脚本:重森孝子
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女、大阪の「おたふく」で住み込み働き始める
葵 松原千明 :竹田家の長女(大阪の次男坊のところに嫁入り)
智太郎 柳葉敏郎 :悠の初恋の人。沢木雅子の兄、帝大医学部の学生
鈴木 須永克彦 :お初の元旦那はん(夫ではない)、お初に泣きつきに来た
悦子 雅 薇 :「おたふく」の従業員
お康 未知やすえ:「竹田屋」の奉公人(悠付きの女中さん)
松吉 小林秀明 :「おたふく」の従業員(見習い)
刑事 小松健悦 「おたふく」のヤミ取引を取り締まりに来た刑事
佐藤 浩 「おたふく」のヤミ取引を取り締まりに来た刑事
船頭 中本哲夫 鈴木のヤミ物資の搬入船の船頭
松竹芸能
アクタープロ
雄一郎 村上弘明 : 毎朝新聞の文芸部記者(姓はヨシノ)、「おたふく」の常連
お初 野川由美子 :大衆食堂「おたふく」の女将。市左衛門の遠縁
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
料理の献立と売上の計算を任されて2日目‥‥
「また5円あわん」そろばんで計算する悠。
素人くさい料理が客にうけ、前と同じくらい繁盛はしたが‥。
覗きに来た悦子に、
「計算があわへんねん。この間のもあわんしうちのお給料からひいてもらった。
この分だと、まだいっぺんももろうてないお給料、殆どないわ」
「お風呂先行くで」と、悦子は銭湯に行く。
ちょうど着いた荷の積み卸しを手伝う悠。 手提げ金庫はふたをしてしまう。
(この時、『どんど晴れ』の組合費がなくなるシーン、思い出しちゃったのよねぇ。悠はちゃんと蓋もしたししまったし、ホッとしたけど)
今夜の荷は、うなぎ・河内の農家で直に仕入れた鶏・米 等だった。
翌日「まむしあります」の張り紙。
早めにお昼を食べに来た雄一郎は
「こんな張り紙したらヤミやってるって言ってるようなもんじゃないですか」
と紙をはがす。
うなぎを焼くお初と悦子。 煙が充満している (テレビはにおいは来ないからなぁ~、でも美味しそう!)
雄一郎は
「この8月から一品料理と丼にもマルコウがついて取り締まりが厳しくなるんだから」
と、気をつけるようにと言う。
「まむし料理のマルコウなんぼなの」
「上(じょう)で60銭」
「あほらし、こんなうなぎ1円でも安いくらいやで~」
「もう知りませんよ、僕は」と言いながらも「うまい 」と食べる雄一郎。
お昼時間になり、次々に入ってくる客たち。
悠が店の裏で七輪でうなぎを焼いていると、雄一郎が手伝いに来る。
「冗談じゃないんだからね、女将さんに言っといてくれよ」と雄一郎。
「ヤミはいかんことはわかってますけど、
勘定まで任されるとちょっとでも売上あげたいし‥‥。
美味しいもの売ってお客さんに喜んでもらって何が悪い!
っていう女将さんの気持ちもよくわかるんです」
「だんだん君もたくましくなってきたな、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないけど」
「どういう意味ですか?」
「生活面でたくましくなるのはいいけれど僕個人としては、女学校行ったんだからもっと勉強してほしい」
「勉強はもともと好きやなかったし」
「こんなところでうなぎを焼いている君より、絵を描いている君の方が好きだなぁ」
「どんな時も絵は続けるようにと言ってくだはった人もいます」
「初恋の人か?」
「一生好きな人です」
「どっちでもいいよ」
「でもね、贅沢品が禁止になったり本が発禁になったりする時代だ。
だからこそ本当にモノを見る目を養っていかないといけないと思うんだ」
焼いていたうなぎがこげそうになる。
「今度ゆっくり教えて下さい、そういうこと」
「ああ」
焼きたてのウナギを持って裏からお店に入って行った悠は、
悦子が金庫からお金を盗るのを見てしまう。
そして、悦子も悠に目撃されたことを知る。
夜
「女将さんに言うのやったら言うてもかまわないのよ。うちこんな店いてもしょうがないし。
うちがやったら怒られることもあんたがやったら何もかもうまいこといく‥‥
世の中いうのは不公平なもんやなぁ!
