脚本:重森孝子
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女、奈良の旅館「吉野屋」で働く
葵 松原千明 :竹田家の長女(立花家には帰らず、中之島病院で看護婦見習い中)
桂 黒木 瞳 :竹田家の二女
弥一郎 小栗一也 :雄一郎の祖父、お常の実父
喜一 桂 小文枝 :雄一郎の父
秋子 三木美千枝 :喜一の浮気相手の連れ子、吉野家の養女となる
先生 芝本 正 :疎開の子どもたちを引率してきた先生(田中先生)
将校 橋本尚友 中部第六十七部隊、悠の千人針を受け取ってくれる
歩哨 ホープ豊 中部代六十七部隊、悠を門前払いにする
看護婦 橋野リコ 葵の病院の同僚看護婦
子供 大野 瞳 :疎開してきた子どもたち
坂口弘樹 :疎開してきた子どもたち
広瀬 修 :疎開してきた子どもたち
福岡由美 :疎開してきた子どもたち
松本 淳 :疎開してきた子どもたち
池ノ内美紀 :疎開してきた子どもたち
藤見ゆかり :疎開してきた子どもたち
キャストプラン
雄一郎 村上弘明 :毎朝新聞の社会部記者、「吉野屋」の息子で「おたふく」の常連
お常 高森和子 :奈良の旅館「吉野屋」の女将、雄一郎の母
静 久我美子 :三姉妹の母、市左衛門の妻
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
久しぶりの三姉妹
「良かったみんな元気で」
「でも桂が悠を心配してわざわざ来るやて、今までなら考えられへんことやな~」
「ぅん。心配してかどうかわからへんけどな、
沢木さんが悠と会うことをお父ちゃんが許しはった時、うちは初めて安心できたんえ。
二人が一緒になったら悠が竹田屋継ぐこともないしな。あはっ」
笑う3人
「でもホンマに会えたかどうか気になってな」
「桂もええ加減しつこい人やなぁ」
「中京の女や。ふたりともはみだしてしまはったけど。
うちは、死んでもあの家を動かへんえ」
「お父ちゃんやお母ちゃんのこと頼むわな」と悠
「まかしといて」
「けど商売なんかできひんようになった竹田屋なんか継いだって
しょうがない思うけどなぁ」
「戦争が終わったら必ずもとの竹田屋にしてみせるてうちの人も言うてはったし」
「終わり方の問題やな。」
「終わり方て、勝つに決まってるやないの」
葵は、自分もそう思いたいが、戦地から帰ってきた軍人さんは
「敵の軍隊を見ていると、とても日本軍が勝つとは思えない 」と言っていると教えた。
桂は
「お父ちゃんは日本はいざとなったら神様がついてはるって言うてはったえ。
ま去年の鉾の巡行が中心された時は、
さすがのお父ちゃんも元気ないようにならはったけどな」
「お父ちゃんに祇園さんだけはさせたかったなぁ」と悠
「うーん。でも今年も無理やろな。
いつ本土に爆弾が落ちるかわからん時に、祇園さんどころやあらへんもん」
「うちは日本が勝つと信じているもん」
「せやな、そう思わんと生きていけへんもんな。銃後の守りしかできひん女には」
「立花さーん」と葵の同僚が千人針を持って来た。
「みんなに刺してもろうたけどまだ200人ほど足らへんの」
「ありがとうございます」
「立花さん、いつまで遊んでるの。外科病棟ごった返してるのよ~」
「はい、今行きます」
「ひゃぁ~。お母ちゃんも同じようなチョッキの千人針、つくらはったえ」と桂
「ほんまか?」
「うちの店のもんが出征する時、一人一人にちゃ~んと作らはった」
「お母ちゃんが‥‥。やっぱりあの裁縫箱にはお母ちゃんの魂が乗り移ってるんや。
うちな、お裁縫箱見ててこの千人針思いついたんえ」
「お母ちゃんの力は偉大どすなぁ」と葵が言い笑う三人。
「葵姉ちゃん、
昔からあんなに優しかったら、お父ちゃんもすんなら竹田屋継がしはったやろになぁ」
「一人で暮らして苦労して、初めて人の気持ちがわかるのや」
残りの200人分は、勤労奉仕や女子ていしんたいに顔の効く吉野さんに頼みなさいと
葵のアドレスを受けて悠は毎朝新聞へ向かった。
雄一郎は防弾チョッキ型の千人針を見て言った。
「僕が出征する時もこれとおんなじものを作ってくれるかな」
「え~っ吉野さんも」
「まだまだ従軍記者にはさせてくれないよ」
