴力の実態だ。かつて、米軍はシビリアン・コントロールが貫徹された理想的な軍、民主的な軍として喧伝されたが、その面影の欠片もなくなっている。どうしてこのような「変質」が生じたのか?

 この答えは、自ずと明らかだ。結論は、軍隊が国外での不正義の侵略戦争を継続する限り、全ての軍隊がこの変質を免れない、ということだ。これは、米軍だけでなくすべての世界中の軍隊が避けられない事態である。

 ドイツ、オランダ、スウェーデン、ノルウエーなどの西欧諸国の軍隊は、すでに20年以上前から、軍隊の民主化を進めている。例えば、将兵の団結権、命令拒否権、勤務外の政治活動の自由などの民主的制度が採り入れられている(軍事オンブズパーソン制度も採用)。この西欧諸国軍の民主化は、たぶんに軍隊・軍事制度と民主主義の矛盾、戦争と民主主義・人権の矛盾の解決へ向かう過渡的在り方と言えるかもしれない。

 だが、この軍事思想、この努力が自衛隊、米軍には皆無である。このような軍隊は、いずれにしても、歴史のふるいにかけられ、衰退・崩壊していくことは疑いない。

 米軍の2001年以来、19年も長期に続くアフガン戦争(イラク戦争)は、その前触れかも知れない。米軍兵士およそ7000人の戦死(と、年間約200人の自殺者)と6.4兆ドル(約700兆円)の戦費をかけながら、そこから抜け出せないという事態が、それを表しているのだ。

 現在の日韓両国の間には、軍隊慰安婦問題、徴用工問題などの戦争賠償に関わる大きな課題が存在している。ここで明らかなのは、戦後の日本国家が一度たりとも国家として韓国に対して謝罪と賠償の責任を果たしてこなかったということである。とりわけ、韓国をはじめとするアジアの女性たちへの、非道な性奴隷制度、「軍隊慰安婦」とされた人々への、「国としての謝罪・賠償」を果たすことは、日本の歴史的責務である。

 過去を見すえないもの、歴史的過ちに責任をとらないものに未来はない。



米国シンクタンク・ランド研究所のウクライナ戦争論

2022年08月09日 | 軍事・自衛隊
米国シンクタンク・ランド研究所のウクライナ戦争論

このリポートは、米国によるロシアの政治的・軍事的実態に関する、特にウクライナ戦争に関しての米国政府のシンクタンク「ランド研究所」の分析である。本文で明らかなように、米国は2019年当初からこのウクライナ戦争を米国とロシアとの「代理戦争」であり、米国のウクライナへの軍事支援が拡大して行くにつれ、戦争がウクライナとロシアの全面戦争に広がり、米国との軍事的衝突に至りかねないことを予測している。

私たちは、メディアによるウクライナ戦争への一方的、偏向的報道に迎合するのではなく、この戦争の客観的実態を観なければならない。なぜなら、このウクライナ戦争は、この戦争に乗じて、今まさに私たちの足下で「台湾有事」を口実とした、対中戦争態勢づくりへと広がろうとしているからだ。(以下のリポートの要約は、特にウクライナ戦争に関する箇所に限定した。全文はリンクから読める)


目次
「ロシアを拡張する――有利な条件での競争」(ランド研究所 2019 RAND Corporation)
まとめとして
本文のまとめ
●「米国は両国(東ウクライナとシリア)でロシアの敵対勢力に限定的な支援を行っており、さらに支援を行う可能性があるため、ロシアのコストを押し上げることになる。このような代理戦争は、決して新しいものではない。
「ロシアを拡張する――有利な条件での競争」(ランド研究所 2019 RAND Corporation)
本報告書は、ランド研究所研究プロジェクト「ExtendingRussia」の一環として実施された調査と分析をまとめたものである。本報告書は、陸軍省本部 G-8 参謀本部副長官室陸軍四年制防衛検討室が主催する研究プロジェクト「ロシア拡張:有利な地盤からの競争」の一環として実施された調査分析を記録したものである。

