古書肆雨柳堂

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『村田エフェンディ滞土録』梨木香歩

2006-02-19 21:06:34 | その他

エフェンディはトルコ語で学生・研究者という意の敬称で、村田氏は日本人で、『家守綺譚』の綿貫の友人です。これは村田が土耳古(トルコ)に考古学研究のため滞在したときの随想です。
 留学生オットー(ドイツ人)、ディクソン(ギリシア人)と彼らを世話するムハンマド(トルコ人)とディクソン夫人(英国人)と愉快なオウム等と共に住む下宿が舞台で、トルコの風物、異文化交流についての活き活きと描かれています。
 トルコ、イスラム教は日本人にはあまり馴染みがないのではないのでしょうか?ですが、これを読むと、あたかも一緒に彼の地に住んでいるようで、身近に感じました。


 ―――とある雪の日、下宿の留学生達が雪合戦に興じた。呆れたディクソン夫人に「世界大戦だったのですよ」と軽口をたたくと、「冗談でもそんなこと言わないで頂戴!」。これに村田は、「実際昨今の世界情勢には、我々が戦場で相見えて戦うことは決してない、とは言い切れないものがあった」とハッとします。
 国家・民族―日本にいては意識しない、このなんとも掴みどころのないものの影響を、異国の地で村田は感じたことでしょう。


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