「も~~~。驚かさんといて下さい」
「だけど、ただの兵隊として従軍させられる可能性はあるんだ」
「そのときは作らせてもらいます。うちの作った千人針は絶対に弾に当たりません。
そう信じてます。お願いします、婦人会の人に頼んで下さい」
「君の頼みじゃ断れないよ」
「おおきに」
京都。
帰宅した桂に、静は「もんぺも穿かんとどこに行っとりました?」と訊き、
桂は「義次さんの用で‥‥」と答えるが、
「遠い所へ行く時はもんぺにしなさい。
今度葵に会いに行く時はこれを持って行っておくれやす。
葵に、悠に渡してくれるように言うてな。
大阪行くときに持たしてやったもんぺも擦り切れているころやさかいな」
静はわかっていたのだった
「お母ちゃん‥‥」
「悠の居所を教えくれとは言わん。
でもこんな時代やさかい元気かどうかだけは教えてんか」
「お母ちゃん、悠はなぁ。
お母ちゃんとおんなじようなチョッキの千人針作ってましたえ。智太郎さんのために。
お母ちゃんにもろた裁縫箱、大事に大事に使うてるみたいや」
奈良に戻った悠。
一番小さい京子がいなくなってしまい、田中先生にも来てもらい探しているところだった。
京子の父は戦死し、母は京子を置いて出て行ったのだ、と事情を話す田中先生。
「お母ちゃんの話するとすぐに泣いてしもて、よっぽど甘やかされてるのかと思ってました」
秋子は話を聞き、
「お姉ちゃんがおらん言うてしくしく泣くもんやから腹が立ってついたたいてしもたんです。
母親っ子やの甘ったれと思て、あんたなんかお母ちゃんのとこ帰り!って。
ごめんなさい」
(自分と同じ境遇だものね、秋子ちゃん)
「あっこ。今頃謝ったってしょうがないやないか。先生すみません」とお常は謝る。
「いえ、私の責任です。警察に届けます」
あっ!と思いついて走り出す悠。秋子も何かに気付き付いて行く。
京子は畑の鳥小屋の中にいた。
「京子ちゃん! 良かった~もうどこにも行かへんからな」
「京子ちゃんごめんな」
悠は千人針に10銭玉を付けていた。
見ていた秋子は「一つ付けさせて」と頼む。
「秋子ちゃん‥‥おおきに」
「うちもお姉ちゃんに怒られた時に、
家へ帰る言うて鳥小屋に閉じこもったこと、あったもんね~」
「秋子ちゃんのおかげで、京子ちゃん見つけられたんやもん」
「お父ちゃんが戦争で死んで、その上お母ちゃんに捨てられた子どもは
何を信じてええのかわからへんのや」
「けど京子ちゃんは秋子ちゃんみたく意地っ張りにならんようにお世話せんといかんな」
「あ~良かった良かった、大したことにならんで。
けど何で鳥小屋にいることわかりましたんや」とお常が入ってくる。
「はい、女将さんのおかげで人の心がわかるようになったさかいです」
「はっは~。
いやぁ私はもう子どもの気持ちはわかりまへんなぁ」
「おばさんは雄にいさんを育てはったのに、わからへんておかしいわ」
「雄一郎は素直なええ子やったし、子どもの頃は何の苦労もせんで済みましたんや~。」
「ホンマに。雄一郎さんはええお人です。」
「あの子が私を困らしたんは、
吉野屋を継ぐのは絶対いやや言うて、大阪に行ってしもうた時だけや」
「これからはわからんぞ」と弥一郎が入って来た
「ベートーベンはやめろなんでぬかしやがる。それもってちょっとこっちおいで」
悠は千人針を持ち、弥一郎に続いた
「その千人針に、しっかりとベートーベンを聞かせてやってくれ」
「はい‥‥
智太郎さん、この千人針には、
おじいちゃんも女将さんも雄一郎さんも秋子ちゃんも葵姉ちゃんも桂姉ちゃんも、
それからベートーベンさんの真心が縫い付けられてますねん。
私の魂も」
中部第六十七部隊
悠は千人針を渡そうとやって来たが、歩哨に
「許可証ももたない、親族でもない者に面会は許可しない、さっさと帰りなさい」
と突っぱねられる。
が「沢木智太郎という人にこれだけ渡して下さい、これは私の魂なんです」と
将校に頼み、
「約束はできないがお預かりしましょう」と受け取ってくれた。
その千人針が智太郎の手に渡ることを悠は祈るばかりでした。
昭和19年、春 本土空襲が激しくなる前のことでした。
悠と子供たちは、畑仕事をしていた。まだ笑顔があった