目次
序文
第1章 はじめに
第2章 ロシアの不安と脆弱性
第3章 経済的措置
第4章 地政学的措置
第5章 思想的および情報的措置
第6章 航空・宇宙の対策
第7章 海上での取り組み
第8章 土地およびマルチドメイン対策
結論


*「本報告書は、ロシアとのある程度の競合が避けられないことを認識した上で、米国が有利になるように競合できる分野を明らかにしようとするものである。ロシアの軍事・経済および国内外での政権の政治的地位を圧迫する方法として、ロシアの実際の脆弱性と不安を利用できる非暴力的な措置の数々を検討する。

私たちが検討した措置は、防衛や抑止を主目的とするものではなく、その両方に貢献する可能性はある。むしろ、これらの手段は、敵対国のバランスを崩し、米国が優位に立つ領域や地域でロシアが競争するように仕向け、ロシアが軍事的・経済的に過剰な拡張をしたり、政権が国内外での威信や影響力を失うように仕向ける作戦の一要素」

まとめとして
●「ウクライナ軍はすでにドンバス地方でロシアに出血している(その逆も然り)。米国の軍事装備や助言をさらに提供すれば、ロシアは紛争への直接的な関与を強め、その代償を払わされることになりかねない。ロシアは新たな攻勢をかけ、ウクライナの領土をさらに奪取することで対抗するかもしれない。これはロシアの犠牲を増やすかもしれないが、ウクライナだけでなく米国にとっても後退を意味する。」

●「ウクライナへの軍事的助言と武器供給を増やすことは、これらの選択肢の中で最も実現性が高く、最も大きな影響を与えるが、そのような構想は、広く拡大する紛争を避けるために非常に慎重に調整されなければならないだろう。」

*「NATO の黒海沿岸に陸上または空中発射の対艦巡航ミサイルを配備すれば、ロシアにクリミア基地の防衛を強化させ、黒海でのロシアの海軍の活動能力を制限し、クリミア征服の有用性を低下させることが可能である。そのような基地の候補としては、ルーマニアが最も意欲的であろう」

*「米軍の地上部隊の大部分を欧州に戻せば、欧州の有事(および一部の非欧州の有事)により迅速に対応できるようになる。しかし、米軍がロシア国境に近ければ近いほど、緊張を高める可能性が高くなり、他の場所に再配置することが難しくなる。従って、中欧に配置するのが望ましいと思われる」

*「これらの措置は、米国が優位に立つ領域や地域でロシアが競争するように仕向け、ロシアに軍事的・経済的な過剰な拡張を促し、国内外での政権の威信と影響力を失わせるなど、敵対国のバランスを崩すことを目的とした作戦の要素として考えられている。」

このような施策の歴史的な参照点として、1980年代のカーター政権とレーガン政権の政策がある。大規模な国防強化、戦略防衛構想(SDI、別名スターウォーズ)の開始、ヨーロッパへの中距離核ミサイルの配備、アフガニスタンの反ソ抵抗勢力への支援、反ソのレトリック(いわゆる悪の帝国)の強化、ソ連とその衛星国の反体制者への支援などであった。

これらの措置がワルシャワ条約機構の崩壊とソ連の崩壊に実際にどの程度貢献したかは不明だが、この10年間の米国の政策は、モスクワにいくつかの困難な選択を迫るものであった。結局、ゴルバチョフ新政権は、まずアフガニスタンからソ連軍を撤退させた。」

*「ロシアは今日、アメりカにとって最も手ごわい潜在的な敵国ではない。ロシアは米国と正面から張り合う余裕ないが、中国は力をつけている。米国にほとんど負担をかけずにロシアにストレスを与えることができる措置があれば、中国の反応を促し、逆に米国にストレスを与えることになるかもしれない。」

*「本報告書で取り上げた措置のほとんどは潜在的にエスカレートするものであり、そのほとんどはロシアの反撃につながる可能性が高い。米国は、利用可能なロシアの反撃オプションを検討・評価し、米国の全体戦略の一環として、それらを拒否または中立化するよう努めなければならない。このように、それぞれの措置に伴う具体的なリスクに加えて、さらに別のリスクがある。核武装した敵対国との競争激化に伴うリスクを考慮しなければならない。」

