Carpe Diem

シンシナティ大学で都市計画を勉強していた、ある大学院生の物語。現在はマンハッタンで就活。

Planning Education in USA

2012-06-08 01:12:37 | study abroad
一年目の学校生活も終わったので、アメリカで習った都市計画家の役割というものを今まで科目を総合して捉え直してみたい。アメリカでは日本とは異なった都市計画家の在り方に驚きつつも、色々と新鮮な発見が多くあった。

日本の都市計画
アメリカの大学院の前に日本の大学で都市計画について習ったことを少しだけ分かる範囲で書いていきたい。まず日本の多くの大学では都市計画が建築学科の一部の研究室になっていることが多いのではないかと思う。また日本ではご建築学科がアメリカのとは異なり、工学部に入っているのもなかなかユニークということだ。そういった学部の特色などもありつつ、工学部や建築学科といった部類は基本的に何かを作ることを前提としているため、都市計画研究室というのも都市をデザインするというイメージがけっこう強い。もちろん都市計画を行政といった方向からアプローチする研究室もあるだろうけど。その都市デザインの方では地域や社会の問題をどう直していくかに焦点を当てて、場所をデザインしていくのではないだろうか。

アメリカの都市計画
それに対してアメリカの都市計画の勉強ではデザイン(こっちでは都市計画全般をいうPlanningと区別して、Physical Designと呼ぶ)の科目は修士課程では多くはない。それよりも都市計画を政治、経済、文化といった異なった分野から見ていく科目というのが意外と多い。例えば都市計画と政治なら、ポートランドの成長限界線をどうState governmentとLocal governmentsが制定し、管理しているのか。経済との組み合わせでは都心からの距離が地価にどのような影響を与えるのかを経済の理論に当てはめて理解したり、文化ではアメリカだけでなく多くの途上国など異なった国々でどう住宅を有効に供給できるかなど、いずれも日本ではあまり触れないないようなのではないだろうか。またPhysical Planningがあまり人気ではない理由は思いつく範囲で二つほどある。一つ目はうちの大学がデザインよりも政策などが強いという風潮があるということ、これは大学院間によっても大きく異なる。二つ目は(アメリカの全部の大学院に共通していると思う)2年の修士のコースワークでデザインを習得するのには短すぎるという背景もある。これは多くのアメリカの学生は学部で都市計画や建築をやっていない人でも、大学では都市計画を勉強しにきている人が多いからだ。

アメリカの都市計画の歴史
こうした大外院の科目の構成は大きくアメリカが辿ってきた都市計画の変遷に関係がある。戦後、アメリカの都市計画はコルビジェの影響を強く受け、輝く都市に出てくるような高層ビルとその間を高速道路が走るようなモデルを中心に発展していった。その時期は都市計画家の影響は極めて大きかった。この時にニューヨーク市の建設に多大な影響を与えたロバート・モーゼスは特に印象的だろう。しかし市民を中心として都市計画家の影響の大きさにを恐怖を感じるようになり、ジェーン・ジェコブズの「The Death and Life of Great American Cities」をはじめとして都市計画家の一方的なやり方が攻撃の対象になると同時に、次第に都市計画家の社会的な地位が下がってきた。それに対して都市計画は今までのPhysical Designからシフトし、様々な分野、例えば政治、経済、文化など多岐に渡る分野を吸収しながら方向を転換してきた。コルビジュエやモーゼスのような都市計画家主導で建設していた時がモダンというパラダイムなら、ジェイコブズが登場してきた1960年代以降はポストモダンとして捉えることができる。都市計画という行為が都市計画家から行政や市民に取られてしまった時代だと僕は解釈している。そして今はまだ都市家計画家の地位は弱く、行政と市民に板挟みの状態が続いている。

都市計画論
そのような状況で、春学期に都市計画論という授業を取り、アメリカで都市計画に対する認識を少しだけ深めることができた。テキストとして用いたのはMichael Brooksの「Planning Theory」というもの。このテキストを簡単に要約してみると都市計画家の役目はPhysical Planningではなくて、市民と行政をつなぐCommunicatorであり、Advocatorであるべきだということだった。またその関係を取り持つのは色々な論理やモラルの葛藤があったりする。それに対して筆者は最終章で理想的な都市計画家はしっかりしたビジョンがあるべきだということを主張している。ただこの本には作者のポストモダン的な考えが強く反映されているので、もちろんPhysical Planningを軽視してはいるがアメリカでしっかり都市デザインは存在する。僕はつくづく都市計画家がしっかり自分たちの役目を果たす為にはもっと地位を向上する必要があると信じて疑わない。しかし、その時の課題はアメリカの大学院では都市計画を幅広く学びすぎるため、特定な能力が乏しく就職口を探すのがとても大変だという側面もある。


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