(つづく)
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女、奈良の旅館「吉野屋」で働く
葵 松原千明 :竹田家の長女(立花家には帰らず、中之島病院で看護婦見習い中)
桂 黒木 瞳 :竹田家の二女
弥一郎 小栗一也 :雄一郎の祖父、お常の実父
喜一 桂 小文枝 :雄一郎の父
秋子 三木美千枝 :喜一の浮気相手の連れ子、吉野家の養女となる
先生 芝本 正 :疎開の子どもたちを引率してきた先生(田中先生)
将校 橋本尚友 中部第六十七部隊、悠の千人針を受け取ってくれる
歩哨 ホープ豊 中部代六十七部隊、悠を門前払いにする
看護婦 橋野リコ 葵の病院の同僚看護婦
子供 大野 瞳 :疎開してきた子どもたち
坂口弘樹 :疎開してきた子どもたち
広瀬 修 :疎開してきた子どもたち
福岡由美 :疎開してきた子どもたち
松本 淳 :疎開してきた子どもたち
池ノ内美紀 :疎開してきた子どもたち
藤見ゆかり :疎開してきた子どもたち
キャストプラン
雄一郎 村上弘明 :毎朝新聞の社会部記者、「吉野屋」の息子で「おたふく」の常連
お常 高森和子 :奈良の旅館「吉野屋」の女将、雄一郎の母
静 久我美子 :三姉妹の母、市左衛門の妻
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
久しぶりの三姉妹
「良かったみんな元気で」
「でも桂が悠を心配してわざわざ来るやて、今までなら考えられへんことやな~」
「ぅん。心配してかどうかわからへんけどな、
沢木さんが悠と会うことをお父ちゃんが許しはった時、うちは初めて安心できたんえ。
二人が一緒になったら悠が竹田屋継ぐこともないしな。あはっ」
笑う3人
「でもホンマに会えたかどうか気になってな」
「桂もええ加減しつこい人やなぁ」
「中京の女や。ふたりともはみだしてしまはったけど。
うちは、死んでもあの家を動かへんえ」
「お父ちゃんやお母ちゃんのこと頼むわな」と悠
「まかしといて」
「けど商売なんかできひんようになった竹田屋なんか継いだって
しょうがない思うけどなぁ」
「戦争が終わったら必ずもとの竹田屋にしてみせるてうちの人も言うてはったし」
「終わり方の問題やな。」
「終わり方て、勝つに決まってるやないの」
葵は、自分もそう思いたいが、戦地から帰ってきた軍人さんは
「敵の軍隊を見ていると、とても日本軍が勝つとは思えない 」と言っていると教えた。
桂は
「お父ちゃんは日本はいざとなったら神様がついてはるって言うてはったえ。
ま去年の鉾の巡行が中心された時は、
さすがのお父ちゃんも元気ないようにならはったけどな」
「お父ちゃんに祇園さんだけはさせたかったなぁ」と悠
「うーん。でも今年も無理やろな。
いつ本土に爆弾が落ちるかわからん時に、祇園さんどころやあらへんもん」
「うちは日本が勝つと信じているもん」
「せやな、そう思わんと生きていけへんもんな。銃後の守りしかできひん女には」
「立花さーん」と葵の同僚が千人針を持って来た。
「みんなに刺してもろうたけどまだ200人ほど足らへんの」
「ありがとうございます」
「立花さん、いつまで遊んでるの。外科病棟ごった返してるのよ~」
「はい、今行きます」
「ひゃぁ~。お母ちゃんも同じようなチョッキの千人針、つくらはったえ」と桂
「ほんまか?」
「うちの店のもんが出征する時、一人一人にちゃ~んと作らはった」
「お母ちゃんが‥‥。やっぱりあの裁縫箱にはお母ちゃんの魂が乗り移ってるんや。
うちな、お裁縫箱見ててこの千人針思いついたんえ」
「お母ちゃんの力は偉大どすなぁ」と葵が言い笑う三人。
「葵姉ちゃん、
昔からあんなに優しかったら、お父ちゃんもすんなら竹田屋継がしはったやろになぁ」
「一人で暮らして苦労して、初めて人の気持ちがわかるのや」
残りの200人分は、勤労奉仕や女子ていしんたいに顔の効く吉野さんに頼みなさいと
葵のアドレスを受けて悠は毎朝新聞へ向かった。
雄一郎は防弾チョッキ型の千人針を見て言った。
「僕が出征する時もこれとおんなじものを作ってくれるかな」
「え~っ吉野さんも」
「まだまだ従軍記者にはさせてくれないよ」
