我家のワン達~サクムク日記

さくらとムックンの日記です

お婆さんと桜とさくら

2005-05-10 06:21:30 | Weblog
お婆さんは息子さん夫妻と同居していました。
お爺さんはすでにお亡くなりになり、でもご夫婦と生活を共にしていた14歳の雌の
シーズーと心を通わせて静かな時間が流れていました。
ところが3年前、お婆さんは検診で癌が発見され、手術と治療のために、結果として
約1ヶ月間の入院生活を送ることとなりました。
それ程長くお婆さんと離れて生活したことのないワンコは1週間ほどは寂しげながら
も食事は摂っていましたが以後、お婆さんの部屋に入り、お水を少し飲む程度で、
食事も摂らなくなりました。
ご家族は病院に連れて行き、点滴で栄養補給するなどの処置に懸命でしたが、獣医は
「お婆さんと一緒に生きていたのですね。人間と同じです。生きようとする意欲がな
いといくら点滴で栄養を補給しても、理屈では充分な医療を施しても、生きることは
難しいかもしれません。でも、一生懸命に生きて、お婆さんと過させたいですね。」
とのことでした。
お婆さんが入院している病院に事情を話しても、面会は拒否されてしまいました。

そしてある明け方、お婆さんは夢をみました。
一緒に散歩している最愛のワンコが突然、お婆さんにジャレついたかと思うと悲しい
鳴き声と共に静かに遠ざかって行く夢でした。
お婆さんは胸騒ぎを覚え、入院を続けるように勧める医者の言葉を振り切り、駆け付け
たお嫁さんの止める言葉を無視してタクシーに飛び乗り、自宅に帰りました。
部屋に入った時、ワンコは骨と皮だけになって横たわり、お婆さんを見ると微かに鳴き
声をあげ、お婆さんに抱かれると一度だけお婆さんの鼻をなめ、クゥーンと鳴いたかと
思うと静かに目を閉じました。
お婆さんは続けます。
「私が悪かったのです。それまではこんなに離れて暮らすことはなかったのです。それ
に、もう数日は早く、退院できたかもしれないのです。そうしたら助かっていたかも
しれない。あの子は寂しくて寂しくて・・・。私が悪かったのです。」
ワンコがお婆さんの胸の中で亡くなった日は、お爺さんの命日の一週間前で、桜が満開
の季節だったそうです。
「私はそれから桜が嫌いになりました。桜の季節にお爺さんが旅立ち、ワンコも私から
離れて行きました。桜は大嫌いです。」
お婆さんに撫でられ、お腹を見せていた雌のコーギーを優しく見つめながら涙を流して、
静かにおっしゃいました。
「でもお婆ちゃん、撫でられてウットリしているワンコは“さくら”というんですよ。
桜がとてもきれいに咲いている時に我が家に来て、家内が名付けました。2歳になり
ました。」
お婆さんがコーギーのお腹を撫でる手を止めて見つめると、さくらが怪訝な顔をして
お婆ちゃんを見つめました。
しばらくお互いの瞳を見つめ合ったさくらはゆっくりを目を閉じ、お婆ちゃんは再び
撫で始めました。
「さくらちゃんと云うのね。これからもよろしく。お散歩の時に近くで私を見つけた
ら呼んでね」とおっしゃり「あなたの無邪気さが私を桜好きに戻してくれるかしら」
と涙混じりの、少し震えた、優しい声でおっしゃり、いつまでもさくらのお腹を優し
く撫でていらっしゃいました。

2年後の先月、桜が満開の時、久しぶりにお会いしたお婆さんがうれしそうにおっ
しゃいました「本当に桜がきれいですね。さくらちゃんは少し太ったかな~」。
さくらはお婆ちゃんの前でお腹を見せると静かに目を閉じました。
「あらあら、あなたは今も甘えん坊さんねっ。」
お婆ちゃんはニコニコでした。

さくらは本当に無邪気なワンコですが、ムックンの里親になったときも、幸多を保護
したときもさくらに、どれほど助けられたことか。
次回はムックンを迎えた時のエピソードを少し。