脚本:重森孝子
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき :京都の繊維問屋「竹田屋」の三女、奈良の旅館「吉野屋」で働く
智太郎 柳葉敏郎 :悠の初恋の人。沢木雅子の兄、帝大医学部を休学し入隊志願
喜一 桂 小文枝 :雄一郎の父
秋子 三木美千枝 :喜一の浮気相手の連れ子、吉野家の養女となる
先生 芝本 正 :疎開の子どもたちを引率してきた先生
子供 大野 瞳 :疎開してきた子どもたち
坂口弘樹 :疎開してきた子どもたち
広瀬 修 :疎開してきた子どもたち
福岡由美 :疎開してきた子どもたち
松本 淳 :疎開してきた子どもたち
池ノ内美紀 :疎開してきた子どもたち
藤見ゆかり :疎開してきた子どもたち
アクタープロ
キャストプラン
弥一郎 小栗一也 :雄一郎の祖父、お常の実父
お常 高森和子 :奈良の旅館「吉野屋」の女将、雄一郎の母
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
ついに再会した智太郎と悠!
智太郎を見た瞬間、長い間待ち続けていた思いがやっと叶った、悠はそう思いました。
(とナレーション)
「はよ行こう」という子どもたちに
「ちょっと用事が出来たから先行ってて。 先生すみません」と悠。
田中先生も智太郎にちょっと目をやって、子どもたちを連れていった。
「うちずうっと待ってました。いつかこうして会える日ぃが来るのを。
奈良に来て二年半になります。
もう怒ってくれはらへんのですか?なんで知らせなかったって」
「僕も君を探そうとしなかった。
吉野さんは君の居所を教えてくれたが、僕は君に会いに来ることができなかった」
「なんで? もううちのこと‥‥」
「いや違う。この二年半君の事を忘れたことはない」
「せやったらなんで?」
「‥‥」
先に帰った子どもたちと田中先生は、悠が男の人と会ったこと、
それは帝大の制服を着た若い人だとお常に教えた。
お常は、洗いもんをしている喜一さんにも伝える
「来はりましたんや。 悠の初恋の人、
ほら雄一郎から電話がきて、もし来たら何も言わんと会わせてやってくれ。
でも万が一来なかった時のため悠には絶対言うなって」
「ええなぁ。わしももいっぺんそんなことがあったらなぁ」とにやつき、
お常に「戦争に勝つまでは気楽さんは返上する約束やろ?」と叱られる
「でも、悠、なんでここにお連れせえへんのやろ」
かつて2人で来た東大寺・二月堂までやってきた悠と智太郎。
「もう帰らないと。
いつまで奈良にいるんですか?どこに泊まってはるんですか?
吉野屋は子どもたちで賑やか過ぎるし。どこへ電話したらええのか教えて下さい」
「今日はお水取りです。
一番目のかご松明があがる頃、下の門の所で待っています。来て下さい、必ず」
「はい、来ます。必ず。もうすぐに東京に戻らはるんですか?」
「そのときに話す」
「‥‥はい」悠はお辞儀をして帰って行った。
〝待っていてくれという勇気があるのか〟と自問自答する智太郎
秋子は手伝いをさせられてぶつぶつ。
「吉野屋の娘が、なんでこんなことせんとあかんの?」
「あたしも吉野屋の娘やった。娘やからせんとあきませんのや」
「しょうがなしに養女にさせられたけど、吉野屋の女将さんになんかなりとうない」
「はい、はよ持って行きなさい」
お常は、悠にそっと聞いた
「やっと会うたんやな? 先生に聞きました。」
「すんません」
「なにも謝ることありしません。あんたそのためにここに来ましたんやろ?」
「はい」
「けど、なんでここに泊まってもらえへんのや?