本文のまとめ

*「現在のロシア軍は、一様ではないにせよ、有能な戦闘力を持っている。地上軍と空軍は国外を軍事的に支配することができ、他の旧ソ連諸国はモスクワとの直接軍事対決で勝利する見込みはほとんどない。また、クレムリンは生存可能な戦略核抑止力を有している。ロシアは、陸上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦の艦載弾道ミサイル(SLBM)、空中発射の巡航ミサイルによる爆撃機、および戦術核兵器の強力な兵器庫から構成されている。数十年にわたる持続的な投資により、ロシアは高度な防空能力を誇っている。米国(あるいはソ連)に比べれば、プーチン率いるロシアの戦力投射能力は限定的であるが、自国内でこれを破ることは極めて困難であり、コストもかかる。しかも、図 2.2.14 に示すように、軍事的に弱い国々と同程度の国防予算でこれらの能力を維持している。」

*「2016年、ロシアの国防費は米国の約10分の1であった。この金額は、約30万人の現役部隊の資金源となっている。77万人の兵士と200万人の予備役。重要なのは、ロシアの指導者が国防費を国内総生産(GDP)の約 5%以下に抑えることを確約」


●「米国は両国(東ウクライナとシリア)でロシアの敵対勢力に限定的な支援を行っており、さらに支援を行う可能性があるため、ロシアのコストを押し上げることになる。このような代理戦争は、決して新しいものではない。
実際、「偉大なるゲーム」は数世紀にわたって国家間関係を特徴づけており、世界的な大国が相反する影響圏をめぐって衝突してきた。このような駆け引きの復活は、冷戦の終結後、米国が唯一の超大国として残され、ロシアと米国以外の国との間で一時的に中断していた地政学的競争の形態への回帰を意味すると」

「施策1: ウクライナへのリーサルエイドの提供」
「2017年初頭までに、約6万人のウクライナ軍兵士が、推定5000人のロシア軍兵士を含む約4万人のロシア支援分離主義勢力と対峙し、これまでに約1万人の犠牲者を出した紛争であった。米国と欧州の同盟国はロシアに経済制裁を課し、ウクライナに経済支援と非殺傷軍事支援を行った。2014年、米国議会はウクライナ自由支援法に基づき、軍事・経済支援を承認した。」

「それ以降、2016年度(会計年度)まで、米国は安全保障支援に6億ドル提供し、 これらの資金はウクライナ軍を訓練するために使われたが、これらは対砲兵・対迫撃砲レーダー、安全な通信、兵站システム、戦術的無人偵察機、医療機器などの非殺傷軍事装備を提供」

「米国がウクライナへの支援を拡大することは、殺傷力のある軍事支援を含め、ドンバス地域を保持するためにロシアが負担するコストを血と財の両面で増大させる可能性がある。分離主義者に対するロシアの援助とロシア軍の駐留が必要となり、より大きな支出、装備の損失、ロシア人の死傷者が生じる可能性がある。後者は、ソビエトがアフガニスタンに侵攻したときのように、国内で大きな議論を呼ぶ可能性がある。このような米国のコミットメントの拡大により、もう2つのやや推測的な利益がもたらされるかもしれない。米国に安全保障を期待する他の国々は、心強く感じるかもしれない」

「米国のウクライナに対する安全保障支援が増加すれば、それに比例してロシアの分離主義者 への支援やウクライナ国内のロシア軍も増加し、紛争はより高いレベルで維持される可能性が高い 。元米国陸軍欧州軍司令官 Ben Hodges 中将は、まさにこの理由からウクライナへのジャベリン対戦車ミサイルの供与に反対している 。あるいは、ロシアは逆にエスカレートし、より多くの軍隊を投入し、ウクライナに深く入り込むかもしれない。ロシアは米国の行動を事前に察知し、米国の追加援助が到着する前にエスカレートする可能性さえある。このようなエスカレーションはロシアを拡大させるかもしれない。東ウクライナはすでに疲弊している。ウクライナをさらに占領すれば、ウクライナ国民を犠牲にするとはいえ、負担が増すだけかもしれない。」

