拝啓 陸の孤島から

いいことがあってこその 笑顔じゃなくて
笑顔でいりゃいいこと あると思えたら それがいいことの 序章です

白ヤギさんと黒ヤギさん

2006年06月27日 17時52分48秒 | 日々の話
昔々、あるところに白ヤギさんと黒ヤギさんが住んでいました。


白ヤギさんはとても真面目でやることも丁寧。
少し自分の考え方を曲げないところもあるけれど、
何事にも一生懸命に取り組む、頑張り屋のヤギさんでした。


一方、黒ヤギさんは大ざっぱで飽きっぽくて、
何か楽しいことはないかなあ、っていつも思っていました。
毎日が幸せなのか不幸せなのかさえわからない、少し困ったヤギさんでした。


白ヤギさんには夢がありました。
それは子ヤギたちに自分の知っているお話をいっぱいいっぱいお話ししてあげることでした。
だから、白ヤギさんはいっぱいいっぱい本を読んで、
たくさんたくさんお話をする練習をしました。


黒ヤギさんは迷っていました。
「自分も子ヤギたちにお話をしてあげるのは嫌いじゃないけどなあ。
 でも、僕にはそれが向いているのかなあ。」
黒ヤギさんもすこ~し本を読んで、すこ~しお話をする練習をしました。


あるとき、白ヤギさんと黒ヤギさんは一緒に練習をしました。
だけど、一生懸命頑張ってきた白ヤギさんに比べて、
迷ってばかりいた黒ヤギさんはあまり上手ではありませんでした。
白ヤギさんは困ったように言いました。

「もっと頑張らなきゃダメだよ。」

黒ヤギさんは心の中で、
『白ヤギさんみたいに頑張るなんて僕には無理だよ』
と思いましたが、それは言わずに白ヤギさんが教えてくれる通りに練習しました。


やがて、森の木の葉っぱが2回か3回落ちては芽吹いた頃、
白ヤギさんは子ヤギたちにお話をするお仕事に就きました。
黒ヤギさんもまだ迷いながらも同じ仕事をすることにしました。
それぞれ、違う場所で、悩んだり迷ったりしながら頑張りました。



そんな日々がずっと続いていくと思っていた頃、
白ヤギさんは突然倒れてしまいました。
そして、そのままお空のお星様になってしまいました。
白ヤギさんは一生懸命頑張りすぎて疲れてしまったのです。


黒ヤギさんは悲しみました。
とてもとても悲しみました。
そしてお空の神様にむかってこう言いました。
「神様、ひどいじゃないですか。
 白ヤギさんはあんなにがんばっていたのにかわいそうです。
 白ヤギさんのことを大好きな子ヤギたちは待っています。
 どうか、白ヤギさんにお話をさせてあげて下さい。」


神様はとてもやさしい口調で言いました。
「黒ヤギさん、一度お空のお星になったらもう戻って来られないんだよ。
 白ヤギさんのことをかわいそうに思うんだったら、
 君が白ヤギさんの分まで頑張ってみたらどうかな?」


「そんな。神様無理です。
 僕は白ヤギさんのようにはお話も知らないし、
 何より白ヤギさんみたいに頑張るのは僕には出来ません。」
黒ヤギさんはとても哀しい声で言いました。
でも、もう神様は何も言いませんでした。
お空にはたくさんの星がただ静かに光っているだけでした。


黒ヤギさんは途方に暮れました。
でも、自分にできることをとりあえずはやっていこう。
多くのことは出来ないけれど、ひとつひとつ頑張ってみよう。
目の前には自分のお話を待ってくれている子ヤギたちもいるんだ。
そう思いました。


それからまたいくつかの季節が流れました。


黒ヤギさんは相変わらず悩んだり迷ったり、
どうしていいのかわからなくなることもありました。
「もう、お話を読むのはやめよう。」
そう思ったことも何度もありました。


でも、そういうときには黒ヤギさんはお空を眺めることにしているのです。
すると、こんな声が聞こえてくる気がするのです。


「もっと頑張らなきゃダメだよ。」






なんの救いも教訓もなく、
だけど喜劇でもなく戯曲でもない。
そんな取り留めのないお話。



白ヤギさんがお星様になってからもう3年が経ちます。