そら部屋は子どもでいっぱいやけどまだ空いてる部屋ありますのやで」
「いえ、すぐに東京に帰らはるみたいなんです」
「‥‥そおかぁ、せっかく来はったのになぁ」
「あの、お水取り一緒に見る約束したんです。行ってもよろしいですか」
「うん‥‥、
そら京都のお父さんにあんたのこと頼まれてるわけやないから、何も言いません」
「おおきに」
夜になり、男の子は相撲して遊んでいた。
はよ着替えなさい、と悠は寝かしつけにかかったが、相撲の相手をさせられ逆に投げられる。
今度は、一番小さい女の子が泣き出す‥‥
「どうしたんえ?お腹でも痛いのか」と聞いても泣くばかり。
「京子、昨日も夜中に泣いてたん。家帰りたい言うて‥‥」
「おかあちゃんに‥‥会いたい」
つられて泣く女の子たち。
「悠さ~~ん、みんな連れて降りといで」下から弥一郎の声がする
蓄音機の前に集まる子どもたち。
「ベートーベンは無理です」
「わかっとる。あちこちの古道具屋を探して見つけて来たんや」と弥一郎は言って、
レコードをかけるが、やはり子どもたちは、知らない曲だった。
「お姉ちゃん歌ってよ」と言われた悠だが、なんと弥一郎がが代わりに歌うといい
「はやくお行きなさい」と出してくれた。
お水取りとは、東大寺二月堂で行われる修二会(しゅにえ)という法要の中の一つの行事です。
3月12日に、練行衆(れんぎょうしゅう)たちが、お香水(おこうずい)と呼ばれる氷を二月堂の下から汲み取ることから、こうよばれています。
かご松明はその練行衆(れんぎょうしゅう)たちの道案内の灯りです。
お水取りは千二百年あまり一度も中止されたことはありません
(と ナレーション)
智太郎はお松明を見ながら待っている。 悠がやってきた
「僕が奈良に来たのは、入隊するためです」
「‥‥(ぇ)‥‥」
「この3日間、君に会いたい気持ちと会ってはいけない気持ちと僕の中で戦っていた。
僕は遠くからでも君の姿を見て黙って行く決心をしていました。
「いやです、そんな。
黙って行ってしまはるなんて、黙って行ってしまはったらうちは一生恨みます。
きっと帰ってきて下さい。待つなと言われてもうちは待ってます。
帰ってきはるまで」
「ありがとう」 そして、智太郎は悠をだきしめた「必ず帰ってくる」
(きゃ~~~~~~~ )
「いつ入隊ですか」
「明日の朝です」
「戦地へはいつ出発しはるのですか」
「それはわからない」
「せめて今日一日一緒にいて下さい。吉野屋に来て下さい。
女将さんやおじいちゃんに会うて下さい。私の家族と同じです」
「いや、しかし」
「お願いです。いっぺんでいいんです。うちの作るごはん食べて下さい」
吉野屋の玄関では、ベートーベンがかかっている
「ベートーベンだ」 ニッコリする智太郎
「やっと音楽のわかる人が来た」と弥一郎
お常も奥から出てくる
「女将さん、沢木智太郎さんです。吉野屋の女将さんとおじいちゃん」
「突然伺ったりしまして、申し訳ありません」
(かっちょいい~~ 眉毛の間にシワあるよりずといい、思いつめた風な智太郎よりずっといい~~ )
お常も、智太郎をしげしげと見て言う
「やっぱりなぁ。この悠さんが好きになっただけのことはある。さあどうぞ」
板場で、食事の準備をするお常のところに、悠が「うちがします」と来た。
「つもる話しもあるやろ」とお常は言ったが、悠はどうしてもと言った。
「久しぶりに会うたんや、心ゆくまでお世話してあげなさい
でも、昼間はお寺や仏像見て歩きはるんやろ?」
「明日入隊しはるんです」
「ええ?」
両手で顔を覆って泣き出す悠。 ひきよせるお常。
「悠、せんだい(?)泣きなはれ。けどなあのお人の前で涙見せたらあきまへんのやで」
「はい」
(つづく)
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき :京都の繊維問屋「竹田屋」の三女、奈良の旅館「吉野屋」で働く
智太郎 柳葉敏郎 :悠の初恋の人。沢木雅子の兄、帝大医学部を休学し入隊志願
喜一 桂 小文枝 :雄一郎の父
秋子 三木美千枝 :喜一の浮気相手の連れ子、吉野家の養女となる
先生 芝本 正 :疎開の子どもたちを引率してきた先生
子供 大野 瞳 :疎開してきた子どもたち
坂口弘樹 :疎開してきた子どもたち
広瀬 修 :疎開してきた子どもたち
福岡由美 :疎開してきた子どもたち
松本 淳 :疎開してきた子どもたち
池ノ内美紀 :疎開してきた子どもたち
藤見ゆかり :疎開してきた子どもたち
アクタープロ
キャストプラン
弥一郎 小栗一也 :雄一郎の祖父、お常の実父
お常 高森和子 :奈良の旅館「吉野屋」の女将、雄一郎の母
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
ついに再会した智太郎と悠!