「米国がウクライナの NATO 加盟をより積極的に主張すれば、ウクライナの士気と、それを阻止しようとするロシアの決意力が高まり、その結果、ロシアの関与と犠牲がさらに拡大する可能性がある。また、このような動きはNATO内部の反発を招き、ロシアの侵略に対抗するためにこれまでどちらかといえば統一された戦線であったものを損なうことになるだろう。」

「ロシアを拡張する地政学的な動きは、(時間と資源の関係で)ここでは深く検討しなかった他の選択肢、すなわちNATOとスウェーデン、フィンランドとの協力関係の強化、ロシアの北極における主張への圧力、北極におけるロシアの影響力のチェックも考慮する必要がある。」

*「スウェーデンとフィンランドを同盟に組み入れることは、特に魅力的である。スウェーデン海軍はコルベット 7 隻と潜水艦 5 隻を保有し、フィンランド海軍は 8 隻の高速攻撃機と広範な沿岸防衛システムを運用する。ロシアは、スウエーデンとフィンランドを威嚇するために、バルト海での航空・海軍活動を活発化させている。

「これらの行動は、NATOが両国との協調を強化しようとする努力を鈍らせようとするロシアの企てでもある。しかし、最近のロシアの動きが活発化した結果、NATOはスウェーデン、フィンランドとの連携を強めている。バルト海での NATO、スウェーデン、フィンランド、および米国の演習は、この小さなロシア艦隊に対する圧力を強める可能性がある。」

「バルト海の状況は、特に興味深い機会を提供している。NATO 海軍はすでに数的にも能力的にも優位に立っている。スウェーデン軍をNATO軍に含めれば、軍事バランスはさらに有利になる。ロシアは、水上・航空部隊の自由な活動能力を脅かすアクセス拒否能力に多大な投資を行っている。NATO とスウェーデンの部隊の組み合わせは、特に米海軍の定期的な支援を得て、このようなロシアの改良に挑戦することができる。NATO とスウェーデンは海中戦力において大きな優位性を持っており、ロシアに ASW の投資をさせることができる。」

*「黒海におけるNATOの対接近・領域拒否(A2AD)措置の強化は、クリミアのロシア基地防衛のコストを押し上げ、この地域を掌握したことによるロシアの利益を低下させることが最大の利点となる。
ルーマニアは、黒海におけるロシアの増強に懸念を表明し、それに応じてNATOとの関係を強化しようとしてきた。実際、ルーマニアは黒海での NATO 軍の旅団編成や海上演習の強化などを求めている。ウクライナは東部の陸上紛争に重点を置いているが、黒海の安全保障に懸念を示し、NATOが主導するタスクフォースへの参加を申し出ている」

「米海軍のプレゼンスが高まれば、作戦上のリスクも生じる。クリミアに基地を置くロシアの対艦ミサイルの射程は400~500km であり、黒海で活動するほとんどの米艦に到達することが可能である 。プレゼンスの拡大はまた、偶発的な衝突のリスクもはらんでいる。これまでにも、ロシア航空機が黒海で米軍艦に接近し、「ブザー」を鳴らしたことがある」

「ルーマニアに空中発射型または陸上配備型のASCM を配備すれば、米国とその同盟国が許容できるコストで、ロシアがクリミアの施設を利用するためのコストが増加すると思われる。」

*「第一の選択肢は、欧州における米軍の地上戦力を、重戦力と火力を含めて、少なくとも10年前の水準まで大幅に増強することである 。米陸軍は現在、欧州に3つの旅団戦闘チーム(BCT)を置いている。ストライカーと歩兵・空挺部隊、およびローテーション機甲部隊である。このオプションは在欧米陸軍の兵力をおおよそ倍増させ、最大6つの常設または持続的ローテーションBCT、そのうち少なくとも2つは機甲部隊、さらに大砲と対砲兵部隊を大幅に増強することを意味」