「も~~~。驚かさんといて下さい」
「だけど、ただの兵隊として従軍させられる可能性はあるんだ」
「そのときは作らせてもらいます。うちの作った千人針は絶対に弾に当たりません。
そう信じてます。お願いします、婦人会の人に頼んで下さい」
「君の頼みじゃ断れないよ」
「おおきに」
京都。
帰宅した桂に、静は「もんぺも穿かんとどこに行っとりました?」と訊き、
桂は「義次さんの用で‥‥」と答えるが、
「遠い所へ行く時はもんぺにしなさい。
今度葵に会いに行く時はこれを持って行っておくれやす。
葵に、悠に渡してくれるように言うてな。
大阪行くときに持たしてやったもんぺも擦り切れているころやさかいな」
静はわかっていたのだった
「お母ちゃん‥‥」
「悠の居所を教えくれとは言わん。
でもこんな時代やさかい元気かどうかだけは教えてんか」
「お母ちゃん、悠はなぁ。
お母ちゃんとおんなじようなチョッキの千人針作ってましたえ。智太郎さんのために。
お母ちゃんにもろた裁縫箱、大事に大事に使うてるみたいや」
奈良に戻った悠。
一番小さい京子がいなくなってしまい、田中先生にも来てもらい探しているところだった。
京子の父は戦死し、母は京子を置いて出て行ったのだ、と事情を話す田中先生。
「お母ちゃんの話するとすぐに泣いてしもて、よっぽど甘やかされてるのかと思ってました」
秋子は話を聞き、
「お姉ちゃんがおらん言うてしくしく泣くもんやから腹が立ってついたたいてしもたんです。
母親っ子やの甘ったれと思て、あんたなんかお母ちゃんのとこ帰り!って。
ごめんなさい」
(自分と同じ境遇だものね、秋子ちゃん)
「あっこ。今頃謝ったってしょうがないやないか。先生すみません」とお常は謝る。
「いえ、私の責任です。警察に届けます」
あっ!と思いついて走り出す悠。秋子も何かに気付き付いて行く。
京子は畑の鳥小屋の中にいた。
「京子ちゃん! 良かった~もうどこにも行かへんからな」
「京子ちゃんごめんな」
悠は千人針に10銭玉を付けていた。
見ていた秋子は「一つ付けさせて」と頼む。
「秋子ちゃん‥‥おおきに」
「うちもお姉ちゃんに怒られた時に、
家へ帰る言うて鳥小屋に閉じこもったこと、あったもんね~」
「秋子ちゃんのおかげで、京子ちゃん見つけられたんやもん」
「お父ちゃんが戦争で死んで、その上お母ちゃんに捨てられた子どもは
何を信じてええのかわからへんのや」
「けど京子ちゃんは秋子ちゃんみたく意地っ張りにならんようにお世話せんといかんな」
「あ~良かった良かった、大したことにならんで。
けど何で鳥小屋にいることわかりましたんや」とお常が入ってくる。
「はい、女将さんのおかげで人の心がわかるようになったさかいです」
「はっは~。
いやぁ私はもう子どもの気持ちはわかりまへんなぁ」
「おばさんは雄にいさんを育てはったのに、わからへんておかしいわ」
「雄一郎は素直なええ子やったし、子どもの頃は何の苦労もせんで済みましたんや~。」
「ホンマに。雄一郎さんはええお人です。」
「あの子が私を困らしたんは、
吉野屋を継ぐのは絶対いやや言うて、大阪に行ってしもうた時だけや」
「これからはわからんぞ」と弥一郎が入って来た
「ベートーベンはやめろなんでぬかしやがる。それもってちょっとこっちおいで」
悠は千人針を持ち、弥一郎に続いた
「その千人針に、しっかりとベートーベンを聞かせてやってくれ」
「はい‥‥
智太郎さん、この千人針には、
おじいちゃんも女将さんも雄一郎さんも秋子ちゃんも葵姉ちゃんも桂姉ちゃんも、
それからベートーベンさんの真心が縫い付けられてますねん。
私の魂も」
中部第六十七部隊
悠は千人針を渡そうとやって来たが、歩哨に
「許可証ももたない、親族でもない者に面会は許可しない、さっさと帰りなさい」
と突っぱねられる。
が「沢木智太郎という人にこれだけ渡して下さい、これは私の魂なんです」と
将校に頼み、
「約束はできないがお預かりしましょう」と受け取ってくれた。
その千人針が智太郎の手に渡ることを悠は祈るばかりでした。
昭和19年、春 本土空襲が激しくなる前のことでした。
悠と子供たちは、畑仕事をしていた。まだ笑顔があった
(つづく)