智太郎を見た瞬間、長い間待ち続けていた思いがやっと叶った、悠はそう思いました。
(とナレーション)
「はよ行こう」という子どもたちに
「ちょっと用事が出来たから先行ってて。 先生すみません」と悠。
田中先生も智太郎にちょっと目をやって、子どもたちを連れていった。
「うちずうっと待ってました。いつかこうして会える日ぃが来るのを。
奈良に来て二年半になります。
もう怒ってくれはらへんのですか?なんで知らせなかったって」
「僕も君を探そうとしなかった。
吉野さんは君の居所を教えてくれたが、僕は君に会いに来ることができなかった」
「なんで? もううちのこと‥‥」
「いや違う。この二年半君の事を忘れたことはない」
「せやったらなんで?」
「‥‥」
先に帰った子どもたちと田中先生は、悠が男の人と会ったこと、
それは帝大の制服を着た若い人だとお常に教えた。
お常は、洗いもんをしている喜一さんにも伝える
「来はりましたんや。 悠の初恋の人、
ほら雄一郎から電話がきて、もし来たら何も言わんと会わせてやってくれ。
でも万が一来なかった時のため悠には絶対言うなって」
「ええなぁ。わしももいっぺんそんなことがあったらなぁ」とにやつき、
お常に「戦争に勝つまでは気楽さんは返上する約束やろ?」と叱られる
「でも、悠、なんでここにお連れせえへんのやろ」
かつて2人で来た東大寺・二月堂までやってきた悠と智太郎。
「もう帰らないと。
いつまで奈良にいるんですか?どこに泊まってはるんですか?
吉野屋は子どもたちで賑やか過ぎるし。どこへ電話したらええのか教えて下さい」
「今日はお水取りです。
一番目のかご松明があがる頃、下の門の所で待っています。来て下さい、必ず」
「はい、来ます。必ず。もうすぐに東京に戻らはるんですか?」
「そのときに話す」
「‥‥はい」悠はお辞儀をして帰って行った。
〝待っていてくれという勇気があるのか〟と自問自答する智太郎
秋子は手伝いをさせられてぶつぶつ。
「吉野屋の娘が、なんでこんなことせんとあかんの?」
「あたしも吉野屋の娘やった。娘やからせんとあきませんのや」
「しょうがなしに養女にさせられたけど、吉野屋の女将さんになんかなりとうない」
「はい、はよ持って行きなさい」
お常は、悠にそっと聞いた
「やっと会うたんやな? 先生に聞きました。」
「すんません」
「なにも謝ることありしません。あんたそのためにここに来ましたんやろ?」
「はい」
「けど、なんでここに泊まってもらえへんのや?