*「第 2 の選択肢は、欧州 NATO 加盟国が自国軍の即応性と能力を向上させるために支出を大幅に増加させることである。「防衛費の支出は、ドイツ(現在GDPの約1.2%)でさえ、今後数年のうちに目標のGDP比2%を達成するほど、急速に拡大している」

*「第 3 の選択肢は、米軍または西ヨーロッパの NATO 加盟国軍をバルト三国またはポーランドに直接、より多く展開させるものである。NATO の駐留強化構想は、すでにエストニア、ラトビア、リトアニア、およびポーランドへの多国籍大隊のローテーション配備につながっているが、このオプションでは、はるかに大規模で効果的な戦闘力を持つ部隊を検討することになる。例証のため、バルト海沿岸の各県に1 個以上の BCT または同等の部隊を前方配備することも可能である。」
「バルト諸国またはポーランドにこの規模の部隊を前方展開することは、ロシアと少な くとも一部の欧州 NATO 加盟国から見れば、1997 年の NATO ロシア建国法に違反するように見える」


*「潜在的な利益とリスク欧州における NATO 陸軍の増強、または実効的な能力の向上がもたらす潜在的なメリットは 3 つある。まず、これらの戦略は、(1) 同盟の戦う決意を示し、(2) その戦いに勝つためのNATOの能力を高めることで、ロシアがNATO加盟国への短期警戒攻撃を企てる可能性を低下させる可能性がある。陸上戦力の増強が抑止にもたらす効果は、陸上戦力がない場合にロシアがそのような攻撃を考える可能性に依存する」
「第3に、NATO の陸上戦力の増強は、その潜在的脅威に対抗するため、あるいは国境での優位性を維持し、継続的な行動の自由を確保するために、より多額の投資をモスクワに促すことで、ロシアを拡大させる可能性があることである。」

●ロシア国境付近または国境上に位置するNATO地上軍や、はるかに高い即応性レベルで相当数が維持されているNATO地上軍は、異なる反応を示す可能性が十分にある。NATO の東側諸国への高適応度 BCT の配備は、NATO がロシアへの本格的な地上侵攻を計画している可能性をモスクワに納得させ ることはできないだろうが、それでもロシアの立場からすれば、非常に脅威的な展開となる。このような部隊は、現実的にはモスクワを脅かすことはないだろうが、特に、多連装ロケットシステム(MLRS)や高機動砲ロケットシステムなど、戦場のNATO部隊に対するロシアの砲兵の優位性に対抗するための能力を伴う場合、カリンイングラードを危険にさらす可能性はある。また、これらの部隊は、ウクライナやグルジアなど、ロシアに非常に敏感な地域の他の場所にも容易に配備することが可能である。」
「さらに、この部隊は、自国の「近海」での優位性を含め、ロシアの大国としての役割の再確立に国内の民度を賭けてきた政権に、明確な政治的挑戦を突きつけることになる。バルト海やポーランドに駐留する部隊が、西ヨーロッパのNATO加盟国ではなく、主に米国からであった場合、認識される脅威と政治的課題は拡大する可能性が高い。」

●「西ヨーロッパを中心としたNATO地上軍の強化や能力向上は、ロシアの重要な関心事に対する政治的・軍事的挑戦とは認識されない可能性が高い。しかし、よりロシアに近い場所、あるいは国境に近い場所を中心とした、飛躍的に大規模で高い即応性を持つ地上軍を考えた場合、リスクはより大きくなる。先に述べたように、このような部隊は、ウクライナ、ベラルーシ、グルジアなどにおけるロシアの利益に対する政治的、そして可能性として戦略的な明確な挑戦となるため、まさにロシアの軍事支出を拡大する可能性を持っている。ロシアは、前方姿勢の強化を、近海で争う NATO の全体的な取り組みの一部と見なし、ウクライナなどの国々がモスクワに対してより強硬な姿勢を取るよう促すとともに、欧州への戦略的方向転換を検討している他の国々に物的、精神的支援を与える可能性もある。