お金とったんかてあんた困らせるためやったけど」泣くのをこらえている悦子。
「お金が要ることがあんのやと思った。
それやったらうちが働いた分、悦子さんにあげてもいいと思ってたんや。
戦地行ってはる悦子さんの好きな人に必要なもん送るお金が要んのやったら、
うちが働いた分つこうてくれはってええのえ」
「‥‥そんな人もういてへん。死んでしまいはった‥‥」
「ほんま?」
「戦死のこうほうかて田舎のあの人のお母さんのとこに来たのやで。
うちはまだ籍も入ってないからしょうがないけど‥‥。
あの人のお母さん、そのこうほう送ってきはって、うちは葬式にも出るなって。
あんまりや‥‥。死ぬ思いして一緒になったのに葬式にも出られへん。
悔しいから一人で墓立てることにした。
あんたこんな気持ちわからんやろ。
いいとこのお嬢さんが世間勉強のために来てんのんと一緒にされたらかなわんわ!」
話を聞いていた悠は自分の通帳を渡した。
「これでお墓をつくって。貰うのがいややったらちょっとずつ返してくれたらええ。
1日でも早くお墓を立ててあげて」
受け取れない! と押し返す悦子。
「こんなもんがあったらいつまでも一人前になれへん。
うちのためにも、な。つこうてくれはる?」
泣き崩れる悦子。
葵の退院の日、病院に行く悠。
家まで送るという悠に「京都に帰る、立花の家には帰らへん」と葵。
お康が迎えに来て、悠との再会を喜ぶ。
そして祇園祭りで智太郎と会い、悠の居場所を教えた と話すお康。
市左衛門に冷たく「何の関係もない、かまわんといておくれやす」と言われたんどす‥
と教えて、悠も重たい気持ちになってしまっていた。
悠も「もう忘れたんや、終わったんや」と言い聞かせていた。
智太郎は思い出の木の下で、悠の住所を見ながら
「会ったところでどうなるというのだ‥‥」と悩んでいた。
ある夜、お初、悦子、悠で精二の話しをしているところに、ついに警察が入って来た。
「帳簿と食料置き場、見せてんか」
(つづく)
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女、大阪の「おたふく」で住み込み働き始める
葵 松原千明 :竹田家の長女(大阪の次男坊のところに嫁入り)
智太郎 柳葉敏郎 :悠の初恋の人。沢木雅子の兄、帝大医学部の学生
鈴木 須永克彦 :お初の元旦那はん(夫ではない)、お初に泣きつきに来た
悦子 雅 薇 :「おたふく」の従業員
お康 未知やすえ:「竹田屋」の奉公人(悠付きの女中さん)
松吉 小林秀明 :「おたふく」の従業員(見習い)
刑事 小松健悦 「おたふく」のヤミ取引を取り締まりに来た刑事
佐藤 浩 「おたふく」のヤミ取引を取り締まりに来た刑事
船頭 中本哲夫 鈴木のヤミ物資の搬入船の船頭
松竹芸能
アクタープロ
雄一郎 村上弘明 : 毎朝新聞の文芸部記者(姓はヨシノ)、「おたふく」の常連
お初 野川由美子 :大衆食堂「おたふく」の女将。市左衛門の遠縁
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
料理の献立と売上の計算を任されて2日目‥‥
「また5円あわん」そろばんで計算する悠。
素人くさい料理が客にうけ、前と同じくらい繁盛はしたが‥。
覗きに来た悦子に、
「計算があわへんねん。この間のもあわんしうちのお給料からひいてもらった。
この分だと、まだいっぺんももろうてないお給料、殆どないわ」
「お風呂先行くで」と、悦子は銭湯に行く。
ちょうど着いた荷の積み卸しを手伝う悠。 手提げ金庫はふたをしてしまう。
(この時、『どんど晴れ』の組合費がなくなるシーン、思い出しちゃったのよねぇ。悠はちゃんと蓋もしたししまったし、ホッとしたけど)
今夜の荷は、うなぎ・河内の農家で直に仕入れた鶏・米 等だった。
翌日「まむしあります」の張り紙。
早めにお昼を食べに来た雄一郎は
「こんな張り紙したらヤミやってるって言ってるようなもんじゃないですか」
と紙をはがす。
うなぎを焼くお初と悦子。 煙が充満している (テレビはにおいは来ないからなぁ~、でも美味しそう!)