そら部屋は子どもでいっぱいやけどまだ空いてる部屋ありますのやで」
「いえ、すぐに東京に帰らはるみたいなんです」
「‥‥そおかぁ、せっかく来はったのになぁ」
「あの、お水取り一緒に見る約束したんです。行ってもよろしいですか」
「うん‥‥、
そら京都のお父さんにあんたのこと頼まれてるわけやないから、何も言いません」
「おおきに」
夜になり、男の子は相撲して遊んでいた。
はよ着替えなさい、と悠は寝かしつけにかかったが、相撲の相手をさせられ逆に投げられる。
今度は、一番小さい女の子が泣き出す‥‥
「どうしたんえ?お腹でも痛いのか」と聞いても泣くばかり。
「京子、昨日も夜中に泣いてたん。家帰りたい言うて‥‥」
「おかあちゃんに‥‥会いたい」
つられて泣く女の子たち。
「悠さ~~ん、みんな連れて降りといで」下から弥一郎の声がする
蓄音機の前に集まる子どもたち。
「ベートーベンは無理です」
「わかっとる。あちこちの古道具屋を探して見つけて来たんや」と弥一郎は言って、
レコードをかけるが、やはり子どもたちは、知らない曲だった。
「お姉ちゃん歌ってよ」と言われた悠だが、なんと弥一郎がが代わりに歌うといい
「はやくお行きなさい」と出してくれた。
お水取りとは、東大寺二月堂で行われる修二会(しゅにえ)という法要の中の一つの行事です。
3月12日に、練行衆(れんぎょうしゅう)たちが、お香水(おこうずい)と呼ばれる氷を二月堂の下から汲み取ることから、こうよばれています。
かご松明はその練行衆(れんぎょうしゅう)たちの道案内の灯りです。
お水取りは千二百年あまり一度も中止されたことはありません
(と ナレーション)
智太郎はお松明を見ながら待っている。 悠がやってきた
「僕が奈良に来たのは、入隊するためです」
「‥‥(ぇ)‥‥」
「この3日間、君に会いたい気持ちと会ってはいけない気持ちと僕の中で戦っていた。
僕は遠くからでも君の姿を見て黙って行く決心をしていました。
「いやです、そんな。
黙って行ってしまはるなんて、黙って行ってしまはったらうちは一生恨みます。
きっと帰ってきて下さい。待つなと言われてもうちは待ってます。
帰ってきはるまで」
「ありがとう」 そして、智太郎は悠をだきしめた「必ず帰ってくる」
(きゃ~~~~~~~ )
「いつ入隊ですか」
「明日の朝です」
「戦地へはいつ出発しはるのですか」
「それはわからない」
「せめて今日一日一緒にいて下さい。吉野屋に来て下さい。
女将さんやおじいちゃんに会うて下さい。私の家族と同じです」
「いや、しかし」
「お願いです。いっぺんでいいんです。うちの作るごはん食べて下さい」
吉野屋の玄関では、ベートーベンがかかっている
「ベートーベンだ」 ニッコリする智太郎
「やっと音楽のわかる人が来た」と弥一郎
お常も奥から出てくる
「女将さん、沢木智太郎さんです。吉野屋の女将さんとおじいちゃん」
「突然伺ったりしまして、申し訳ありません」
(かっちょいい~~ 眉毛の間にシワあるよりずといい、思いつめた風な智太郎よりずっといい~~ )
お常も、智太郎をしげしげと見て言う
「やっぱりなぁ。この悠さんが好きになっただけのことはある。さあどうぞ」
板場で、食事の準備をするお常のところに、悠が「うちがします」と来た。
「つもる話しもあるやろ」とお常は言ったが、悠はどうしてもと言った。
「久しぶりに会うたんや、心ゆくまでお世話してあげなさい
でも、昼間はお寺や仏像見て歩きはるんやろ?」
「明日入隊しはるんです」
「ええ?」
両手で顔を覆って泣き出す悠。 ひきよせるお常。
「悠、せんだい(?)泣きなはれ。けどなあのお人の前で涙見せたらあきまへんのやで」
「はい」
(つづく)