このような変化は、ロシアの戦略的軌道から重要な国家を外し、この地域の国家がモスクワの現体制に不都合な政治・経済改革を行う可能性を示すことによって、ロシア政権の安全保障を脅かすことになる。このようなロシアの核心的利益に対する潜在的脅威を示すことで、ロシアは、米国と NATO の配備を抑止するため、あるいは、配備後の撤回を求めるために、強力に反撃する動機付けとなるであろう。この反撃は、以下のような形で行われる可能性がある」
・「配備を受け入れるNATO加盟国を不安定にするため、配備そのものに対する現地の反対勢力を動員することを含む、より大きな努力。
・中東など他の地域における米国または欧州の利益を脅かす水平方向のエスカレーション。
・戦略的軍隊を警戒態勢に入れ、配備そのものが関係における深刻な危機を構成することを強調する。INF条約を脱退し、核武装した中距離ミサイルを配備すること。
・欧米の政治体制を不安定にしようとする動きが強まっている。


*「米国は地上配備型中距離核ミサイルを独自に開発、配備する能力と資源を持っており、選択すればINF条約から脱退することも可能である。しかし、欧州にミサイルを配備するには、配備先の同盟国やパートナー国の同意が必要であり、その実現は難しいかもしれない。1980 年代には、ヨーロッパへのパーシング 2 ミサイルの導入に対して大規模な抗議が行われ、西ヨーロッパ諸国政府は、地理的に近 く、広範囲なソ連の軍事的脅威に直面していたとしても、これらのミサイルを受け入れることに消極的 であった 。このようなミサイルが再導入される状況にもよるが、これらの配備に対するホスト国の支持を確保することは困難であると考えるのが賢明であろう。この政策オプションの他の2つの代替バージョンについては、個別に議論する価値がある。

第一に、米国は、西ヨーロッパではなく、あるいは西ヨーロッパに加えて、ポーランドなど東ヨーロッパのNATO同盟国の領土に、核搭載可能なものを含む中距離ミサイルを配備することができる。これはある意味で、1980年代半ばに行われたパーシングIIミサイルの西ヨーロッパへの配備と同じであり、NATOへの攻撃には核による対応が必要であることをソ連とNATO加盟国の双方に保証するためのものである。しかし、今回はロシア国境に直接配備する。原則的に、このようなミサイルの配備は、米国がNATOの東側諸国を防衛するために核兵器を使用する意思があるという強いシグナルを送り、米国の抑止力を強化する可能性がある。しかし、このような動きは、ミサイルがモスクワに近接し、飛行時間が短いことから、ロシアにとっても大きな脅威となる。米国の海上・空中発射精密攻撃システムの体制破壊攻撃能力に対するロシアの懸念は、おそらく数倍に拡大されるであろう。これは、NATO領域に対するロシアの攻撃を抑止するのに役立つが、同時に、NATO領域に対するロシアの攻撃を誘発する可能性もある。」

●「結論
米国との競争において、ロシアの最大の弱点は、経済規模が比較的小さく、エネルギー輸出に大きく依存していることである。ロシア指導部の最大の不安は、体制の安定と持続性である。
ロシアの最大の強みは、軍事と情報戦の領域である。ロシアは先進的な防空、大砲、ミサイルシステムを配備し、米国やNATOの防空管制や大砲の対砲撃能力を大きく上回っている。このため、米国の地上軍は制空権を失い、劣勢な火力支援で戦わざるを得ない可能性がある。ロシアはまた、誤報、破壊、不安定化という旧来の手法に新しい技術を適合させている。
ロシアに対する最も有望な対策は、これらの脆弱性、不安、強みに直接対処し、ロシアの現在の優位性を損なわずに弱点分野を開拓することである。ロシアを含むあらゆる形態の米国エネルギー生産の継続的な拡大。自然エネルギーを活用し、他の国にも同じことを奨励することは、ロシアの輸出収入、ひいては国家予算や防衛予算に対する圧力を最大化することになる。」

*「ウクライナ軍に対する米国の武器と助言を強化することは、検討された地政学的選択肢の中で最も実行可能なものであるが、そのような努力は、より広範囲の紛争を避けるために慎重に調整される必要がある。」

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