雄一郎は
「この8月から一品料理と丼にもマルコウがついて取り締まりが厳しくなるんだから」
と、気をつけるようにと言う。
「まむし料理のマルコウなんぼなの」
「上(じょう)で60銭」
「あほらし、こんなうなぎ1円でも安いくらいやで~」
「もう知りませんよ、僕は」と言いながらも「うまい 」と食べる雄一郎。
お昼時間になり、次々に入ってくる客たち。
悠が店の裏で七輪でうなぎを焼いていると、雄一郎が手伝いに来る。
「冗談じゃないんだからね、女将さんに言っといてくれよ」と雄一郎。
「ヤミはいかんことはわかってますけど、
勘定まで任されるとちょっとでも売上あげたいし‥‥。
美味しいもの売ってお客さんに喜んでもらって何が悪い!
っていう女将さんの気持ちもよくわかるんです」
「だんだん君もたくましくなってきたな、喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないけど」
「どういう意味ですか?」
「生活面でたくましくなるのはいいけれど僕個人としては、女学校行ったんだからもっと勉強してほしい」
「勉強はもともと好きやなかったし」
「こんなところでうなぎを焼いている君より、絵を描いている君の方が好きだなぁ」
「どんな時も絵は続けるようにと言ってくだはった人もいます」
「初恋の人か?」
「一生好きな人です」
「どっちでもいいよ」
「でもね、贅沢品が禁止になったり本が発禁になったりする時代だ。
だからこそ本当にモノを見る目を養っていかないといけないと思うんだ」
焼いていたうなぎがこげそうになる。
「今度ゆっくり教えて下さい、そういうこと」
「ああ」
焼きたてのウナギを持って裏からお店に入って行った悠は、
悦子が金庫からお金を盗るのを見てしまう。
そして、悦子も悠に目撃されたことを知る。
夜
「女将さんに言うのやったら言うてもかまわないのよ。うちこんな店いてもしょうがないし。
うちがやったら怒られることもあんたがやったら何もかもうまいこといく‥‥
世の中いうのは不公平なもんやなぁ!
お金とったんかてあんた困らせるためやったけど」泣くのをこらえている悦子。
「お金が要ることがあんのやと思った。
それやったらうちが働いた分、悦子さんにあげてもいいと思ってたんや。
戦地行ってはる悦子さんの好きな人に必要なもん送るお金が要んのやったら、
うちが働いた分つこうてくれはってええのえ」
「‥‥そんな人もういてへん。死んでしまいはった‥‥」
「ほんま?」
「戦死のこうほうかて田舎のあの人のお母さんのとこに来たのやで。
うちはまだ籍も入ってないからしょうがないけど‥‥。
あの人のお母さん、そのこうほう送ってきはって、うちは葬式にも出るなって。
あんまりや‥‥。死ぬ思いして一緒になったのに葬式にも出られへん。
悔しいから一人で墓立てることにした。
あんたこんな気持ちわからんやろ。
いいとこのお嬢さんが世間勉強のために来てんのんと一緒にされたらかなわんわ!」
話を聞いていた悠は自分の通帳を渡した。
「これでお墓をつくって。貰うのがいややったらちょっとずつ返してくれたらええ。
1日でも早くお墓を立ててあげて」
受け取れない! と押し返す悦子。
「こんなもんがあったらいつまでも一人前になれへん。
うちのためにも、な。つこうてくれはる?」
泣き崩れる悦子。
葵の退院の日、病院に行く悠。
家まで送るという悠に「京都に帰る、立花の家には帰らへん」と葵。
お康が迎えに来て、悠との再会を喜ぶ。
そして祇園祭りで智太郎と会い、悠の居場所を教えた と話すお康。
市左衛門に冷たく「何の関係もない、かまわんといておくれやす」と言われたんどす‥
と教えて、悠も重たい気持ちになってしまっていた。
悠も「もう忘れたんや、終わったんや」と言い聞かせていた。
智太郎は思い出の木の下で、悠の住所を見ながら
「会ったところでどうなるというのだ‥‥」と悩んでいた。
ある夜、お初、悦子、悠で精二の話しをしているところに、ついに警察が入って来た。
「帳簿と食料置き場、見せてんか」
(つづく)